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三十刃


 突如として街に現れたホムンクルスにより起きた一連の騒動。

その主犯が「コード・プレデター」であることを知らぬ一般市民や警察、さらには対能力者専門対策の部隊は謎の暴動事件として今回の一件を「謎の暴動」としてまとめている。

 

 実際、何も分からないならそれで間違いない。

「コード・プレデター」の目的も素性も詳しく知る人間は最早存在していないだろうし、存在していたとしてもトーカーが既に始末しているはずだ。

自らの素性が悟られぬようにその正体すらひた隠しにしてきた男ならそうしていても間違いない。

 

 今回の一件を受けて警察や政府は能力者犯罪について対策を取る方針を固めようとしたが、対策を取ると言ったところでそもそもの主犯たる「コード・プレデター」ことトーカーを知らないことと街に現れたホムンクルスについてそれが何かすら情報がないことから明確な対策については今のところ出されていない。

 

 主犯たる「コード・プレデター」の存在については異名持ちの能力者ばかりを狙う連続殺人事件の犯人につけられたメディア上の名前としてしか認識されることはなく、この先「コード・プレデター」について知ろうとする者は現れないだろうしいずれそんな呼ばれ方をしていたことすら忘れられる。

 

 犯人が見つからぬ連続殺人事件が未解決事件として扱われる、警察からすればこの先起こりうる展開はそんな所だろう。

 

 一方でアストたちは「コード・プレデター」を倒した後、アストに雇われた腕利きの能力者たちは皆それぞれ元の生活に戻っていた。

 

 天晴はもともと自分を雇用してくれている関西圏に身を置く情報屋のもとへ戻ると傭兵としての活動を再開。

ミスティーは住居としていた場所に「コード・プレデター」の差し金で送られたサイクロプスとの戦いがあったこともありそこを離れたらしいが、アストから受け取った報酬金がかなり多かったのか立地条件のいい場所に引っ越して賞金稼ぎを続けている。

音弥はあの一件の後、刀鍛冶としての勉強に精を出してるらしい。「コード・プレデター」を倒した霊刀の力に魅入られ、それを超える刀を自らで生み出したいと考えているらしい。

キッドはアストから報酬金を受け取ると旅に出たらしい。元々流浪人としてあちこちを転々としながら賞金稼ぎをしていたらしく、今回は報酬金を使って国外にでも行くんじゃないのかと噂されてる。

 

 今回の一件を片付けるために能力者を集めたアスト本人は相変わらず「闇の貴公子」として裏世界に君臨している。

元々能力者としての実力も高いアストがどう変わったかは分からないが、「コード・プレデター」の一件でひとまずは治安が少し戻った裏世界は彼にとって牛耳ることなど容易いことなのだろう。

 

 そして、オレは……

 

 

 

 

 

 

******

 

 姫神ヒロムの屋敷のリビング。

 

 そこにガイはいた。家主の姫神ヒロムはもちろん、今回の一件でガイがアストのもとに向かうのを手助けし、ホムンクルス討伐も手を貸してくれた黒川イクトと相馬ソラもいた。

 

 

「……以上が今回の「コード・プレデター」の騒動の全てだ。

オレの勝手な行動でヒロムたちを危険に晒したことは申し訳ないと思っているが、謝ること以外出来ないことを許して欲しい」

 

「別にいいんじゃない?

大将もオレたちも無事だし、ガイも無事だったんなら問題ないっしょ?」

 

「……死なずに戻ったなら問題ないかもな。

ただ、独断専行で動いたのは気に食わねぇけどな」

 

 すまない、と多少の不満を抱くソラにガイは詫び、ガイが詫びるとソラは何か言うわけでもなく静かに話を終わらせようとする。

 

 だが、姫神ヒロムはため息をつくと話を終わらせるのではなく話題を変えるようにガイに質問した。

 

「オマエは何でそこまでして強さを求めた?

わざわざオレに預けていた「折神」を持ち出すようなことまでして……結局オマエが得たかった強さは手に入ったのか?」

 

「まぁ……うん。オレが求めてた強さは手に入ったよ。

けど、結局はアストたちといても手に入らなかった」

 

「あ?

ならオマエ、無駄な時間費やしたってのか?」

 

「そうじゃない。

ただ……オレは見るべきものを見れていなかった。

見なきゃいけないものから目を逸らすような真似をしていた。

強くなるために見なきゃいけなかったもの、それを気づかせてくれたのはヒロムだった」

 

 訳わかんねぇな、とガイの話を聞く姫神ヒロムは理解できないのか不機嫌な顔を見せ、姫神ヒロムのその表情を見るとガイは自分なりの言葉で彼やソラとイクトに話していく。

 

「オレは自分が強くなることに拘りすぎていた。

「コード・プレデター」の送ってきた刺客を倒していく中で強くなってると感じていたけど、結局それはただ敵を倒した後に感じる余韻のようなものだった。

オレが欲しかった強さが何だったのか、それを気づかされたのは「折神」を取りに戻った時に現れたフレイだった」

 

「……あの時か」

 

「何のために強くなるのか、自分のことは誰が守るのか……それを問われた時、オレは何も言えなかった。

そこで知ったんだ。強さを求めるのは簡単だけど、オレ自身がそこからどう進むのかはまた別の話だって」

 

「……よく分からんが今回の一件について何かしら感じて反省してるならとやかく言うつもりはねぇ。

実際問題としてオマエは自分で踏み込んだことの後始末はしっかりつけてるからな。

何もせず終わるならともかくやることやって無事終わらせたんなら何も文句はねぇよ」

 

「ヒロム……」

 

 けど、とガイの話を聞いて納得したかのように見えたヒロムだが、何故かガイの顔を不満そうに睨むとそのまま彼にある不満を伝えた。

 

「強くなるとか言ってたくせにオマエから聞いた限りの話では「コード・プレデター」の生み出したオレそっくりのホムンクルスに一度は苦戦しかけたみたいじゃねぇか。

ホムンクルス一体に苦戦するとかどういうことだ?」

 

「それは……同じ外見だったから本物のヒロムに何か影響があるんじゃないかとか躊躇ってだな……」

 

「躊躇うな。

敵の精神的な攻撃に惑わされるんじゃねぇよ。

仮にオレがオマエと同じ姿をした敵が現れてもオレは躊躇いなく殺す」

 

「迷わないのか?」

 

「迷う理由はない。

オレはオマエらを信用してるし、そのオマエらが敵対するような真似をするのならオレはその程度の人間と受け止めた上で戦って倒すだけだ」

 

「いざその状況になったら分かると思うけど、切迫した中でそんな決断直ぐに下すのは……」

 

「だがヒロムはそれが出来る。

ガイ、オマエの言う強さってのが何かは知らないがヒロムの強さの秘密はそこにあるんじゃないのか?」

 

「冷静な決断と判断力、たしかに強さの一つには結びつくかもね。

大将なんてよほど難しい選択が迫られない限りは迷いそうにないけどさ」

 

 ガイが強さを求める理由を知っているソラとイクトはガイをフォローするように言い、二人の言葉に続くようにヒロムはガイにある話をした。

 

「オマエは周りから天才剣士だの何だのと言われてきたかもしれねぇが、それはオマエのこれまでの積み重ねが導き出した成果だ。

数分数時間で得た力とかそんなんじゃねぇんだし、積み重ねられたものはいつまでもオマエの力になってくれている。

これまでの経験があるからこそ強さがある、それだけは忘れるなよ」

 

「ヒロム……」

 

「……まぁ、トウマをこの手で殺したいがために何もかも糧にして強くなろうとしてるオレが言えた義理じゃないけどな。

とりあえず今回みたいな無謀な真似は二度とするなって話だ。

下手すりゃオマエはその世界から抜け出せなくなる、オマエがオマエの未来を壊すのと変わらないんだからな」

 

「ああ……そうだな」

 

「自分の行動でどうなるか、いちいち考えて行動しろとは言わねぇが、よほどの場合に限っては冷静に判断しろ。

オレからは以上だ」

 

 話を終わらせるようにヒロムが言うとソラとイクトもそれ以上続けようとせず、ガイもヒロムの言葉に従うように今回の一件の話を終わらせる。

 

 話を終わらせたガイ、だがガイはどうしてもヒロムにある相談がしたかった。

 

「なぁ、ヒロム 」

 

「あ?」

 

「もしよかったらだけど……手合わせしてくれないか?

自分の実力を知りたいし、何よりヒロムと……」

 

「断る。メリットがないし疲れる」

 

「即答!?」

 

「どうせやってもオレが勝つから無駄だ」

 

「はぁ?そんなのやってみなきゃわかんねぇだろ?」

 

「分かる」

「分かんねぇよ」

 

 やる前から勝ち負けは決まっていると言いたいヒロムに対して反論しようとするガイは互いに自身の主張を譲ろうとせず睨み合う。

 

 その様子を見るソラは呆れ、イクトは何故か面白そうに笑っていた。

いつもの日常、それに自分は戻った。ガイはそう思っているのだろう。だが……

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 どこかの港にある倉庫。

その倉庫に身を隠すように一人の男がいた。

 

「クソ……!!

「コード・プレデター」め!!

自分に協力すればオレを新世界で上に君臨させると約束したくせに殺されやがって!!

せっかく手に入れたホムンクルスの体も徐々に崩壊し始めているし……どうしたらいいんだよ!!」

 

 声を荒らげる男、男の手の甲の皮膚は乾燥したかのようにヒビ割れており、ヒビ割れた皮膚から何か粉のようなものがこぼれ落ちていく。

 

「何が永遠の命だ……!!

テメェが提案してきた計画に乗ったのにこのザマだ!!

オレを駒集めのために利用して死にやがって!!」

 

「誰かそこにいるのか?」

 

 苛立つ男、そんな男のもとに誰かが近づいてくる。

ライトを持った何者か、恐らくは周辺を警備している警備員だろう。

 

 一歩、一歩……確実に男に迫ってくる足音、それを聞く男はふと何かを思いついたらしく不敵な笑みを浮かべると動き出した。

 

「アイツが死んでどうなるか分からねぇなら意地でも生きるしかねぇ……!!

こうなったら……他人の命喰らってでも生きてやる……!!」

 

 男はゆっくりと迫ってくる足音の主のもとへ向かい、男が向かうと倉庫内に怪しい光が広がり、光が広がると足音が消える代わりに悲鳴のような声が響く……

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