三刃
イクトから「コード・プレデター」について聞いたガイはすぐに行動を取るべく放課後になるとある場所に向かっていた。
「……」
どこかに向かうバスに揺られるように座席に座るガイは窓の外の景色を見ながらバスが目的地に近づくのを待っていた。
……のだが……
「なぁガイ。
本当にアイツに頼るのか?」
ガイの隣に座るイクトはどこか不満があるかのような顔でガイに確認するように話しかける。
が、話しかけられたガイはため息をつくなり彼に向けて注意をした。
「イクト、公共の場だから静かに」
「あっ、ごめ……じゃなくて。
あのさ……何で「コード・プレデター」のことをアイツに話したのさ?」
「話すも何も情報屋の間で噂になってるようなことなら今更話さなくても知ってただろ?
それにアイツもオレが倒すのなら助かるみたいな言い方だったしな」
「……そうじゃなくて。
オレが言いたいのはネクロに頼めば良かったのにさ」
「オレはあの情報屋が苦手だ。
どっかでオレの事を試そうとしてる」
「気の所為だろ?」
「どうかな」
イクトと話す中でガイは降車ボタンを押し、ガイが降車ボタンを押したことでバスは停車する。
バスが停車するとガイはイクトとともに料金を払ってバスから降り、そしてバスから降りると少し周囲に警戒しながらイクトに向けて話した。
「ネクロはあの一件で情報屋の流れのほとんどを手に入れた。
結果として金や物流の全ての情報はアイツのものと言っても過言ではない状態だ」
「それがネクロを頼らなかったのと関係あるのか?」
「……流れを得たネクロに協力を求めても果ては利用されるだけだ。
対等な関係、そうでなければ今回の件は解決できない」
「対等ね……」
(オレからすればアイツがガイと対等な関係で許すとは思えないんだけど……)
「……まぁ、いいや。
ところで何でここに?」
イクトはふと周囲を見渡すとガイにこの場でバスを降りた理由について訊ねた。
バスを降りた場所……そこは最寄りの駅から離れたような場所であり、簡単に言うなら街から離れた場所だ。
人と待ち合わせするに適したような場所ではなく、どちらかと言えば気ままな一人旅でも楽しむために降りるような場所だ。
何か目的があるはずのガイが何故ここで降車したのか、イクトはそこが気になった。
そんなイクトの疑問に答えるべくガイはここで降車した理由と今からの目的について話した。
「ここに来たのは人の目を警戒してるからだ。
やり手のプレデター様がどこで見てるか分からない以上、人の多いような場所では話進めるのは危険だろ?」
「ってことは誰かに会うのか?」
「ああ、そうだ。
アイツに頼んで呼んでもらった助っ人にな」
こっちだ、とガイはイクトを先導するように歩いていき、イクトは少し不安になりながらもガイについて行く。
街から離れた場所でバスを降り、そしてガイが進む方に黙ってついてしばらく歩くとガイとイクトは古びた洋館の前まで来ていた。
人の手が行き届いていないのが目で見てハッキリと分かるほど老朽化の進んでいる洋館を前にイクトはどこか嫌そうな顔をするが、ガイは洋館の門を開けると敷地に入り、建物の中へと入ろうとする。
「えっ!?
ちょっ……!?」
建物の中へ入っていくガイを追いかけるようにイクトは慌てて敷地に入り、建物の中へと入っていく。
建物の中へと入ると外観の老朽具合からある程度想像出来たレベルで洋館内はホコリだらけで壁の至る所に蜘蛛の巣が張っていた。
「うげっ……」
「こっちだ」
ホコリだらけの洋館内に気分を悪くするイクトのことなどお構い無しに進んでいくガイ。
イクトはホコリを吸わないように口元を手で覆いながらガイの後を追いかける。
二人が歩いた後にはくっきりと足跡が残るほどのホコリが床に積もっており、二人が歩く度にホコリが舞う。
「うぅ……気持ち悪……」
「ここだ」
イクトが吐き気を催す中でガイは扉の閉まった部屋の前で止まり、そしてガイは扉を開けてイクトとともに先に進む。
二人が先に進んだ先はリビングで、リビングはここに来るまでに比べるとホコリが少なく思えた……が、普通の汚れとして見ると異常なレベルのホコリの量だ。
「……帰りたい」
「いや、勝手についてきたのはイクトだからな?」
「……こんな気持ち悪いところで待ち合わせしたのか?」
「ああ。
もう来て……」
「お待たせぇ!!」
ガイとイクトの後ろから少年が走ってくるなり元気よく大きな声で二人に話しかける。
が、少年が走って来たせいでホコリが完全に空気中に舞ってしまい、気分を悪くしていたイクトの顔色は完全に悪化してしまう。
「うぅっ……」
「あれ?
イクトもいたのか?」
「あのな!!
こんなボロ汚いところに呼び出しておいて……」
イクトは怒りを露わにして少年に文句を言おうとするが、イクトは少年の顔を見るなり文句を言うのを止めてしまう。
やって来た少年……赤黒い髪の少年の顔を見たイクトが何故文句を言うのをやめたのか?
それはイクトが彼のことを知っているからだ。
「……テンセイ?」
「おっ、久しぶり!!
元気だったか?」
イクトは赤黒い髪の少年・天晴をじっと見つめ、天晴はどこか面白そうにイクトの顔を見ていた。
二人して相手を見ているこの状況、ガイはため息をつくと話を進めようと天晴に話しかけた。
「天晴、オマエだけか?」
「え、うん。
クランは来ないぞ」
「来ない?
オレはアイツにオマエとクランを助っ人に寄越してもらうように頼んだのに……」
「なんかクランはネクロから受けてる仕事のせいで来れないんだってさ」
そうか、とガイはどこか残念そうに言うと頭を掻く。
クラン、「暗撃」の異名を持つ能力者で高い実力を持つ男。
ガイはその男の子ことを知っており、実際にその実力を目の当たりにしている過去がある。
それ故に「酷獣」に交渉したはずなのだが……その交渉も虚しく終わってしまった。
「……天晴、何か伝言預かってるか?」
「ん?」
「あれだ……「酷獣」からの伝言」
「ああ、ある!!
えっとな……」
「……」
「……」
「……」
「……何だったけ?」
伝言があると言った天晴が沈黙し、その場が静けさに包まれる中で天晴は思い出せずに首を傾げてしまい、その様子を見たガイは頭を抱え、イクトは呆れながら天晴に告げる。
「天晴、オマエ今年で十七でオレらより二つ上ならもっとしっかりしろよ。
そんなんだから能天気のお気楽野郎ってクランに言われんだよ」
「へへっ、悪い悪い。
そこがオレのいいとこだからさ」
「欠点だよ!!
褒めてねぇのに良いように取るなよ!!」
「ははっ」
「……どうするガイ?
もう一回連絡するか?」
「その必要はない」
イクトがガイに向けて訊ねるとガイではない別の誰かが答え、その答えを聞いたイクトは思わず声のした方に視線を向ける。
そして視線を向けたイクトは思わず後退りしてしまう。
「嘘だろ……!?」
「何だ「死神」。
まるで幽霊でも見たかのような反応だな」
リビングの入口を塞ぐかのように現れた青年。
黒い髪に金目、黒のロングコートを羽織り首には白いスカーフを巻いたその青年はイクトに向けてどこか冷たい眼差しを向けながら言うとガイに歩み寄り、ガイは歩み寄ってくる青年に向けて質問をした。
「普段は電話でしかやり取りしないはずのオマエが現れるなんて珍しいな」
「クランを招集出来なかった詫びも兼ねてだ。
今回のプレデター狩りのことでオマエに話がある」
青年はガイに向けて話しながら彼に近づこうとするが、イクトは咳払いをすると青年に向けて質問した。
「何でネクロの指示で動いてるはずの天晴がここにいるんだ?
天晴は……」
「勘違いするなよ「死神」。
天晴は元々傭兵、ネクロに仕えていたのは雇い主がヤツだっただけ。
オレの指示で動いているということはオレに雇われているということだ」
「ネクロはそれで納得してんの?」
「オマエが心配することじゃないはずだ。
オマエはせいぜい雨月ガイに頼まれたことを成し遂げろ」
「コイツ……!!」
青年の態度にイクトは若干イラつき始めるが、そんなイクトに向けて天晴はどこか能天気に励まそうと言葉を伝えた。
「大丈夫だってイクト。
オレがいるしガイには怪我なんてさせねぇから安心してなって」
「……任せていいのか?」
「ああ、任せろ。
船に乗ったつもりで安心してくれ」
「それ言うなら大舟に乗ったつもりでだから。
……なんか不安だな」
心配ない、と青年は不安を抱くイクトに向けて一言言うと続けて彼に伝えた。
「今回のプレデター狩りに関してはオレも同行する」
「……アンタが?
マジで言ってんの?
冗談だろ?」
「オレを嫌っているのは理解してるし疑う気持ちはよく分かる。
が、オレは嘘が嫌いだから事実しか言わん」
「何企んでるんだ?」
別に、と青年は自分のことを疑うイクトの言葉に対して冷たく返すとガイに自身の同行について詳しく説明した。
「同行するとは言ったがあくまで「コード・プレデター」を狩る時に加勢する程度だと考えてくれ。
それ以外については段取りはしてやる代わりにオマエには天晴と行動してもらう」
「段取り?
それがクランを招集出来なかった詫びなのか?」
「その通りだ」
「……「酷獣」、アンタが力を貸してくれるのなら……」
「アスト」
「?」
「アストでいい。
これから共通の目的のために協力する相手を異名で呼ぶのはどこかよそよそしいだろ。
だからアストでいい 」
「……そうか」
「まぁいいよ。
アスト、アンタは……」
「オマエが気安く呼ぶな「死神」。
オマエはこの件で力を貸さないのなら呼ぶな」
「冷たいな!!」
「とにかくオマエは呼ぶな。
あと少し黙ってろ」
「……」
(コイツウザイな!!)
さて、と青年……アストは気を取り直すとガイに向けて今やるべき事を一つ伝えた。
「まずはオマエと天晴に戦力となる能力者を勧誘して来てもらう」
「オレと天晴で大丈夫なのか?」
「そこは問題ない。
オレが話すよりかはオマエらの方がいい」
「そうか。
その能力者ってのは?」
「その能力者の異名は「色煙」……ミスティーだ。
どこにいるかは天晴に伝えてある。
頼めるか?」
「ああ、任せてくれ」
アストの頼みを引き受けるとガイは天晴を連れてここから去っていく。
残されたイクトは警戒心むき出しでアストを見ており、そんなイクトの視線を感じたアストは呆れながら彼に告げた。
「いつまでここにいるつもりだ?
はやく帰れ」
「オマエホント腹立つな!!」