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二十九刃


 

「がっ……」


「はぁぁぁ!!」


 トーカーの胸部を貫いた霊刀「折神」は眩い光を発すると纏う蒼い炎を激しく燃やさせ、そして激しくさせた蒼い炎がトーカーを包み込むと刃のようになって次々にトーカーの体を斬っていく。


「ば……バカな……」


 蒼い炎に体を襲われたトーカーの息が弱るとガイは刀を引き抜き、刀が引き抜かれるとトーカーは膝から崩れ落ちる。


 そしてガイは膝から崩れ落ちたトーカーの首に霊刀「折神」を突きつけながら告げた。


「これがオマエが見下した能力者の……人間の力だ」


「くっ……」


「……これで、終わりだ、トーカー。

オマエはここで終わらせる」


 トーカーに突きつける霊刀「折神」を強く握るガイはトーカーを睨むような視線を向けながら言い、ガイの言葉を受けたトーカーは弱る息と疲弊した体で笑い始めた。

 

「フフフ……ハハハハ……」

 

「……何がおかしい?」

 

「……終わるわけなかろう。

私は賢者の石と同化した。その私を殺すなど不可能だ」

 

「そんなことはやってみなければ分からない。

街で暴れるホムンクルスを止めるためにもオマエの息の根は止めなきゃならない。

オマエがどんな力を持っていようと……オレはオマエを殺さなきゃならない」

 

「殺す、か。

私を殺せばキミは求めていた強さを得られるのか?」

 

「何?」

 

「何か間違ったことを言ったかな?

私はキミのことを知っている。その上で言っているんだぞ」

 

 考え直せ、とトドメをさそうと考えるガイに伝えるとトーカーは彼に向けてあることを話していく。

 

「キミはかつて「八神」の傘下にある情報屋との戦いで満足に力を発揮出来ずに終わってしまい、結局その情報屋を始末したのはキミの仕える人間を殺そうとした黒川イクトだ。

黒川イクトはその一件から紆余曲折を経て仲間になったが、キミはその結果に満足していなかったはずだ。

だからキミは何とかして強さを得ようとして闇夜に紛れる悪人共を倒す裏稼業に手を出し、その過程でアストと出会いキミは彼の依頼を受けることで強くなろうとした。違うか?」

 

「それは……」

 

「幾度となく依頼を受けては報酬を受け取ることも無く敵を倒すことに全てを捧げようとしていた。

そしてキミは「コード・プレデター」の討伐のためにアストに協力し、サイクロプスや鬼童丸、ユリウスを倒す強さを得ている。

だが……この私を倒しても強さは手に入らないぞ。

真に強さを求めるなら私の事は生かして利用すべきだ。私は錬金術の使い手……キミが望むものならその気になれば何でも生み出せるんだからな」

 

「惑わされるなガイ!!」

 

「黙っていたまえ闇の貴公子、キミには意見する権利はない。

さぁ、雨月ガイ……キミはどうしたい?」


「オレは……」

 

 トーカーの問いに対してガイは決断を出せずに迷いを見せ、迷いを見せるガイはその抱く迷いのせいか刀を下ろしてしまう。

ガイに迷いが生じているとトーカーは不敵な笑み浮かべ、トーカーが不敵な笑みを浮かべると彼の体は次第に再生を始めていき、体が再生される中でトーカーは右手に魔法陣のようなものを浮かばせると手を硬質化させて刃のようにするとガイの腹を貫こうと動き出す。

 

「ガイ!!」

 

「油断大敵!!

その迷いを抱くようではまだ私を倒すなど不可の……」

 

 迷いにより隙が生じているガイに襲いかかろうとするトーカー。アストが名を叫んでもガイは動く気配がなく、動こうとしないガイを確実に仕留めるつもりで硬化させて刃と化した手で襲おうとするトーカーは余裕からか長々と言葉を発していく……のだが、そのトーカーの言葉の途中で彼の体に異変が生じる。

 

 ガイの腹を貫こうと硬化させ刃と化したトーカーの右手が迫る中で彼の体に亀裂が走り、霊刀「折神」に貫かれた胸の傷口から蒼い炎が突然噴き出したのだ。

 

 突然の事でガイへの攻撃を止めてしまうトーカー。攻撃を止めてもトーカーの体には亀裂が走り、胸の傷口から噴き出る蒼い炎は勢いを強めていく。

 

「な、何だ!?

何が起こって……!?」

 

「言ったはずだ。オマエはここで終わらせる、と。

そして……これがオマエが見下した能力者と人間の力だ、てな」

 

「雨月ガイ……キミは何を……」

 

「賢者の石と同化して不老不死となったオマエを倒す方法をどうにかして出すしかないと思った。

オマエを倒すためにオマエを見て、オマエがどう動くかを見抜く中でオレはまず賢者の石が今どこにあるのかを考えることにした。

同化したのなら体の中にあるはず、だが体の中にあるとしてもどこにあるのか?オレはオマエを倒すためにただひたすらに知恵を振り絞った。その結果……オレは一つの答えを見出した」

 

「答え……だと!?」

 

「賢者の石と同化した、それは言い方を変えれば賢者の石を自らに取り込んでいるだけなんじゃないかってな。

ホムンクルスになって不老不死を人為的に生み出したのではなく自らの体と命をそうさせたのなら賢者の石はその役目を確実に果たせる場所に備えるはずだとオレは考えた。

人の体を生かし、動かすための重要な場所……心臓の中に取り込んでいるんだとな」

 

「……ッ!!」

 

「それを確かめるためにはある程度追い詰めた上で確実に急所を壊さなきゃならない。

だが錬金術の力で何を隠してるかわからないオマエを一撃必殺で殺すのは難しいかもしれないともオレは思った。

だから仕込んだんだ。オマエが錬金術を発動するタイミングでオレの「修羅」の蒼い炎が炸裂するように種火を仕込んでおいた」

 

「種火……だと……!?」

 

「オマエが必要以上に話してくれたおかげで種火が思った以上に大きくなってくれたから作戦は成功だ。

賢者の石の硬さはよく知らねぇけど、オレの「修羅」の蒼い炎は触れたものを全て切り裂く力を持つ。

そして……オマエがオレに手に取るよう仕向けたこの霊刀「折神」は「魔力を与えればあらゆるものを斬る」刀だ。

……これ以上は言わなくていいよな?」

 

「ふ、ふざけるな……!!」

 

 ふざけるな、そう口にしたトーカーの思いを無視するようにトーカーの全身に亀裂が走り、亀裂の生じた部分から次から次に蒼い炎が噴き出るとトーカーは全身が蒼い炎に飲まれ、蒼い炎に飲まれるトーカーの体は焼かれるのではなく斬られながら徐々に消えていく。

 

「私は……世界を変える……!!

キミは……力が欲しかったんだろ!!」

 

「ああ、オレは力を求めた。

けど、オレの求めるべき力はどこに行っても手に入らないんだよ」

 

「何を……」

 

「さよならだ、トーカー。

オレはオマエに手を差し伸べられなくても強さを得られる」

 

「雨月ガイィィィ!!

オマエはァァァァ……」

 

 ガイの言葉に激昴するトーカーの体全体に亀裂が走り、そしてトーカーの内側から蒼い炎が外へ飛び出そうと溢れ出ると彼の肉体は粉々に切り裂かれるとともに消され、トーカーの肉体が消えると彼の中から妖しく光る石が姿を見せる。姿を見せた石は全体に亀裂を走らせると砕け散り、砕け散った欠片は蒼い炎に消される。

 

 トーカーの消滅、そして内側から現れた謎の石。それを見たアストはガイに伝えた。

 

「……「コード・プレデター」は消えた。

おそらく今潰れたのは賢者の石だろうな」

 

「なら……終わったのか?」

 

「かもな。

オマエの奇策に嵌ったアイツは見事に倒され、そして石は砕かれた。

おそらくはあの石が糧となってホムンクルスが量産されたはずだ。だとすれば石の崩壊とともにその力は消滅して……」

 

 そうか、とガイはアストが話している途中にも関わらずどこかに行こうと歩き始めた。

どこに向かうか察したアストは言おうとした言葉を己の中に留めるが、どこかに行こうとするガイをミスティーは止めようとした。

 

「ガイ、どこに行く気なの?」

 

「……オレのやるべきことは「コード・プレデター」の討伐。

その役目を果たせたならオレはこの場に必要ない」

 

「それは無いわ。

「コード・プレデター」を倒したということは報酬が……」

 

「その報酬もオレは受け取るつもりは無い。

オレは……もう望んだものを得たから報酬はアストたちと山分けしてくれ」

 

「望んだもの?

それって……」

 

「やめろミスティー、行かせてやれ」

 

 ガイを止めようとするミスティーを制すようにアストは言い、彼女を宥めたアストはガイに告げた。

 

「ガイ、オマエのような戦士とともに仕事をして一つ言えることはこれまでの時間は無駄ではなかったという事だオマエは無事目的を果たせ、オレも果たせた。ここでお別れになるなら次いつ会えるかは分からないが、もしまた会って同じ目的で動くのならその時はまたよろしく頼む」

 

「……ああ、元気でな」

 

 アストに別れを告げるとガイはその場を去り、アストたちはそんなガイの後ろ姿を見ながら彼を見送る。

 

「……さて、オマエら。

ガイが受け取らなかった分の報酬について話し合うぞ」

 

 

 

 

******

 

 

 しばらく歩くとガイは街に戻っていた。

ホムンクルスが暴れ回ったせいで街はめちゃくちゃになっており、怪我人も多く出たらしく救急車が往来している。

 

 救急車が走る中でガイはそんなことを気にすることも無く歩き続け、ある広場につくと彼は奥に進もうとした。

 

 すると……

 

「ようやく終わったみたいだな」

 

 

 声のした方へガイが振り向くと、振り向いた先のベンチには姫神ヒロムが座っており、ベンチに座る姫神ヒロムはあくびをするなり彼に言った。

 

「なかなか戻らねぇから死んだかと思ったじゃねぇか」

 

「……ひどいな。

まさか見殺しにするつもりだったのか?」

 

「ほざけ。

今回の「コード・プレデター」の一件はオマエが勝手に首を突っ込んだだけだ。

オレからすればオマエが自らの判断で引き受けて失敗して命を落としたとしてもオレが仇討ちするなんてありえない。オマエが死ぬことを覚悟して引き受けたのならオレは口出しも手出しもしねぇ」

 

「まぁ……オマエはそういうヤツだったな。

……うん、ごめん」

 

 ヒロムの言葉を受けると彼という人間について再認識すると共にガイは一言詫びた。

ガイが詫びるとヒロムはため息をつくなり彼に告げた。

 

「別にオマエが何しようが勝手だし、何するにしてもオレに許可を取る必要もねぇ。

けど、自分の不甲斐なさを恥じて強さを求めた挙句の果てで裏稼業に手を出して後戻り出来なくなった時にどうなるかだけは頭に入れとけ。

オマエのやることにはそれなりの手回しくらいはしてもらうよう頼めなくもないが、裏稼業に手を出されたらどうにも出来ねぇからな」

 

「……悪い」

 

「……まぁ、無事終わったのならそれでいいさ」

 

 帰るぞ、とヒロムは立ち上がるなりガイに言うと歩き出し、歩きながらヒロムはガイに言った。

 

「今回の一件で何があって何を得たのか、暇潰しにでも聞いてやるから話せ。

オレはそれで許してやるが、ソラとイクトにはちゃんと謝っとけよ」

 

「ああ、分かってるよ」

 

 歩いていくヒロムの後をついて行くように歩き出すガイ。

ガイの前を歩くヒロムの背中、それを見てガイは改めて感じさせられた。

 

「……やっぱオマエには敵わないな、ヒロム」

 

 アストと彼が招集した仲間と共に挑んだ「コード・プレデター」の討伐。それにおいてガイは実力を高めると共に強さとは何かを改めて認識することが出来た。

そして……ヒロムと言う人間の凄さを改めて教えられたのだった……

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