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二十六刃


「トーカー……いや、「コード・プレデター」!!

オマエはここで、オレが倒す!!」

 

 刀を構えるガイは本性を表したトーカーを強く睨み、ガイに睨まれるトーカーは何故ガイがここにいるのかを不思議に思っていた。

 

「おかしいな……。

キミがここに来られるはずがない。

街に放ったホムンクルスに追い詰められて死ぬのがキミの運命だったはずなのに……何故だ?」

 

「オレの仲間がここまでの道を切り開いてくれた。

オマエを倒して街の騒動を鎮めるためにも……オレはオマエを倒す!!」

 

「仲間?

なるほど……「覇王」や「死神」か。

霊刀の回収に向かったキミを街の住人ごと葬るかキミのホムンクルスを培養して罪を擦り付けようかと考えていたのに失敗に終わるな……。

となれば今向こうにいる「コード・プレデター」の体は誰が相手をしているかだ……」

 

「オマエはここで倒す!!

オレたちを騙したこと……後悔させてやる!!」 

 

「……なるほど、認識の同期が出来た」

 

「?」

 

「あちらにいる「コード・プレデター」の体は「覇王」が相手をしているようだな。

あの暴虐で情け無用の戦士の相手をしているとは……」

 

「どうした?

オマエにとって大事な実験道具だったか?

生憎だが今のアイツは負けない。そしてオレも……アイツにオマエを倒すよう託されたからには必ず勝つ!!」

 

「いや、雨月ガイ。

キミは勘違いしている」

 

「勘違い?」

 

 目の前の敵を倒すべくやる気を見せるガイに敵となったトーカーはガイにある話をしていく。

 

「私がキミに霊刀を回収に向かわせたのは「覇王」こと姫神ヒロムと接触させるためだ。

キミが霊刀を取りに街に到着したタイミングで別働隊の指揮を執るユリウスの手でホムンクルスを野放しにさせて街を混乱に陥れればキミは間違いなく姫神ヒロムを助けに向かうと同時に霊刀を手に取るのは目に見えていた。

そして二人揃ったところで「コード・プレデター」に倒させ、私がここにいる人間を始末して合流すれば秀でた才能を持つホムンクルスの素材が手に入ると考えていた

 

「オマエ……!!

最初からオレたちを嵌めるつもりだったのか!!」

 

「嵌めるなんて面白くないことはしない。

キミを向かわせたのはホムンクルスの素材の効率的な回収と同時に私のある目的を果たすためだ」

 

「目的を果たすため?」

 

「キミがここに来た時点で「コード・プレデター」のあの体は戦闘力で劣ることはハッキリわかったからほうこうせ方向性を変えたわけだが……キミたちはこれを予想出来たかな?」

 

 トーカーは両手を大きく広げると両の手の甲にそれぞれ異なるデザインの魔法陣を浮かび上がらせると自身の前に両手の異なるデザインの魔法陣を重ね合わせたような大きな魔法陣を出現させる。

大きな魔法陣を出現させるとトーカーは両手を前に突き出して赤い光を発させ、光が発せられると大きな魔法陣は光を天に向けて放っていく。

 

 光を放つ魔法陣、その光の眩さにガイやアストたちは手で目を覆って眩さを回避しようとし、彼らが光を避けようとする中で魔法陣の中から何かが生み出されていく。

 

 生み出されたそれは魔法陣の発する光を取り込むように形を得ていき、形を得たそれの完成した姿を見たガイは驚きで言葉が出なかった。

 

「なっ……」

 

「……何だあれは?」

 

「人……だよな?

誰かをモデルにしてるのか?」

 

 魔法陣より現れたそれ……人の形をしたそれの姿にガイが言葉を失っているとアストとキッドは冷静に分析しようとするが、二人の言葉で何とか失っていた言葉を取り戻したガイが現れた人の姿をしたそれについて話していく。

 

「あれは……アイツのあの姿は、オレが刀を回収するために出会った姫神ヒロムと同じだ」

 

「姫神ヒロムだと?

今街にいる別の個体の「コード・プレデター」と戦ってるヤツか」


「そいつがここに現れたってことは「コード・プレデター」に負けて人形にされたってことか」

 

「違う……。

トーカーの言い方ではヒロムは「コード・プレデター」と呼ばれてる個体を追い詰めてるはずだ。

それなのにここにヒロムと同じ姿のヤツがいるってことは……」

 

「さすがは雨月ガイ。

その推理力、殺すには惜しいものだな」

 

 魔法陣より現れた姫神ヒロムにそっくりな人のようなそれを前にして考えを述べていくガイの言葉にトーカーは拍手を送ると彼の理解力と推理力を称賛するように続けて話していく。

 

「キミは行動力や戦闘力だけでなく現状への理解力や咄嗟の判断力はそこにいる闇の貴公子より秀でていると私は考えていた。

そしていくつかの試練を乗り越えたキミは今まさに私の手を読み取り、目の前で起こる現実を理解した上で恐怖を感じてくれている」

 

「ヒロムにそっくりなそれは何だ?

ヒロムに何をした?」

 

「私は何もしていないし、彼の身には何も起きていない。

私は魔法陣をここに描くことで「コード・プレデター」の中に仕込んだ賢者の石のレプリカが蓄積した姫神ヒロムのあらゆるデータを基にして彼のレプリカとなるホムンクルスを生成しただけだ」

 

「ヒロムのレプリカ……だと!?」

 

「意外だったかな?

ホムンクルスを生み出す技術は非常に高い柔軟性を持っていてね。

その手の知識と人心掌握の術さえあればホムンクルスに自我を与えることも新たな器として魂を移し替えることも可能だ。

今回のこのレプリカのホムンクルスには……私の思考を組み込んである。

姫神ヒロムの純粋にして高すぎる戦闘力を宿した肉体に私の才能に満ちた知識が与えられる……!!

これぞ最高の傑作品!!ホムンクルスとして完成に近い存在となった一体だ!!」

 

「何が傑作品だ……。

命を簡単に扱うようなその行いが楽しいとでも言いたいのか!!」

 

「……雨月ガイ、命へのその価値観だけは正すべきだ。

太古に存在した錬金術があれば人は神に見放されることも見下されることも無い。

そして同じ種たる人間同士が争うようなこともなかった。

私はこのふざけた世界の理を破壊するために人類を滅ぼし、世界をリセットする!!

そしてリセットした世界にホムンクルスという新たな人類を繁栄させて私が管理する!!

人も神も干渉すら出来ない完全管理された世界……私はそこで管理者として君臨することで世界の秩序を保つ!!」

 

 ふざけるな、とガイはトーカーの話に我慢が出来なくなって走り出し、走り出すとともに彼に接近して手に持つ刀でトーカーを斬ろうとした。

 

 しかし……

 

 ガイが刀を振り下ろそうとすると魔法陣より現れた姫神ヒロムのレプリカとなるホムンクルスが蹴りを放つとガイの一撃を弾いてしまう。

 

「なっ……!?」

 

「邪魔をするなよ……」

 

「どけ!!

オマエの相手をしてる暇は……」

 

「相手をしてる暇はないのか?

オレとオマエの仲なのにか?」

 

「ッ……!!」

 

 目の前にいるのは姫神ヒロムのレプリカにしてホムンクルスだ。

それはガイも頭の中で理解しているし、何なら攻撃を止められたとて倒すつもりで刀を持っていた。

 

 だが、姫神ヒロムの姿をしたホムンクルスはまるで昔からガイと付き合いのある本物のような口調で言葉を語った。

 

 その言葉がガイの刀を持つ手に入る力を弱め、刀に入る力が弱まると姫神ヒロムの姿をしたホムンクルスはガイの刀を弾き返すと続けてガイを蹴り飛ばす。

 

「ぐぁっ!!」

 

 蹴り飛ばされたガイは倒れてしまい、ガイが倒れるとアストは自身の能力「黒狩」の黒いエネルギーをホムンクルスに向けて放つが、放たれた黒いエネルギーを姫神ヒロムの姿をしたホムンクルスは拳を強く握ると殴り消してしまう。

 

「!!」

 

「バカな……!?

アストの攻撃を素手で消し飛ばしたのか!?

アイツの能力って何なんだよ!?」

 

「落ち着けキッド。

ガイを雇うにあたってガイが本来仕えている主である姫神ヒロムのことを調査したことがあるが……ヤツには能力はない」

 

 アストの攻撃を素手で破壊した姫神ヒロムの姿をしたホムンクルスが何の能力を持つのかキッドが疑問を抱く中でアストは冷静に本物の姫神ヒロムについて語り、そこから分かるかぎりのことをキッドと倒れるガイに伝えた。

 

「姫神ヒロムは能力を持たぬが故に大人たちから「無能」と蔑まれているが、実際の戦闘力は生身で能力者を数百人相手取ることが出来るほどの洗練された戦闘技術を持った猛者だ。

能力の有無が左右される能力者の戦いにおいて能力無しで他者を圧倒するほどの力を見せる姫神ヒロムは能力者の概念を崩しかねない危険な存在とされている。

今のオレの一撃を消したのも姫神ヒロムのオリジナルの本来の戦闘力を再現してるとすれば……厄介でしかない」

 

「弱点は無いのか!?

ホムンクルスってだけでも面倒なのにそんな弱点が無いような人間がモデルになってるなんて勝ち目ないだろ!?」

 

「弱点が無いような……?」

 

 アストの話にキッドが焦りを見せながらアストに判断を仰ぐ中、キッドの何気ない言葉が引っかかったガイは起き上がるとアストとキッドに伝えた。

 

「……アスト、キッド。

トーカーの相手を任せていいか?」

 

「何?

オマエが姫神ヒロムのレプリカの相手をするのか?

本物の姿を重ね合わせて躊躇うオマエがか?」

 

「……躊躇うのは仕方ないなんて言い訳はしない。

けど、情報を集めただけのアストよりは本物のことを知ってるのはオレだってことも確かなはずだ。

だからこそ……レプリカにしかない弱点を見つけられた」

 

「弱点だと?」

 

「ならガイ、オレたちにも……」

 

 ダメだ、とキッドに対してガイは冷たく言うと続けてアストとキッドに向けて姫神ヒロムの姿をしたホムンクルスの相手を自らがする上で伝えたいことを話した。

 

「アレはホムンクルスで、ヒロムの姿をした偽者だ。

だからこそ……オレが倒さなきゃならないんだ。

アイツのために強くなって、アイツの力になると決めたオレが!!」

 

「……そこまで言うなら任せる。

ただし、あのホムンクルスは他とは違う可能性がある。

何かが隠されてる危険性があるから警戒しとけ」 


 刀を構えるガイは全身に魔力を纏いながら自らの意思を口にし、それを聞いたアストは渋々承諾するとガイに姫神ヒロムの姿をしたホムンクルスの相手を任せ、その上で彼に伝えた。

 

 アストの言葉を受けたガイは強く頷くと姫神ヒロムの姿をしたホムンクルスに向けて走り出す。

 

「行くぞ偽者……!!

オマエを倒して前に進む!!」

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