二十五刃
「これはオレの能力、「黒狩」の力。
あらゆるものを破壊するための黒いエネルギーを操るオレの力、オマエのその賢者の石とやらによる力で生み出したものも破壊する。
オマエが生み出すのならオレが破壊してやろう」
「闇の貴公子……その力故の名前か」
「少し違うな……。
オレがその名を名乗るのは……この世界で力を示すためだ。
オマエにはこの力を味わってもらうが……光栄に思いながら消えろ」
本性を表したトーカー……「コード・プレデター」であるトーカーに冷酷な眼差しで睨みながら告げるとアストは右手を大きく動かし、アストが右手を動かすと黒い炎のようなエネルギーはアストのもとからトーカーへと向かっていき、敵に向かっていく中で黒いエネルギーは無数の稲妻のように変化するとトーカーを貫こうとする。
トーカーは身に纏うローブの下から魔法陣の描かれた一枚の小さな紙を出してアストの放った「黒狩」の黒いエネルギーに向けて投げる。
投げられた魔法陣の描かれた紙は赤い光を発すると巨大な盾へ変化し、紙から盾に変化したそれはアストの攻撃を防ぎ止める……のだが、アストの「黒狩」の黒いエネルギーは盾に触れると触れた部分を破壊して盾そのものを砕いてしまう。
縦を砕いた黒いエネルギーはトーカーに向かっていこうとするが、紙を投げた後のトーカーはその先にはいなかった。
トーカーの姿が消えた、その事にキッドは警戒心を高めて拳を構えるのだがその一方でアストは落ち着いた様子で右手を動かすと新たな黒いエネルギーを出現させ、出現させた黒いエネルギーを自身とキッドを覆うように広げると広げたエネルギーを針山のように外側へ隆起させていく。
針山のように隆起させられる黒いエネルギーはその動き通りに鋭く尖った無数の針となり、黒いエネルギーが無数の針となるとアストは指を鳴らして四方八方に無数の針を撃ち放つ。
撃ち放たれた黒いエネルギーの針は天井や壁を貫きながら建物を破壊していき、建物が破壊される中で何かが怪しく動くと放たれた黒いエネルギーの針を躱すように動きながらアストの方へ迫ってくる。
「そこか」
怪しく動く影を視認したアストが左手を動かすと先程トーカーの投げた紙が変化した盾を破壊した稲妻となった黒いエネルギーが力を強めながらその影に向けて走り出し、さらにアストが右手を動かすと放たれた無数の針となった黒いエネルギーが一つとなって龍へと変貌し、龍に変貌した黒いエネルギーは稲妻となっている黒いエネルギーとともに怪しく動く影に襲いかかる。
二つの攻撃が怪しく動く影に襲いかかろうとしたその時、怪しく動く影は霧のようになってアストとキッドの視界から消えてしまい、怪しく動く影が消失することによりアストの二つの攻撃は何も無いところを無意味に攻撃してしまう。
突然消えた影、するとアストとキッドの後ろにトーカーがゆっくりと姿を現し、姿を現したトーカーの方へとアストは視線を向けると彼に言った。
「……なるほど。
それが錬金術の力……いや、賢者の石の力か。
無から有を生み出し、命すら創造してしまうと言われる願望器の一つ。
その力を用いることでオマエは人間としての肉体を超越し、人を超えた神のような存在としてあらゆる御業を行うってことか」
「神のような存在ではない。
今のオレこそが神そのものなんだよ。
人には出来ぬことを対価もなく行える、この奇跡の力こそ神に相応しき力だ!!」
トーカーは叫びながら地面に手をつき、トーカーが地面についた手の甲に魔法陣が浮かび上がると地面が無数に隆起して無数の人間サイズの土人形を出現させる。
出現した土人形に向けてトーカーが手をかざすとまた魔法陣が現れ、魔法陣が現れると数体の土人形の全身は音も立てずに鋼鉄に変化していく。
もう土人形ではない、鋼鉄となってそれは単純に言うなら鋼鉄人形だ。
「やれ」
トーカーが指を鳴らすと鋼鉄人形は一斉に動きだし、鋼鉄人形が動き出すとアストは両手を動かして黒いエネルギーの玉を二つ自分の左右にそれぞれ出現させ、出現させた黒いエネルギーの玉に形を与えると巨大な拳へと変化させる。
「他愛もない」
拳へと変化した黒いエネルギーをアストは向かってくる鋼鉄人形に向けて放ち、放たれた黒いエネルギーの拳は意思を持つように動きながら数体の鋼鉄人形を殴り倒していく。
殴り倒された鋼鉄人形はそのまま倒れずに即座に立ち上がるが、鋼鉄人形が立ち上がると魔力を全身に纏ったキッドが懐に入るように距離を詰めて鋼鉄人形を殴り飛ばす。
「オラァ!!」
一体、二体、三体……アストの黒いエネルギーの拳が殴り倒しても尚立ち上がる鋼鉄人形を魔力を纏っただけの素手の拳で殴り飛ばすキッド。
鋼鉄人形を素手で殴っていくキッドの攻撃する姿にトーカーは感心した様子で彼を観察しており、観察する中でトーカーはキッドに質問した。
「キミの拳、その一撃はユリウスの功績によって解明されたと思っていたのだが、キミの拳は液体を振動させて内側から破壊するものではなかったのかな?
その人形は今や鋼鉄、つまり一切の水分を含まないと言っても過言ではない状態だ。
それなのに何故殴り飛ばせ、さらに拳は無傷で済むんだ?」
「質問とは余裕じゃねぇか。
よほど賢者の石とやらの力を過信してるようだな!!」
トーカーの問いに答えることも無くキッドは地面を強く蹴るとトーカーとの距離を詰めようとするが、キッドが走り出すとタイミングよく彼の前に鋼鉄の壁が現れて行く手を阻む。
「この……!!」
現れた鋼鉄の壁を破壊すべくキッドは魔力を右手に集中させると渾身の一撃を放ち、放たれた一撃を受けた鋼鉄の壁はその見た目に反して簡単に壊されてしまう。
「大したことないな。
この適度なら……」
「キッド、油断するな」
破壊した鋼鉄の壁の脆さにキッドが期待はずれな反応を見せているとアストが気を引き締めるように注意し、アストが注意するとキッドが破壊した鋼鉄の壁の欠片は辺りに散らばると鋼鉄の人形へ姿を変えて起き上がり、さらに先程キッドが殴り飛ばした鋼鉄の人形も破壊されていなかったらしく起き上がると並び始める。
鋼鉄の人形は列を成すように並ぶと液体に変化して一つとなり、一つとなったそれは鋼鉄に材質を戻していく中で形を形成していくと建物を壊しながら巨大化していき、巨大化したそれは形を形成し終えると鋼鉄の巨人となる。
鋼鉄の巨人は拳を強く握るとアストとキッドを叩き潰そうと振り下ろすが、アストは「黒狩」の黒いエネルギーの拳を巨大化させると鋼鉄の巨人の一撃にぶつけ、アストが自身の能力で鋼鉄の巨人の一撃を防ぐ中でキッドは魔力を強く纏うとトーカーを倒すべく走り、鋼鉄の巨人を回避してトーカーに接近して拳撃を放つ。
が……キッドの放った一撃は目に見えぬ何かに弾かれ、拳撃が弾かれたキッドは勢いよく吹き飛ばされてしまう。
「!?」
「残念だがキッドくん。
キミの力では私には触れられない」
「なら、オレの力ならどうだ?」
吹き飛ばされたキッドが吹き飛ばされたことに驚いているとトーカーが余裕を見せながらキッドでは倒せないことを告げ、彼がそれをキッドに告げるとアストが指を鳴らす。
アストが指を鳴らすと地面を突き破るようにして黒いエネルギーが鋭い槍となって現れてトーカーの体を貫き、さらに無数の黒いエネルギーの槍が地面を突き破るように現れるとトーカーの体を貫いていく。
腹や胸部、足、腕、そして頭蓋をも貫き、胸部を貫いた様子から察するに心臓は貫かれていると思われる。
そのせいか鋼鉄の巨人の動きが止まり
体を無数に貫かれたトーカーの体は力が抜けたかのようにぐったりしていく。
貫かれたことによるダメージが大きいためか、それとも心臓が貫かれたことにより生命機能が停止したからかは定かではないがトーカーは動かなくなった。
「やったのか……?」
トーカーが何かしたことによって吹き飛ばされたキッドは立ち上がるとトーカーを仕留めたアストに倒したかどうかを尋ねるが、アストは何故か黒いエネルギーを周囲に舞わせたまま黒いエネルギーの槍に貫かれたトーカーから視線を外そうとしなかった。
「アスト?
まさか……」
何かある、だからこそアストは警戒して能力を発動したままだと感じたキッドは嫌な予感を抱きながらアストに尋ねようとしたが、キッドがそうしようとした時トーカーに異変が起きる。
「……なるほど、地面に忍ばせていたのは盲点だった。
いや、盲点だったというよりはその可能性があるとしても今のオレ……いや、私には関係がない事だから気付かないフリをして試したかったのかもしれない」
「何……!?」
「あぁ、アスト。
そんなに驚かなくていい。
今の私は……神のような存在ではなく完全な神となったのだからな」
無数の黒いエネルギーの槍に貫かれて絶命したと思われたトーカーはまるで何も無かったかのように動き出すと自身の体を貫く黒いエネルギーの槍を体から引き抜き、槍を引き抜いたトーカーは貫かれたことにより生じた傷を跡形もなく消してしまう。
あまりにも人間離れしたトーカーに冷静さを崩さずとも驚きを隠せないアストは黒いエネルギーをビームのようにして放つことでトーカーは体を貫こうとするが、トーカーは右手に魔法陣を浮かび上がらせるとアストの放った一撃を掴む止め、掴み止めた一撃を握り潰すと黒いエネルギーを浮かび上がらせた魔法陣の中へと吸収させていく。
「バカな……!?
何故オレの能力を!?」
「たしかにキミの能力は私には脅威だった。
破壊に特化したその能力、私が以前のままならば対処出来なかった。
だが……賢者の石を得た私は一度受けてしまえば簡単に理解できる」
「賢者の石は願望器、その力でオレの能力を封じたのか?」
「違うな。
私は……人を超えるために人としての尊厳と存在意義を対価に賢者の石と一つとなった。
賢者の石がある限り私は朽ちぬし死ぬことも無い。
不老不死の命を得ると共にこの身を賢者の石と同化させ、私は能力者を超えた神となったのだ」
「賢者の石と同化……!?」
「そんなことが……!?」
トーカーの口から明かされる衝撃の事実に言葉を失うアストとキッド。
そんな二人の動きが止まっていると鋼鉄の巨人が動き出し、動き出した巨人は二人を倒そうと攻撃しようとする。
その時だった。
どこからともなく巨大な斬撃が飛んできて巨人に命中し、斬撃を受けた巨人は攻撃を受けた反動で倒れてしまう。
斬撃が飛んできた方向、その先にトーカーが視線を向けるとガイが刀を構えて立っていたのだ。
「雨月ガイ……。
何故ここに……?」
「よぉ、トーカー……いや、「コード・プレデター」!!
オマエはここで、オレが倒す!!」




