二十一刃
突然のホムンクルスの出現。
ガイたちが目的地に向かうのを阻むように次々に現れたホムンクルスの存在は彼ら以外にも襲いかかり、そして街では平穏な日々を送る人々を予期せぬ事態が襲いかかっていた。
同じ顔をした何人ものホムンクルス、その中にはすぐそばにいる人物と同じ外観のホムンクルスも混ざっており、ホムンクルスを知らぬ街の人々は奇怪な現象に怯えると共に混乱していた。
同じ顔をした人間が襲ってくる、その状況下で自分の身を守ろうとする街の人々は傘やら鞄を武器代わりに応戦しようとするが、顔の区別やホムンクルスか否かの判断の出来ぬ彼ら彼女らは気づけばホムンクルスではない人間にまで攻撃している。
警察官が駆けつけるも街の混乱は拡大する一方で、駆けつけた警察官も誰を助ければいいのか分からぬまま何も出来ずにいた。
無理もない、同じ顔をしたホムンクルスと人間が入り交じっているせいで攻撃しているのがホムンクルスなのか人間なのか、攻撃されているのがホムンクルスなのか人間なのかすら分からない上に警察官もホムンクルスの存在を認識していない。
警察官ですら身動きが取れなくなってしまうこの騒動、治まることなどなく被害は拡大していき、そしていつの間にか警察官と同じ顔をしたホムンクルスが現れて街の人を攻撃していた。
それが引き金となってしまい、街の人々はホムンクルスではない警察官にまで攻撃していき、警察官はついにホムンクルスと一緒にそうでない街の人をも動きを止めようと攻撃してしまう。
ホムンクルスを潜伏させ、一斉に行動させる。
これが「コード・プレデター」の計略なら成功というしかない。
街の人々を混乱させ、混乱の中で人々に人間とホムンクルスの区別がつかぬようにホムンクルスを次から次に紛れさせ、街の治安を守る警察官すらも混乱させた上でその治安を守る側にすらホムンクルスを紛れさせてその機能を停止させている。
数日、数ヶ月、数年とかけて計画された作戦によって時間をかけて街の人々と街の機能が機能しなくなったわけではない。
ほんの数分、数時間単位での出来事で街の全てがかき乱された。
そして、その中でガイたちは……
「はぁっ!!」
自分たちに襲いかかってくる人間を何とか退けながらも目的地に向うべく走るガイ、天晴、ソラ、イクト。
街での騒ぎがホムンクルスの出現によるものだと唯一知る彼らは武器を手に取って応戦しながら移動を続けていたがホムンクルスの猛攻は止まらず、それどころか次第にホムンクルスではない街の人からも攻撃されかけていた。
「クソ……!!
ホムンクルスだけなら躊躇なく攻撃出来るのに、ホムンクルス以外も混ざってるからやりにくい!!」
「威嚇射撃だソラ。
コイツらがガイや天晴の言うホムンクルスってんなら本物の人間との区別は人間の防衛本能にかけるしかない」
「威嚇射撃?」
「普通の人間なら銃声聞いただけでビビって近づかなくなるはずだ。
街の人とホムンクルスの区別はつくはずだよ」
「けどイクト、さっき遠くの方でパトカーの音してたけどそれで何とかなるのか?」
イクトがソラに提案した方法に対して天晴は疑問をぶつけ、疑問をぶつけられたイクトは思わず考えてしまう。
そう、天晴の言い分に間違いがないのだ。
イクトの言う方法ではたしかに銃声などに耐性や慣れのない街の人々は恐怖して思わず後退してしまうに違いない。
だが天晴の気にするパトカー……つまりは警察官は違う。
街の治安を守るために訓練を受けた警察官は銃声では怯まないだろうし、下手をしたら銃声を聞いたことによりこちらが危険視されてホムンクルスよりも先に狙われかねない。
そうなれば警察官と戦う羽目になるし、下手に警察官に応戦すれば今後の人生においても悪影響が出る。
それだけではない、下手に敵となる人間を増やせば目的地となる姫神ヒロムのいる屋敷にも向かえないし、屋敷に向かう目的であるガイが彼に預けた霊刀すら回収出来なくなってしまう。
「天晴の言いたいことは分かるけど、ここを切り抜けるにはそれしか……」
「いや、イクト。
方法ならあるかもしれない」
「え?」
「ガイ、コイツの言うやり方以外に何かあるのか?」
「ああ、もしかしたらホムンクルスだけを引き付けて街の人も守れるかもしれない。
……こっちだ」
ガイは刀を鞘に収めるとなぜか走り出し、天晴やソラたちは近くのホムンクルスを吹き飛ばすとガイを追いかけて走っていく。
ガイを追って走る天晴たち。ガイはただひたすら走り、そしてガイは何故か街の裏……路地裏へと入っていく。
ガイを追いかける天晴たちも路地裏へと入っていくが、ガイが走ってたどり着いた場所は最悪の場所だった。
「おいおい、ここって……」
「正気なのかガイ!?」
思わずガイの考えを疑ってしまうソラとイクト。
いや、疑いたくもなるだろう。なぜなら彼らは……路地裏の中の先に進めぬ行き止まりの場所へと来てしまったのだ。
行き止まり故に足が止まり、足を止めたが故に次々にホムンクルスがこちらに向かって迫ってくる。
このままでは袋のネズミ、襲われて終わってしまう。
ソラやイクトがそう思っているとガイが彼らに指示を出した。
「ソラ、威嚇射撃だ。
ここまで追いかけてくるのはホムンクルスに間違いないはずだから威嚇射撃されても怯まず向かってくるはずだ。
イクトは影の力で万が一にもホムンクルスの中に一般人が混じってたらその人を助けてくれ」
「お、おう!!」
「ま、任せろ!!」
ガイに言われるがままにソラは天に向けて拳銃を構えると数発弾丸を放つ形で銃声を響かせ、イクトはガイの言った通りに向かって来るホムンクルスの反応を観察する。
銃声が響いてもビクともせずに向かってくる、つまり……今迫っている全てがホムンクルスで間違いない。
「……よしっ!!
全員倒すぞ!!」
ホムンクルスで間違いないことを確かめるとガイは叫び、ガイが叫ぶとソラは拳銃をホムンクルスに向けて構えると炎の弾丸を次々に放ち、イクトは大鎌を振って斬撃を飛ばす。
ガイと天晴はそれぞれが刀と忍者刀を構えて敵に接近して斬撃を放ち、四人の放った攻撃を受けたホムンクルスは次々に塵となって消滅する。
ホムンクルスが消滅するとそれ以降続いてホムンクルスが現れる様子となく、ガイたちは少し安心すると武器を下ろした。
「ひとまずは何とかなったな」
「だがガイ、オマエの奇策で敵からは逃れられたがこの後はどうするつもりだ?
ここを動かないならホムンクルスに襲われる危険はないが、オマエの目的を果たすにはヒロムの屋敷に向かう必要があるぞ」
「大将のところに向かうならここを動かなきゃならないし、路地裏伝って行けるようなとこに無いからどの道また表に出ることになるもんな」
「分かってる。
けどこの騒ぎが治まらないかぎりは……」
「その必要はありませんよ、ガイ」
ここからどうするのか、それをソラとイクトに問われるガイがどうするのかを悩んでいるとどこからともなく声がしてくる。
若い女の声、その声に聞き覚えのあるガイは声のした方を見るとて……
「オマエは……」
***
少し前に遡る……
ガイたちのいる地点から離れた場所の広場にてホムンクルスを倒していた姫神ヒロムの前には敵が現れていた。
白衣のような衣装に身を包んだ青年、その青年は血の入った試験管をいくつも衣装の中に忍ばせており、そして今も右手に血の入った二本の試験管を持ちながらヒロムの前に立っていた。
「誰だテメェ?」
「これ以上暴れないでもらおうか、姫神ヒロム。
キミの介入は我々の計画の邪魔になる」
「あ?計画?
つかテメェは何もんだ?」
「オレの名前はユリウス・トーマス。
新たな世界の住人、とでも言おうか」
「知らねぇし名乗っても覚える気はねぇ。
オレの前に立つなら……殺される覚悟があるってことだよな?」
「キミがオレを?
殺せるわけがないが……やれるものならやってみろ」
ヒロムの前に立つ青年、ユリウス・トーマスは手に持つ試験管を砕くと中に入れられた血を外に溢れ出させ、割れた試験管から外に出た血は刃となってヒロムに襲いかかろうと飛んでいく……が、血の刃がヒロムに向けて飛んでいこうとしたその時、ヒロムは地面を強く蹴ると視認できぬほどの速さでユリウスの前に移動し、敵に接近するとヒロムはユリウスの顔面を殴り
顔を殴られたユリウスが怯むとヒロムは続けて敵を何度も殴り、何度も殴っだ後はユリウスを蹴り飛ばそうとするが、蹴りを放つ瞬間にユリウスの前に血が盾のようになって邪魔をしてヒロムの蹴りを止めてしまう。
「……オレは血を操る能力者。
悪いがオレを攻撃してケガさせるということはオレに攻撃する力をあた……」
「うるせぇ」
ユリウスが自らの能力について語る中ヒロムは血の盾にもう一度蹴りを入れて血を吹き飛ばし、ユリウスの前から血の盾が消えるとヒロムはユリウスを殴ろうと拳撃を放つ。
「何!?」
血の盾が蹴り一発で吹き飛ばされたことに驚きが隠せないユリウスは避けることに意識が行かずにヒロムの拳撃を受けてしまい、拳撃を受けたユリウスは地面を転がるように倒れてしまう。
「バカな……!?
ホムンクルスとなったことでオレの能力は強さを増したはずなのに……何故ただの蹴りにオレの血の盾が消された!?」
「ホムンクルスだかホルモンだかホルスタインだか知らねぇがうるせぇ野郎だ。
さっさと立ち上がれよ、でなきゃ倒れたままの相手は倒しにくいんだよ」
「くっ……ふざけるな!!」
ユリウスは苛立ちながら身に纏う衣装の中から幾つもの血の入った試験管を取り出して砕くと大量の血をヒロムの方へと飛ばし、ヒロムの方に飛ばされた血は四方八方に飛び散ると次々に人の形へと姿を変えていく。
「血塗られた人形劇。
この技をオマエ相手に使うとは思わなかったが……血で作られた死ぬ事の無い無数の兵がオマエが死ぬまで攻撃する!!
オレの持つ技でもっとも残酷で情けのない最高の……」
無数の人の形になった血が自身の技であり、それがヒロムを死ぬまで追い詰めようとすると語るユリウスは話しながら立ち上がると血の兵士にヒロムを攻撃するように指示しようとした。
が、ユリウスが指示を出すよりも先にヒロムは動き出すと次から次に血の兵士を殴り、殴られた血の兵士は先程蹴りを受けて消された血の盾同様に強い衝撃を受けて形を成す血ごと吹き飛ばされて消えてしまう。
「……は?」
一体、二体、三体……止まることなく次々に倒していくヒロム。
死ぬ事の無い兵士が敵を殺すまで攻撃する、そういった攻撃を放つはずだったユリウスは目の前で起きることが信じられなかった。
「ば、バカな……」
気がつけば何十体と作り上げた血の兵士が一体も残ることなく消滅し、そして一切のダメージを受けていないヒロムが冷たい眼差しでユリウスを睨む。
「これがオマエの技で一番強いのか?
それなら……拍子抜けもいいところだ」
「あ、ありえない……!?
能力者を超えるためにホムンクルスとなったオレが何の能力も無い凡人に……」
悪いな、とユリウスが戸惑って動きを止める中、ヒロムはユリウスに接近すると拳を強く握って敵の顔面を殴ろうとする。
「オレは能力者を倒すために強くなったんだ。
オマエみたいな能力者に負けるわけにはいかねぇんだよ!!」
渾身の一撃、拳に力を乗せてヒロムはユリウスの顔面を殴り、顔を殴られたユリウスは勢いよく殴り飛ばされてしまう……




