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二十刃


 相馬ソラ、黒川イクトの協力を受けることになったガイは天晴とともに目的の霊刀がある姫神ヒロムの屋敷に向かおうとしていた……はずなのだが、その道のりは簡単ではなかった。

彼らは人目を避けるように裏通りを歩いていた。

それは何故か、トラブルを回避するためだ。

 

 相馬ソラを装った偽物の出現、そしてそれが錬金術により生み出されたホムンクルスがベースであること。

本来は重なってはいけない事が重なってしまったことによりガイは当初の目的を想定していたよりも苦戦する形で成し遂げなければならなくなっているのだ。

 

「ソラ、ひとまずどうする?」

 

 とにかく移動を開始したガイはまずソラに意見を求めた。

意見を求められたソラはガイの言葉に反応するわけでもなくただ歩き続け、反応のない彼にガイはもう一度声をかけた。

 

「ソラ、とりあえ……」

 

「少し黙ってろガイ。

オマエがとっとと霊刀を回収して「コード・プレデター」を倒したいのは分かってるが、今の状況じゃ霊刀の回収は後回しだ」

 

「なっ……それは困る。

オレはアストたちのもとに戻らなきゃ……」

 

「状況を考えろ。

オマエが「コード・プレデター」を倒そうとやる気になったせいでそいつの手先であるホムンクルスがオレたちの誰かに化けてその辺に潜んでる可能性があるんだ。

ヒロムの屋敷に向かいたくてもホムンクルスが潜んでる危険性があるなら簡単には向かえねぇんだよ」

 

「それは分かってる。

だからどうするかを聞きたいんだ」

 

「出来ることなら関わらずに終わりたいかぎりだ。

ヒロムを守るオレたちの中からヒロムの命を危機に晒すような真似をしたバカがいるってんだからな」

 

「それについては悪いと思ってる。

だから早く解決してヒロムを……」

 

 黙れ、とソラは足を止めてガイに詰め寄ると彼の胸ぐらを掴み、彼の胸ぐらを掴むとソラはガイを睨みながら現状について冷たく告げた。

 

「いいか、オマエは「コード・プレデター」を倒せば全て終わると思ってるようだが事はそう簡単にはいかない。

敵が生み出したホムンクルスは今や街の人間どころか日本中の誰もが気づくことも無く潜伏してる。

どこの誰に化けてるか、どれだけの数が生み出されたのか、そいつらは何を指示されて潜伏しているのかも分からないのが現状だ。

そしてそいつらは「コード・プレデター」を倒しても残り続ける可能性があるんだ」

 

「ソラ、「コード・プレデター」を倒せばホムンクルスは……」

 

「ガイ、ソラの言いたいことを分かりやすく言うと……ホムンクルスは「コード・プレデター」の命が止まれば死ぬのかって事はハッキリしてないだろ?」

 

 ソラの言葉にガイは反論しようとしたが、反論しようとするガイにイクトはソラの言葉を分かりやすく話直した。

 

 イクトの言い直した言葉を聞いたガイはソラへの反論をやめ、そして天晴もイクトの言葉に頭を悩まされてしまう。

 

「確かにそうだよな……。

オレもガイもここには「コード・プレデター」を倒せるかもしれないっていう武器を取りに来ただけでホムンクルスのことを完全に理解して来たわけじゃないし、二人が言うように「コード・プレデター」を倒してもホムンクルスが活動を続けるなら「コード・プレデター」を倒しても終わりにはならないよな」

 

「そういうこと、理解出来たよなガイ?

ソラが気にしてるのは今じゃなくてこれからのことだ。

今なんてこの時を必死になれば何とかなるけど先の分からないこれからのことは最悪の事態を想定して動かなきゃならないのが定石だ。

今回の件はオレが情報を与えたからオレにも責任はあるけど、今回の件はキキトの時のような甘い話じゃない」

 

 イクトの言葉にガイは言葉を詰まらせてしまう。

 

 イクトの言うキキト、それはかつて賞金稼ぎとしてヒロムの命を狙って現れたイクトが頼りにしていた情報屋の男だ。

ヒロムを仕留め損ねたイクトはヒロムを始末するように言ったキキトの真意を知るべくイクトはガイやソラと行動をし、キキトがある目的のためにヒロムの命を狙ってイクトを利用したということが判明した。

 イクトはガイやソラ、その時の協力者の力を借りてキキトという男との因縁に決着をつけ、そして紆余曲折を経てガイやソラのようにヒロムのために戦う一人の戦士となったのだ。

 

 その時は今の問題を解決する程度の話だったのだ。

だが、今回は規模が違う。「コード・プレデター」の一件にガイが介入してもしなくても現状は変わらなかったかもしれないが、それでもホムンクルスという人造生命体である存在が人の世に紛れていることは明確だ。

 そしてそのホムンクルスが「コード・プレデター」とどのような因果関係のもとで動いており、どのような末路を迎えて終わるかはこの場にいる四人の少年には分からない。

 

 ガイが早く目的を果たそうとするのは「今」を解決するための一歩であり、ソラが危惧しているのは「今」を経て迎えるであろう「未来」に起きる事だ。

「今」と「未来」、一見すれば時間の流れによる地点の話のように思えるが、現実問題に置き換えればそれは一つの線上で起こる事が繋がっているということでもあるのだ。

 

 時の問題、ソラが気にしているそれについてはガイは考えが至っていなかったようだ。

 

「待ってくれソラ。

たしかにソラやイクトが気にするようにホムンクルスのその後は分からないかもしれない。

けどヤツらは「コード・プレデター」から力をもらい受けている存在、つまりはヤツを倒せばその問題は……」

 

「ヤツを倒せば終わるってか?

甘いこと言ってんじゃねぇぞ!!」

 

 ガイの言葉にソラは感情が抑えられなかったのか彼の顔を殴ってしまい、殴られたガイは勢いよく倒れてしまう。

 

 ガイを殴ったソラは今にもガイに飛びかかってまた殴ろうとする勢いがあり、それを感じ取ったイクトは慌ててガイとソラの間に割って入るとソラを宥めようとした。

 

「ソラ、落ち着こう!!

今ガイを殴っても何も変わらない!!」

 

「変わらないかもな。

けど今回の件はガイが強さを求めて見境なく戦いを続けていた日々が招いた結果でもある。

裏稼業に手を出してまで力をつけようとしたそいつの心の弱さが余計な問題に首を突っ込んだ。

その結果が今だ!!」

 

「ガイのこの件はオレにも責任はある!!

起こったことを今更掘り返しても何も変わらないだろ!!」

 

「変わらないのは分かってんだよ!!

だけど、オマエや天晴よりもヒロムと一緒にいてヒロムのために戦ってきたヤツがよりにもよってヒロムを危険に晒すような真似をしたのが許せねぇんだよ!!」

 

 ソラを説得しようとイクトも声を荒らげるが、ソラはそんなイクトの言葉を前にしても感情を抑えずに今胸の内にある思いを言葉にして吐き出した。

 

 吐き出された言葉を聞いたガイはソラの思いを知ると共に今の自分の置かれた状況を理解し、そして自分の今の姿を振り返ると共に情けなさを感じてしまう。

 

 そう、ソラの言葉は間違いではない。

ソラの言葉は至極真っ当な意見であり、そしてそれは幼き日からヒロムと共に行動してきた自分とソラの間柄だからこそ出た言葉だと分かるが故に自分の今までの行動がどれだけ軽率だったかを恥じてしまう。

 

「ソラ……オレは……」

 

「強くなりたいのは結構だ。

オレもイクトもヒロムを狙うヤツを倒すためにはもっと強くならなきゃならないのは理解してる、けどな……!!

強くなるためにヒロムを危険に晒すことは違うんだよ!!」

 

「……」

 

「オマエが「コード・プレデター」を倒すのは当然の責務だ。

だが忘れるなよ……ヒロムを守ることは、アイツのために戦うと決めたオレたちが守らなきゃならない義務なんだよ。

それを疎かにして己の欲に身を任せて行動するならオレはオマエを殺す」

 

「ソラ、さすがにそれは言い過……」

 

 ガイに対するソラの言葉を止めさせようとイクトは話に割って入ろうとするが、イクトのそれを邪魔するかのように突然爆発音が響く。

 

 爆発音だけではない、悲鳴も聞こえてくる。

 

 何かが起きた、そう感じたガイは慌てて立ち上がり、立ち上がったガイはソラたちとともに走って爆発音がした方に向かおうとする。

 

 裏通りを抜けて人通りの多い表に出るとガイたちの視界には想像していない光景が広がっていた。

 

 次々に爆発する車や建物、そして街を破壊しようとする人々とそれらから逃げるように悲鳴を上げながら走る人々、もはや状況は見るだけでわかってしまうほどに最悪なことになっていた。

 

「何だよ、これ……!!」

 

 目の前の光景に戸惑うガイ、するとそんなガイたちの前に何人もの男が列を成して歩いてくる。

 

 歩いてくる男、その男の顔を見たガイたちは彼らが何者なのかをすぐに理解した。

そう、彼らの顔……一人も外れることなく全員が同じ顔をしていたのだ。

全員が同じ顔、その奇妙な状況が何を意味するのかはガイたちはすぐに理解し、そして四人は武器を構えた。

 

「ホムンクルス……!!」

 

「ちっ、見境なく暴れ始めやがったのか!!」

 

「どうするよソラ。

大将なところに向かうのは……」

 

「無理だな。

ヒロムが今どうなってるかは気になるが……今はとにかくコイツらを止めて被害が広がるのを止めるぞ!!」

 

 現状を何とかすべくソラはガイたちに指示を出し、ソラが指示を出すとタイミングを合わせるかのように次々に同じ顔の人物が何人も現れて彼らを包囲していく。

 

「ソラ、コイツらを止めたら……」

 

「オマエが連れてきたようなもんだぞガイ。

だから……気合い入れて倒すぞ!!」

 

 

 

 

***

 

 その頃、別の場所……

ガイたちのいる場所から数キロ離れた場所にある広場。

 

 そこでも同じように爆発や悲鳴が広がっていた。

だが、少しだけ違う点があった。

 

 同じ顔の男や女が何人もいる中、ジャージを着た赤い髪の少年は殴る蹴るの殴打でそれらを次々に倒していたのだ。

 

 殴り飛ばし、蹴り飛ばし、ひどいものは倒れた状態で頭を地面に叩き込むかのように強く踏みつけられていた。

 

 同じ顔をした男や女が襲いかかってもその少年はいとも簡単に避けるとやり返し、そしてやり返すと倍返しと言わんばかりに容赦なく倒していく。

 

 気づけば……少年以外の同じ顔の男や女は倒れており、倒れた男や女は塵となって消えてしまう。

 

「……クソが。

また面倒なことに巻き込まれてるな」

 

 赤い髪の少年はため息をつくと首を鳴らし、そして爆発音が響く別の場所の方向を見ると面倒そうに歩き出した。

 

「厄介なことを持ち込んでなきゃいいけどな……あのバカが」

 

 少年は独り言を呟きながら歩を進める。

彼は……姫神ヒロムは……

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