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十九刃


「コード・プレデター」を倒すための秘策となるであろう刀である霊刀を確保すべくガイは天晴とチームを組んで一時アストのもとを離れて霊刀があるとされる場所へと向かっていた。

 

 住宅街の中を抜ける際は「コード・プレデター」とその刺客たる敵に悟られぬように帽子にマスク、全身を周囲から隠すように変装した上で洋館の地下にアストが用意した隠し通路を通って住宅街から離れた場所にある廃墟から外に出て、外に出た二人は「コード・プレデター」たちに悟られぬように一度目的地から遠ざかるように移動しながら敵の尾行の気配などがないかを探った。

 

 尾行の気配は今のところなく、ガイは周囲を確認しながら天晴に言った。

 

「もう少し先まで進んだところで一度建物の裏に入って変装を解くぞ。

ここまでくれば地下通路のこともバレないだろうし、アストたちと別行動してると気づかれても早々に対処は出来ないだろう」

 

「やっとか。

なんかオレ、変装するの苦手だなぁ」

 

「オレもだ。

堅苦しくてやりにくいな」

 

 天晴の言葉にガイは考えが同じで嬉しかったのか笑顔を見せ、二人で少し歩き進むとガイは天晴に目で合図を送ると近くの建物と建物の間の通路へと入り、天晴とともにその通路へ入ると少し進み、さらに進むと今度は先程まで歩いていた道から隠れるように建物の背後の方へと曲がるとそこで足を止める。

 

 足を止めるとガイは帽子とマスクを外し、変装のために纏っていた装いを脱ぐと近くのダストボックスに入れようとした……が、ガイが捨てようとすると天晴がそれを止めた。

 

「待ったガイ。

このまま捨てるのはまずいよな?」

 

「どうした?」

 

「その……頭悪いからよく分かんねぇから警戒してるってのもあるけどさ、「コード・プレデター」の使う錬金術ってオレたちの服とかからDNA採取して利用したりしないのかな?」

 

「それは……オレにも分からないな」

 

 天晴が気にする点、それは未知の力である錬金術に対する恐怖でもある。

ここまで変装とそれを用いた移動をして敵に悟られることも無くここまで来た。

変装という手法はここまで、普段ならば身に纏っていた変装道具を捨てれば余程のケースでもなければ何事もなく終わる。

 例えば逃亡中で匂いを探知する犬などに捜索されている場合を除けば今の状況は何の問題もない。

 

 だが天晴は「コード・プレデター」の扱う錬金術という未知の力を前にして警戒している。いや、警戒してることが一番正しい。

 死んだと思われたユリウス・トーマスは「コード・プレデター」を崇拝したことによりホムンクルスとなって擬似的な不死の身を得ている。

 肉体から肉体に魂を移す不死の形、ガイが連れ帰った「コード・プレデター」を知る唯一の情報源たるトーカーの話から得た情報、それがあるからこそ天晴は警戒している。

 

 錬金術、その力がどこまでのことを可能にし、どこまでのことを実現させられるのかは正直なところガイや天晴には分からない。

唯一の情報源たるトーカーがこの場にいてもそれは変わらない。

 

 だからこそガイは天晴の錬金術に警戒したからこそ出たその申し出に頭を悩ませる。

 

 警戒しすぎなのか、それとも天晴の言う通りなのか。

そこを考えてもガイの中で出た答えは一つだ。

 

「天晴の言う通りだな。

何があるか分からない、用心しておいて損は無いだろう。

どこか燃やせる場所を見つけて処分しよう」

 

 ダストボックスに入れるのをやめて焼却することを天晴に伝えたガイは変装道具を燃やそうと考えるが、そもそも燃やせるような物がない。

ガイの能力は燃やすと言うよりも切り裂くに近い力、焼却とは違うから不向きだ。

一方の天晴は忍術を扱える忍者の血筋、火を起こすことは容易いかもしれないが、変装道具を瞬時に焼くほどの火力が出るのかどうか怪しいところだ。

 

 焼却に時間はかけてられない。

燃やすのなら即座に燃やして火を消して去りたいところだ。

変装道具を瞬時に焼くほどの火力、それをこの辺りで見つけ出すのも容易ではないのも事実。

 

 焼却しようと言い出したガイは肝心の火元をどうするかに悩まされていた。

 

「……火をどうするかだな。

すぐに燃やせて一瞬で焼けるような火力があれば助かるんだが……」

 

「ごめん、ガイ。

オレの忍術じゃそこまでの火力は出せねぇや。

オレはどっちかと言うと体術よりの戦い方しか出来ないからさ」

 

「天晴は悪くないさ。

むしろ天晴が言ってくれなかったら危うく自分たちの首を絞めるところだった」

(とはいえ、ここまで来たら迷ってられないか。

オレの能力で切り刻んだのを天晴に焼かせるのが一番手っ取り早いかもしれないし……)

 

「何してんだよ」

 

 どこからか声がした、その声にガイと天晴が反応しようとすると声のした方から炎が飛んできてガイたちの変装道具を飲み込み、変装道具を飲み込んだ炎は激しく燃えて一瞬で焼き消すと一気に消えてしまう。

 

 火力不足で躊躇っていた変装道具の処理が終わった、予想外のことにガイと天晴が驚いていると彼らのもとへ一人の少年が歩いてくる。

 

 オレンジ色の髪の少年、その少年を見たガイはどこか安心したような様子を見せる。

 

「オマエ……」

 

「こっちに来るのが遅すぎるぞ、ガイ。

おかげでオレが迎えに来なきゃならなくなったろうが」

 

「……でも助かったよソラ」

 

 オレンジ色の髪の少年・相馬ソラの登場に安心するガイは彼に歩み寄ろうとした。

しかし、それを阻むかのようにどこからか銃声が響き、弾丸のようなものがガイの背後から飛んできてソラの額を撃ち抜く。

 

「ソラ!!」


「騒ぐな」

 

 額を撃ち抜かれたソラを心配したガイが彼の名を叫んでいると彼の背後から声がした。

聞き覚えのある声、その声の方にガイが視線を向けるとそこには今目の前で額を撃ち抜かれたはずの相馬ソラが黒髪の少年・黒川イクトと立っていたのだ。

 

「ソラが……二人?」

 

「あんなのとオレを一緒にするな。

反吐が出る」

 

 困惑するガイの言葉に対してイクトの隣のソラは冷たく返すと拳銃を構えて連続で炎の弾丸を放ち、放たれた炎の弾丸は額を撃ち抜かれたソラと思われる何者かの全身を次々に撃ち抜き、撃ち抜いた場所を炎で焼いていく。

 

 炎の弾丸を受け、さらには炎に焼かれるソラの姿をした何か、その何かは口から血を吐くと背中から倒れ、倒れたそれは次第に姿を変えていく。

 ソラと同じ見た目だったそれは姿を変えていくうちに人かどうか疑わしいような禍々しい見た目に変貌し、変貌を遂げたそれはソラの炎に包まれると瞬く間に焼き消されてしまう。

 

「今のは……?」

 

 ソラの姿をしていた何か、それの正体が気になるガイと天晴は何か知ってるであろうソラに視線を向けて説明を求めるが、視線を受けたソラは代わりに説明しろと言わんばかりにイクトを睨む。

 ソラに睨まれたイクトはため息をつくとガイと天晴に説明した。

 

「ガイの連絡を受けてソラと二人で霊刀を取りに向かおうとした矢先にオレたちはガイにそっくりなヤツに襲われたんだ。

ソラもオレもすぐに偽物だって分かったから躊躇うことなく攻撃して倒したんだが、倒した偽物は今みたいに人形のような気味の悪い姿に変貌したんだよ」

 

「偽物って分かってもオレの姿してるなら躊躇ってくれよ……」

 

「オマエから「コード・プレデター」の話を軽く聞いてたから躊躇う理由もなかったし、何より連絡してきたヤツとすぐ近くで遭遇するなんておかしな話だからな。

オマエが倒そうとしてる「コード・プレデター」がオレたちを巻き込もうとしてると理解したんだよ」

 

「そうか。

それより……」

 

「悪いけどガイ。

刀を……ガイの預けた霊刀を大将の屋敷から持ち出すのは難しいかもしれない」

 

 ソラの話を聞いたガイはひとまず彼らに連絡をしたきっかけでもある霊刀について訊ねようとしたが、それを察したイクトはガイに霊刀を持ち出すのは不可能かもしれないと言い出した。

 

 連絡を入れた際は快諾してくれたはずなのに、何故かイクトは不可能かもしれないとガイに言ったのだ。

 

 何故なのか、ガイは気になってしまい思わず聞き返してしまう。

 

「どういうことだ?

どうして……」

 

「偽物が現れたからだよ、ガイ。

オレとソラも最初は刀の一つくらい簡単に持ち出せると思ったけど、偽物が現れたってことは少なからず大将を狙う偽物もいるってことになる。

それも……大将の偽物が紛れてるとなったら容易には終わらない」

 

「掻い摘んで言えば偽物がいる中でヒロムの住処に行けないってわけだ。

確実な安全、それが保証されないかぎりは危険すぎる」

 

「けど時間が無い。

はやく……」

 

「その時間はオマエが「コード・プレデター」を倒すために霊刀を取りに行くためにオマエを雇ってる野郎が与えただけのもんだろ?

ヒロムを守りたいオレからしたら関係ないんだよ、そんな時間はな」

 

「……そうだな。

だけど、「コード・プレデター」を倒さなきゃいずれにしてもヒロムに危機が迫る。

ヒロムを守るためにも時間は限られてるはずだ」

 

「それについては否定しない。

だがな、これだけは教えておいてやる。

オレたちが守ろうとするヒロムを危険に晒したのはオマエの判断のせいだ。

オマエが勝手にアストとかいうヤツのところに向かった、そのせいでオレたちまで狙われてヒロムが巻き込まれようとしてる。

オマエの行動が招いた結果がこれだ」

 

 ソラの言葉、正論でしかない彼の言葉にガイは反論できなかった。

それどころか、何も言えない。

 

 ソラの言う通り、ガイがアストとともに「コード・プレデター」を倒そうとしなければこんなことにはならなかったかもしれない。

 

 ソラとイクトの前に現れたガイの偽物、今現れたソラの偽物、それらは間違いなく「コード・プレデター」の錬金術によるホムンクルスがベースとなった偽物だ。

ソラが言うようにガイが「コード・プレデター」の件に関与しなければ現れなかったもしれない。

だから何も言い返せなかった。

 

 だが……何も言い返せないガイにソラはさらなる事を伝えた。

 

「オマエが気にすることじゃねぇよ。

元を辿れば今のオマエに「コード・プレデター」の話を持ちかけたイクトが悪いからな」

 

「そうだな……。

オレがあの時ガイに余計なこと言ったのがまずかったな」

 

「イクトは何も悪くない。

オレが……」

 

 何か言おうとするガイ、そのガイは言葉を詰まらせる。

何故言葉を詰まらせるのか不思議に思う天晴とイクトとは異なり、ガイのその様子を見た目ソラはため息をつくと彼に言った。

 

「オマエのことだからくだらないことで迷ってんだろ。

それなら取るべき道は一つ、迷いを断ち切って覚悟を決めろ」

 

「……ああ」 

 

「ひとまずは四人で屋敷に向かうぞガイ。

ヒロムを巻き込まぬように刀を持ち出すことについては道中で決めるぞ」

 

 悩むガイの背中を押すように言葉をかけたソラは歩き進み、彼の言葉を受けたガイは気を取り直すと天晴やイクトとともにソラの後をついて行く。

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