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一六刃


「コード・プレデター」の刺客たるホムンクルス・ユリウスを倒し、無事にトーカーを保護したガイは彼をアストに会わせるために、作戦終了後に別行動を取るアストと落ち合うことになっていた住宅街の中にある洋館へと場所を変えていた。

 

 別行動前は人目を避けるかのように人里離れた山林の中の古民家で話をしていたのだが、今いる場所は真逆の環境にある。

住宅街、つまりは今回の「コード・プレデター」の件とは無縁の人間が多く暮らす場所にある洋館だ。

敵に攻められここが戦場となれば多くの人を巻き込むことになり、ガイたちも戦いにくくなる。

 

「アストは何を考えてここを指定したんだ?」

 

「どうかしたのか?」

 

 アストが戦いには不向きなこの場を指定したことに疑問を抱くガイが考えているとキッドがやって来て彼に声をかける。

声をかけられたガイは今考えていたことをキッドにも話して彼の意見を聞こうとする。

 

「トーカーと会う前にアストと話していたのは人里離れた山林の奥にある古民家だった。

そこで今後について話して二手に分かれて行動したはずなのに合流場所にアストが選んだのは住宅街の中にあるここだ。

万が一にも敵が……「コード・プレデター」の手下やホムンクルスが現れたらここだと多くの犠牲者が出るのに……」

 

「アストにも何らかの考えがあるんだろ。

でなきゃこんな無謀な土地では戦わないだろうしな」

 

「考え?

オレにはあるとは思えないな」


「いや、案外あると思うぞ。

ガイがミスティーと会った場所に現れたサイクロプス、音弥と合流した道場に現れた鬼童丸、そして集会場でトーカーと会ったオレたちの前に現れたホムンクルスのユリウス。

三度の敵襲、その全てに共通してるのは警察、とくにギルドが干渉してくる可能性が低い場所だ」

 

「ギルドか」

 

 ギルド、それは警察と協力している組織の一つであり、主な活動目的は能力者が主犯となる犯罪などに対策を取り未然に被害を防ぐべく動く対能力者専門武装組織だ。

強盗や殺人、窃盗や誘拐など警察官が訓練を受けた範囲内で対処出来る犯罪外にある能力犯罪を担当・処理するのがギルドだ。

 

が、キッドの考えには矛盾がある。

警察及びギルドが干渉してくる可能性が低い場所で襲われたとキッドは推測して言うが、サイクロプスも鬼童丸もホムンクルスのユリウスも……三人の敵はガイからすればどれも警察の対処出来る範疇を超えているし、今回の件で仮に警察が対処出来ないとなればギルドが動いてもおかしくない。

なのに今はどちらも動いていない。いや、サイクロプスの件に関しては敵が派手に暴れたせいですでにどちらかが動いてもおかしくない。

 

 どちらにせよ現状で警察やギルドが大きく動いている様子はない。

報道ではギルドが捜査方針を決定したような言い方をしていたが、今に至るまでギルドが目立つような動きをしていた様子もなかった。

ガイはそこも気になっていたのだ。

 

「街や市民を守るはずのヤツらが関与どころか干渉してこないのもおかしな話だな。

報道ではギルドがそれらしいことするような言い方してたのによ」

 

「ヤツらをあてにするのはやめておけ」

 

 ガイがキッドと話をしているとここへ到着したキッドがやってくるなり二人の話に入ってくる。

 

「警察もギルドもこの件に関しては期待できない」

 

「どうしてだ?」

 

「ギルドのヤツらは元々手柄欲しさに集まるような集団だ。

警察が民のために動く一方でギルドの連中はその警察が手の出せない悪党を手柄として討ち取って称えられることを欲してる」

 

「ギルドが人々のために動いてないってのか?」

 

「その人々のために動いてるのなら「十家」の腐敗もオマエが支持する覇王もどうにか対処されてるだろ。

何もされてないから「十家」は権力を保持したまま、「無能」の名を押された覇王は力で覆す道しか用意されていない。

殺人事件として「コード・プレデター」の名を出しはするが、結局のところヤツらは利用できるものを利用して本丸を確実に仕留められるように追い詰めてからしか動かない」

 

「覇王?」

 

「キッドは知らなかっただろうけど、オレはアストではなく覇王と呼ばれる男に仕えてるんだ。

誰よりも強い戦士だ」

 

「それなのに「無能」?

何か理由でも?」

 

「色々と、な。

それよりもアスト、何でここなんだ?

ここは住宅街の中、敵が来たら……」

 

「ここに来るとしたら「コード・プレデター」はバカとしか言えない。

そもそもオレが何の考えもなしに拠点を変えてると思ったか?」

 

「違うのか?」

 

「ここでヤツらが暴れれば間違いなくギルドが足取りを掴むチャンスがある。

ギルドが動かなくても住人が騒げば動くしかないからな。

もっとも、拠点を変えてるのはオレたちの身の安全のためだ」

 

「オレたちの?」

 

「同じ場所を拠点にしてればギルドのヤツらは確実にオレたちを利用するために目をつける。

「コード・プレデター」に近づきつつある人間としてオレたちを好きに動かさせ、本丸たる「コード・プレデター」を見つければ適当な理由つけてオレたちを口封じするだろう」

 

「そんなことが!?」

 

「さっきも言ったろ。

ヤツらは手柄を欲してるって。

「コード・プレデター」は賞金稼ぎや能力者を狙う。

その「コード・プレデター」を倒そうと動くのはならず者の能力者かオレたちのような人間、ギルドとしては適当な理由をつけて消しても支障がないからな。

ましてギルドからすれば賞金稼ぎなんて無法な金稼ぎとしての認識しか持ってない」

 

「だから利用するのか?」

 

「利用価値はあるからな。

ヤツらにとっていくらでも替えがきくのがオレたち賞金稼ぎや傭兵の能力者。

欲と権力に溺れた汚職者、それがギルドだ」

 

「そんなのが人々を守るとか言ってんのか……」

 

「それだけじゃない。

ミスティーの住居、何故「コード・プレデター」が知っていてサイクロプスを送ったと思う?」

 

 アストの問い、その真意が分からぬガイはキッドには分かるのか確かめるように視線を向けるが、視線を向けられたキッドも分かっていないらしくガイの視線に対して首を横に振って答えた。


 ガイとキッドが分からないと知るとアストは二人に対して何故ミスティーの住居となっていた所へサイクロプスが現れたのか、その可能性について話した。

 

「ミスティーは能力者、その能力者の住居などをギルドが把握していたとしたら?

鬼童丸が現れた道場が音弥と関係のある場所だとギルドが知ってたら?」

 

「まさか……ギルド側に内通者が?」


「でもアストがいう可能性の方が確実なのかもな。

「コード・プレデター」が無意味に能力者を襲ってたんじゃなくて、利用できる能力者を選択するために情報を得ていたとすれば合点がいく」 

 

「利用?

キッド、何の話だ?」

 

 キッドの言ってる内容が分からないアストはキッドに説明を求めるが、説明が面倒な彼はガイに代わりに頼むと言わんばかりの視線を送る。

視線を受けたガイは自分で説明しないキッドに呆れながらアストにホムンクルスのユリウスについて話した。

 

「被害者リストの中に載っていたユリウス・トーマスがオレたちの前に現れた。

それもホムンクルスとしてな」

 

「ホムンクルスだと?

何故錬金術の人形の名が出てくる?」

 

「オレたちは「コード・プレデター」を知る男に出会った。

名はトーカー、「コード・プレデター」がその名を名乗る前の男と一時期ともに行動していたらしい。

トーカーが言うには「コード・プレデター」は自分と出会う前にフランスで錬金術士に会い、錬金術のことを教えられたらしく、錬金術を知った男は願望器たる賢者の石に出会ったらしい」 

 

「願望器?

まさか絵空事の願望器とかいうのまで絡んでるのか」

 

「それと、「コード・プレデター」の被害者は全員ユリウス・トーマスが殺害している。

 ユリウス・トーマスは「コード・プレデター」の錬金術の力を崇拝していて、自分をホムンクルスへと進化させたんだ」

 

「なら自分の死を偽装したのか?」

 

「偽装……って言い方で間違いない。

けどユリウスはホムンクルス、核となる賢者の石のレプリカと体があれば何度も蘇るようだしな」

 

「願望器のレプリカだと?

錬金術といい、ホムンクルスといいめちゃくちゃだな」

 

「トーカーの話だと「コード・プレデター」の真の狙いは錬金術の力を示すことと恐怖による世界の支配だ」

 

 なるほど、とガイの説明から「コード・プレデター」の目的と素性の一部を知ったアストは話を理解すると共に少し気難しそうな顔をしていた。

これまで悩む様子もなくガイたちに指示を出していたアストが何やら考えているのだ。

 

「アスト?」

 

「オレたちが調べに行った薬品倉庫、あそこには人体構造についての資料や物質についての分量について記されたものが残されていた。

オマエの話……つまりはそのトーカーの話が事実なら、薬品倉庫にはホムンクルスの材料が保管されており、下手すれば賢者の石のレプリカの材料もあるかもしれないってことになるな」

 

「けど、気になるよな。

ユリウス・トーマスは錬金術に魅了され、次々に人を殺した。

その殺害された犠牲者の衣服などから薬品倉庫の場所が特定されている。

トーカーもあえてすぐに殺さなかったせいで「コード・プレデター」のことをオレたちに知られた。

なんか……「コード・プレデター」のやってきた事って無駄が多くないか?」

 

 ガイが気にすること、それは「コード・プレデター」とそれに仕えるユリウス・トーマスが起こしたこれまでの行動に対しての徹底のなさだ。

 

 ユリウスがこれまで殺害したことが特定されるようにユリウス自身はホムンクルスとなり、ホムンクルスだからこそできる方法で死を偽装した。

だがそこを徹底するだけして犠牲者の衣服などに付着したものを対処しなかったせいで薬品倉庫を特定されている。

「コード・プレデター」もだ。

錬金術を扱い、ホムンクルスを生み出し、そして己の意に反するトーカーをあえてギリギリの生命力で生かしている。

完全に殺せばガイたちと出会うことも、ユリウスに始末させに向かわせてホムンクルスであることをバレずに済んだのに。

 

「ガイの言う通りだな。

「コード・プレデター」はどこか抜けてる」

 

「本気で抜けてるのか?

それともわざとか?」

 

「どっちでも関係ないんだキッド。

重要なのは……ここまでが上手く行き過ぎてることだ」

 

「そうだな。

ガイの言う通り、何故ここまでスムーズに事が進む?」

 

 トーカーの始末の手抜き、ユリウスの偽装がある上での失態、その全てがガイたちを「コード・プレデター」に近づかせている。

 

「まるで……陽動されてるかのような感じだな」

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