一四刃
「何が……どうなってる……!?」
トーカーに襲いかかろうとした青年の顔を見て驚きを隠せないガイ。
「あれは……」
「コード・プレデター」の犠牲になった人物のまとめられているリストの中にいる一人の青年と目の前の青年の顔が全く同じなのだ。
「こんな事って……」
ガイは驚きを隠せぬ中で目の前の青年の顔と一致する犠牲者の青年のリストに目を通していく。
「血鬼」の異名を持つユリウス・トーマス。
十九歳の通称・吸血貴公子と呼ばれる賞金稼ぎ。
ナイフを武器にし、自身の魔力の込められた血を操作して武器に変えて攻撃する戦法を得意とする能力者。
「コード・プレデター」の十二番目の犠牲者。
死因は心臓部を前後からほぼ正確に同じところを刺される形での刺殺。
これまでの「コード・プレデター」の手口とまったく同じだ。
……が、そのユリウス・トーマスとそっくりな青年がトーカーを襲おうとしていたのだ。
最初にそれに気づいた天晴はあまりのことに顔が青ざめているが、キッドは冷静にガイと天晴に言った。
「そのリストに載ってる人間と顔が同じでも驚くことは無い。
これも敵の罠だとすればこっちを混乱させるために整形されただけに過ぎない」
「あ、ああ……そうだな!!
天晴、あれは……」
「……なるほど。
サイクロプスを倒し、あの鬼童丸を倒しただけのことはあるな」
天晴とキッドに蹴り飛ばされて壁に叩きつけられた青年はゆっくりと起き上がるとガイを見ながらナイフを構える。
刀を構えるガイに向けて青年がナイフを構える中、ガイは彼に問う。
「オマエは何者だ?
何故トーカーを殺そうとした?
何故……」
「何故オレの姿がそのリストの中にある男と似ているのか……か?」
「……答えろ。
オマエは誰だ?」
「……オレはユリウス・トーマスだ」
「何?
ユリウス・トーマスは死ん……」
「ならその目で真偽を確かめろ」
青年は……ユリウス・トーマスは身に纏う白い衣装から血の入った試験管を二本取り出すとナイフで容器を砕き、試験管が砕けると共に血がこぼれ落ちていく。
こぼれ落ちる血、ユリウスがナイフに魔力を纏わせると血は意思を持つかのように動きながら鋭い刃の形となってガイに襲いかかる。
「!!」
刃の形となった血が襲いかかるとガイはそれを刀で防ぐが、刀に防がれた血は液状に戻って広がると無数の針となってガイに再び襲いかかる。
「コイツ……!!」
無数の針となって迫り来る血を前にしてガイは足に魔力を纏わせると針の攻撃軌道上から逃げるように横に勢いよく飛び、ガイが横に飛んだことによって標的を失った血の針は地面に突き刺さっていく。
「この能力……」
「血を操ってるな。
まさかヤツは本当にユリウス・トーマスなのか?」
「えぇ!?
じゃあ死んだはずの人間が生きてるって言うのか!?」
ガイとキッドがユリウスの攻撃から犠牲者リストに記載されてるユリウス・トーマスの能力と今の攻撃が同じだと判断し、二人の反応から天晴は驚きを隠せず一人パニクっている。
そんな三人に対してトーカーは三人が考えもしない衝撃的なことを伝える。
「あれは……ユリウス・トーマスであってユリウス・トーマスではない。
あれは言うならばユリウス・トーマスを母体としたホムンクルスだ」
「ホムンクルス……?」
「何だそれ?」
「ていうかあれユリウス・トーマスなのか違うのかハッキリしないの!?」
トーカーの言葉に混乱する三人、そんな三人の反応など無視するようにユリウスはガイたちにナイフで斬りかかろうとし、ガイはユリウスの攻撃を刀で止める。
「この……っ!!」
「まったく、あの方を裏切った上にオレのことまでバラすつもりとはな」
「裏切った?」
「大体の話は聞いたんだろ?
その男とあの方がかつては共に行動していたこと、あの方の得た力のことを」
「ああ、聞いたよ。
けど……裏切ったのは「コード・プレデター」の方だろ!!
トーカーは何もしていない!!
私利私欲に溺れた「コード・プレデター」が恐れを抱いてトーカーを消そうとしたんだろうが!!」
「結局はあの方の意思を受け入れなかったからそうなった。
崇高なるあの方の意思の中にある高き理想と想幻の先にある新世界を否定した者の末路……それがあの男だ」
「理想?新世界?
能力者に称賛されぬ錬金術を能力者を殺して恐怖を蔓延させて一方的に錬金術を崇拝させるような世界がか!!」
「錬金術の……神の御業に触れてない人間には理解など出来ぬことかもな。
だがオレは違う!!」
ナイフを強く握るとユリウスはガイと距離を取るように後ろに飛びながら右手を操作して地面に刺さる血の針を液状に戻し、液状に戻した血を操作すると無数の矢に変えてガイに撃ち放つ。
放たれた血の矢はガイに迫っていくが、ガイを守るように天晴は忍者刀で血の矢を切り払い、さらにキッドは両手に魔力を纏わせると拳撃を素早く放つと共に衝撃波を生み出して天晴が切り払った血の矢を吹き飛ばしてみせる。
キッドの放った衝撃波を受けて吹き飛ばされた血の矢は液状に戻って地面に散らばる。
「……恐怖に臆して動けぬかと思っていたが、案外まだ動けるらしいな。
それとも苦し紛れの足掻きか?」
「うるさいな。
ガイばっかりに任せるのは申し訳ないんだよ」
「それに恐怖を感じてたのは天晴だけだ」
「それ今言わなくてよくないか!?」
「……とにかく、オマエを倒せば「コード・プレデター」に近づけるってんならオレたちに戦わない理由はない」
「天晴、キッド……」
「やろうぜガイ」
「ヤツを倒してトーカーをアストのもとへ連れていくぞ」
「ああ!!
やるぞ!!」
天晴とキッド、二人の思いを聞いたガイは刀を強く握り構える。
そんなガイたちにユリウスは呆れながら言った。
「オマエたちではオレは倒せない。
倒せたとしてもオレは何度でもオマエたちの前に立つ」
「言ってろ。
オレたちがここでオマエを倒す。
そうすれば終わる」
「いや、雨月ガイ。
それでは終わらない」
ユリナの言葉に対してガイが言い返すと後ろからトーカーがガイの言葉を訂正すべく話した。
「このままユリウス・トーマスを倒しても終わらない。
ここで倒してもまたユリウス・トーマスは現れる」
「トーカー、それはさっき話そうとしてたホムンクルスと関係があるのか?」
「ああ、その通りだ。
ホムンクルス……つまりは錬金術によって生み出された声明だ。
その祖はルネサンス期の錬金術であるパラケルススのものであり、アイツは独自の観点からホムンクルスに改良を施している。
その結果、アイツはホムンクルスの媒体となる人間の意識を人体から抜き取りホムンクルスの核に移すことに成功した」
「意識って……魂のことか!?」
「そうだ。
ユリウス・トーマスはその技術に魅了されてホムンクルスに自らなった一人だ」
「なっ……」
「じゃあ犠牲者リストに乗ってるユリウス・トーマスは……」
「アイツに協力するユリウス・トーマスは意識をホムンクルスの体に移し替え、魂の抜けた自分の体を他殺に仕立てあげたのがそのリストに載るユリウス・トーマスだ」
「何のために他殺に見せかけた?」
「他殺に見せかけるようなことまでして何を……」
「そうか……。
犠牲者の全員が心臓を前後から同時に刺されている。
試験管に入った血を操るコイツならガイを襲った刃以上の凶器を生み出して気づかれずに攻撃することも可能かもしれない。
コイツが「コード・プレデター」の協力者ってなら手口がバレないようにしたってことだな」
「血の凶器……たしかに他人に気づかれずに携行できるし自身の血液があればいくらでも攻撃できる」
「じゃあ「コード・プレデター」の犠牲者は……ユリウス・トーマスの犠牲者ってことなのか!?」
「……少し違うな」
キッドが気づいたことにより次々に紐解かれる「コード・プレデター」の犠牲者を襲った犯人像。
そしてその犯人とされるユリウス・トーマスは彼らの謎解きの内容を訂正するように言った。
「最初に殺した男……田所宗一郎はオレの友だった。
彼なら「コード・プレデター」の御業を受けてオレとともに永遠の魂を得る資格があると感じた。
だからオレは彼にホムンクルスとなり能力者を超えるべく話を持ちかけたが……彼は否定した。
永遠の魂を「不気味だ」と否定したんだ」
「だから殺したのか……!?」
「そうだ。
朽ちぬ肉体の中で命、これほど魅力的なものであるホムンクルスを否定したんだ。
あの方のみが為せる御業を否定した……!!
そんな人間に価値などない!!」
「そんな身勝手な理由で……人を殺したのか!!」
「この世界を新世界に導くため!!
あの方の理想とされる錬金術の世界の礎になれるのならば光栄な事だ!!」
「ふざけんな!!」
ユリウスの話を聞いて怒りの隠せぬガイは刀を強く握ると勢いよく走り出し、ユリウスに迫ると彼を斬ろうと刀を振る……が、ユリウスは新たに二本の試験管を取り出して中から血をこぼれ落とすとそれを壁のように広げ、広げられた血がガイの一撃を止める。
「この……!!」
(血を広げてるだけなのに……何だこの硬さは!?
血を操る能力は液状の血の硬度すら変えられるのか……!?)
「ホムンクルスとなることでオレの力はこれまで以上の力を発揮出来る。
この力は……もはや能力者の能力を超えている!!」
「……笑わせるな!!
錬金術の世界を目指す「コード・プレデター」に仕えるオマエが錬金術ではなく能力に頼っている!!
この矛盾はどういう事なんだ!!」
「オレはまだホムンクルスの体しか与えられていない。
だがいずれは錬金術をも与えられ、最強の戦士としてあの方のために尽力できるようになる!!
その時が来るまでは忌むべき能力者の力に頼るさ!!」
「ざけんな!!」
ガイは全身に魔力を纏って力を高めると自身の刀を止める血を弾き、構え直すとユリウスに再度攻撃を放とうとするが、ユリウスはそれを察知してか回避すると距離を取るように飛ぶ。
距離を取るとユリウスは新たに試験管を取り出してナイフを構え、構えるユリウスの姿にガイは怒りを覚えながら刀を強く握ると全身に纏う魔力を強くさせる。
そしてそれに続くように天晴とキッドも魔力を纏いながら構える。
「ガイ、手伝うよ」
「あの能力の前では個別で挑むより三人で攻めた方が効果的だ。
文句はないよな?」
「ああ……力を貸してくれ!!」




