一三刃
「「コード・プレデター」は願望器たる賢者の石に願いを叶えさせた。
その願いは……肉体が朽ちる恐怖を失う代わりにこの世界の恐怖と憎悪の象徴となるべく不死の錬金術士となることだ。
つまり……今の「コード・プレデター」は今のまま戦っても殺せない」
「……!!」
謎の男・トーカーの口から明かされる「コード・プレデター」の秘密。
それを聞いたガイ、天晴、キッドは考えてもいなかったことに驚き、そして恐ろしい真実に直面して戸惑いを隠せなかった。
「殺せないだと……!?」
「ふ、不死身の能力者ってことだよな……?」
「ありえない。
そんな絵空事……」
「絵空事ではない。
全てが現実に起きた事実だ。
現にオレの体……この両手の乾涸びを見てわかるようにヤツは人の生命力を吸収して錬金術の力を高めようとしている」
「マジか……」
「待ってくれトーカー。
賢者の石という願望器で「コード・プレデター」が不死の体を得たのは何のためだ?
恐怖を蔓延させるために優れた能力者をわざわざ消して回ろうとするんだ?
願望器がどんな願いも叶えるならそんな回りくどいことをしなくてもいいはずだよな?」
「賢者の石が願望器でどんな願いを叶えるとしてもアイツはそれが出来なかった。
その理由は……皮肉にも錬金術士となったアイツの心が許さなかった」
「心?」
「おそらくアイツ……「コード・プレデター」は錬金術士の力を知らしめたいからこそその力が能力者より優れた素晴らしきものだと証明しようとしていた。
そのために能力者を消す方法にはたしかに賢者の石による一瞬の奇跡もあったかもしれない。
だが世界を恐怖に染めようとするアイツはそれを許さなかった」
「……何故だ?」
「人とは不思議なものだ。
一人の人間に抱いた希望が潰えても新たな希望に移り変わる。
賢者の石の一瞬の奇跡を持ってしても覆せぬ連鎖のようなものだ」
「人の思い……か?」
「そうだ。
一瞬の奇跡で能力者が消えても恐怖を乗り越えようと人は力を合わせる。
ならばとアイツは不死の道を選んだ。
人が存在するかぎり世界を恐怖に染めようとする存在になるべく、アイツは錬金術士が造れない人の感情を優先させた」
「それが不死身になった「コード・プレデター」の目論みってことか」
「不死身になったって話が本当ならどうやって殺せばいい?
不死身の人間なんて存在しないも同然の奇跡のような存在なのにどう倒せって言うんだ?」
トーカーの話に対して疑問をぶつけるキッドだが、キッドの疑問に対してトーカーはガイを見ながら話した。
「不死身となったアイツを倒せる唯一の方法は雨月ガイが有する霊刀だ。
他とは一線を画した刀である霊刀、あれならば「コード・プレデター」の不死身を攻略できるはずだ」
「霊刀?」
「何だそれ?」
トーカーが口にした言葉「霊刀」について天晴とキッドは馴染みがないのか不思議そうな顔をしてしまい、二人の反応を察したガイは彼らに分かるように話した。
「呪いをかけられた事により負の力を得た妖刀、魔法や異能が秘められて出来た特異の剣の魔剣、神聖な加護ともとに使うことを許されし聖剣……今挙げた三種の特殊武器と同列の扱いとなる特殊な刀だ。
そしてその特徴は能力者が使うことを前提とした特殊能力を持っていることだ」
「それってあんま変わんなくないか?」
「天晴の言う通りだ。
今のオマエの説明では何も変わりないように聞こえるぞ」
「たしかに大差はない。
呪いをかけて生まれた妖刀は持ち手に力を与えると同時に呪いを与え、魔剣は能力の有無にかかわらずその力を使え、聖剣は神の御使いに位置するものしか使えないという定義の元で成り立っている。
その中でも霊刀は能力者が使うことを前提にして刀が作られている」
「つまり……えっと……」
「要するに霊刀は他のとは異なって能力者が使用すること前提で用意された代物ってことなんだな?」
「えっ、そうなの!?
そんなスゴいのガイが持ってるなら何で使わないんだよ」
「……」
「それは彼が霊刀に認められていないからだ」
天晴の言葉にガイが黙っていると代わりに話そうとトーカーが説明した。
「霊刀は他の武器とは異なって能力者が使うことを前提にされているがその反面霊刀に意思があるかのように使い手を見極める性質があるんだ。
相応の力量、能力、技術……それら全てを持って抜刀して初めて霊刀の真価が発揮される」
「霊刀の真価……」
「よく分からないがガイはそれを使いこなせてないんだな。
なら使いこなせれば……」
「簡単に言うなよ少年。
雨月ガイは天才剣士としての腕前を認められて先代の持ち主からその霊刀を与えられている。
そんな彼でも抜刀出来たとしてもその真価は発揮されることなく今に至っている」
「……」
「マジかよ……。
あのガイの剣術でダメだなんて……」
「オレはその剣術とやらを詳しく知らないが、アストが別行動を取るに際してオマエをリーダーに任命するくらいだし、さっきの一芸からしても実力があることは十分伝わってる。
だがそれでもダメなのか?」
「……抜刀して終わる。
何も起きず何もせずに終わるのが現状だ」
「けどさガイ。
その霊刀がダメでも他の霊刀を探せばいいだけじゃないのか?」
「天晴の言う通りだ。
世に一本しかない刀じゃないんだろ?
なら今からでもアストに手配させて……」
それは無理だ、と別の霊刀を探す案を出す天晴とキッドに対してトーカーは告げるとその理由について語っていく。
「傭兵や賞金稼ぎを数多くこなしているキミたちが今の今まで知識になかったものをそう簡単に見つけられるほど霊刀は甘くない。
いくら闇の貴公子と呼ばれ裏世界に名を轟かせるアストだとしても霊刀を見つけられる確率はごく僅かだ。
そしてその見つけた霊刀が適合するかすら運任せになる」
「じゃあ方法はないのか……?」
「方法って言ったら……ガイがその真価を発揮できてない霊刀に認められるしかないってことだよな?」
「そうだな。
今キミたちが取るべきはその道しかない。
オレも霊刀の所有者は数人知っているがキミたちの力になるような所持者に見当はないな」
「そんな……」
「ちなみにだがアンタの知るその霊刀の力は?
そいつらが使いこなしてるのならそれを聞いてガイも……」
「不可能な話だ。
霊刀「黒華」、「無刃」、「白鴉」、「虎鐡」、「心雨」……オレの知る霊刀の所持者たちは初めての抜刀の時点で真価を発揮している。
彼とは違い霊刀を渡されその手にした時にはすでに認められている。
つまり参考にするしないは別として、彼にはオレの知る所持者たちとは決定的な違いがあるせいで話にならないというわけだ」
「……」
「霊刀があれば倒せるってアンタが言ったんじゃないのか!?」
「あくまで方法の一つだ。
それに今のまま霊刀を使えぬ彼にはこの先の戦いが厳しいことも事実だ」
「結局その気にさせて士気を乱そうって魂胆なんだろ?
オレたちをその気にさせつつもガイを追い詰めようとしている。
「コード・プレデター」に関係してる時点で怪しさしか無かったがこれでハッキリした。
ガイ、これ以上コイツに関わる必要はない」
「……そうだな」
トーカーは信用ならない、そう判断したキッドはガイに言い、キッドの言葉に賛成するかのようにガイは言うとこの集会所を去るべく入口の方へ向けて歩こうとした。
……が、そんなガイに向けてトーカーはある事を伝えるように言った。
「キミが「コード・プレデター」の刺客のサイクロプスや鬼童丸を倒せたのは何故か、それをもう一度考え直したまえ。
もしかすればその答えが霊刀に繋がるかもしれないぞ」
「……」
トーカーの言葉に何か言うことも無くガイは静かに歩いていき、天晴とキッドも後を追うように歩いていく。
三人が集会所を去っていくその後ろ姿をトーカーはただじっと見届けており、三人が集会所から完全に姿を消すのを確認すると独り言を呟く。
「……もはや希望を残すのはこれまでのようだ。
この命……もう終わりを迎える時が来たようだな」
「……抵抗する意思はないと判断した。
速やかに処する」
いや、独り言ではなかった。
トーカーが呟くと彼のもとにいつの間にか一人の青年が現れ、そして鋭い刃を持つナイフを手に持って冷たい眼差しでトーカーを睨んでいた。
軍服のような白い衣装の青年、その青年の顔を見るなりトーカーは彼に言った。
「……悪趣味なことをしてくれる。
自分の手で殺さずにオマエのような存在をよこすとはな」
「あの方の意思は絶対だ。
我々を束ねるあの方こそが真理であり人が崇めるべき神だ」
「石の力に酔ったあの男が神?
笑わせるな。自分の思い通りになる世界を作ろうとするあの男は神ではない……ただの愚者だ」
「……よかろう。
そこまで言うなら……情けも無く今すぐ殺してやろう」
青年は手に持つナイフを振り上げ、そして勢いよくトーカーの頭を刺すべく振り下ろ……そうとしたその時だった。
「はぁっ!!」
「オラッ!!」
「ドラァ!!」
この場から立ち去ったはずのガイが入口から走ってくると刀を抜刀して斬撃を飛ばして青年のナイフを弾き飛ばし、その背後から目にも止まらぬ速さで駆けてきた天晴とキッドが青年のもとへと接近するとトーカーから遠ざけるように蹴り飛ばしてみせた。
攻撃を受けた青年は蹴り飛ばされた勢いにより壁に叩きつけられ、青年の攻撃から救われたトーカーは驚いた様子でガイたちを見る。
「どうしてここに?
キミたちは……」
「……よくよく考えたらアンタはアストのとこに連れて行って色々聞いた方がオレたちにとって都合が良さそうだからな」
「オレはキミのことをひどく言ったんだぞ?
それでも……」
「オレの実力不足が悪いだけだ。
アンタは悪くない」
それに、とガイは刀を構えると壁に叩きつけられた青年を見ながらトーカーに言った。
「アンタの前に現れたコイツを倒せば「コード・プレデター」に近道できるってわけだ」
「雨月ガイ……」
(なんて強い子なんだ。
自らの弱さを受け入れ、そして勝てるかもわからぬ相手に臆せず挑もうとするなんて……)
「が、ガイ……!!
アイツ……やべぇよ……」
トーカーがガイのことを感心していると天晴が何やら声を震わせてガイの名前を呼ぶ。
「天晴?
どうしたんだ?」
名を呼ばれたガイは不思議に思って彼に話しかけ、話しかけられた天晴はガイに驚きの一言を発した。
「今蹴り飛ばしたの……「コード・プレデター」の犠牲者リストの中にある男と顔が一緒なんだ……」
「何?」
ガイは慌てて犠牲者リストを漁り、天晴の言う目の前の青年と顔が一緒とされる人物を探し出そうとする。
数枚めくった後……ガイは自分の目を疑った。
「そんな……」
ガイが目にした犠牲者リストの中には今目の前にいる男と同じ顔をした人物が記載されており、そして記載されている男は「コード・プレデター」によって殺害されたと書かれている。
なのに……目の前には同じ顔の男がいるのだ。
「何が……どうなってる……!?」




