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一二刃



「アンタは一体……」



「トーカー……今は「コード・プレデター」と呼ばれるものにかつて仕えていたものだよ」


怪しい男・トーカーは手袋を外して乾涸びた両手をガイたちに見せながら自分の素性を明かすように言うと彼らに話し始めた。


「かつてオレは今は「コード・プレデター」と呼ばれているあの能力者に仕えていた。

あの頃のアイツは人とは違う思想を持った少し変わった能力者だと思っていたが、戦いの時やいざという時は責任感のある優秀なやつだった」


「それはいつの話だ?」


「ほんの一年前の話だ。

アイツとはここで出会い、ここの依頼を受けるアイツに話しかけたオレたちは意気投合してともに仕事をし、そこからオレたちはしばらく行動を共にしたよ……四ヶ月ほど前まではな」


「その四ヶ月前に何があった?」


「……出会ったのさ」


ガイの質問に答えるトーカー、そのトーカーの答えの意味がわからないガイは不思議そうな反応を見せ、その反応を見たトーカーはガイに詳しく話していく。


「……アイツは自分の追い求めるものに出会ってしまった。

追い求める理想、願望、渇望していた願いが叶う瞬間に出会ったことでアイツは変わった」


「何に出会ったんだ?」


「……願望器だ。

世界の負の遺産と呼ばれ、手にしたもののあらゆる望みを叶える力を持つ逸品だ」


「願望器?

聞いた事ないな……天晴とキッドはあるか?」


「オレはないな」


「オレもだな。

噂のようなものも聞いたことがないな」


「それは当然のことだ。

この願望器は一種の都市伝説として昔に広まった御伽噺のようなものであり、実際に見たものがいなければ触れたものもいないからこそ今では誰も知らない」


「なら何故「コード・プレデター」を名乗る前のヤツはその願望器について知ってた?」


トーカーの話を聞いたキッドは話の内容から感じ取った疑問をぶつける。


そう、トーカーの説明なら矛盾に近いものがある。

トーカーは願望器と呼ばれるものを見たものも触れたものもいない御伽噺となった都市伝説と言っていた。

それなのにトーカーは「コード・プレデター」がその名を名乗る前に願望器に遭遇したというのだ。


誰も見たことも無い空想のようなものに出会った「コード・プレデター」、それが違和感を覚えるものだった。


当然、キッドの感じた疑問をガイも感じており、考えるのが苦手な天晴もそこについては不思議に思っているのかキッドの言葉に反応するように頷いていた。


三人が同じことで疑問を抱いているとトーカーはガイたちにそれについて補足するためにある事について知っているかを訊ねた。


「キミたちは錬金術士というのを知ってるか?」


トーカーの口にした錬金術士。

化学的手段を用いて非金属から金属を精錬しようとする試みるもののことを指し、金属に限らず様々な物質や、人間の肉体や魂をも対象としてそれらをより完全な存在に錬成する化学者だ。

アルケミストと呼ばれることもある。


トーカーはそんな錬金術士について知っているかをガイたちに訊ねたのだ。


「錬金術士?

まぁ、マンガとかゲームで聞いたりするくらいだな」


「この間ネットで錬金術士のファンタジー作品読んだな」


「……娯楽には疎いから分からんな」


ガイ、天晴、キッドが順にトーカーの質問に答え、質問の答えを三人が返すとトーカーは話の続きをした。


「もともとアイツは賞金稼ぎとなる数年前までは各国を点々としていた能力者だったらしい。

元々家が金持ちだったからか世界を飛び回る金には困らず、現地でも不自由なく旅をしていたらしい。

そんな旅の中、フランスの国でアイツはある化学者に出会った」


「そいつが錬金術士なのか?」


「そうだ。

年老いた化学者の男だったらしいが、その男は錬金術士と自分のことを呼ぶとアイツに錬金術士の素質があるとしてその技術を施そうと錬金術について話したらしい。

アイツは錬金術士を名乗る化学者の話を聞く中でその未知なる力を前にして好奇心がわいたのか滞在時間を延ばして錬金術に明け暮れたらしい」


「じゃあ「コード・プレデター」は錬金術士なのか?」


「ああ、その化学者のもとで錬金術について学んだアイツは見事な錬金術士となって日本に帰国したらしい。

そしてアイツは賞金稼ぎとして錬金術の力を発揮しながら成果を上げ、錬金術の素晴らしさを広めようと考えていたが……その夢はオレと出会った頃には諦めていたらしい」


「……どうしてだ?」


「創作や空想なら錬金術など神の奇跡のようなものだ。

だがこの世界……能力者が存在して能力を扱うことが当たり前になっているこの破壊に充ちた世界においては錬金術などただの能力と判断されるだけだったんだ。

その話を聞いた俺も正直な話、錬金術を疑っていた。

だが四ヶ月前……アイツは願望器と出会ってしまった」


「その願望器ってのは何なんだ?

アンタの話をここまで聞いたが、いまいちピンと来ないんだ」


「……石だ」


トーカーに対して結論を聞き出そうとするガイの隣で何かに気づいた天晴はガイとキッドに自分の気づいたそれについて話していく。


「錬金術士が追い求める先にあるものはどんなものがたりでも作品でも一つなんだよ。

人の命すら生み出し、無から黄金を生み死者すら現世に戻す禁忌を対価無しに行える至高の物質……」


「まさか……賢者の石?」


「……さすがは「コード・プレデター」を追う若者だ。

今の話からそれを導き出すとは」


「ま、待ってくれトーカー。

天晴の言うように賢者の石だって言われても納得できない。

まして願望器自体が都市伝説として扱われてる物なのに……」


「……フランスだ」


「キッド?」


ガイがトーカーに異論を述べようとする中、先程のトーカーの質問にはしっかり答えなかったキッドが何か思い当たるものがあるらしくガイに話していく。


「……「コード・プレデター」が錬金術士になるきっかけの始まりはフランスだったな。

史実上、フランスには賢者の石を生み出したと言われている男はたしかフランスの人間だったはずだ」


「歴史の話か?」


「歴史に少し興味があってな。

たしかパラケル……」


「残念だが少年、パラケルススはスイス出身の医師の錬金術士だ。

フランスの錬金術士は……ニコラ・フラメルだ」


「ニコラ・フラメル……?」


「ニコラス・フラメルと呼ばれることもある錬金術士だ。

十四世紀から十五世紀の実在した人物だ。

そこの少年が言うようにニコラ・フラメルは賢者の石を完成させている」


「じゃあ「コード・プレデター」は……」


「アイツが出会った錬金術士はニコラ・フラメルの血筋の人間だったのかもしれないがそこは確認のしようがない。

だがハッキリと言えることはアイツがフランスで会った錬金術士が賢者の石のことを話したことでアイツは賢者の石が願望器だと考えてさがしたんだ」


「……なぁ、おかしくないか?

フランスの錬金術士が完成させてるのに何で「コード・プレデター」は日本でそれを探してたんだ?」


話が進み「コード・プレデター」の過去が明かされていく中、天晴はある事を疑問に思ってしまい、それを思わず言葉にしてしまう。



いや、ガイとキッドも言葉にしていないだけで同じように感じていたはずだ。


フランスの錬金術士・ニコラ・フラメルが完成させた賢者の石、それこそが夜に広まることも無く都市伝説となった願望器だと考察したであろう「コード・プレデター」は何故フランスではなく日本を探すように賞金稼ぎをしていたのか?


なぜ「コード・プレデター」は賢者の石がフランスではなく日本にあると考えたのか?

なぜそれが日本で「コード・プレデター」が巡り会えたのか?


その疑問の答えを……トーカーは知っていた。


「アイツは願望器……賢者の石と出会ったアイツは人が変わったかのように冷酷な能力者になっていた。

何があってそうなったのか、気になって調べた結果……アイツと賢者の石は奇妙な運命に繋がれていることを知った」


「奇妙な運命……?」


「アイツの血筋は……アイツの祖先はニコラ・フラメル

の家系の人間だったんだ」


「「「!?」」」


「そしてニコラ・フラメルの家系の人間……つまりは何世代か前のニコラ・フラメルの子孫は偶然にも賢者の石を手にして日本に渡ってきたんだ。

どういう理由で賢者の石が消息を絶ったのかは分からないが、ニコラ・フラメルの血筋が途絶えぬようにするかの如く日本で子孫は残されていき……アイツはその子孫の一人となっている」


「マジかよ……」


トーカーの話を信じられない様子で驚くガイたち。

そんな彼らにトーカーは自分の酷く乾涸びた両手について話していく。


「それについてオレが知ったことをアイツはどこかで聞きつけ、アイツはオレが賢者の石を狙っていると考えたのかオレの体から生命力を奪ったのさ」


「生命力を……」


「生命力を奪われたオレの余命は医者の見立てだとあと数ヶ月程度、アイツはオレの体から生命力を奪うと共にオレを絶望させようとしたのさ」


「何で生かされてるんだ?

賢者の石が狙われてると勘違いしたなら何で殺さなかったんだ?」


「おそらく……それがアイツの望みだからだ」


「?」


「アイツの……「コード・プレデター」の望みは錬金術を受け入れなかった人類を拒絶すること、そして能力者の能力よりも錬金術士の錬金術が優れていることを証明したいらしいんだ」


「そんな事のために異名を持つ人間が次々に殺されてんのか?」


「そうだ。

そんな事のために殺されている。

そして何よりも恐ろしいのは……「コード・プレデター」は人を殺すことに躊躇いもなければ命など道端に転がる石程度にしか思っていないということだ」


「……何で異名を持つ能力者がねらわれる?」


「オレにも真偽は分からないが……アイツが言うにはこの世界は能力者に依存してる、だからこそ優れた能力者が消える度に世界は恐怖に染まるってな」


「恐怖……」


次々に明かされていく「コード・プレデター」は情報、その情報はあまりにも大きく、そしてそれを聞いているガイたちは「コード・プレデター」の企みを聞くと許せないでいた。


「そんな身勝手な理由で世界を混乱させようってのがゆるせねぇ……!!

認められるためになら何してもいいって理由にはならねぇからな!!」


「だが少年……いや、雨月ガイ。

今のキミではだめだ」


「アンタ、何でオレのことを……?」


「キミのことも調べれば分かる事だ。

雨月ガイ、若くして天才剣士となった剣術家。

そして……存在すら怪しいとされる霊刀と呼ばれる刀を受け継いだ少年よ」


「!!」


「敢えて言わせてもらおう……。

雨月ガイ、「コード・プレデター」を殺すには……霊刀を使うしかないぞ」


「どういう意味だ?」


「……「コード・プレデター」は願望器たる賢者の石に願いを叶えさせた。

その願いは……肉体が朽ちる恐怖を失う代わりにこの世界の恐怖と憎悪の象徴となるべく不死の錬金術士となることだ。

つまり……今の「コード・プレデター」は今のまま戦っても殺せない」

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