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一一刃


役者は揃った。


アストは「コード・プレデター」を倒すために次なる指示を下した。


下された指示は二つ。

まず一つは薬品倉庫の捜査、もう一つは情報屋や賞金稼ぎの集まる集会所での聞き込み。


この二つの目的となる場所、共通しているのは「コード・プレデター」の被害に遭った人間が立ち寄ったとされているということだ。


アストの判断によって二手を同時に調べることになった。


薬品倉庫の捜査はアストの指揮の下でミスティーと天晴が向かい、集会所についてはガイが音弥とキッドで聞き込みを行う。


聞き込みに関してはガイが「コード・プレデター」の被害者リストをアストから手渡されている。

そして聞き込みに対して襲ってくるものは返り討ちにしていいとも言われている。



全ては目的のために……











アストの指示を受けたガイは音弥とキッドを引き連れて「コード・プレデター」の被害者が立ち寄ったとされる集会所の建物の前まで来ていた。


集会所となっている建物はこの街の市民ホールのそばにあり、敷地内には黒いスーツの男が辺りを警戒するように歩いていた。


「さて……手早く情報が集まればいいんだけどな」


「何か考えがあるのか?」


「いや、アストのくれたリストを見せるくらいしか方法はないかもな。

実際のところ集会所の人の出入りは頻繁に行われてる可能性もあるしこのリストの中に記載されてる人物全員を知ってる可能性があるヤツが中にいる保証もない」


「……なら一人ずつ殴って聞き出すか?」


音弥に対して今回の件が難しいことを伝えるガイの隣でキッドは指の関節をポキポキ鳴らしながら強硬手段を取ることを提案するが、ガイは首を横に振るとキッドに言った。


「ここでオレたちが警戒すべき点がある。

「コード・プレデター」に内通しているヤツが紛れてるって可能性だ」


「ヤツの協力者がいるってなら手っ取り早く見つけた方が賢明だな」


「いや、冷静に考えてみろ。

ほぼ無抵抗なまま殺害されてる能力者たちの事を知ってる可能性がある内通者だ。

そんな相手が簡単に見つかるはずもない」


「なら……」


「でもキッドの言う方法は最悪の場合の手段として使う可能性はある。

だから……まずは内通者の可能性がある人間から話を聞き出す」


「内通者の可能性がある人間?

それって……」


「この集会所の管理者か?」


ガイの言う内通者の可能性がある人間にピンと来ない音弥と異なりキッドは目星が付いてるのかそれについて口にし、ガイはキッドの言葉に頷くと音弥にも分かるように説明する。


「集会所の管理者は必ずと言っていいくらいにここにいる。

集会所が開いている間は管理責任を問われる立場にあることから必ずその場にいる。

ならば出入りの激しい情報屋や賞金稼ぎと違ってアストの用意したリストを見せた時の反応は大きいものだ」


「ってことはその管理者に確認すれば早く終わるのか?」


「それは向こうの出方次第だな」


「向こうは数多の顧客を相手に言葉を巧みに操るヤツだ。

情報のやり取りに関してはこちらより秀でてる」


「えっ……なら難しいのか?」


そうでもないさ、とガイは音弥の言葉に対して返すように言うとキッドを見ながらある可能性について話した。


「キッドのおかげでいい方法を見つけたよ。

向こうが知るはずのない情報をこちらが使えばいいってことだ」


「オレのおかげ?

オレは別にヤツが知らない情報とかそんな話は……」


「向こうが情報のやり取りに秀でてるならって話だ。

オレが管理者と話をするからキッドと音弥は管理者と話すオレを怪しい目で見るヤツがいないか見張ってくれ」


「任せとけ」


「……指示は受けるが、最悪の場合は暴れさせろよ?」


「ああ、その時は頼むぜ」


一通りの流れと段取りが決まったところで三人は気を引き締め、そしてガイが先頭を切るようにして集会所の中に入っていく。


中に入ると薄暗い照明に照らされた室内がガイたちを迎え、ほの室内には無数のテーブルと椅子が置かれて何十人という人間が座っていた。


壁には何やら多額の金額の記載された顔写真付きの紙が何枚も貼られており、ここが賞金稼ぎと情報屋の集まる場だということを強調する。


「……音弥、キッド」


「大丈夫、任せといてくれ」


「こっちはまかせろ」


ガイたちが奥に進むにつれてこの場にいる人間全員が彼らに視線を向け、この視線を受ける中でガイは音弥とキッドにここに入る前に指示した通りに行動するように伝えようとして二人は多くを語られずともそれを理解して周囲を警戒する。


二人が周囲を気にしてくれる中でガイは奥に進み、進んだ先の受付のような配置でテーブルを置いたスーツの男の前に立つなり話しかけた。


「すまない、アンタはここの管理者か?」


「……悪いが子どもと取引はしない。

帰れ」


「子どもだろうと実力ある能力者なら取引に応じても損はしないと思うけどな。

いいのか?アンタはここで損するかもしれないぞ?」


「……オレはオマエより長生きしてる。

十何年しか生きてない若僧のオマエよりは詳しい」


「詳しい、か。

なら聞くけど……霊刀の所有者について詳しいのか?」


「……何?」


ガイのことを相手にせぬように返そうとするスーツの男だったが、ガイが口にした単語を耳にするなり態度が変わる。


「デタラメならタダじゃすまないが、それでも続けるか?」


「デタラメなんて言わねぇよ。

真実だけを伝える、それは保証する」


「……なら教えろ。

その霊刀の所有者について」


「ならこっちの質問に対して先に答えてもらう。

それが条件だ」


「ガキのくせに調子に乗るなよ?

オレはな……」


「十何年しか生きてないガキに対してムキになりすぎだろオマエ。

長生きしてるから物知りなら後回しにされても我慢しろよ」


「オマエ……!!」


「どうする?

オレの質問に答えて所有者について聞くか、チャンスを逃して後悔するか……オマエが選べ」


「……オマエの知るその情報が事実だという保証は?」


「保証?

ガキ相手に保険を求めるなよ。

それに霊刀のことはアンタがよく知ってるはずだ。

存在すら幻のように扱われているせいで普通は蔵書にしか記されておらず詳しいことは限られた人間しか分からないし霊刀という言葉を口にするものすら少ないってな」


「だから信用しろと?

オマエの素性も分からないのに……」


「見返りを求めるなら教えない。

オレはごく簡単な質問に答えてくれれば教えると言ってるんだからな」


「……わかった。

オマエの要求を飲むから質問しろ」


「そうこなくっちゃな」


ガイの言葉を前にして妥協したのかスーツの男はガイの提案を飲むようにガイに質問するように用件を言うように促し、男が応じることになるとガイはアストから渡された「コード・プレデター」の被害者リストを渡した。


「このリストの中にいる能力者、アンタは覚えがあるか?」


「あ、ああ……。

全員「コード・プレデター」に殺されたって……」


「そう、そのリストに載ってるのは「コード・プレデター」に殺害された能力者だ。

そしてそのリストの中には殺害される直前にここに訪れている」


「た、たしかに殺害されたと聞いた日の前日にここに来たものもいるが……まさかオレを疑ってるのか!?」


「アンタのことはどうでもいい。

「コード・プレデター」について知ってることをおしえろ」


さもなくば、とガイは音も立てぬ神速の抜刀を披露すると刀を構えて男の首を突きつけて告げた。


「ヤツではなくオマエから斬る。

オレの目的は「コード・プレデター」を殺すことだ。

オマエがその役に立たないのなら用はない」


「ま、待ってくれ!!

オレはオマエの復讐には……」


「復讐なんかじゃねぇよ。

これはオレ個人の興味と探究心から来るものだ」


「や、やめろ!!」


ガイに刀を突きつけられた男は叫び、その声を聞いた周囲の席についていた人々が武器を構えようとする。


人々が武器を構えようとすると音弥とキッドは臨戦態勢に入ろうとする……が、ガイは男から刀を引くと刀に魔力を纏わせながら刀身を天に向けて薄暗いこの空間を少し照らす照明の明かりを一瞬反射させる。


照明の明かりが一瞬反射すると同時に武器を構えようとする人々のうちの三分の二が突然倒れ、残りの三分の一は頭を押えながら膝をついてしまう。


「ぐっ……」


「何だ?

何で急に……」


「もしかして……剣殺か?」


「剣殺?」


何が起きたか分からないキッドと違い何か思い当たるものがあるらしい音弥はキッドにもわかるように説明した。


「剣殺ってのはごく一部の達人クラスの剣士のみが体得できるとされる極意だ。

刀に魔力と殺気を乗せ、斬撃を飛ばすことなく殺気だけを飛ばして相手の意識を落とし倒すという技だけど……まさかガイがオレの刀でそれをやるなんて思わなかったな」


「……」

(雨月ガイ、アストから聞いてた話以上の実力者のよつだな。

ごく一部の達人クラスの剣士のみが体得……つまりまだ若いあの身でかぎられた数しかない技術者になったということ)


「……アストの言う通り、アイツといれば強いヤツと巡り会えそうだな」


「?」


「……何でもない。

それより、アイツは……」


周囲の人々が静まった中ガイの動きを気にするキッドは彼の方に視線を向ける。


視線を向けた先のガイは刀を鞘に収めるとともにスーツの男に選択を迫る。


「助けを求めようと考えてるなら諦めろ。

オマエに残された道は二つ……「コード・プレデター」について知ってることを全て吐くか吐かずに死ぬか」


「ま、待ってくれ!!」


「時間は与えた。

オマエが答えないならオレが……」


「やめときな、お兄さんよ」


ガイがスーツの男を殺気を帯びた目で睨みながら言葉を発しているとどこからともなく彼を止めるような声がする。


声のした方をガイが視線を向けるとその先にはハット帽を深く被り、顔を覆い隠すように布を巻いた怪しい男が席につき、両手に手袋をして新聞を読んでいた。


ガイがその男の方に視線を向けるとガイに迫られていたスーツの男は怯えながら逃げていく。


「……」

(オレの剣殺を受けて平然としている。

相当な手練か剣殺の対処法を知ってるか……)


「アンタは何者だ?」


「オレか?

オレは……トーカーと呼んでもらおうか」


「トーカー……?

キッド、聞いたことあるか?」


「聞いたことないが……。

音弥の話が本当ならオマエの剣殺を受けて倒れていないってことは相当な実力者ってことは間違いないな」


「……トーカーとか言ったな。

「コード・プレデター」について知ってることがあるなら教えて欲しい」


「ふむ……なるほど。

「コード・プレデター」について、か」


「知ってるのか?」


「……知らないことは無いな。

いや、知ってるってことになるか?」


「何について知ってる?」


「それはな……」


怪しい男……トーカーはガイに問われるなり立ち上がると両手の手袋を外した。


手袋が外されて姿を見せたトーカーの両手は酷く乾涸びていた。


「!?」


「が、ガイ!!

あれって……」


「アンタは一体……」


「トーカー……今は「コード・プレデター」と呼ばれるものにかつて仕えていたものだよ」

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