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一〇刃


どこかの廃墟……


薄気味悪いその場に不気味な存在・「コード・プレデター」が椅子に腰掛けていた。


男か女かも分からぬ、誰かいることしかハッキリしていないような不気味で奇妙な気配だけを発する存在。


その「コード・プレデター」はどこか悲しげに言葉を呟く。


「鬼童丸、やはり死の運命からは逃れられないか。

弟子の不始末のために老いぼれの身で私怨のもとで復讐を果たそうとしたようだがただ死期を早めたようだな

お得意の剣技は私怨によって歪められて約立たずで終わり、若い小僧に潰されるとは惨めな末路よ」


誰もいない、「コード・プレデター」だけが存在するはずのこの場で彼とも彼女とも言えないこの存在は一人で語っている。


「若い小僧に技術を否定され、その思いを壊されるのはどんな気分だったか……聞いてみたかったものだな。

この身には決して経験できぬことだからな。

命を狩り、狩り取られるこの世界の理に背くこの私には無いものだ」


「私怨に身を任せて衝動のもとで復讐する感覚とは如何程のものか聞いておけばよかった。

私には私怨を抱くこともなければ復讐を考えることも無い。

無駄に血を流すこともなければ命を奪われることも無い。

永遠……秩序の中にあるそれに守られる私の魂を穢せる人間はいない」


「だが可能性は残っている、それが厄介だ。

渇きを満たしたいと言う私の魂を前にして愚者がこれから何をしてくれるか楽しみな一方で私の永遠の秩序で守られるこの魂を穢せる人間が存在する可能性が残っているという事実は見過ごせない」


「これが運命だというのならそれは違う。

私の存在を脅かすものはいないという事実は変わらない。

だが欠片でも……ほんの少しの欠片でも恐怖に打ち勝つ可能性を内包する存在がいることが問題なのだ」


「私の求める世界において名を持つものは私を楽しませる宿命を背負う。

この世界はまだその宿命を背負うに達していない。

そして元を辿れば世界そのものが不快なものだ。

その不快な世界において私は人間の恐怖となっている。

私という存在そのものが世界においての救済となる」


「だが救済となる私を受け入れぬ人間は多く存在する。

救済を受け入れず汚れた世界に従おうとする。

見ていて滑稽、愚か、狡猾……何故それを理解しないのか私には分からないよ」


まるでそこに自分以外の誰かがいるかのように、そしてこの不気味な存在自体が複数いるかのように言葉が発せられていく。


そこには「コード・プレデター」ただ一人しかいないはずなのに次々に言葉が発せられ、発せられる言葉の数々があたかもそこに他の人間がいるかのような錯覚を起こさせる。


「特に腑に落ちぬは闇の貴公子と呼ばれる「酷獣」アストや傭兵の月影天晴、そしてあのミスティーとともに行動するあの小僧だ」


「鬼童丸を倒した実力者というのは確かなことだ。

だが解せないのはあの小僧が何故私の存在を狙うようなことをしているのかだ。

あの小僧がわざわざ私に近づくような理由はないはずだ。

それなのにヤツは……どういうわけか私を狙っている」


「謎めいてるのはあの小僧が私に近づこうとする事だけじゃない。

小僧が鬼童丸を倒したあの能力、あの小僧のデータにあんな能力はなかったはずだ」


「八歳にして大人三百人を無傷で全員倒し、若くして天才剣士の名を与えられた能力者というデータはたしかに私の手元にある。

だが能力が判明していないのは小僧が能力を使っていないからだと思っていたが違うらしい。

小僧の能力は使っていないから分からないんじゃない。

使っていたとしても分からないからこそデータが無いのだ」


「老いぼれの身であるとはいえあの鬼童丸を倒したことに変わりはない。

その実力を考慮しても得体の知れぬ能力は私を危険に晒すかもしれない」


「あくまで危険に晒すかもしれないという可能性による話だが油断はできない。

私の楽しみを邪魔する者は安寧のためにも見過ごせない」


「だが私自らが手を下すために表に出るにはリスクが高い。

用意周到なあの闇の貴公子が同伴しているとなればヤツは私に対する策を用意していてもおかしくない」


「その策に嵌るようなことは避けなければならない。

ただ頭のいい人間が相手程度の策なら何の恐怖もなく打破できるがあの男は違う。

一度捉えた獲物を逃がすなどという甘いことはしない。

あの男の前に姿を見せたが最後、あの男は如何なる手段を用いてでも私を捕らえようとする」


「まだ私が捕まるわけにはいかない。

まだ名を持つものを狩り続けなければならない。

ここはやはり……ヤツが新たな刺客を送り仕留めることを祈るのが賢明だ。

前奏曲はまだ鳴り響いているのだからな……」


誰かと会話するかのような言葉を次々に発する「コード・プレデター」。

その「コード・プレデター」は最後の言葉を発すると音も立てずに消えてしまう…………








***


鬼童丸を倒したガイはアスト、天晴、ミスティー、そして新たに仲間となった岩鉄音弥とともに戦場となり鬼童丸が倒れている道場を後にして移動していた。


移動した先は……


「ここなら問題ない。

ひとまずここで話をまとめるぞ」


アストの案内でガイたちが移動した先は人里から離れた山林の先にある古民家だった。


道場から小一時間ほど歩いてたどり着いたこの古民家の中に入るとガイたちは居間に上がって座り、全員が座るとガイはアストに質問をした。


「これで五人だ。

アストが音弥と会う前に言ってた六人目とはどうやって落ち合うつもりなんだ?」


「というかその六人目に会うときは敵は現れないわよね?

さすがに一日に何度も戦闘なんて疲れが取れないわ」


音弥と会う前にアストが言っていた六人目の仲間について問うガイと鬼童丸の件から敵の出現を警戒するミスティー。


ミスティーの心配に対してアストは何も言おうとせずにガイの質問でもある六人目について話を進めようとする。


「ここに来る途中でその六人目には連絡を取っておいた。

合流次第作戦に参加したいようだからここに来るように指示してある」


「ここの場所を教えたのか?」


「教えなければここには来れないだろ。

だから教えた」


「待ちなさいよ。

その六人目になる人間が敵に尾行されたらどうするつもりなの?

また敵が現れてここが襲われたら……」


「安心しろミスティー。

オマエが心配するようなことにはならない。

この六人目は腕利きの賞金稼ぎ、今は賞金稼ぎの活動をやめて退いたあの「ハンター」の再来とも噂される天才だ」


「ハンター?

あの「死神」の名でも恐れられてるっていうあの?」


そうだ、とアストはミスティーの問いに答え、ガイはその横でアストの言う「ハンター」と呼ばれていた男のことを頭に思い浮かべていた。


「ハンター」。

突如として賞金稼ぎの世界に現れた若き新人能力者。

大鎌を武器にし、影を操る能力で闇夜に潜みながら標的となる賞金首を狩り続け、若くして多くの実績を上げたその実力と異常なまでの成果に対して付けられた名が「ハンター」だ。


その「ハンター」として名を馳せた少年は半年前、ある仕事を受けるも失敗し、その失敗のせいなのか賞金稼ぎの世界から姿を消している。


(その「ハンター」って呼ばれてたイクトは今じゃヒロムを守るために仕える一人ってわけだけどな)


「私はその「ハンター」に会ったことないんだけど、ガイや天晴は会ったことあるの?」


「オレは一回一緒に戦ってるけど、ガイは今も一緒にいるもんな?」


「……そうだな。

色々あって今はオレの仲間だよ」


「隠居してるんじゃないの?

「ハンター」は仕事に失敗してそれを隠すために……」


「アイツは仕事を失敗していない。

その噂はアイツを利用して悪事を働こうとしていたある情報屋がバラ撒いた嘘だ。

アイツはしっかりと役目を果たした上で身を引いたんだ」


「どうしてなの?

失敗してないのなら何で……」


「アイツはやるべき事を他に見つけた。

だから身を引いたのさ」

(そう、オレやソラと同じようにヒロムを守るためにな)


「……よく分からないけど、アナタが嘘をつくように思えないし一応は信じるわ」


ガイの話の真偽を気にするミスティーはどこか信じてないようにも取れる言葉をガイに伝えるとため息をつき、ガイは彼女の言葉に微笑みを返すとアストの話に戻そうとした。


その時……


「……遅くなった」


古民家入口の扉が開き、外から黒髪の少年が中へと入ってくる。


両拳に包帯を巻き、全身擦り傷のような古傷だらけ、ボロボロのコートを羽織った少年は入るなりどこか冷たい雰囲気を纏ってアストに歩み寄り、居間に上がるなり彼に話しかけた。


「遅くなったが来たぞ」


「……予定より早いくらいだ。

問題ないからとりあえずは自己紹介しとけ」


「……コイツらにか?」


そうだ、とアストが少年に向けて言うと彼は面倒くさそうにため息をつき、そしてガイたちに向けて名乗った。


「……キッド。

よろしく」


「お、おう……。

オレは雨月ガイだ」


「オレは月影天晴、よろしくな!!」


「ミスティーよ」


「岩鉄音弥。

刀鍛冶だ」


一通りの自己紹介が終わり、それによって互いの名を知った状態になるとアストは次なる行動について話を始めた。


「キッドが来て六人揃った。

ここから「コード・プレデター」を追い詰めるぞ」


「追い詰める……」


「でもどうやって?

「コード・プレデター」の行方も手掛かりもないのにどうやって探すのよ?」


「手掛かりならある」


アストはこの周辺のマップの描かれた大きな地図を皆が見えるように居間の床に広げると説明をしていく。


「これまで「コード・プレデター」の被害に遭った犠牲者である異名を持つ能力者の情報を集めた結果、犠牲者の衣服や靴底から採取されたものから犠牲者が死亡する前に立ち寄ったとされる場所が判明した。

一つは街外れの倉庫街にある薬品倉庫、もう一つは賞金稼ぎが集まる集会所だ」


「薬品倉庫と集会所か」


「犠牲者となった能力者はかならずどちらかに立ち寄ってる。

賞金稼ぎの集会所ならともかく薬品倉庫に関しては謎が多い」


「どうするの?

一つずつ調べるの?」


ミスティーが確認するように質問するとアストは言葉ではなく首を横に振って答えると全員に指示を出した。


「二手に分かれる。

薬品倉庫に関してはそこに何の薬品があるのかを把握するためにオレとミスティー、天晴向かう。

集会所に関してはガイ、オマエの指揮の元でキッドと音弥で向かってくれ」


「分かった。

けど何をすればいい?」


「簡単な話だ。

「コード・プレデター」の被害者リストを渡す。

そのリストを集会所にいるヤツらに見せて「コード・プレデター」の情報を集めるだけでいい。

襲ってくるヤツは……倒せ」


「分かりやすくて助かるよ」


「行動開始は三十分後、各自準備を済ませろ!!」



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