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誰か、何故こうなったのか教えてください。

作者: 破月

初めましての方も、こんにちは。

紅染月改め、破月と申します。


最近、やっと余裕が出てきたので、リハビリも兼ねて即興の小話を書かせて頂きました。


時間潰しに使って頂けましたら幸いです。

宜しくお願い致します。


パチリ。と、瞬き一つ。

そのたった“一瞬”で、自分が『自分』であると言う現実と、目の前の状況に軽く目眩を起こしそうになった。


――何故、(わたし)()()()と婚約しているの…?と。


“兄”と言っても、義理とか、異母兄とか、従兄とかではなく。

()()が、枕詞につくけれど。


何故、そんな事が判る?と、第三者から思われるだろう。

自分も、当事者じゃなければ、そう思っていたでしょう。

たった一瞬。

それでも、その一瞬に流れた情報量は数倍…いや、軽く数十倍以上で。


始まりは、瞬きをしていた際にしていた―淹れて間もない綺麗な琥珀色を宿した紅茶を、一口含んだ―時の事。


――こんなに薫りが良い物、前の領地では飲めなかったわね。


と、何の前触れもなく、さも当然とばかりに脳裏に浮かんだ感想。

けれど、ソレだけで十分だった。


何故なら、その“前”とは、今の(わたし)ではなく…昔の(わたくし)―生まれる前―の事で。

補足するならば、今の自分が領地なんて大層な物、勿論持っているはずもない。


――前の生では、自分が知る限りではあるが、“輪廻転生”の教えは無かった………はず。

なのに、その説が存在し、万人がとは言えずとも推奨している人達が居るというのを、知識として持っている。

コレは、世間一般の知識として今の私が得た事。

だからこそ、『前』と『今』の自分が存在する事を理解した。


けれど、コレだけで“兄と婚約?”と、疑問に思われるだろう。

――ソレは、私の方が訊きたい。いや、訊かせて欲しいくらいです。




「今日のは、どうかな?」

「…とても、薫りが良く…控えめな甘さが後から感じます。大抵の物であれば、合わせられるかと」

「そうか。だとしたら、此処にある物なら、どれが最適だろう?」

「……私の主観で宜しければ―――」


主旨が無くとも通じ続く会話に、コレが初めてではないと…既に互いがソレで通じ合う関係であると傍目からでも判るだろう。

現に、この会話は最低でも両手分行われている。慣れもする。

――自分の立場には、全っ然っ!慣れていませんが。


別に、紅茶の品評会をしている訳ではない。

会話の一環として行っているだけなのだが、相手にとっては多少のビジネスも含まれているだろう。


円やかな木製のターンテーブルに、既製品ではなく手作りと判るリネン製のレースを基調としたテーブルクロスを敷き、その上には白磁に淡い蒼で描かれた鳥と同じく淡い色合いで描かれた洋製の茶器たちと、三段構成の銀製のティートレイ。

甘さ控えめの軽食と、一口サイズに作られたお菓子たち。

紅茶も、茶葉の種類は一種ではなく、飽きの来ないように何種類か用意されている。

一目で浮かぶのは、イギリスのお茶会だろう。


――これ等に掛かっている費用は、正直考えたくない…。

時折、否応でも考えてしまいそうになり、現実逃避をするように紅茶の味わいや薫りに意識を向ける。

嗚呼…今日も、紅茶(この子)達は美味しい(良い子だ)


そして、そのテーブルを挟んで向かいに座る相手は、片やイギリス、片や自分と同じ国籍―日本―の血を持った一人の男性。

父方がイギリス人、母方が日本人と言う彼はとても目立つ見目をしていた。


ハーフというにはイギリスの血が濃いのか、全体的に淡い色合いを持つ髪や肌を持ち。唯一、日本人かもしれないと思える箇所は瞳の色だけ。

ソレでも、アンバーではどちらにもとれるかもしれないけれど…。

その瞳の色が、紅茶の色に似ていて気に入っていたと頭の片隅に記憶している。

……今は、正直複雑だけれども。


苦笑いしそうになるのを唇を引き締める事で留め、彼から視線を外すように手にしている琥珀に意識を向ける。


何故、兄がココに居るのだろう…?

頭の中は、ソレだけが概ねを占めている。

見目は前世の彼とは全然似ていない。

前世は、お互いイギリスや日本ではない国籍だったのだから当然だろう。




どうして、自分が彼を兄だと思ったのか。

それは、見目ではなく、記憶にある目の前の彼が見せた、仕草や話し方――そして、笑う時の癖を思い出したから。

ソレ等が、前世の私の兄と酷似していると、何故か警鐘を鳴らすように頭が訴えたのだ。

どれか一つ位ならば気のせいだと思えた。

でも、見目以外全てに強い既視―デジャヴ―感があった。

兄様?と疑っても可笑しくないと言いたい。いや、言わせて欲しい。


…かと言って、そんな事を訊くにも訊けず。

思い違いだったり、最悪…本当に最悪、前世が兄だったとしても、自分のように記憶があるか判らない。

無かった場合、自分だけが夢子ちゃんや痛い子ちゃんになってしまう。

ソレは、御免被りたい。


コチラから、この関係性を壊す事は出来ない。そうなれば、修復は不可能に等しい。

――何故なら、彼は上流階級の人で、自分は良くても中流階級―やや下寄り―の人間でしかないから。

…勿論、家格の話である。


そして、彼の一家…一族?が担う企業の一つが、父が経営している会社の取引先―しかも、四捨五入すれは全体の半分はお世話になっている程の―だったりしますから、推して知るべし。

下手すると、粗相と思われるかもしれない事をするなど到底無理。


昔の自分―それなりの階級を持った貴族だったとだけは言っておきましょう―とはかけ離れた素の自分など到底見せられた物ではなく、この一見優雅なお茶会が無難に無事に何事もなく終わるまで、表情に笑みを貼り付けて諾々と応じ続ける。




――たまたま、紅茶に関する仕事を家が行っており、そして自分は何よりも紅茶が好きで、その跡を継ぐか手助けが出来るようになれば…と、紅茶検定を始め、紅茶アドバイザー・紅茶マイスター・紅茶コーディネーターと取得して、ならばティーインストラクターも目指そう!と、本当に紅茶に特化した人生を送って約二十年――何故か、前世の兄と思わばしき相手と婚約する事となりました。


………誰か、何故こうなったのた教えてください…。





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