第八話 僕も来てるんだけど
だが、美緒らしき人物は見当たらない。
「どこだよ美緒、どこなんだよっ?」
僕に続けて、聡史と彩音がテーブル席から立ち上がる。
店内奥の窓際席で、血相を変えて周囲を見渡す三人。
そんな怪しげな挙動を取る三人のスマホに、再び着信が。
【みお】『だから、わたし。さっきからずっとひとりで待ってるんだけど』
「「「「……へ?」」」
【みお】『もちろん佐山くんの指定したファミレスでね。開店と同時に来たから、もう三十分以上も前からだよ』
聡史、彩音、僕。三人が顔を見合わせる。
【ミチル】『???』
次はミチルからの着信。クエスチョン・スタンプの連打だ。
そして聡史も彩音も、頭上に疑問符を浮かべている。
もちろん僕もである。
【みお】『実は、本音を言うとね』
『みお』のメッセは続く。
【みお】『わたしついさっきまで。「もしかして、みんなに担がれた?」って怪しんでた。みんな全然来ないしね。わたしを騙そうとしていたんじゃないかって。それで、じっと書き込みせずに黙って待ってたんだけど』
「けど?」と、おもわず口に出る僕。
【みお】『ミチルの「ねえ、サトシ。ていうか結局、みおって・・・来た?」ってLINEグループの書き込みと、佐山くんたちの「来てない」って返信を読んで。居ても立ってもいられなくなって・・・それでメッセを送ったの』
相変わらず、話が全然噛み合わない。彼女とは平行線にも程がある。
これは、どういうことなのだろうか。疑問は積もる。
【みお】『ねえ、佐山くん。わたし待ち合わせ場所を間違えたのかな。K駅前のJennyだよね?』
【サトシ】『ああ、「そこ」で間違いない。いや、「ここ」で間違いない筈なんだ』
【みお】『やっぱり、合ってるんだ。なのに・・・おかしいな、誰も居ないなんて』
ミチルが青ざめた顔のスタンプを送信してくる。
横の彩音も、小刻みに震えながら困惑顔で僕を見る。
【みお】『とにかく佐山くん。あなたは今現在、あやちゃんとファミレス「Jenny」K駅前店に居ることに間違いはないんだよね?』
【サトシ】『ああ、そうだよ』
【あやね】『あ、はい・・・ええ、そうですよ』
【みお】『そっか、そうなんだ。みんな、ちゃんと集まってるんだ。京都のミチルや、三年前に死んじゃったジュンはともかく・・・』
三年前に死んじゃったって……それはこっちの台詞である。
ていうか勝手に人を殺さないでくれないだろうか。
先日に引き続き不可解なことを言う『みお』。
僕はおもわずLINEグループに速攻リアクションをした。
【ジュン】『僕も来てるんだけど』
しばし沈黙するグループ画面。
もしかしたら、彼女は絶句していたのだろうか。
しばらくしてから返事があった。
【みお】『ねえ佐山くん、あやちゃん。それって本当なの? 本当にジュンがそこに?』
スタンプで速攻返すふたり。
【サトシ】『YES』
【あやね】『YES』
【みお】『まさか・・・ジュンが・・・生きてるなんて・・・』
LINEの彼方の『みお』は、どうやら困惑している模様だ。
【みお】『・・・・そんなまさか・・・わたし絶対、タチの悪い成りすましだと思っていたのに』
「……ったく。それは、こっちの台詞だっていうの!」
僕にしては珍しく、感情を声に出して露にした。
そんな僕を見て、隣の彩音が目を丸くする。
常識では考え難いが、これってもしかしたら。
死んだ美緒が、幽霊となってこのファミレスに現れているのだろうか。
だから僕らには、彼女の姿が見えないのだろう。
おそらく当の美緒本人は、自分が幽霊であることに気が付いていない。
そういう設定の映画やアニメなら、幾つか観た覚えがある。
たしか『ナントカ・センス』とか『冥土の土産屋カントカ堂』とか。
密かに、そういうオチなのだろうか。
そして同じ空間に居る筈の美緒からも、僕らの姿が見えないということは。
まさか、それって……そこって……。
美緒が今、居る世界というのは。現実世界と重なり合った冥界、つまり『あの世』とか?
ゾクリと震える僕。世にも奇妙で不可思議な展開に困惑する。
何が真実で、何が嘘なのか。僕にはさっぱり見当が付かない。
だけど、ひとつだけ。
そんな僕にも『みお』からの一連のメッセを通じて理解できたことがある。
それは、聡史のことだ。