第七話 来てるよ、わたし
【ミチル】『やっほ♪』
送信者は天野ミチルだった。
【ミチル】『♪ミチミチみっちゃん道草ついでに、ただいま参上やねんよ♪』
彼女は当時の美術部の部長。現在は京都在住で、有名私立美術大学の情報デザインコースに在籍中の二回生だ。
「あ、ミチルせんぱいからのメッセだ!」
【ミチル】『サトシ、ジュンくーん、あやちゃーん、そんで、そーんで、みーおーーーーーーーーーーっ! みんなっ。今日は行けへんで、ほんまに堪忍ね。そやけどアタシも夏休みには絶対、ぜーったいそっち戻るからねっ!』
文体が関西弁になっている。京都の生活がすっかり板に付いている模様だ。
しかし、なんなんだこの違和感は。
ていうか彼女、こんなキャラだったっけ?
当時は典型的な委員長タイプだったミチル。
女子にしては大柄で、分厚いレンズの黒縁眼鏡に飾りっ気のないショートボブ。
どちらかというと、見た目も性格も堅物なイメージがあったけど。
まあ彼女だけは地元を離れて、誰も知り合いの居ない新天地へ進学したわけだし。
典型的な大学デビューってやつだろう。世間では、よくある話だ。
まったく、やれやれだ。
どいつもこいつも、楽しそうなキャンパス・ライフって奴を満喫しちゃってさ。
みんなまとめてリア充爆発しろ! って死語だっけ?
嬉しそうに頬を緩ませながら、すばやく返信のフリックをする彩音。
【あやね】『ミチルせんぱーーーい! 待ってますよーーー!』
僕以外のふたりは、ミチルの豹変したキャラに違和感を覚えているようには見えない。きっとこれまでも、各々で彼女とLINEのやりとりをしていたのだろう。
それに、もしかしたら。死んだ美緒と途中で退部した僕を除いた、三人のグループLINEがとっくの昔から存在しているのかもしれない。なんだか寂しい気もするが、そう考える方が自然だ。
【あやね】『夏休みは絶対、ぜーーーったい、美術部のみんなで会いましょうねっ!!!』
【ミチル】『おうよ!』
女子同士のおどけたLINEトークがひと段落すると、ミチルが現在のこちらの状況を僕らに問い質した。
【ミチル】『ねえ、サトシ。ていうか結局、みおって・・・来た?』
【サトシ】『いや、来てない』
【あやね】『やっぱり、来れるわけないです・・・よね?』
顔をゆがめ合う聡史と彩音。
そう、やはりこの場に来れる筈がない。
だって、本物の美緒は三年前に死んだんだ。もうこの世には居ない。
だからLINEの向こう側の『みお』が、偽物なのは明白なのだから。
僕も美術部LINEグループに、そう書き込もうかと親指でフリックしようとした矢先。
再び、三台のスマホから同時に着信音が。
LINEグループの画面が更新される。
僕、聡史、彩音。三人は、同時にリアルタイムで確認した。
「「「えっ?」」」
【みお】のアイコンだ。
一瞬、空気が凍る。三人は互いに顔を見合わせた。
今度こそ紛れも無く、『みお』からのLINEメッセージだ。
みんなごめんね、今日はやっぱり行けない。
そんな最初から用意されていた言い訳が、白々しくも書かれているのだろうか。
僕らは速やかにメッセの内容を確認した。そこには。
「「「なっ!」」」
正午に差し迫り、客足が増えだした駅前のファミレスの店内で。
周囲の人目もはばからず、同時に叫ぶ三人。
【みお】『来てるよ、わたし』
僕はガタリと音を立て、素早くテーブル席から立ち上がった。
長すぎる前髪を振り乱し、一心不乱に辺りを見渡す。
「美緒っ、どこに!?」