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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第七章 彼方の君へ
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第五十六話 また会おうね

 どれぐらい、そうしていたのだろうか。


 アタシは意識を取り戻した。

 ぼんやりとした視界で周囲を見渡す。

 

 しんと静まり返る、真夜中の寂れた街区公園。

 おそらく日付も変わり、七夕の夜も終わりを告げたのだろう。


 あの不思議な蒼い瞳の白猫も、もう闇の彼方へと姿を消していた。


「…………ジュンくん」


 アタシの胸の中で、彼が嗚咽を漏らしている。

 全身を振るわせる彼。一体、何があったのだろうか。

 アタシの胸元は、彼の涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。

 

 気が付けば、アタシの頬も濡れていた。

 切なく儚い、泡のような心の雫。

 彼の黒い髪の上に、ぽたぽたと滴り落ちている

 アタシ泣いた覚えなんて、まったくない筈なのに……。


 旦那の親友が嗚咽交じりに、アタシの親友の名前を口にする。

 アタシの濡れた胸の中で、何度も何度も繰り返す。


 アタシは彼を、ぎゅっと強く抱きしめた。

 この世に身体を持たない、彼女の代役として。

 

 ねえ、みお。見えてる? 聞こえてる?

 

 ジュンくんの声、ちゃんとあなたに届いてる?

 彼のぬくもり、ちゃんとあなたに伝わってる?


 あなたは、もうこの世界にはいないけど。

 こうやって今でも、あなたの為に涙を流してくれる人がいる。

 それはとても、誇らしいことだと思うよ。

 とても、素敵なことだと思う。

 

 午前零時過ぎ。

 七夕の夜を終えた深夜の街区公園で、抱き合う彼とあなたの心。

 ふと見上げれば、満天の星。銀河の果てから降り注ぐ二十四色の光彩が、この世界に生きるアタシたちを淡く優しく照らしている。


 無限に広がる宇宙の中で、とてもちっぽけな存在のアタシたち。

 そんな中でめぐり合えた奇跡と友情を。織姫と彦星の不思議な恋の夢物語を。

 素直に喜び受け止めようと、アタシは果て無き夜空に誓った。


 ねえ、みお。


 たとえ、あなたは天国にいるのだとしても。

 たとえ、アタシの身体の中で深い眠りに付いているのだとしても。

 たとえ、並行世界とは同じ未来を歩めないのだとしても。

 

 彼の中で、あなたの心は生き続けてる。

 アタシたち美術部同窓メンバーの中で、あなたの存在は永遠に輝き続ける。

 こうやって夜空を見上げれば、いつでも気持ちを分かち合える。だから――。

 遠い空の彼方で、きっとあなたは生き続けてる。


 いつかまた七夕の夜に、アタシたちのLINEグループに織姫みおが帰って来るのを信じて。


 じゃあね、みお。また会おうね。

 

(エピローグへ)


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