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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第七章 彼方の君へ
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第五十四話 白い天使

 アタシはジュンくんの顔を自分の胸に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。


「…………」


 ジュンくんがアタシの胸の中で固まっている。


「ミチル……おまえ……」

「サトシごめん。なんか急にこうしたくなった」


「ミチル……」

「サトシ、わかって……アタシ、なんか急にどないしても……ジュンくんを抱きしめてあげたくなったねんよ」


 新婚初日の人妻でありながら突然、愛する旦那さまの目の前でその親友を抱きしめる。そんな空前絶後なアタシの衝動。その理由、実は自分で分からなくもない。


「アタシはサトシと違ってあほやから、上手く言葉で説明できへんけど。みおに気持ちを伝えるには、アタシやないとあかんねん。だって……」


 アタシ、ミチルは『みお』を演じてた。

 そしてきっと、みおもミチルを演じていた。


「そやから、きっとみおは――」


 いつか、天国から天の川を越えてアタシの身体に戻ってくるかもしれない。

 まだ、みおはアタシの身体の中で眠っているだけなのかもしれない。

 アタシの身体は本当の並行世界のみおと繋がってるのかもしれない。 


「そやから……みおは……」

「そっか」


 サトシが自分のお尻を両掌ではたきながら、砂場の縁石から立ち上がる。彼はジュンくんを抱きしめたままのアタシの肩をぽんと叩くと、

 

「先にホテルに戻ってるから。後は頼んだぜ、天の川のキューピッド」

 

 そう言い残し、踵を返した。


「サトシ……」



 サトシはそのままアタシとジュンくんを残して、深夜の街区公園を後にした。


 ◇

 

 しばらくそのままの状態が続いた。

 

 アタシの胸の中で、ずっと固まりっぱなしのジュンくん。

 彼の静かな息遣いだけが、アタシの胸元をくすぐる。


 どうリアクションしていいのか分からず、戸惑っている模様だ。

 そしてアタシも。衝動に駆られ抱きしめたはいいが、そこからどう言葉を掛けてあげればいいのか見当が付かない。

 

 ジュンくんの頭を優しくナデナデしながら甘い声で「アタシをみおだと思って、アタシの胸で泣いていいんだよ」とかかな?


 ぶんぶんと首をふるアタシ。違う、アタシはそんなキャラじゃない。みおのおねえさんみたいな聖母系ならともかく。ジュンくんにキモがられるのがオチだ。


「…………」

「…………」


 互いに無言の状態が続く。自分の後先考えぬ行動に激しく後悔するアタシ。

 気まずい。やばい。と、その時。


『ニャアオ』


 深夜の公園の中、抱きしめたままのジュンくんの背後から突然、猫の鳴き声が。声のする方に目を配ると、アタシの視界に一匹の白い猫の姿が映った。


 サファイアのような蒼い瞳をした不思議な猫。艶やかなプラチナブロンドの毛並みが、めちゃきれいだ。


 アタシの頭の中で声がする。

 

『タスケテクレタオレイダヨ』

 

 ――誰? ていうか、なんのこと? アタシ猫なんて助けた覚えないねんけど……。


 頭上に疑問符を浮かべるアタシの頬に、天からぽたりと冷たい雫が落ちてきた。


「――雨?」

 

 一滴の雨がアタシの頬を塗らす。刹那、

 

 ――……え?

 

 アタシの意識は、すうと遠退いた。

 

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