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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第七章 彼方の君へ
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第五十三話 今から不倫する!

 ちいさな紅い玉が揺らめく。その周囲を糸のようにか細い光が儚げに輝いている。


 東屋の前の砂場の縁石に並んで座っている三人。傍にはジュンくんが近所である自宅から持参したバケツも、水を汲んで置いてある。


 ジュンくんが足物の火花を見つめながら遠い目でつぶやく。

 

「毎年さ。七夕の夜はここに来て、ひとりで線香花火をしてるんだ。お焼香代わりにね」


 仲間の命日に、思い出の公園で線香花火。この追悼の儀式を提案したのはジュンくんだ。アタシとサトシは彼に誘われ、ここに来た。

 

「今日は美緒の七回忌だから。それに、今日から君たちの記念日にもなるわけだし。だから今夜だけは、みんなも誘おうと思ってね」


 ジュンくんが言う。

 

「公園での花火、本当はいけないことだけどね。でも、この日だけは許して欲しい……」

 

 紅い玉がぽとりと落ちる。まるで、命の灯が儚く尽きるように。


「でも……それも今年で終わりにしようと思う」

「淳……」

 

「こうやって、ずっと引きずっていても……あやちゃんにも悪いし……」

「ジュンくん……」

 

 アタシは切なげなジュンくんの横顔に向かって言った。

 

「ねえジュンくん。これサトシから聞いたんやけど。以前、アタシの京都のマンションに来た時、ジュンくん『もう美緒の事は吹っ切って、僕も新しい恋を見付けるよ。平行世界の彼方で美緒は生きている。そう強く信じて』って言ったんやってね」

「うん……」


 新しい恋は見つけた。だけど未だ吹っ切れない。そういうことみたいだ。

 

 アタシは続けた。


「それから『今日は、それを伝えるためにここへ来たんだ。LINEの『みお』ではなく天野ミチル、君本人にね』とも言ってたんよね?」

「そうだね……」


「アタシ、それ違うと思うねんよ」

「そう……かな……」


「そやよ。やっぱり、その台詞はみおに言うべきやないかな。天野ミチルでもLINEの『みお』でもなく、織原美緒本人にね」

「…………」


「ちゃんと想いを口に出して、本人に伝えきれてへんから。そうやって、いつまでも吹っ切れへんのやないかな?」


 サトシが口を挟む。


「ミチル、おまえの言うことはわからないでもないけど。でも、どうやって?」

「……それは……そやねんけど……」


 思ったことを口に出したはいいが、特に名案があるわけではない。


「ここで淳に大声出させて、夜空に向かって叫べばいいのか?」

「うーん。それってビミョーに昭和っていうか。そもそも、ご近所迷惑なハナシやし……」


 自分で提案しておいて、どうにもいい方法が思いつかない。

 

「じゃあ……僕はどうすればいいのかな……どうやって天国の美緒に、気持ちを伝えれば……」

 

 やばい、ジュンくんが鬱になる。余計なこと言わへんかったらよかった……ん?


 その時アタシの心は突然、奇妙な衝動に突き動かされた。

 

「――ごめん、サトシ。それから、今ここには居ないあやちゃんも」

「なんだよミチル」と怪訝そうにサトシが言う。


「アタシ、これからちょっとだけ。アタシの人生で唯一、今から不倫する!」

「「えっ!」」


 男子ふたりが、目を丸くする。


「ミチル、気でも狂ったか? 新婚早々、なに分けわかんないこと言ってんだよ」

「ごめん、けっこうまじなやつ」


 アタシは砂場の縁石からすっくと立ち上がった。


「なっ……」


 言葉にならないジュンくん。アタシの突然の意味不明な爆弾宣言に、理解が追いつかない模様だ。突然、心の奥から突き動かされた世にも奇妙なアタシの衝動。この行動こそが答えだ。


 しゃがんだままのジュンくんの前に立ち塞がり、中腰になるアタシ。彼の頭をしっかりと両手で掴む。そしてそのまま――。

 

 アタシはジュンくんの顔を自分の胸に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。

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