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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第六章 『みお』の告白
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第五十話『みお』の告白(8)

 気が付けば、白い世界に包まれていた。

 

 ――ここ……は?


 ふわふわと宙を漂うわたし。

 自分を見渡すと白い羽衣のような衣装を身にまとっている。手足も半透明に透けている。


 ――そっか、とうとう……この時が来たんだ……。


 ぼんやりと霞む視界の中、突然わたしの前に白い猫が現れた。


『ニャアオ』


 宝石サファイアのような蒼い瞳をした不思議な一匹の猫。艶やかなプラチナブロンドの毛並みが、とても気高く美しい。


 ――そう、あなた天使さんなのね……お迎えに来てくれたの?

 

 白猫が、わたしの心に語り掛ける。

 

『ソウダヨ、サアオイデ。ボクガ、ツレテッテアゲルヨ――』


 ――うん。


 わたしは、こくりとうなずいた。


 ◇


 宙に横たわっているわたしは、胸の上で両掌を組み、そっと瞳を瞑った。


 ――ごめんね、みんな。今まで、みんなを騙して嘘ばかり付いて。


 ――ごめんね、ミチル、今まで身体を奪ってしまってて。これからは、あなたの身体はあなたのもの。だから佐山くんに、素直な気持ちを伝えるんだよ。


 ――ごめんね、佐山くん。頭脳明晰で秀才のあなたは、真実をすべてお見通しの名探偵。だからどうか、ミチルの本心にも気付いてあげてね。


 ――ごめんね、あやちゃん。全力で応援するって約束したのに……頑固で繊細な彼のこと、どうかこれからも傍にいて支えてあげてね。


 ――そして……ごめんね、ジュン。今まで……ずっと……素直になれなくて……あなたに……ずっと……本当のことが言えなくて……。


 白いパレットの世界で、二十四色にじゅうよいろの想いがわたしを彩る。

 わたしの頬に、真っ白な心の雫がつらりと伝った。


 ――さよなら、お父さん、お母さん、お姉ちゃん。


 ――さよなら、ミチル、佐山くん、あやちゃん。


 ――さよなら、みんな。そして……。


 心の奥に秘めていた、わたしの気持ち。ずっと言い出せなかった本当の想い。並行世界の『みお』でなく、天野ミチルの代役としてでなく、ひとりの織原美緒として。


 柔らかな風に包まれる。次第に意識が薄れていく。


 果てなく広がる白い世界。天使の白い猫に連れられ空の彼方へと漂うわたしは、これから向かう天国の神さまに向かって、そっと告白した。

 

 ――……さよなら、わたしの初恋の……。


 ――……さよなら、大好きだったよ……。


 ――……大好きだよ……ジュン……。


 ――……好きだよ……ジュン……。


 ――……だよ……ジュン……。


 ――……ジュン……。


 ――……ジュ……。


 ――…………。


 ――――


 ◇


【波にもまれながら人魚姫は、だんだんと自分のからだがとけて、あわになっていくのがわかりました。


「わたしは、どこに行くのかしら?」


 すると、すきとおった声が答えます。


「あなたは空の精になって、世界中の恋人たちを見守るのですよ」


 人魚姫は、自分の目から涙がひとしずく落ちるのを感じながら、風と共に雲の上へとのぼっていきました】アンデルセン童話『人魚姫』


(次章へ)

【引用サイト】http://hukumusume.com/douwa/betu/world/09/06.htm

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