第五十話『みお』の告白(8)
気が付けば、白い世界に包まれていた。
――ここ……は?
ふわふわと宙を漂うわたし。
自分を見渡すと白い羽衣のような衣装を身にまとっている。手足も半透明に透けている。
――そっか、とうとう……この時が来たんだ……。
ぼんやりと霞む視界の中、突然わたしの前に白い猫が現れた。
『ニャアオ』
宝石のような蒼い瞳をした不思議な一匹の猫。艶やかなプラチナブロンドの毛並みが、とても気高く美しい。
――そう、あなた天使さんなのね……お迎えに来てくれたの?
白猫が、わたしの心に語り掛ける。
『ソウダヨ、サアオイデ。ボクガ、ツレテッテアゲルヨ――』
――うん。
わたしは、こくりとうなずいた。
◇
宙に横たわっているわたしは、胸の上で両掌を組み、そっと瞳を瞑った。
――ごめんね、みんな。今まで、みんなを騙して嘘ばかり付いて。
――ごめんね、ミチル、今まで身体を奪ってしまってて。これからは、あなたの身体はあなたのもの。だから佐山くんに、素直な気持ちを伝えるんだよ。
――ごめんね、佐山くん。頭脳明晰で秀才のあなたは、真実をすべてお見通しの名探偵。だからどうか、ミチルの本心にも気付いてあげてね。
――ごめんね、あやちゃん。全力で応援するって約束したのに……頑固で繊細な彼のこと、どうかこれからも傍にいて支えてあげてね。
――そして……ごめんね、ジュン。今まで……ずっと……素直になれなくて……あなたに……ずっと……本当のことが言えなくて……。
白いパレットの世界で、二十四色の想いがわたしを彩る。
わたしの頬に、真っ白な心の雫がつらりと伝った。
――さよなら、お父さん、お母さん、お姉ちゃん。
――さよなら、ミチル、佐山くん、あやちゃん。
――さよなら、みんな。そして……。
心の奥に秘めていた、わたしの気持ち。ずっと言い出せなかった本当の想い。並行世界の『みお』でなく、天野ミチルの代役としてでなく、ひとりの織原美緒として。
柔らかな風に包まれる。次第に意識が薄れていく。
果てなく広がる白い世界。天使の白い猫に連れられ空の彼方へと漂うわたしは、これから向かう天国の神さまに向かって、そっと告白した。
――……さよなら、わたしの初恋の……。
――……さよなら、大好きだったよ……。
――……大好きだよ……ジュン……。
――……好きだよ……ジュン……。
――……だよ……ジュン……。
――……ジュン……。
――……ジュ……。
――…………。
――――
◇
【波にもまれながら人魚姫は、だんだんと自分のからだがとけて、あわになっていくのがわかりました。
「わたしは、どこに行くのかしら?」
すると、すきとおった声が答えます。
「あなたは空の精になって、世界中の恋人たちを見守るのですよ」
人魚姫は、自分の目から涙がひとしずく落ちるのを感じながら、風と共に雲の上へとのぼっていきました】アンデルセン童話『人魚姫』
(次章へ)
【引用サイト】http://hukumusume.com/douwa/betu/world/09/06.htm





