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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第一章 平行線の彼女
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第五話 再会

【サトシ】『みんな久しぶり。とりあえず週末、集まらないか?』

 

 死んだ筈の美緒と名乗る人物との、不可思議なLINEグループ・トーク。

 その奇妙なやりとりを繰り広げた翌日、今度は佐山聡史からグループに書き込みがあった。


 僕、星野淳と川瀬彩音はスタンプで○。

 天野ミチルは×と記入した。彼女は県外の京都在住だから仕方がない。

 そして、もうひとり。疑惑のメンバー織原美緒からの返事は――。

 

【みお】『○』


 ◇


「なあ、淳」


 対面席の旧友が、コーヒーカップ片手に僕へ視線を投げ掛ける。


 土曜日の午前中。

 ここはK市駅前のファミレス『Jennyジェニー』。彼が指定した集合場所だ。

 美緒の生前、最寄の利用駅が同じである彼女とよく来た昔なじみの店でもある。

 懐かしい店内。もう何年も来ていなかったけど、あの頃とさして変わりはない。


 混雑を避ける為、開店時間と同時の早い集合とした。

 そのせいか、先ほど『ごめんなさい、少し遅れます』と彩音からLINEグループに連絡があった。

 

「本当に現れるだろうか、例の織原さんの名を語る謎の人物は」


 高校時代前半の親友だった聡史。

 面と向かって見るのは高校卒業以来、約一年半ぶりである。


「さあ……どうだろう」


 首を傾げながら曖昧に答える僕。


「俺たちの前に姿を現せば、一発で正体が判明する筈。なのに彼女はここに来ると主張する。偽者にしては、やけに出方が強気だ。妙に気に掛かると思わないか?」

「う……ん」


 言われて見れば、確かにそうだ。


「まさに完全犯罪を誇示するかのような自信の表れ。逆説的に言えば、そこに真実を紐解く鍵が点在しているようにも思えるんだ」


 まるで探偵のような言い回し。そういえば彼はミステリー小説が好きで、暇さえあれば勉強や部活の合間に文庫本を読みふけっていた。

 彼のすこしキザな口調が、妙に懐かしくもあったりする。


 僕と聡史が、ドリンクバーのコーヒーを啜りながら各々のスマホに視線を落とす。

 ちらと対面の彼を見る。清涼感のある白いシャツ。髪は清潔に整えられ、元々精悍な顔立ちは更に大人びた雰囲気を醸し出している。相変わらずのイケメンぶりだ。


 親指でスクロールするふたり。互いの画面には、例の美術部LINEグループ・ログが表示されている。


【みお】『どうして三年前に死んだ筈のジュンが?』


 日付は七月七日。本日出席の可否『○』のスタンプを覗くと、現状それが美緒と名乗る不審者からの最後の文面だった。


「ちょっと状況を整理しようか」


 聡史が自称『織原美緒』の置かれた現状を考察する。


「先日の、君らのLINEのやりとりから推察すると。ようするに、織原さんの名を語る人物は三年前、七夕の夜に幼馴染である君、星野淳を不慮の事故で亡くした」

「うん……」


「織原さんは幼馴染を失ったショックのあまり、自暴自棄になった。そして美術部を退部し、自分の殻に閉じ篭るようになった」

「みたい……だよね」


「結果、俺・ミチル・川瀬さん。他の美術部の仲間たちとの交流を、彼女は自ら断絶した」


 聡史は基本的に女子の名は苗字呼びだが、天野ミチルにだけは昔から名前で呼ぶ。なぜならミチルと聡史は中学校が同じで、その頃からの気心知れた長い付き合いなのだ。


 僕らの卒業した高校は部活動の加入が義務化されていて、元々美大進学志望だったミチルに付き合うような形で彼は入部したらしい。


 他にもバスケットボール部を掛け持ちしていた。長身であった為、顧問にスカウトされたそうだ。

 どちらも半ば幽霊部員だった割には、バスケもデッサンも、密かにかなりの腕前だった。

 またどちらの部活でも、そしてクラスでも。いつも輪の中心となる発言力や存在感を放っていた。


 言うまでも無く成績は学年トップクラス。

 優秀な人間はなにをやっても器用にこなすものなのだなと、当時から感心し、また嫉妬もしていた。


 昔から絵を描く以外に何の特技もない自分とはえらい違いだ。

 その唯一の特技も、美緒を失ったショックで自暴自棄になり、途中で投げ出してしまった。


 我が家のプアな経済状況はさておいて。

 願わくば部長のミチルのように美術系の大学に進学し、将来はイラストレーターとかになりたかった。

 そんな子供の頃から思い描いていた淡い夢は、あえなく海の藻屑と消え去ってしまったのだ。


 そうやって自分の弱さや挫折を故人のせいにして。本当に情けない奴だと我ながら思ったりもする。


「なあ、ちゃんと聞いてるか淳?」

「え、ああ。うん、悪い」


 人の話を聞いていても、こうやってすぐに心の中で自分語りをしてしまう。

 僕の悪い癖だ。いつも職場で怒られている。


「そういうとこ、昔から変わんないよな」


 頬を緩ませる聡史。

 懐かしんでいるのだろうか。何故だか、すこし嬉しそうだ。

 聡史の話は続く。

 

「こうして織原さんは俺たち美術部員と疎遠になったまま、ひとり孤独な三年の月日を過ごした」

「みたい……だよね」


「ああ。しかも『みんな志望校に進学して、それぞれの大学生活~だろうな、きっと』ってことは、裏を返せば自分だけは進学しなかった。そんな後ろめたさと事実を示唆しさしている」

「まさか、それって……」


 こくりと頷く聡史。

 それって、そのまんま今の僕そのものじゃないか!

 

「そんな……奇妙なことが……まさか……」


 僕は不可解な状況を拭い去らんばかりに、ぶんぶんと首を振った。

 まさかそれって。常識的には考え難いけど。

 美緒の、死んだ彼女の――幽霊とか?


「まさか……常識的に……ありえない」


 エアコンの効きすぎた店内で、僕はゾクリと震えた。


 ありえない。やはり真相はきっと、美緒の遺品のスマホの保有者である遺族による成りすましだろう。


 美緒のお姉さんも、お母さんも、お父さんも。そんなことしそうな人たちには、僕には見えなかったけど。愛する家族を失ったという深い悲しみが、遺族を奇行に走らせてしまったのだろうか。


 それとも見知らぬタチの悪いハッカーの悪戯だろうか。

 コンピュータの高度な技術者によって、LINEの乗っ取りが行われること自体はよくある話だ。


 だとしたら今度は。美術部LINEグループの過去ログではまったく触れられていない、僕の空白の三年間を把握し、尚且つ模倣トレースしている点に説明がつかない。


 まさか……。


 現状で考えられる美緒アカウント乗っ取り犯の人物像は。僕らの状況を良く知る身近な者で、尚且つLINEパスワードを解読し、突破できる程のハッキング技術を持つ理系の人間。


 僕の身近な知り合いでそんな人物は、正直ひとりしか思い当たる節がない。

 そう、それって――。

 

「なあ淳。俺、思うんだけど」


 聡史が口元に掌を添えながら、僕に顔を近づける。

 周囲に聞かれぬよう、彼は眉をひそめて囁いた。


「そう、常識的に考えたら絶対にありえない話かとは思うんだけど。これって、もしかして――」

「もしか……して?」


 旧友である聡史との再会を果たしてから、二十分ぐらいが経過した頃。

 そうこう話し合っている僕らの席に、ひとりの人影が近づいて来た。

 

 清楚な花柄のスカートから、白い足が垣間見える。

 どうやら僕らと同世代の若い女性のようだ。

 ということ、は――。


 僕は恐々と顔を上げた。


「み……お?」


 聡史と僕に向かって、彼女が手を振る。


「ごめんなさい、遅れちゃって」

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