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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第六章 『みお』の告白
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第四十九話『みお』の告白(7)

 すべての嘘がばれた。


 四月一日のエイプリルフール。不思議なLINEグループの真相を明らかにする為にジュンと佐山くんは京都に来た。彼らにこれまでの嘘を暴かれたわたしは、『みお』のトリックに使っていたMacのデスクチェアに座り、蒼い顔で呆然としていた。


「なあ、黙ってないでなんとか言ってみろよ。死んだ織原さんの名をかたって、後輩の為に恋の世話焼きキュービッド気取って、あんなピエロの役を演じて……じゃあ、おまえの気持ちはどうなるんだよ!」


 佐山くんが、鬼の形相でわたしを責め立てる。

 

「なにが『あやちゃんとお幸せにね』だよ。ふざけんな」


 声を荒げる佐山くん。

 

「おまえ馬鹿じゃないのか? おまえ……それで……それで、本当にいいのかよ」


 感極まる佐山くん。端正な顔をゆがめる。涙を瞳に浮かべ、じっとわたしの心の奥にいるミチルを見つめる。


 いつも憎らしいほど冷静で、キザでフェミニストで優等生な筈の佐山くんが……こんなにも感情をむき出しにする、彼を見るのは初めてだ。それだけミチルのことを大切に思っているのだと、わたしは切に感じた。

 

「じゃあ、おまえは……おまえの恋はどうなるんだよ」


 ――わたしの……恋……。


「おまえの描いた乙女チックな夢物語。そんな結末で本当にいいのかよ。だって、おまえ――」


 ――やめて、佐山くん……。


「サトシ、お願い言わないで……」

「だって、おまえジュ――」


「やめてっ!」


 わたしは叫んで立ち上がった。


 ――佐山くん、お願い……。


「サトシ、お願い……それだけは……」


 ポロポロと頬に涙を流しながら、必死に懇願するわたし。


「それだけは言わないで……お願いだから……」


 ――それだけはジュンの前で、ミチルの前で言わないで。お願いだから……。


「ミチル……」


 ――ミチルが好きなのはジュンじゃない……佐山くん、あなたなのよ。


「お願いだから……」


 ――お願いだから分かってあげて。ぜんぶ佐山くんの誤解なの。だからジュンのことを見ていたのは、ミチルじゃなくって…………。


 それまで黙っていたジュンが、見かねたような顔をしてゆっくりと立ち上がる。

 愚かで嘘つきの罪深きわたしに、彼は優しいまなざしで言ってくれた。


「天野さん。ごめんね、こんな騙し討ちするような形で君を追い詰めるような真似をして。でもね」


 ひと呼吸置いてジュンは続けた。


「僕も聡史と同じ意見だよ。美緒が、本当は誰をどう思っていたかなんて。そんなこと言っていいのは、亡くなった美緒本人だけだ」


 ――ジュン……わたし、本当は……美緒なんだよ……だからね、わたし……。


「たとえ、それが本心だとしても、誰かを思いやる為の嘘だとしても」


 ――わたし……本当は……あなたのことが……。


「だから僕らは天国で眠る美緒の名誉の為にも、真実を暴かないといけなかったんだ」


 ――あなたのことが…………。


 だけど、口に出しては絶対にいけない。決して言葉にはできない想い。

 絵本に書かれた人魚姫の、声を無くした姿を思い出す。以前、佐山くんに抱きしめられた時と同じように――。


【 にんぎょひめは「たすけたのは、わたしなんです!」とさけびたかったのですが、こえをだすことができません】


「君はとても精いっぱい織姫の役を、LINEの『みお』を演じてくれた。君は本当に仲間想いで優しい人だと僕は思う。君が僕ら美術部の部長で良かった。心からそう思うよ」


 ――ジュン…………。


 彼は天野ミチルへ、そして織原美緒へ向かってまっすぐに言った。


「もう美緒の事は吹っ切って、僕も新しい恋を見付けるよ」


 わたしの肩が震える。心が張り裂けそうになる。


「平行世界の彼方で美緒は生きている。そう強く信じて」


 ぽろぽろと涙を流しながら、わたしは口元に手を当てた。


 ――ジュン…………ジュン…………。


 何度も繰り返し、彼の名前をつぶやくわたし。

 けっして美緒だと名乗れない。そんな自分の運命が、切なくて苦しくて。

 ミチルを演じていることすら忘れて、その場に崩れそうになる。

 それを必死に堪えながら、わたしは語尾に『くん』とつけた。


「ジュン…………ジュン…………くん」


 ◇


 ふたりは、マンションを後にした。


 帰り際にちらとジュンが振り返る。

 玄関先で立ちすくむわたしを、無言でまっすぐに見つめている。

 この時の切なそうな彼の瞳が、ずっと目に焼き付いて離れなかった。


 ◇


 数週間後。


 K造形芸術大学瓜生山キャンパス興心館にて。情報デザイン概論の講義中、大学三回生に進級したばかりのわたしは――。


「きゃー! あ、天野さん!?」

「どっ、どないしたん!?」

「だっ、大丈夫!?」


 わたしは突然、床に倒れた。

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