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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第六章 『みお』の告白
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第四十三話『みお』の告白(1)

【「きっと、なにかわけがあるんだね」


 おうじさまは、にんぎょひめをおしろにつれていき、いもうとのようにかわいがりました。


 あるひ、おうじさまがうれしそうにいったのです。「ぼくは、となりのくにのおひめさまとけっこんするんだ。ぼくがうみでおぼれたとき、たすけてくれたおんなのこなんだよ」


 にんぎょひめは、「たすけたのは、わたしなんです!」とさけびたかったのですが、こえをだすことができません。


 にんぎょひめは、 ただかなしそうにわらっただけでした】アンデルセン童話『人魚姫』


 わたしは子供の頃、人魚姫の童話が大好きだった。


 王子様とは結ばれず、海の泡となり消えて行く。そんな儚く切ない恋物語。

 なぜだか、幼かったわたしの心に響いたのだ。


 小学校三年生の転校したばかりの頃、わたしは通い始めた教会の絵画教室で人魚姫の絵を描いていた。

 だけど、青くきれいな海と人魚が描きたいのに、どうしても色が上手に塗れなかった。


 そんな時、ふと同じクラスの男の子の背中を見つけた。

 どんな絵を描いているのだろうと覗き込むと、


「すごーい。ほしのくん、じょうず!」


 わたしは声を上げていた。とても素敵な色使いで、おもわず感動してしまったのだ。


「えっ、あ、おりはらさん?」


 わたしの名前を呼びながら、驚いて振り向く同級生。

 すこしシャイで可愛い顔をした、とても優しそうな男の子だ。


 それが彼との出会いだった。


 ◇


 土曜日の絵画教室をきっかけに、わたしたちは次第に打ち解けていった。


 そこに輪を掛けて、今度は偶然職場が同じのお母さん同士が仲良しになった。

 そんな関係で、夏の花火大会などのイベントにも、家族ぐるみで出掛けたりするようになった。


 真夏の幻想庭園で、どーんという爆音と共に、広がる夜空の花模様。

 二十四色の絵の具を真っ黒な画用紙にひっくり返したような色彩だ。


「きれいだね、みおちゃん!」


 夜空の花火と、無邪気に笑う紺色の浴衣を着た彼の横顔。

 隣のわたしは何時までも、それらを交互に眺めていた。


 ◇


 彼の花火大会の絵が、県の絵画コンクールで金賞を取ったことを担任の先生から聞かされた。大歓声がクラスで沸き起こる。その日の彼はヒーローだった。わたしは自分のことのように誇らしかった。


 わたしたちはイラストや漫画が大好きで、絵画教室の帰り道などよくお互いに見せ合いっこをした。そうやって、ふたりだけの秘密の時間を楽しんでいたのだ。


 だけど高学年になってくると、クラスの女の子たちはノートに漫画を描いているわたしを「オタク」「キモい」とからかうようになった。次第に女子の中で浮く存在となり、いじめの対象になりつつあった。


 そんな時、彼は身を挺して守ってくれた。


「何が幼稚なんだよ。だから、マンガの何が悪いんだって言ってんだよ!」


 あの時の彼は本当にかっこよかった。まるでお姫様を命がけで守る騎士ナイトのようだった。


 なのにわたしは――。


 わたしの身代わりとしていじめらるようになった彼。それを遠目に、わたしはどうすることも出来なかった。露骨に彼の側について、みんなから冷やかされたり孤立するのが怖かったのだ。


 このままではいけないと、わたしはバレンタインデーの放課後に雪の中、彼を公園で待ち伏せした。あの時の感謝とお詫びの気持ちを、手作りチョコレートに託そうとしたのだ。


 だけど彼は受け取ってくれなかった。「僕なんかと一緒にいるとこクラスの誰かに見られたら、またなんか言われるよ」そう言って再び自分を犠牲して、わたしを守ろうとしてくれた。


 なんて優しくて強い人なんだろう。心の底からそう思った。それに比べてわたしは……自分の保身しか考えていなかった。最低だ、本当に自分が嫌になる。


 歪んだ二本の破線を足元に描きながら、白い雪道を去って行く彼。その背中を見つめるわたしは、自分の気持ちに気付いてしまった。


 わたし織原美緒は彼、星野淳のことが――。

【参考サイト】

http://www.douwa-douyou.jp/contents/html/douwastory/douwastory5_64.shtml

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