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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第五章 パラレルLINEの秘密
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第三十九話 偽りの夢物語(3)

「どうやって美緒のLINEパスワードを手に入れたの?」


 長い沈黙。

 ミチルはうつむいて、ずっとなにかを考え込んでいる様子だ。

 

 痺れを切らした僕は、もう一度聞いた。なるべく優しく。

 

「――ねえ、教えてくれないかな天野さん?」

 

 ミチルが「はあ」と大きくため息を付く。彼女は視線をそらしながら言った。


「元々、高一のときからお互いにLINEのパスワードを教えあってたんよ。だからみおも、アタシのを知ってた。ふたりの友情の証っていうか……自分たちにもしものことがあったら、家族とかにLINE見られるの恥ずかしいから……『お互いにパスワードを使ってLINEアカウント消去しようね』って」

「そうなんだ……」


 聡史が口を挟む。


「でも、おまえはそうはしなかった。亡き親友との誓いを破り、LINEの『みお』を消去せず『みお』を自らが引き継ぎ、演じることを選んだ。そういうわけだな」


 ミチルはこくりと頷いた。


「あと天野さん、どうしてLINEグループ限定にしたの?」

「……個人のトークにしたら、なにかとぼろが出易いかと思って。それに個人同士だと、感情がエスカレートするかと思って……」


「なるほど分からなくでもない。まあ、それでも暴走して炎上させちゃった子はいたけどな」


 彩音のことだ。その暴走にうっかり乗って、炎上に油を注いだ僕と『みお』。

 恥ずかしい。顔から火が出る思いだ。顔色の蒼いミチルもちょっとだけ、気まずそうに赤面している。


「なあミチル、俺が開発中の『パラレルLINE』構想。おまえには、ずっと話してたから覚えてるだろ?」

「……うん」


「それこそ高校時代からな。この名称も、おまえだけには伝えていた」

「そやよね……みおをモデルにしたバーチャル『みお』。たとえ仮想体験でもいいから……再び五人そろって、あの頃みたいに楽しくグループトークできないだろうかって。それでジュンくんやあやちゃんや……アタシの……傷付いた仲間たちの心を癒せへんやろうかって。サトシいつも言ってたよね」


「……そうだったんだ」と僕はつぶやいた。


「俺がいつも言っていた『シュレーディンガーの猫』や『パラレルLINE構想』をヒントにして、おまえは今回のシナリオを考えた。女の子らしいアレンジで、天の川の女神がつなぐ織姫と彦星の――真夏の夜の不思議な夢物語として。だから……」


 聡史の言葉が一瞬詰まる。


「だから俺も共犯だよ。だって元はといえば、おまえと同じ事をやろうとしていたんだからな。だから俺は……」

「聡史……」


「だから、ずっと黙って見守っていたんだ。おまえが描いたロマンチックな夢物語の行く末を」

「サト……シ……」


「世の中、知らぬが仏。すべては芝居とはいえ、織原さんは俺たちの美術部LINEグループに帰ってきた。そのお陰で、こうやって淳も戻ってきた。だからたとえ嘘の物語でも、それはそれで真実なんだ。幸福のかたちなんだ。本当にそう思っていた。だけど……」


 聡史の顔に高ぶる感情の色が浮かぶ。


「俺はおまえの……『みお』からの最後の連続メッセを読んで考えが変わった。この物語は、ここで幕を引いては絶対にいけないと本気で思った」


 ベッドから立ち上がる聡。

 ポケットからネイビーブルーのスマホを取り出す。


「同時にそこで確信した。『みお』イコールおまえだと。あの時おまえは、確証につながる致命的なミスをいくつも犯した。それがこれだ」


 長身の聡史がチェアに座ったままのミチルを見下ろし、自分のスマホの画面を向ける。


【みお】『ジュン、もう絵は描いてないの? 絵、続けなよ。わたしは昔からジュンの絵が大好きだった。君の絵には優しさや才能に満ち溢れてる。昔からわたしにはないものを、君は持ってる』


「これは夏の花火大会でミチルが淳に言っていた台詞と、ほとんど同じ内容で同じ言葉を使っている。あれはLINEトークではなくオフラインの会話だったのに『みお』が知っているのはどう考えても不自然だ。きっと感情が高ぶって無意識で書いたんだろうけどな」

「…………」


「それから、これも」


【みお】『――パラレルラインの彼方からジュンの幸せを祈ってるよ』

 

「パラレルLINEラインは俺の造語だ。その名称を知っているのもおまえだけ」


 普通はパラレルワールドと書くべきところを、彼女はうっかり使ってしまったんだろう。おそらく感傷的になって。


「それから、なんだよこれ」


【みお】『恋人だとか彼氏だとか。悪いけど、ジュンのことをそういう風には見れないよ』


「織原さんが本当は誰が好きだったのか、淳のことを本心ではどう思っていたのか。それは織原さん本人にだけにしかわからないこと。他人が絶対に決め付けてはいけない。いくらおまえが親友だったからって、勝手に代弁なんかしていいもんじゃない。なあ、そうだろ。違うかミチル?」


 黙って視線を反らせたままのミチル。

 窓の向こうを、遠い視線でじっと見つめている。


「なあ、黙ってないでなんとか言ってみろよ。死んだ織原さんの名をかたって、後輩の為に恋の世話焼きキュービッド気取って、あんなピエロの役を演じて……じゃあ、おまえの気持ちはどうなるんだよ!」


 声を荒げる聡史。

 

「なにが『あやちゃんとお幸せにね』だよ。ふざけんな」


 聡史の声が震える。


「なあミチル、おまえ馬鹿じゃないのか? おまえ……それで……それで、本当にいいのかよ」


 感極まる聡史。端正な顔をゆがめる。涙を瞳に浮かべ、じっとミチルを見つめる。ミチルも聡史を見つめ返す。

 

「じゃあ、おまえは……おまえの恋はどうなるんだよ」


 いつも憎らしいほど冷静で、キザでフェミニストで優等生な筈の彼が……こんなにも感情をむき出しにする、聡史の姿を見るのは初めてだ。


「聡史……」

「サトシ……やめて……」


「おまえの描いた乙女チックな夢物語。そんな結末で本当にいいのかよ。だって、おまえ――」

「サトシ、お願い言わないで……」


「だって、おまえジュ――」

「やめてっ!」

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