表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第五章 パラレルLINEの秘密
38/57

第三十八話 偽りの夢物語(2)

【「エックスの正体は、彼女以外にありえない。あの夜、俺はそれを確信した」】


 聡史の言う『彼女』とは、はじめからお姉さんではなかった。


 三年前に交通事故で亡くなった織原美緒の名を語る、LINEアカウント乗っ取りの真犯人エックス。

 その正体は美緒の親友であり、聡史の中学時代からの昔なじみでもある、目の前の天野ミチルだったのだ。


『みお』のLINEのホスト機器であるスマートフォンは現在、遺族である美緒のお姉さんが所有している。お姉さんは、それをずっと盗み読みしていた。既読を付けてしまってはいけないと、怪しまれないようにAndroidスマホの『通知ポップアップ機能』を使っていたそうだ。


 この準備さえしておけば、メッセージを受信した際、通知ポップアップに文章やスタンプが表示されるようになる。さらに、左右フリックで複数のメッセージが確認できるほか、スクロールすればポップアップ内で全文の確認も可能だ。

 

 愛する亡き妹と仲間たちによる不思議な夏の夢物語。

 それに深く感情移入したお姉さんは、並行世界の『みお』が本当にあの場所に来ているのかどうか――。

 

『どうしても、その様子を自分の目で確認したかったの……』

 

 涙を流しながら僕らに言っていた。

 それで偶然を装い、僕らの花火大会を尾行し接触したのだと。


 その盗み見行為こそが、彼女の告白した罪のすべてであり、花火大会の夜の幻想庭園での奇跡的な再会劇の真相なのだ。


 お姉さんは自分の罪を認め、僕と聡史に誠心誠意、謝罪した。


 聡史は『もういいんですよ、こちらこそ失礼なまねをして申し訳ありませんでした』、僕は『おねえさん、本当の事を言ってくれてありがとう』と深々とお辞儀をした。こうして和解をした後、僕らは愛知県を後にしたのだ。


『今日は四月一日、エイプリルフールだ。おねえさんにもミチルにも、色々鎌をかけることして悪いとは思う。だけど、こっちも今まで散々嘘を付かれて来たんだ。だから、すべての謎を解明するのに、俺は今日と言う日を選んだのさ』


 聡史は京都へと向かう新幹線の中で、顔をしかめながらそう言っていた。


 ◇


 蒼い顔でチェアに座っているミチル。

 シングルベッドで僕の右横に座っている聡史が言う。


「基本、スマートフォン版LINEはひとつの端末でしか操作できない。だけどスマホが手元になくとも、パスワードさえ分かればMacやIPadを用いて外部から操作が出来る」


 聡史は新幹線の中で、僕にそれを教えてくれた。


「LINEの『みお』からメッセがある時。ミチル、おまえは常にその場にいなかった。最初のファミレスの時はこの部屋でMacを用い、夏の花火大会の時は隠し持っていたIPadで。遅刻しただの、トイレに行くだの、買出しに行くだの。なにかと理由を付けて俺たちの前から姿を消し、こっそり書き込みしていたんだな」


 うなずくミチル。


「ファミレスでの本人確認の質問は、おまえからのものばかりだった。そりゃあ完璧に答えられる筈さ。だって自分で問題出して自分で答えてるんだからな。これ以上の完璧なカンニングはない」


 僕のコンクール金賞とか幼少期の思い出だって、身を挺してクラスのいじめから美緒を救った事だって。親友同士なら知っていてもおかしくはない。


「七夕の夜からはじまった夏の不思議な夢物語。俺は早い段階から真犯人はミチル、おまえだと睨んでいた。だけど、どれも状況証拠ばかりで確証がない」


 状況証拠では言い逃れされるのが関の山。犯人を自白に追い込むには、確かな物的証拠が必要だ。だから、おねえさんには誘導尋問で『天野さん』と呼ばせ、ミチルには『みお』アカウント着信の現場を押さえる。


 聡史は、その作戦内容を新幹線の乗車中に僕に説明した。まったく我が親友ながら、恐ろしい頭脳を持った男だ。絶対に敵に回したくないと僕は改めて思った。


「だから俺は、物証を得るまで『パラレルワールドと繋がっているんだ』と容疑者の思惑に乗った振りをして、おまえの出方を伺っていたんだ」


 論理的観点における並行世界。ミチルは聡史がそういうことに興味が高いのも知っている。だからあの時ミチルは聡史を使って皆を誘導させるよう、こう書き込んだのだ。


【ミチル】『ねえ、アタシ思うんやけど――サトシ、ジュンくん、あやちゃん。みんな覚えてる? 昔、校舎の屋上でサトシがジュンくんに言ってたナントカの猫の話』


 ◇


 長い沈黙が続いた後、ミチルが重い口を開く。


「――サトシ、何時からアタシが怪しいと思ってたの?」

「ファミレスの時から」


 即答する聡史。

 ミチルが「はあ」と、ため息を付く。


「ほとんど最初から、か……」

「ああ。アリバイがないのは、あの場にいなかったのはおまえだけだからな」


 聡史が続ける。


「その日、帰宅してから例の糸の画像をPCに取り込んでEXIF情報を確認したら。案の定、画像は加工されたものだった」

「そんなの分かるの?」


「ああ、デジタルカメラで撮影したJPEG形式の写真データは、撮影年月日やカメラの機種、シャッタースピードなどさまざまな情報を保存している。これらをEXIF情報という。『プロパティ』の『詳細』を見ると、最初の画像の撮影日時や最終的に加工したプログラム名などの情報が残っているんだよ。そこにしっかりと書かれていたのさ『プログラム名 Adobe Photoshop CC』とね」


 建築や土木の工事写真の電子納品で、工事内容をごまかす改ざん偽造問題が社会化している。だから業者に悪さをさせないよう、行政も色々と対応しているのだと、新幹線の中で聡史は僕に説明してくれた。


「知らへんかった……」


「おまえは大学で情報デザインを専攻している。画像データなどのバイト数の知識があってもおかしくはない。状況証拠とはいえ、俺らの仲間内での犯人像を考えるとおまえしか考えられないじゃないか。だからおまえへの容疑は、より色濃くなった」


「流石はサトシ、全部お見通しだったんやね……」

「……ねえ天野さん」


 僕は口を挟んだ。ずっと疑問に思っていたことをミチルに問い質す。

 それは今回のLINEの『みお』アカウント乗っ取り・成りすまし劇における、最大の謎でもあった。

 

「どうやって美緒のLINEパスワードを手に入れたの?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ