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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第五章 パラレルLINEの秘密
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第三十七話 偽りの夢物語(1)

「そやったんか。まさか、みおのおねえさんが、ね……」


 PCデスクチェアに座っているミチルは、しみじみと僕と聡史の顔を見て言った。


 ◇


『京都市左京区』


 歴史情緒溢れる街並みに、京都大学を筆頭に多くの大学を有する京都屈指の学園街だ。有名な寺社としては東山慈照寺(銀閣寺)・南禅寺・下鴨神社・平安神宮がある。日本の芸術の都と呼ばれるだけあり、美術系の大学も充実している。

 

 愛知県からO県へと戻る最中。JR京都駅で新幹線を途中下車した僕らはバスを乗り継ぎ、天野ミチルの暮らす左京区北白川通りのワンルームマンションへと立ち寄った。


「ジュンくん、サトシ。よく来てくれたね」


 ラフな黄色い部屋着姿のミチルは、僕らを歓迎し自室へ迎え入れてくれた。スラリと伸びた生足の白いショートパンツ姿が眩しい。


 八畳ぐらいのワンルーム、学生にしては贅沢な住まいだ。センスよく整頓された部屋。白い壁には洒落た現代アート系のポスターがずらり。


 それに紛れて、深夜アニメやガールズロックバンド『メタル☆うぃんぐ』のポスターなども飾られてある。


 窓際の白いPCデスクに座るミチル。僕と聡史は並んでシングルベッドに座った。


 レモンイエローのカーテンとベッドカバーが鮮やかだ。芳香剤だろうか、カモミールの甘い香りが部屋中を包み込む。

 

 PCはMac Pro。グラフィックデザイナー御用達の高価な機種だ。

 

「ねえ天野さん、大学の課題の作品とか見せてよ」

「えー恥ずかしいねんよ。特にジュンくんに見せるのは」


「まあ、そう言わずにミチル。こうやってせっかく美術部時代のエース殿が来たんだからさ」

「それに僕も最近、コンピュータグラフィックにちょっと興味が沸いて来てね。自分でもやってみたいなと思ってるんだ」


「ジュンくん……」

「だから参考にさせてよ」


「そうなんや。そういうことなら」


 渋々と起動ボタンを押すミチル。ジャーンと起動音が響く。


 僕は物珍しげな顔をして液晶画面を眺めた。シンプルな壁紙だ。デスクトップには、Adobe PhotoshopやIllustratorのアイコン。LINEもある。


「へえ、知らなかった。MacでもLINEって出来るんだ、スマホでしか出来ないもんだと思ってたけど」

「なんだ知らなかったのか淳、他にもIPad版LINEとかもあるんだぜ」


「天野さん、IPadとかって持ってるの?」

「まあ一応。最近、あんまり使ってへんからバッテリ切れてるけど……」


「へえ、凄いや。なんかすっかりクリエーターってかんじだね」


 気まずそうな顔で、ミチルは頭を掻いた。


 ◇


 彼女の作品は素敵だった。主にイラストやパッケージのデザインだ。特に人魚姫をモチーフにしたイラストが印象的だった。色使いはすこし賑やか過ぎてまとまりがないけど、なかなかの出来栄えだ。

 

「でもなんか嬉しいな、ジュンくんが再び絵を描くことに興味を持ってくれて」

「天野さん……」


「でも恥ずかしいから、もうええやろ?」


 Macの起動ボタンを押してスリープさせるミチル。


「ねえ、それよかさ。早く聞かせてよ、みおのおねえさんのこと」


 どうやら、お姉さんの告白した内容が気になる模様だ。無理はない。


 シングルベッドに座り直す僕と聡史。

 そして僕らはミチルに、お姉さんが告白したすべての罪を洗いざらい説明した。

 

 ◇

 

「そっか、あの不思議でロマンチックな夏の夢物語はおねえさんの……すべては、そういうことだったんやね。逆にちょっとざんね――」

「どうしたの?」


 ミチルが突然、レッドブラウンのショートボブを抱えてうつむく。


 沈黙する三人。


 しばらくしてミチルは顔を上げた。肩で息をする彼女。顔が蒼い。


「あ、ごめん。またぼーっとしてた」

「大丈夫かい天野さん?」


 たしか以前も電話中にこんなことがあった。


「うん。最近、ちょっと調子が悪くて。疲れてるせいかな、講義中もすぐ眠くなるねんよ」

「そんなこと言って、おおかた深夜アニメの見過ぎじゃないのか?」


 そんな聡史の言葉に、ミチルはえへへと苦笑いで返した。


「そやけど、ふたりともおおきにね。愛知へ謎解きに行ったついでやとはいえ。態々、帰りに京都で途中下車してアタシに真相を伝えに来てくれて。新幹線代もこ付いたんやない?」


 僕は聡史と目を見合わせ、互いにうなずいた。


「ついでじゃないさ、ミチル」


「――え?」


 同時に僕はポケットから黒いスマートフォンを取り出すと、素早く操作した。

 LINEのメッセを送信する。

 

 刹那、PCデスクチェアに座ったミチルの背後の一角から、着信音が鳴り響く。

 彼女のスマホからではなく、着信によりスリープが解除されたMacから発せられているのだ。


 目を丸くするミチル。


 ここに来る直前、僕は聡史に言われていた。

 彼女のPCを起動させる為に、作品を見せてくれと頼むようにと。

 もちろんそれも見たかったというのもあるのだが。

 最初からこれが目的だったのだ。


 Mac版とIPad版のLINEの存在は聡史から事前に聞かされていた。

 さっきの僕の「へえ、知らなかった」という反応は芝居なのである。

 だから――。


「だから、ついでじゃないんだよ天野さん」

「そう、俺たちの遠出の目的地は最初から京都。むしろ、あっちの愛知県がついでだったんだ」


 ミチルが固まる。

 構わずメッセを連投する僕。その度にMacから鳴り響く着信音。


「メッセ見ないのかミチル。遠慮せずに見ろよ、さあ」

「…………」


「さあ、Mac版LINEのメッセを早く確認しろよ」


 聡史がドラスティックな口調で問い詰める。


「メッセ見ろよ。さあ、早く」


 その横で僕はメッセを連投している。

 送信先はミチルでもLINEグループでもない。

 今迄、何度送っても既読の付かなかった『みお』の個人トークへだ。


「さあ」


 無言で、僕らを見つめるミチル。

 顔を蒼白にした彼女に向かって、聡史は冷めた視線で言い放った。


「見ろよミチル、いやLINEの『みお』」

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