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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第五章 パラレルLINEの秘密
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第三十六話 彼女の罪

 お姉さんの端正な顔が歪む。

 

「そ、それは。ほら、名前は美緒から聞いて覚えていたから……」

「それって何時の話ですか?」


「それはもちろん……美緒が亡くなった……四年ほど前に……」

「随分と記憶力がいいんですね」


 狼狽するお姉さん。


「え、ええ……それに、美緒のお通夜の時も……そう記帳されていたから……」

「なるほど、そこには『天野ミチル』と書かれていたんですね?」


 お姉さんが記憶の糸を探っている。

 

「ええ……もちろん……」


「でも、おかしいですね。あの時ミチルは天野ではなく別の苗字を記帳した筈ですけど」

「えっ!?」


「そう、織原さんが交通事故で亡くなってから半年後の高校二年生の冬。ミチルは両親が離婚して、苗字が変わったんですよ」


 ミチルの当時の名前は三沢ミチルだった。今は母方の姓を名乗っている。

 待ち受け画像を見せたのは、ミチルをお姉さんの口から『天野』と呼ばせる為の誘導尋問だったのだ。


 聡史がバスターミナルで『淳、例の件はくれぐれも口を滑らせないように』と言ったのは、うっかり僕が『天野さん』と口を滑らせないよう釘を刺したのだ。


 高校時代、ミチルとは僕が退部して以来、疎遠にはなった。

 だけど苗字が天野に代わったことは、流石に僕の耳にも届いていたのだ。


【その後のミチルは情緒不安定な状態がしばらくの間、続いたそうだ。ちょうど同時期に重なった、家庭環境の変化による複雑な事情もその原因だったのかもしれない】


 ミチルの父親は大企業のエリートサラリーマンで、たっぷりと養育費を支払えるほど裕福だ。だから学費や生活費の掛かる県外の美大にもミチルは通えているのだ。


「複雑な家庭の事情、それをずっとミチルは周囲に隠していた。無二の親友だった生前の織原さんにもね。ここにくる直前、LINEでミチル本人に確認したから間違いありません」


 自分のスマートフォンの画面を差し出す聡史。

 LINEのトーク画面をお姉さんに見せる。


【ミチル】『そやよサトシ。当時のあのことは、みおにも誰にも言ってへんかったよ』


「…………」


「なのに、あなたはどうして知ってるんですか。誰にミチルの現在の苗字を聞いたんですか」

「それは……」


 透明な蜘蛛の巣に、白い蝶が止まるように。

 聡史の巧妙な罠に掛かってしまったお姉さん。

 彼女の顔が凍りつく。


「知っていたのは、密かにこれを読んだからじゃないんですか」


 まるで警察手帳を犯人に見せ付けるような手つきで。

 ネイビーブルーのスマホの画面を差し出す聡史。


【ミチル】『さしずめアテクシ天野ミチルちゃんは、ふたりを繋ぐ天の川の天使キューピッドさま? なんちって♪』


 美術部LINEグループに書かれたミチルのログだ。他にも、僕はミチルの名前は常にLINEには『天野さん』と書いている。

 

「夏の花火大会の夜の奇跡的な再会劇にしたって。本当は偶然じゃないんですよね」

「それは……」


「あの夜。俺たちはLINEグループに逐一、自分たちの居場所を書き込んでいた」


 そう、『みお』に居場所を知らせる為に。


「だから俺たちの動向を掌握していたあなたは幻想庭園で待ち伏せをし、偶然を装い姿を現した」

「…………」


「そうやって俺たちのLINEグループを、ずっと覗き見していたんですね」


 うなだれ顔を伏せるお姉さん。

 彼女の白い膝の上に、ぽたぽたと罪の雫が零れ落ちる。


「淳、どうやらチェックメイトのようだな」

「おねえさん……」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 お姉さんは、白いソファの上で崩れ落ちた。


 ◇


 白いリビングに壁掛け時計の秒針の音が静かに響く。

 長い沈黙の後、お姉さんは涙を白いハンカチで拭いながらようやく口を開いた。


「ごめんなさい……」


 彼女をじっと見つめる聡史と僕。

 僕は彼女の顔を覗き込んだ。


「大丈夫ですか、おねえさん」

「ごめんなさい……ジュンくん……それに佐山くんも。本当にごめんなさい…………」


 僕は身を乗り出し、なるべく柔らかい口調で彼女に言った。


「どうして、あんなことしたのか。おねえさん、僕らに本当の事を話してくれませんか」

「ジュンくん……」


「全然、怒ってませんから。責めるつもりもありません。僕はただ、真実が知りたいだけなんです」


 隣に座る聡史も黙って頷く。


「ジュン……くん……」

 

 意を決したかのように、美緒に瓜二つの顔をした麗しき彼女は言った。


「……私……ずっと、あなたたちの……LINEグループを、盗み読みしてたの。それで……」


 彼女は僕と聡史に向かって、これまでのすべての罪を語り始めた。

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