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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第五章 パラレルLINEの秘密
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第三十三話 パラレルLINEの秘密

新章、謎解き編。クライマックスへ突入です。

【ジュン】『聡史、君に話があるんだ。ふたりで会えないかな?』


 例のバレンタインデーから約一ヶ月後の三月下旬。

 コンビニのバイト帰りの僕は、聡史にLINEで連絡を取った。


 美術部LINEグループではなく、個人のメッセージにだ。

 あれ以来。『みお』からのメッセを最後に、もうあそこには誰からの書き込みもない。美緒が他界してからの三年間と同じように、再び凍結状態となったのだ。

 

 しばらくして聡史から返事があった。


【サトシ】『丁度よかった。俺も淳に話したいことがあったんだよ』


 ◇


 O大学津島キャンパス。

 学食傍の屋外スペースのテラス、そこの白いテーブルベンチに僕らは腰掛けた。ひと気はすくない。周囲の多い茂った樹木から、昼下がりの柔らかな木漏れ日が差し込んでいる。

 

 対面席の聡史が言う。

 

「悪いな淳、態々こんなとこまで来てもらって」

「いや僕が言い出したことだし、それに今日はバイトも休みだから」


 ここを待ち合わせ場所に指定したのは僕だ。

 最近、聡史は研究で忙しい。それに、大学ってどんなところか一度じっくり見てみたかったのだ。


「その後、川瀬さんとは会ってるのかい?」

「うん一度だけ。一応ホワイトデーのお返しを渡しに、美観地区の彼女のバイト先でね」


「そうか」


 そこはあまり触れられたくない話題だ。

 僕は話を急かした。


「まあ、その話はいいじゃない。それで、聡史の話って?」


 聡史が言う。


「そっちが先に連絡くれたんだから、先に俺が聞くのが君への礼儀だと思うけど」

「……じゃあ遠慮なく」


 身を乗り出して僕は、ゆっくりと話しはじめた。


「聡史、どうしても君には確認しておきたいことがある。君を親友と見込んで、僕の話を聞いてくれないかな。そして、どうか本当の事を教えて欲しい」


 聡史がこくりと頷く。

 僕は以前、ミチルが電話で言っていた内容を彼に伝えた。


【『あの七夕の夜からはじまった不思議なLINEは、きっと天の川の女神さまの魔法やったんよ』】


「だけど僕は正直、ずっと疑問に思っていた。青春SFアニメやアイドル映画やネット小説でありがちな、お涙ちょうだいの恋愛ファンタジーじゃあるまいし。そんなロマンチックな夢物語が、はたして本当にあるのだろうかって」


 僕は続けた。


「だからLINEの『みお』という不思議な織姫との夢物語は、きっと誰かが仕組んだ偽りのシナリオ。結局、それが真相なんじゃないかってね」


 聡史が黙って、僕の目を見る。


「君の言うパラレルワールドっていうのも、一度は信じようとしたけど……二八〇バイトがどうとか、量子力学の猫がこうとかって。そうやっていくら一見、論理的に聞こえる理屈を絡めてようしても、なんか煙に巻かれてるっぽいというか。だから」

「だから?」


「だから思ったんだ。それって僕らをあざむくための、ミスリードなんじゃないのかなって」


 聡史のこめかみの辺りがピクリと動く。


 ミスリード。読者を誤った解釈に誘導するような文章のことを指すミステリー用語だ。あえて僕はミステリー小説好きの聡史に、この言葉を投げ掛けた。


「――ねえ聡史」


 ひと呼吸置いて、僕は言った。


「正直、僕はこの『みお』LINEアカウントの乗っ取り・成りすまし犯の正体は、実は聡史なんじゃないかと勘ぐっている」

「…………」


「君は国立大学理工学部知能工学科の学生で、PCの知識にも長けている。頭脳明晰の秀才だから、巷でよくあるLINEのハッキングなんてお手の物。そんな可能性が極めて高い。そして僕らの素性にも詳しい。僕が美緒を亡くしてからの三年間。失意のどん底でもがき苦しんでいたことだって知っていた筈だ。これだけの条件を満たした人物なんて、君の他には見当たらない。だけど」

「だけど?」


「だけど犯人は、どうやら聡史ではなさそうだと思ったこともあった。だって『みお』からLINEが送られてくるときの君の動向、いつも僕自身がこの目でしっかりと確認していたから」

「――つまり俺、佐山聡史には鉄壁のアリバイがあると言いたいんだな?」


「ああ、そうだ。最初のファミレスで、君には不穏な動きはなかった。でも」

「でも?」


 オウム返しで聡史が続きをうながす。


「でも、あの花火大会の夜。そのアリバイは覆った。なぜなら、君が自らの研究内容について彩音ちゃんに語る様子を、僕はしっかりと横で聞いていたから」


【「そう。だから次世代の必須ツールであるVR技術ひいては人工知能に個性や感情といった人格を持たせた上で学習をさせ、血の通った生命体の感覚に近づける。それを孤独な現代人へ親しみや癒しを与える心のパートナーとして、将来的に社会へ普及できないかと考えているんだ」】


「君はあの時、すこしほろ酔い加減だった。だから、ついうっかり口を滑らせてしまったんだと思う」


 無言の聡史。


「君の言う孤独な人間を癒す心のパートナー。それは仮想現実のコンピュータ技術が実現させるバーチャルフレンド。それがきっと、不思議な真夏の夜のファンタジーの、偽りの夢物語の真相」

「…………」


「LINEの『みお』の正体は、君の開発したAIなんじゃないのかい?」


 聡史はずっと沈黙している。

 

 しばらくして彼はポケットからネイビーブルーのスマホを取り出した。

 液晶画面を上に向けテーブルに置く。それをそっと僕の方へ押し出した。


「淳。右下の赤いアプリアイコンをタップしてみなよ」

「これは?」


「俺が現在開発中のアプリだ。まだ未完成の試作品だけどね。もちろん世間には公表されていない」


 LINEのアイコンにそっくりだ、だけど色だけが緑から反対色の赤と異なっている。

 そのアプリのアイコンボタンの下には、白い文字でこう記されていた。


『パラレルLINE』


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