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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第四章 それぞれの告白
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第三十一話 彼の告白

【ジュン】『彩音ちゃん、ありがとう。僕みたいな冴えないフリーターに想いを寄せてくれて。唯一の特技で生きがいだった絵を描かなくなった、何のとりえのない僕なんかを好きだと言ってくれて』


【ジュン】『こんな鈍い僕だけど。流石に最近は、君の気持ちに気が付いていたよ。ありがとう。嬉しかった。本当にありがとう』


【ジュン】『彩音ちゃんには本当に心から感謝している。こないだ天野さんも電話で言ってたけど、君は本当に僕なんかにはもったいない素敵な子だと思う』


【ジュン】『彩音ちゃん、僕も君のことが好きだよ。大切に思っている』


「ジュンせんぱい……」


【ジュン】『だけどそれは後輩として、可愛い妹として』


「…………」


【ジュン】『本当に君は勇気があって立派だと思う。それに引き換え、僕はいつも自信が無くて臆病で』


【ジュン】『彩音ちゃん、君はひとつだけ勘違いしているよ。彼女が好きだったのは、きっと僕じゃないんだ』


【ジュン】『いくら幼馴染とはいえ、昔から彼女は高嶺の花。絵を描く以外になんの取り得もない自分には不釣合い。だからそう考えるのが自然なんだと、僕は心の中で何時も自分に言い聞かせていた』


【ジュン】『だけどもう、自分の気持ちに嘘は付きたくない。だから彩音ちゃん。君の勇気を見習って、これから僕も自分の本当の気持ちをここに記そうと思う。もう届くかどうかは分からないけれど。並行世界のみおに・・・天の川の向こうの織姫にも伝わるように』


【ジュン】『美緒、僕は君が好きだ』


【ジュン】『小三の頃、教会の絵画教室で始めて会話をしたときからずっと。この世界から居なくなってしまってからも。君がLINEグループに帰ってきてくれてからも。今も昔も、この想いはずっとずっと変わらない。だけど・・・』


【ジュン】『だけど君は、もうこの世界にはいない。だからって君の事を忘れてしまうおうとか、そういうのじゃなくて。君の存在は大切に心の中に宿しつつ、いつかは僕も吹っ切って、この世界で前に進まなきゃって思うんだ』


【ジュン】『何時かは時間が解決してくれて、心の傷も癒えて。誰かと恋に落ちて付き合ったり。結婚して子供が産まれて、家庭を持って。だけど今の僕には、まだそんな風に思える余裕がないんだ』


【ジュン】『美緒、今でも僕の心の中には君しかいない』


【ジュン】『だから少なくとも今は。相手がどんなに素敵な子でも、どんなに僕の事を好きになってくれても。こんな中途半端な気持ちのままで、他の人と付き合うわけにはいかないんだ』


【ジュン】『それはとても失礼なことだと思う。美緒にも、自分にも、そして君にも』


「せ……んぱ……い」


【ジュン】『だから、ごめん彩音ちゃん。僕は君とは付き合えない』


 ◇

 

 何時の間にか雪は止んでいた。

 LINEグループの僕からの連投メッセを読んだ彩音は、ずっとうつむいたまま声を押し殺して泣いていた。


 しばらくして落ち着くと、彩音は自分が落とした花柄の傘を拾った。

 傘に積った雪を払い落とし、泣き笑いの表情で僕の顔を見つめる。


「これで、ようやく吹っ切れました。すっぱりと気持ちがいいぐらいに振ってくださって、ありがとうございました」


 彩音が続ける。


「相手がみおせんぱいじゃあ、はじめから勝負にならないっていうか。勝ち目はないのは自分でも分かっていました。でも一度は、自分の口でしっかりと伝えなきゃって思ったんです。そうしないと、あたしこれからも前に進めそうにないから」


「彩音ちゃん……」


「ジュンせんぱい。あたしの勝手な自己満足のわがままに付き合っていただいて。本当に、ありがとうございました」


 ――それは僕だって一緒だよ。僕の自己満足に付き合ってくれて。ずっと心に秘めてた想いを吐き出すきっかけを作ってくれて、本当にありがとう彩音ちゃん。

 

 深々とお辞儀をして、彩音は雪道を立ち去って行った。


 彩音の足跡で引かれた、歪んだ破線が僕とをつなぐ。

 切れ切れの汚い泥の線。まるで白いパレットの上に並んだ、混ぜすぎ濁った絵の具のようだと僕は思った。

 そう、あの時と同じように……。


 ◇

 

 午後九時過ぎ。

 

 二月十四日のバレンタインデーの夜、白い雪景色の公園で。

 なんとなく僕はそのまま自宅のコーポに帰る気になれなくて、ひとり東屋のベンチに座っていた。

 黒い雨傘をささくれ立った木製ベンチ立て掛け、左横にはチョコの入った白い手提げ袋がぽつんと置かれてある。

 

 かじかむ手、寒さに背中を丸める。

 僕は、はあと白い息を吐いた。


 刹那、ポケットのスマホからLINEの着信が響く。

 ミチルか聡史からの慰めやフォローのメッセだろうか。


 速やかに僕は誰からの通知か確認した。

 それは――。


「あっ!」


【みお】『久しぶり、みんな元気にしてる?』


 それは、半年ぶりにLINEグループに書き込まれた『みお』からのものだった。

 

「美緒っ!」

 

 雪が止んだばかりの寒い夜空の下、スマホの画面に向かって叫ぶ僕。

 ログを確認すると、既読が四になっている。


 もう二八〇バイトの蜘蛛の糸は途絶えたと思っていた並行世界の『みお』から、美術部同窓LINEグループに連続メッセが書き込まれる。

 

【みお】『ごめんなさい。わたし、ずっとみんなに嘘ついてた』

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