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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第四章 それぞれの告白
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第二十九話 抜け駆けなんていやだから

「お帰りなさい、ジュンせんぱい」


 彩音だった。


 淡いピンクのコートを着た白いマフラー姿の彩音。

 花柄の傘を白い手袋で握り、もう片方の手には何やら小さな白い紙袋が握られていた。


 すこし潤んだ大きな瞳で、僕の目をじっと見つめる彩音。

 その切なそうな顔が心の中で、あの時の少女の頃の美緒の姿と重なる。


 突然の既視感に、しばらくフリーズしていた僕。それから気を取り直して、彩音に声を掛けた。


「あ、偶然だね彩音ちゃん。バイトの帰りかい?」

「バイト帰りですけど、偶然じゃないですよ。だって美観地区はK駅を挟んで反対側じゃないですか」


「そっか、確かに」


 くすりと笑う彩音。

 

「え、じゃあ……なんでここの公園に?」

「相変わらず、そういうとこ鈍感ですよね、ジュンせんぱいって」


 ――悔しいが否定できない……。


「そんなの、せんぱいがコンビニのバイトから帰って来るのを待ってたからに決まってるじゃないですか。そこの公園の東屋のベンチで、ずっと座っていたんですよ。はい、これ」


 小さな白い手提げ袋を僕に手渡す彩音。バレンタインのチョコレートだ。


「え、あ、ありがとう」

「以前、サトシせんぱいとのファミレスの会話で言いましたよね。『あたしだって昔っから一途なんですよ』って。覚えてますか?」


 問い掛けの答えを待たずして、彩音が言葉を続ける。


「まあ、せんぱいが鈍いのはもう慣れっこですけどね。だから、あたし決心したんです。ジュンせんぱいにはちゃんと、言葉にして気持ちを伝えなきゃって。それに、みおせんぱいにも――」


 手袋を外し、コートのポケットにしまう彩音。

 代わりにピンクのスマートフォンをポケットから取り出した。


 寒さのせいだろうか、震える指先でフリックをはじめる。

 刹那、僕のジーンズのポケットから着信音が。

 

 黒いスマホを取り出し確認すると、それは美術部LINEグループの通知だった。

 送信者は目の前にいる彩音だ。僕は速やかに内容を確認した。


【あやね】『お久しぶりです。みおせんぱい』


「…………」


【あやね】『もし、みおせんぱいにはもう、あたしたちのメッセは届かないのだとしても。もう、このLINEグループは並行世界とつながっていないとしても。あたしみおせんぱいには、どうしても伝えたくて』


 並行世界との通信制限である二八〇バイト一四〇文字を超えないように、長文になりそうな文面を区切って連投する彩音。


【あやね】『抜け駆けなんて絶対いやだから、みおせんぱいにも正々堂々と、あたしの想いを聞いてもらいたいから』


「抜け駆け?」

「ジュンせんぱいは、ちょっと黙っててください!」


 僕の言葉をぴしゃりとさえぎり、彩音はメッセを連投した。

 首をすくめる僕。彩音は一体、美緒になにを伝えようとしているのだろうか。


【あやね】『ミチルせんぱいや、サトシせんぱいも読んでるだろうから。ここのLINEグループで、こんな告白するのは凄く恥ずかしいんですけど・・・でも他に、みおせんぱいに伝える手段がないから。勇気を出して、ここにメッセしますね』


 黒いスマホを手に彩音の連続メッセを確認しながら、黙って様子を伺う僕。

 送信ボタンをタップした彩音は震える声で――。


【あやね】『みおせんぱい、あたしは高校の時からジュンせんぱいのことがずっと好きでした。その気持ちに、今も変わりはありません。だからあたし今から、せんぱいに告白します』


 自らLINEグループにメッセした内容を僕に向かって音読した。


【あやね】『ジュンせんぱい、好きです。あたしを彼女にしてください』


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