第二十八話 思い出の白い公園で
【つぶやき】店長は生瀬勝久さんのイメージでw
「星野くんさあ。また、ぼーっと考え事してたでしょ?」
――しまった。また、ついうっかり仕事中に……。
「ちょっといいかね」
暖房の効きすぎた店内で、冷や汗をかく僕。
今日も僕は、バイト先のコンビニの店長に捕まってしまった。
客足が途絶えると、何時もこうやってネチネチお説教が始まるのだ。
「星野君ってさ、そういうマイペースなとこ直んないよねえ。でも――」
店長が続ける。
「ほら。君って勤務態度は真面目だし、顔立ちもシュっとしてハンサムだから女性客の受けもいい。うちの店としても貴重な人材だから、頑張ってバイト続けてもらいたいたいんだよね。だから、いつも発破をかけて口うるさくしてんだよ。そんだけ期待してんの。わかる?」
「店長……」
爬虫類系の顔をした銀縁眼鏡姿のアラフォー店長が、頬を緩めながら言う。
「最近はちゃんと声も出るようになって、ちょっとは表情も明るくなったじゃない。ははーん、さては可愛いカノジョでも出来たかな?」
「そっ、そんなことありませんよ」
照れて赤くなる僕。
すこし離れて陳列している、もうひとりのバイト店員のニヤニヤとした視線が痛い。
僕によく懐いてくれている美術部時代の後輩の笑顔が、ほんの一瞬だけ脳裏を過ぎる。それに、最近やたらとそんな後輩と僕をくっつけようとする、仕切り屋でおせっかいな元部長の顔も――。
「ほんじゃあ、しっかり身を入れてがんばってよイケメンくん?」
針金のように細い手をひらひらとさせ、もう片方の掌でぽっこりメタボ気味お腹を擦るカマキリ店長。
レジ横の奥の部屋へと向かう店長の背中へ、僕はいつもより大きめの声で返事をした。
「はい、香田店長」
「あ、そうそう。星野くん」
店長が振り返る。
「ほら今日はバレンタインデーだから。出入り口付近の目立つところに、特別セールの張り紙を貼っといてね」
◇
午後八時、K駅前にあるコンビニのバイトの帰り道。
僕は黒い傘を差しながら、とぼとぼとひとり帰路を歩んでいた。
粉雪がさらさらと舞う白い道。オレンジの外灯が淡く照らす。
今夜はホワイトバレンタインだ。
いつもの線路沿いの道を通り過ぎ、美緒との思い出の公園に差し掛かる。
【「ねえジュン、久しぶりに……」】
小六の時の二月十四日の記憶が、僕の脳裏を切なく過ぎる。
【「久しぶりに、なんだよ?」「だから、久しぶりに……一緒に、帰ろ?」「僕なんかと一緒にいるとこクラスの誰かに見られたら、またなんか言われるよ」】
寒い中ひとりぼっちで、ずっと僕を待っててくれていた美緒。なのに、僕は――。
「あの時は、ごめんな美緒」
小声でつぶやきながら、公園を通り過ぎようとした時。
僕は誰かに、ぽんと肩を軽く叩かれた。
「だれ?」
びっくりして振り返ると、そこにいたのは――。





