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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第四章 それぞれの告白
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第二十七話 淳

【みお】『やっと一緒に観れたね』


 そのメッセを境に『みお』からの美術部LINEグループへの書き込みは途絶えた。


 僕、星野淳を含めみんなが何度もメッセを送ってみても、送信者を除いて既読が三つしか付かないのだ。


【あやね】『みおせんぱい、一体どうしちゃったのかしら・・・』

【ミチル】『そやね・・・』

【サトシ】『ああ・・・』

【ジュン】『・・・』


 こうして僕らは再び、美緒の居ない時間を過ごすようになった。


 ◇


 聡史は大学の研究で忙しく、ずっと研究室にこもりっきりみたいだ。どうしても修復を急ぎたい未完成な開発中のアプリがあるのだそうだ。


 彩音は以前、僕が案内したK市の美観地区が気に入ったらしく、最近そこの『まほろば堂』とかいう老舗の土産屋で販売のアルバイトを始めた。白髪で超絶イケメンの藍染和装着流しアラサー店長と、優しくて美人の和装メイドさんで切り盛りしているのだそうだ。


 それ以来、『バイト帰りのついでに、ちょっと会えませんか?』などと何かと誘いがある。

 

 ミチルは京都からLINEの無料通話で、わりと連絡をくれるようになった。


『アタシ最近、思うんやけどさ』


 例の調子の関西弁で、スマホ越しに言うミチル。


『あの七夕の夜からはじまった不思議なLINEは、きっと天の川の女神さまの魔法やったんよ。そんで「約束の花火大会に行きたい」って織姫みおの願いが叶ったから、神さまがパラレルワールドとつながる魔法の架け橋を解いたんやないかなってね』

「そう……なのかな」

 

『うん、きっとそやよ。ねえねえ、ジュンくん。それよかさ、あやちゃん美観地区でバイトしてるそうやないの。ていうか、あやちゃんとは最近どうなんよ?』


 どういうわけかミチルは最近、やたらと僕と彩音との仲に探りを入れてくる。

 

『ねえねえ、そこんとこどうなんよ。ね? ね?』


 世話焼きおばちゃん口調のミチルがうざい。

 僕は不貞腐れて言葉を返した。

 

「彩音ちゃんとは、そんなんじゃないよ」

『またまたあ、キミもまんざらでもないくせに』


 まったく大きなお世話である。


『ジュンくんにはもったいないぐらいやよ。あんな健気で可愛い子、ちょっと他にはおらへん――』


 ミチルが言葉を詰まらせる。

 美緒のことを、亡き親友のことを思い出し感極まったのだろうか。


「――どうしたの?」 

『あ。ごめん、ぼーっとしてた』


 気を取り直したのか、咳払いをしてミチルが続ける。


『まあ、こうやってみおが並行世界で無事に生きてることもわかったことやし。うちらはうちらで、しっかり前を向いて歩いていかへんとね』


 ◇


 先日、美緒のお姉さんからも電話があった。


『もしもし、ジュンくんどうしてるかなと思って――』


 現在は愛知県の岡崎市に在住で、専業主婦をしているそうだ。

 花火大会で一緒だった男性は、やはり旦那さんだったのだ。


 お姉さん曰く、ふと急にふるさとの幻想庭園の花火大会が観たくなり、態々旦那さんに有給を取ってもらって、あの日は帰省したのだとか。


 僕の事を心配して掛けてくれたお姉さん。

 懐かしい声。昔と変わらず優しい人だ。


 僕はLINEの『みお』の存在は伏せて、近況を伝えた。

 最近になってようやく、美術部時代の仲間との交流が再会したのだと。

 それを聞いたお姉さんは『そう。ジュンくんが今、ひとりぼっちじゃなくて本当に良かった』と嬉しそうに言ってくれた。


「それにしても僕の携帯番号、よく分かりましたね」


 そんな僕の問い掛けに、お姉さんはすこしためらいがちに答えた。


『美緒の生前のスマートフォンね、解約せずに残してあるの。今でも私が管理しているのよ』


 ◇


 秋、そして冬。

 僕らの世界で、美緒の居ない季節が淡々と過ぎて行く。


 クリスマスイブは僕、聡史、彩音の三人で。成人式は京都から帰省したミチルと聡史と僕で。そして、みんなが集まれる正月休みの初詣は四人で過ごした。


 クリスマスパーティーの時の、サンタの帽子を被った彩音の可愛らしいピンクのセーター姿。成人式の時の、スラリとスタイル抜群なミチルの振袖モデルのような黄色い晴れ着姿。どちらも、とても綺麗で魅力的だった。


 だけど虚しい。

 だって、君の居ない世界の祝い事なんて。

 君の晴れ姿を見れない、この世界なんて――。


「星野くん?」

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