第二十四話 彩音
新章。後半戦へ突入です。
【あやね】『ジュンせんぱい。あたし、ずっと好きだったんです――』
あたし川瀬彩音は今、ピンクのスマートフォンの画面を見つめている。
夏の花火大会の時、あたしはそこで送信ボタンをタップしようと何度も思った。
だけど随分と悩んで、結局『ひと目惚れだったんですよ、あのジュンせんぱいの絵に』と文字を書き足しメッセした。
短大傍のカフェのテラスでひとり、ホットカフェラテの白いカップを口にする。
空を見上げる。真っ青に澄み渡る空に、群れを成して浮かぶいわし雲。
冷たい秋風が、あたしのライトブラウンのウェーブヘアを揺らす。
せっかく「綺麗になったね」と言ってもらいたくて髪型も変えたのに。どうもそういう事には鈍いジュンせんぱいには、想いがうまく届かない。
少しはフェミニストのサトシせんぱいを、見習ってくれればいいのに。
だから昔も、そして今も。あたしには、気持ちを伝える勇気がなかった。
あたしみたいなひよっこの後輩が、出る幕なんてどこにもない。
だってジュンせんぱいの心には、ずっとみおせんぱいが――。
そんな他愛もない悩みを、ミチルせんぱいには随分と聞いてもらった。
あの時、西川緑道公園の交差点で。ミチルせんぱいは自分がトイレを捜すのを口実に、あたしの内緒話を聞くため連れ出してくれたのだ。
順番待ちの行列で。すこし涙ぐみながら、秘めた想いを語ったあたし。
そんな実らぬ恋バナを、ミチルせんぱいはとても親身になって聞いてくれた。
「そっか。うん、わかった。あやちゃんの恋、アタシ全力で応援する」
ミチルせんぱいは、あたしの背中を優しくさすりながらそう言ってくれた。
京都で大学デビューをして、見た目も性格もとても変わったミチルせんぱい。
ああやって無理して関西ノリで、おちゃらけてはいるけれど。本当はとても仲間想いの優しい人だ。
この人が美術部の部長でよかった。あたしは心からそう思った。





