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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第三章  夏の花火と、ぼくらの色彩
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第十九話 グリーンロードの交差点で

『西川緑道公園』

 

 後楽園へと向かう桃太郎大通り。それと交差するような形で流れる西川沿いの緑道だ。市内中心部の「緑の回廊」と呼ばれている。

 公園内には約百種類の樹木約三万八千本が植樹され、春の芽生えから森林浴、秋の紅葉や草花の花壇など四季の移り変わりが楽しめるスポットだ。


 その交差点である西川橋交番前に差し掛かった時。

 僕と聡史の前を行くミチルと彩音の女子ふたりは、急に立ち止まった。


 彩音が何やらミチルに耳打をちしている。


「あの、ちょっとミチルせんぱいに相談があるんですけど」

「ん、あやちゃんなに?」

「ていうか、みんなの前ではちょっと……」


 彩音がチラと振り返りこちらの様子を伺う。

 ふたりは一体、何を話しているのだろうか。


 僕らが追い付くとミチルは振り返り、両掌をすり合わせた。


「ごめんサトシ、アタシちょっとトイレ行きたくなった」

「まったく。そういうのは、出発する前に済まして置くもんだろミチル?」


 聡史がぼやく。元来フェミニストな彼も、ミチルにだけは勝手が違うようだ。

 

「堪忍、かんにん。サトシにジュンくん悪いけど、ちょっとウチらその辺のコンビニにでも行ってくるから。ねえ、あやちゃん、ひとりじゃアレやから付いてきてくれへん?」

「え、あ、はい」


 ◇


 トイレを求めて川沿いへと消えて行った女子ふたり。

 聡史と共に西川橋の上で帰りを待っていたのだが、一向に戻ってくる気配はない。

 そんな折、LINEグループに『みお』からのメッセージがようやく届いた。

 

【みお】『ごめんね、みんな。お姉ちゃんがずっと傍に居られると、LINEの画面を開きにくくって』

【サトシ】『おつかれ織原さん。気にしなくてもいいよ、歩きスマホは危ないしね。しかも人ごみだし』


 聡史が優しくフォローを入れる。


【みお】『ありがとう佐山くん。恥ずかしい話なんだけど、わたしずっと引き篭もってて・・・みんなの他にLINEする友達なんていないから』


 ――僕だってそうだよ美緒。心の中でつぶやく。


【みお】『それに実は・・・さっきから知らない男の人たちに、しつこく何度も絡まれちゃって』

【サトシ】『おやおや、早速ナンパされたのかい?』


 聡史は、僕に向かってニヤリと笑った。


「流石は美人姉妹だよな。淳、心配だろ?」

「べ、別に」


 内心は、かなり動揺していた僕である。

 確かに美緒のお姉さんは、妹とよく似た顔立ちでかなりの美人だった。

 姉妹は年が離れていた。今では女盛りのアラサーの筈だ。

 聡史も葬儀の席で一度、顔を合わせている。


【みお】『あと、ごめん。実は・・・バッテリ切れそう』


 ごめんスタンプを押してくる『みお』

 僕は「ええっ、マジ?」っと口にした。


【みお】『バッテリもったいないから、花火が始まるまで電源切っとくね。じゃあ後で』


「――まったく、美緒のやつ。こんな大事な時になにやってんだよ」


 今度は僕がぼやいた。

 美緒は優等生だったが、昔から天然というか案外抜けているところもあった。

 漫画を書いていた時代の名残か、すこし空想癖があったのだ。

 

 怪我して入院したりと、不注意からくる事故が多かった。

 最終的には雨天の傘差し自転車でトラックに巻き込まれ帰らぬ人となった。

 そんな注意力散漫な性格が災いして、文字通りの致命傷となってしまったのだ。


 ◇


 それから待つこと一〇分弱。

 ようやくミチルと彩音が西川橋交差点に戻って来た。


「ごめんごめん。いやー、凄い行列でメチャ待たされたぁ!」

「ごめんなさい、ジュンせんぱいたち」


 僕は「まあ、いいけど」と言いつつも、内心すこしイラっとしていた。

 それにしても流石に長過ぎじゃないかと、きっと露骨に顔にも出ていた筈だ。


 これでは、せっかく並行世界の『みお』と同じ歩幅で目的地の後楽園まで歩もうという計画が台無しではないか。


 そんな僕に対して、背後から「まあまあ」と肩を叩く聡史。

 どうやら彼は女子ふたりのワケアリな様子を察したようだ。


 聡史は僕に耳打ちをした。


「まあ、女同士には色々あるんだろうさ」


 ◇


 人ごみで溢れる歩行者天国。辺りはすっかり薄暗くなって来た。

 出店も増え始めた。O県名産のB級グルメ『津山ホルモンうどん』や『ひるぜん焼きそば』の香ばしい匂いが漂う。

 僕の薄いお腹がぐるると鳴った。

 

 相変わらず女子ふたりは僕ら男子をほっぽらかして、後楽園へと向かい前へ前へと歩を進める。

 なにやらずっと話し込んでいる。きっとトイレの待合での井戸端会議の続きと思われるが、それにしても一体何についての話題なのだろう。


 並行世界で同じ目的地へ向かって歩いている筈の『みお』からの連絡も途絶えた。

 手持ち無沙汰な僕は、横の聡史に話し掛けた。

 

「それにしてもさ、天野さんほんと変わったよね」


 聡史が返事をする。


「それって見た目が? それとも性格?」

「もちろん、両方だよ」


「ああ。あの大学デビューのぶっ飛びキャラは、俺も正直引いたよ。でもさ」

「でも?」


「淳は知らないだろうけど。むしろ卒業前までの方が、よっぽどアイツらしくなくておかしかったよ」

「そうなんだ」


 三年前。親友の美緒を亡くし、しばらく情緒不安定な状態が続いたミチル。

 それは風の噂として、僕もすこしは耳に挟んでいた。


「外見に関しては、俺はとっくの昔から気が付いてたけどな。アイツは美人だよ」


 流石は中学時代からの長い付き合いである。


「実はな、淳。俺もミチルと、こうやって顔を合わせるのは卒業式以来のことなんだ」

「えっ、まじ?」


 僕は目を丸くして驚いた。実に意外だ。


「てっきり天野さんと聡史は、卒業してからも頻繁に会ってるとばかり思ってたけど」

「ああ、何だかちょっと気まずくてね」

「気まずいって、何が?」

 

 聡史が、ちいさくため息を付く。


「あと、これも淳は知らない事だろうけど。もう、時効だから言うけど」


 前へ前へと進むミチルの背中を、遠い目で見つめながら聡史は言った。


「俺さ、実は昔。ミチルに告白して振られてるんだよ」


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