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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第三章  夏の花火と、ぼくらの色彩
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第十八話 ぼくらの補色なグループ光彩

「ジュンもこの高校だったんだ。凄い偶然だね」


 美緒は一年半ぶりに対面する僕の顔を見て、懐かしそうに言った。

 

 聞けば織原家は父親の仕事の都合で、また春からK市に戻って来たのだそうだ。

 それを見越して美緒はうちの高校を受験し合格していたのだが、入学式の直前に怪我で足首を複雑骨折し、長らく入院生活を余儀なくされていたらしい。

 だからこの時期になるまで、部活は決めあぐねていたそうだ。

 

「中学の時と同じテニス部に入ろうかとも思ったんだけど、足も故障しちゃったし。それにわたし、ずっと心残りだったし……」


 それって。昔、色々あって絵を描くのを止めたこと?

 僕がそう問い質す前に、美緒はこくりと頷いた。

 

 ◇

 

 美緒は、すぐに美術部になじんだ。

 穏やかで人当たりがよい美人の彼女は、顧問や(特に男子の)先輩たちから評判がよかった。

 そして僕にも積極的に話し掛けてくれた。まるで空白の中学時代を埋め合わせてくれるかのように。

 

 僕の方も最初は照れくさかったが、一足先に入部して僅かながらに先輩だということと、一年生のエースポジションという優位な立場が幸いして、自然と会話を交わすようになった。

 美術部はようやく僕が見つけた居場所だ。ここなら昔のように僕らの仲を冷やかしたり、絵を描くことをオタクと揶揄するような下種な連中もいない。

 こうして僕らは、幼い頃のような関係を取り戻すことができたのだ。

 

 ◇


 美緒はミチルと気が合い、ふたりはすぐさま親友同士となった。

 僕の方は聡史と妙に馬が合い、同じく互いに親友となっていた。


 気が付けば四人でつるむようになった。

 ミチルが美術部のLINEグループを作ったのも、たしかこの時期だった筈だ。


 お互い男女の違いはあるにしても。人当たりのよい優等生な陽キャと偏屈で職人気質な陰キャ同士。そんな昔馴染みの組み合わせ。僕らはどこか似ていたところがあったのかもしれない。

 

 色を塗るときも補色といって、青と黄・赤と緑といった正反対の色を隣り合わせに配置すると、互いが際立ち綺麗に見える。美術部と言う真っ白なカンバスの中、僕らの色彩はそんな感じで描かれて行った。

 

 ◇

 

 僕らは互いに、人物デッサンのモデルになったりもした。

 もちろん高校生らしく健全に着衣姿でだ。

 

 美緒をモデルに描いた僕のデッサンは、合評で顧問や先輩たちからかなりの高評価を得た。

 まあ僕の腕と言うよりは、美形なモデルが良かったからに違いはないのだが。


 その絵は、美大に進学した歴代の先輩方が描いたヴィーナスやマルスの巧みな石膏デッサンと並び、美術室の後方壁の目立つところに飾られることになったりもしたのだ。


「ちょっと恥ずかしいけど、素敵に描いてくれてありがとうジュン」


 美緒はすこし照れくさそうな顔をしながらも、とても喜んでくれた。

 

 ◇

 

 運動の方は身体を故障しテニスも断念した美緒だったが、相変わらず頭は賢く成績優秀だった。

 だから従来、部活は勉強の片手間で幽霊部員コースの筈なのだが。彼女は比較的、真面目に部活動に取り組んでいた。


 ミチルのように美大受験を志しているわけではないとは言っていた。

 なのにどうして、美緒は美術部に入り浸るようになったのだろうか。

 

 思うに、下種な勘繰りではあるが彼女だって年頃の女の子だ。

 もしかしたら美術部の誰かのことを、密かに好きだったのかもしれない。


 その相手はきっと、幼馴染の親友であるイケメン優等生の聡史に違いない。

 聡史にしたって、気のある相手は昔馴染みの親友である正統派黒髪美少女の美緒なのだろう。


 部活は片手間な筈の優等生ふたりが、暇さえあれば地味で薄暗い美術部へと足を運ぶ理由。それですべての説明が付く。


 美男美女同士で、お似合いじゃないか。

 彼女は高嶺の花。絵を描く以外になんの取り得もない自分には不釣合い。

 だからそう考えるのが自然なんだと、僕は心の中で何時も自分に言い聞かせていた。

 

 ◇


 翌年の春、僕らは高校二年生に進級した。


 僕をライバル視していたミチルも、その頃にはめきめきとデッサンの腕を上げ、合評でも僕と評価が拮抗するようになった。


 流石に本気で美大を目指している人間には、熱意の面でかなわない。

 内心、このまま追い越されるのも時間の問題だろうと感じていた。


 ミチルはこの春から新しい部長に任命された。

 彼女は生真面目で仕切り屋なところがあった。加えて皆が認める頑張りが高く評価されたのだ。

 

 新入生も数名入部して来た。だけど大半は例によって内申ノルマ目的の幽霊部員。そんな中で川瀬彩音だけは僕らを慕い、よく懐いてくれた。


 美大進学志望かと思いきや、そういうわけでもないらしい。

 おそらく素敵なイケメンエリートの先輩である聡史に、ひと目惚れでもしてしまったのだろう。


 そう、まるで美緒と同じパターンだ。実際このふたりは妙に似ているところがあった。彩音はそんな美緒の事を、高校生活のお手本として姉のように慕っていた。


 こうして僕らの美術部LINEグループに可愛らしいアイコンが加わり、メンバーは現在の五人となったのだ。

 

「ねえせんぱいたち、夏はみんなで花火大会に行きませんか?」


 無邪気な後輩の提案に、高二の僕らは満場一致で賛成した。


 実はその前年の高一の夏も、美術部のみんなで行こうと計画していた。

 だけど、その年は未曾有の『西日本豪雨』と呼ばれる大水害があり、従来は『晴れの国』であるO県全域に甚大な被害をもたらした。

 結果、県下の花火大会は残念ながらすべて中止となってしまったのだ。


「来年こそは、ぜったいに行こうね」


 当時の美緒は残念そうに、何度も僕に向かって言っていた。

 だから新入生の彩音を交えた夏の花火大会を、みんなで心待ちにしていた。

 

 だけど――。

 

 七月七日の七夕の夜、美緒の事故死という最悪の一件があり、その計画も虚しく流れてしまった。

 つまり今宵はみんなにとっての、様々な想いの詰まった待望の花火大会なのである。


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