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パラレルラインの彼方の君へ  作者: 祭人
第二章 パレットの中の記憶
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第十五話 同じ夜空を

「ジュンせんぱい、さっきから黙りこくって。なに難しい顔してるんですか?」


 横席の彩音が僕に話し掛ける。


「……え? ああ、ごめん」


 ふと我に返る僕。

 

「ずっと窓の向こうを見てましたよね」

「あ、ああ」


 すこし不安げな表情で、僕の顔を上目使いで覗き込む。


「やっぱり、みおせんぱいのことを考えていたんですか?」


 内心、図星だったのだが。


「別に、そんなんじゃないよ」


 僕は、なるべく平静を装いコーヒーを啜った。


「せんぱいの、そのクールで掴めない横顔。あたし嫌いじゃないですけどね」


 対面席の聡史がくすりと笑いながら、LINEグループで状況報告をする。


【サトシ】『――とまあ、さっきからそんな調子なんだよ淳のやつは。ほんと、そういうとこ相変わらずだよな』


 ここには居ない『みお』とミチルに向けてのメッセージ。

 そう、僕らは現在。前回と同じくK駅前のファミレスに集合しているのである。


 早速、元部長からの返信。


【ミチル】『そやよ。相変わらず素直やないんやから。愛しのみおちゃんが帰ってきて、ほんまはジュンくんが誰よりも一番嬉しいくせにさ』


 それを読んで、ぽっと顔が赤くなる僕。

 素早く、言い訳のメッセを送る。

 

【ジュン】『別に』

【ミチル】『まあ、そう照れなさんなって星野クン。まさに現代の織姫と彦星やん? お互いに死に別れた筈の幼馴染のふたりを、きっと天の川の神さまが引き合わせてくれたんよ。そう考えた方がなんかロマンチックやない?』


 公衆グループの面前でそういう発言は止めて欲しい。

 僕はますます赤くなった。


【ミチル】『さしずめアテクシ天野ミチルちゃんは、ふたりを繋ぐ天の川の天使キューピッドさま? なんちって♪』

【あやね】『えー、ミチルせんぱい。それいうならあたしだって、川瀬彩音で天の川ですよ?』


 僕はちらと横を見た。

 スマホ片手に、ミチルのおちゃらけトークに絡む彩音。

 手元を見つめる彼女の横顔は、何故だかすこし切なそうな色を浮かべていた。


「ふふっ。また例のノリに突入しそうだな、淳?」

「ああ。まったくやれやれだよ、聡史」


 恒例の女子会グループトークが繰り広げられ、それもひと段落した頃。

 元部長のミチルが僕ら旧美術部メンバーに、こんな提案をした。


【ミチル】『ねえねえ、今年の夏はみんなで花火大会に行かへん?』


 空かさずスタンプで反応する聡史と彩音。


【あやね】『○』

【サトシ】『○』


【ミチル】『アタシも今年は帰省するからさ。もちろん、みおも一緒やよ。そっちの世界で同じ夏祭りの花火大会に行って、同じ時間に観るんやよ。ウチらと楽しくLINEトークしながらさ、みんなで同じ夜空を見上げようよ』


【あやね】『さんせー! ミチルせんぱい、大賛成です!』

【サトシ】『いいね。ナイスアイデアだよミチル』


【ミチル】『みお、それにジュンくんも。もう可愛い部員たちに、寂しい思いはさせへんよ』


 仕切り屋な部長の優しい気遣いに、目頭がじわりと熱くなる。

 僕はふたりに悟られまいと、カップを握り席を立った。

 そのままドリンクバーのコーナーへと向かう。


 カップに注がれるコーヒーを前に、僕はそっとLINEのスタンプを押した。


【ジュン】『○』


 すぐさま『みお』から書き込みがあった。

 それは、この日始めてのことだった。

 

【みお】『ミチル、それにみんな。ありがとう・・・本当にありがとう』


「美緒……」


 そして彼女は、皆への返事をスタンプで締め括った。

 

【みお】『○』


 ◇


「次回の集会は再来週の夏祭りだな。じゃあみんな、俺はここで」


 K駅の改札前で、聡史が僕と彩音に手を振る。


 実は先ほど、ファミレスを出た直後。彩音が「ジュンせんぱい。せっかくなんでついでに駅前の美観地区に行って見たいです」と急に言い出したのだ。

 それで地元K市民である僕は急遽、彼女の観光案内役を請け負うはめになってしまったのである。

 

「はい、さよな――あ、サトシせんぱい。その前に、ひとついいですか?」

「何、川瀬さん?」

「せんぱいって情報系っていうかコンピュータに凄く詳しいですけど。そういえば大学でどんな研究をしているんですか?」


 そういえば詳しいことは何も聞いていなかった。僕も気になる。

 すうと一呼吸置いた後、彼は言った。

 

「一応、専門だからね。俺が専攻してるのは、理工学部の知能工学科だよ」

「知能、工学……ですか?」

「ああ、そこで人工知能――AIのシステム開発をしているんだ」


(次章へ)

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