集団面接から始まる異世界生活
「貴方は死にました」
俺は死んだらしい。
俺に死を告げたのは、目の前に座る女性だった。
「心残りもあったでしょうが、亡くなった貴方には仕事があります。それは異世界で魔王を倒すための冒険を始めることです」
女性は白髪に白スーツ、白い肌と全身を白で統一されていた。
周囲の真っ黒な空間もあって女性の姿は目立って見える。
童顔なのか、見た目はかなり若かった。
だが、その目つきの鋭さから、女性が見たままの年齢で無いことは予想がつく。
「私の名前はイベリス。貴方の……いえ、貴方がたの今後を見定める役目を携わった者……」
……ん? 貴方がた?
俺はイスに座ったまま、自分の左右を見渡す。
すると、そこには同じように左右を見渡す人間の姿があった。
「貴方がた五人の中から一人だけが、異世界への生活を手に入れることが出来ます。皆さん精一杯、自分の長所を私にアピールしてみてください。これは……面接、そう集団面接です。残りの四人は地獄に落ちるので悪しからず」
マ……マジかぁぁぁぁぁぁぁ!?
俺が集団面接!?
で、出来るかバカ野郎! こちとら引きこもり中の高校生だぞ!
他の四人も驚いていたが、素早く立ち直った一人が手を上げる。
「私からいっても良いカ?」
手を上げたのは背の高い黒人だった。
長い手足が特徴の若い男性だ。
「どうぞ」
イベリスは満面の笑顔でそう言う。
「どうモ。私の名前はマイケル……マイケル・トードー。私は走ることが得意ダ。生きていた頃はアスリート選手で、オリンピック出場経験もある。私を転生させてくれれバ、その足の速さを生かし――」
ポチッ。
「え?」
突然、マイケルの足元に丸い円が空く。
マイケルはイスもろとも落ちていく。
「ノォォォォォォォォォォォォォォォ!?」
マイケルゥゥゥゥゥゥゥ!
気が付くとイベリスの手にリモコンらしきものが握られている。
イベリスが再びリモコンのスイッチを押すと、マイケルが落ちていった穴が閉じる。
俺たち四人はごくりとつばを飲み込んだ。
「足の速い人なんて向こうにも沢山居ますよ。そういうことじゃなくて、もっとこう……魔王を倒せる特徴が良いですよね」
イベリスはやれやれと首を振る。
俺たちの間に緊張が走る。
緊張で俺が動けない中、次の一人が手を上げる。
「次は……俺が良いかな?」
手を上げたのは、スーツ姿の白人男性だった。
三十代くらいでどこか落ち着いた雰囲気がある。
「どうぞ」
イベリスはニコリと笑う。
「どうも。俺の名前はバルトルト・アーベル。ドイツで会社を経営している。俺の特技は……金融業、金を増やすことだ。俺の――」
ポチッ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
バルトルトォォォォォォォ!
バルトルトの落ちた穴が塞がっていく。
「商人なら向こうにも居ます」
い、いやいや、いやいやいや。
こ、この女……人の話を最後まで聞かねえ。
俺はヘタな事を言うと次は自分の番だと思い、何も言えずに固まった。
すると、次の一人が手を上げる。
「…………」
その男は巨躯だった。年は四十代くらいか。
無言で手をあげるその男は真っ直ぐにイベリスを睨んでいた。
俺はその男の雄姿に勇者の素質を見た。
「どうぞ」
イベリスは冷ややかな笑いを浮かべて、そう呟く。
この女を相手に下手な事を言えば先の二人の二の舞だ。
いったい何を言うんだ……。
「俺の名前は、ヴェネジクト・コヴァレフスキー」
ごくり。
「俺は異世界生活とか別にいいんで、地獄でも良いからさっさと送って――」
ポチッ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ヴェネジクトォォォォォォォォ!
ヴェネジクトの落ちていった穴も閉じていく。
俺はしばらくの間、穴のあった場所を見ていた。
「……なんで」
俺は自分でも不思議だったが、口を開き、声を出していた。
下手な事を言えば先の三人の二の舞になる。
だけど……言わずにはいられなかった。
「なんで……そんな簡単に、人を地獄に落とせるんだよ! お前はロクに話を聞いていないじゃないか! そんなんでアイツ等の何が分かるって言うんだよ!」
「マイケルさんは強盗、バルトルトさんは妻殺し、ヴェネジクトさんは強姦の罪で地獄送りです」
沈黙が流れる。
「ちなみに貴方は引きこもり、怠惰の罪です。それから貴方は暇つぶしにネットサーフィンがてら、あちこちの掲示板を荒らしていますね。その時のハンドルネームは『鋼鉄のシュークリーム』。随分、変わった名前ですね。『鋼鉄のシュークリーム』さん」
「いやぁぁぁぁぁぁ! やめてぇぇぇぇぇぇぇ! 俺の恥ずかしい過去をバラさないでぇぇぇぇぇぇ!」
俺は頭を抱えて、うずくまる。
隣に座っていた男が、イスをずらし、俺から距離を取る。
やめて! 俺が何をした!?
「次は、私が良いですか?」
最後に手を上げたのは、俺から離れていった男性だった。
「どうぞ」
イベリスは微笑む。
俺はうずくまって泣いていて、それどころではなかった。
いいんだ……どうせ俺なんて……。
クラスの連中にハブにされて、引きこもってからロクなことがない。
死因も大好きな饅頭を喉に詰まらせてだったし……。
「私の名前は若林猛。大学生です。私は……人よりも運があります」
「ほう?」
イベリスが面白そうに肩眉を吊り上げる。
「じゃんけんをすれば負けなし、クジ引きなら大当たり、宝くじを買えば高確率であたりを出す。この幸運を使えば、冒険者仲間にも恵まれ、王族とのコネもでき、貴重なアイテムもゲットし、きっと……魔王を倒してみます!」
「おお」
イベリスが拍手する。
「確かに運の高さというのは重要かもしれませんね」
「だろう?」
「今回は君で決まりですかね……では、いらない人は地獄送りにしますね」
イベリスはリモコンを構える。
俺はドキッとして、うずくまりながらイベリスを見上げた。
「さようなら」
イベリスはそう言うとリモコンのスイッチを――
その時、イベリスが動きを止めた。
顔が小刻みに震える。
やがて……。
「ハックション!」
ポチッ。
「え?」
若林の足元に丸い穴が開く。
若林はイスもろとも落下していく。
「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
若林ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
「…………」
俺とイベリスの間に沈黙が流れる。
冷や汗を浮かべるイベリス。
俺でも分かる、やってしまった顔をして固まっている。
どれだけの時が過ぎたのか……こほんと咳をするイベリス。
「おめでとうございます。異世界行きのチケットは貴方のものです。『鋼鉄のシュークリーム』さん、貴方の行く末に神の幸があらんことを」
「……え?」
「あちらの世界では言葉が通じないなどの心配はありません。脳に強制的に覚えこませますので。それと貴方の地獄行きの原因になった怠惰については、異世界生活では行えないように脳を弄ります。それでは準備は良いですか?」
俺は露骨に慌てた。
「ちょ、ちょっと……待ってくれ……」
「なんですか? この後も面接の予定があるので手短にしてもらえませんか」
「その……俺は生きてるときは、引きこもりの高校生だったんだ。いきなり異世界生活? それに魔王を倒せとか言われても、その……困る」
俺は包み隠さず、本音で話した。
「異世界生活なんてやっても、人と話すのとか苦手だし……仲間とかもできるわけないし……俺なんて……どうせ、すぐにモンスターに殺されて、あの世行きだよ……」
「ふむ」
イベリスは何やら考え込む。
「意気揚々と掲示板を荒していた貴方らしくない発言ですね、『鋼鉄のシュークリーム』さん。良いでしょう……貴方を本来選ぶ予定はなかったですし、私も少し責任を感じないわけではないです。貴方には、能力を一つプレゼントします」
「の、能力……?」
「ええ。その能力を使えば、まぁ……最初は何とかなるでしょう。あとは貴方の頑張り次第です」
俺の体がふわりと浮かぶ。
俺は慌てて手足をジタバタするが、どんどん体は上空に浮いていく。
見下ろすと、イベリスがこちらを見上げて拍手している。
「それでは期待せずに待っていますよ、『鋼鉄のシュークリーム』さん」
「ちょ……俺の……」
やがて俺の体は空高く舞い上がっていき、視界が白に染まる。
「俺の、名前は――」
次の瞬間、目の前には中世を思わせる街並みが広がっていた。
道行く人々の恰好も中世の西欧を連想させる。
レンガで舗装された道の上を時折、馬車が走っていく。
道の両端には出店が並び、店長と思わしき人物が活気の良い声を張り上げている。
俺はその光景を見下ろしていた。
俺の居る場所は、それらの光景を見渡せる建物の屋上だった。
「斎藤和希……」
俺の呟きを受ける相手の姿はそこには居なかった。
俺は目の前に広がる光景に圧倒されていた。
「本当に……異世界なのか……?」
俺は空を見上げながら、出会ったばかりで分かれた四人の名前を心の中で呼ぶ。
マイケル、バルトルト、ヴェネジクト、若林……俺、本当に異世界に来たんだ。
目を凝らせば、上空の雲の向こうで笑っている四人が見えるようだ。
「貴方、転生者ね」
俺の後ろから、俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺は振り返る。
すると、目の前には俺と同世代の女の子がいた。
ロングの金髪に金色の瞳、白い肌をしている。
幼げの残る顔立ちの美少女だが、凛とした目つきに甲冑姿から、ただの町娘でないことは分かった。
「付いてきて」
「……あ……えと」
俺は言葉に詰まる。
リアルで女の子と話すなんて久しぶり過ぎて、どう話したら良いのか……。
イベリスの時は自分でも何だか分からない内に話していたけど、俺は本来、引きこもりだ。それもクラスの連中からハブにされて。
俺はどう話せば良いのか分からずに、しどろもどろになった。
「あ……あ……えと……」
「……?」
女の子は首を傾げる。
「喋れないの?」
「しゃ……喋れます……」
俺は自分は喋れないと人に思われる程、挙動不審だったかと思い、慌てて口を開く。
「そう、なら早く付いてきてよ」
「あ……はい……」
俺は何とか肯定の返事を紡ぎ出す。
女の子は俺の返事を聞くと、踵を返して屋上を進み、階段へのドアを開ける。
「こっち」
それだけ言い残してドアの向こうへと消えていく。
俺は誰も居なくなった屋上に一人取り残された。
ごくり。
俺は急に寂しくなって、急いでドアを開けた。
ドアを開けると階段の踊り場で女の子が待っていた。
「こっち」
そう言うと、下の階に降りていく女の子。
俺は女の子の後を追いかけて、すぐ後ろを歩いた。
俺は建物の中を興味深そうに見物した。
かなり古い石造りの建物だ。
廊下には左右にドアがあり、いずれも閉まっている。
女の子はその内の一つに俺を案内する。
「ここ」
そう言うと、部屋のドアをノックする。
「エルヴァスティです。転生者を連れてきました」
女の子はドアの向こうに向かって声を上げる。
するとドアの向こうから若い男性の声が答える。
「どうぞ」
エルヴァスティと名乗った女の子はドアを開け、中に入るように俺を誘う。
俺はエルヴァスティの開けたドアを潜る。
部屋の中には大きな窓が一つ。
窓の前には机があり、一人の男が座っていた。
さらに部屋の中央にはイスが五つある。
「さぁ、中に入って」
男にそう言われて部屋の中に入る。
エルヴァスティはドアを閉めると、ドアの横に休めの姿勢で立っている。
俺は五つあるイスのうち、空いている左端のイスに座る。
残り四つは先客で埋まっていた。
「これで今日の転生者は全員揃ったね。では……」
男はおもむろに口を開く。
「集団面接を始めよう」
またかよぉぉぉぉぉぉぉ!
ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!
俺は頭を抱えた。
どうやら、異世界での生活は俺の思った以上に困難なようだった。
以上、集団面接から始まる異世界生活でした。
昨日、寝る前に集団面接から始まったら面白そうと、思いついたネタでした。
でも書き終わってから思ったけど……既にありそうなネタでしたね……。
次回作はファンタジーで十五話くらいで終わるのを構想中です。
それではノシ