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(5)取り戻しに来ました


女王は魔女へ変装すると、弁当を持って家を出ていきました。行き先は勿論、白雪のいる小人のおうちです。

家の鐘を鳴らすと、橙色の服を着た子が出てきました。末っ子のみかんです。


「だぁれ?」


「こんにちは。近所の優しいおばあさんですよ」


「うちのまわりにはどうぶつさんしかいないよ。さよーなら」


ピシャリと扉を閉めてしまいました。

女王は周りを見渡して「それもそうね……」と呟いた後、少しだけ化粧を変え再び鐘を鳴らしました。


「どなたですかー?」


今度は青い服の子が出てきました。五女のあおいです。


「こんにちは。ちょっとおうちの方に用があって来たんだけど……」


「ママたちまだかえってきてないよ?」


女王はその言葉を聞き、天を仰ぎながらガッツポーズをしました。これなら、全員眠らせなくても白雪だけ呼んでお持ち帰りできます。


「あら、そうなの?それじゃあ、一番大きな子を呼んできてくれる?」


「おばあさんのガッツポーズ、とってもなめらかなきょくせんをえがいてたね!なんかスポーツやってたの?きんにくある?」


「よく分からないけどスポーツはやってないわよ。いいから大きな子呼んできてちょうだい」


「ちょっとまっててね」


あおいが家の中に戻って少しすると、玄関に赤い服の子が顔を出しました。四女のあかねです。


「なーにー?」


「いや、なーにーじゃなくて……私は一番大きい子を呼んだのよ?」


「あのね、わたしはね、お姉ちゃんよりもしんちょうが大きいの!だからいちばん大きな子なの!」


えっへん、とでも言うように胸を張る姿に少し落胆しながら、女王は諦めずにあかねに話しかけました。


「そうじゃなくて、えっと……姉妹以外の人も含めて、このおうちの中で一番大きな子を呼んでくれるかしら?」


「わかったー」


あかねが戻ると、少しして今度は紫色の服を着た子と藍色の服を着た子が出てきました。三女のしおんと、次女のあいかです。


「あかねが「一つ上の人よんでって言われた!」って言われたんですけど……どなた様ですか?」


「私達に何か用ですか?」


すごく不思議そうな顔をする双子に女王は頭を抱えました。


「あーもうごめんなさいね!私ね、このおうちにいる方の中で、一番年上の子を呼んでほしいのよ!」


「え、何で?」


「お姉ちゃん呼んでくればいいの?」


「いやまって違うもう小人はいい!わかった!!小人さんじゃない人呼んできて!家にいるんでしょ!?」


2人はすごく怪しむ表情を見せながら、家の中に戻っていきました。



「あらぁ〜アタシにお客さんって本当かしらぁ?」


「いやなんでネズミが出てくるのよ!?喋ってるのよ!?そして女装してるのよ!?!?」


サブ子が出てきたことにより、女王の我慢は限界に達しました。


「え、おばあさん誰?俺の知り合い?あと見た目のわりに声若い?」


女王はコホンと咳をして、声を出来るだけ低く、そして内容はストレートに言うことにしました。


「……あなたの知り合いじゃあないわ。私は、白雪さんという方に会いに来たのだけど」


「白雪ね、わかった。白雪の知り合い?」


「白雪さんというより、白雪さんのお父様の知り合いですわ」


「あー、王族とかでの知り合いか。おっけー呼んでくる」


流石に「女王です」とは言えないので、女王は黙って首を縦に振りました。それを見たサブ太郎はくるりと家の中に入っていきました。

そして、ついに女王の待ち焦がれていた存在が現れました。


「こんにちは、白雪だよ。えっと……あなたは?」


あああ白雪ちゃん探してたのやっと見つけたわ心配してたのよそれといますぐ肌着を嗅がせて頂戴……そう言いたくなる気持ちをぐっとこらえて、おばあさん役に徹します。


「こんにちは。私はお父さんの知り合いだよ。白雪が小さい頃に、何度か会ったことがあるんだけどねぇ……」


「うーんと……ごめんなさい、忘れちゃった」


「ふふふ、そうだろうねぇ」


困ったように笑う白雪の可愛さに悶絶しそうになりながらも、女王は本来の目的を思い出し鞄の中に手を入れました。


「白雪ちゃん、今お父さんとお母さんがおうちにいないのでしょう?ご飯どうしてるかしらって心配になって、1人分だけお弁当を作ってきたの。食べてくださるかしら?」


そう言ってタッパーを取り出しました。密閉された蓋を開けると、中からカレーのような何かが出てきました。不思議な色をしています。


「ありがとうございます。でも、今お腹いっぱいで……」


先程まで女子会をしていた影響でしょうか。白雪のお腹の中にはもう入るスペースがありません。


「そうかい……それじゃあ、一口だけ、食べてくれるかい?味の感想を聞きたいの」


「分かりました!」


白雪はスプーンで掬って、カレーのような何かを口の中に入れました。


「あ、美味しいっ!思っていたよりも甘くて……これは、りんご味かな?」


「そうよ、りんごの甘く煮たものだからね」


カレーでは無かったようです。白雪はスプーンで掬って、女王の方に差し出しました。


「とても美味しいお料理、ありがとうございます。最後まで食べられなくて、とても残念です。でも、おばあさんのお食事には付き合いますね」


「(し、ししし白雪ちゃんとの間接キス……!?!?)」


女王は差し出されたスプーンを口に入れました。なんとも幸せな気持ちに包まれました。


そして、女王は大切なことを忘れていたのです。


「……ふわぁ……ごめんなさい。私、なんだか眠く……」


「おや、しまった。私まで眠く……」


2人は、その場に倒れてしまいました。

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