ゴールドドラゴン
中は見た目よりも広々としていて、木の良い香りがしている。
長方形のテーブルに四つの背凭れが付いた椅子が中央にある。ナイルの隣に私が座り、向かい合う様にお師匠さんが座った。
「こんの馬鹿者!! 一人でドラゴンを相手にしようなど言語道断!!」
「は、早く師匠に認めてもらって、ギルドで稼いで、師匠に恩返しをしたかったんだよ……生活だって楽にしてあげたかった……」
「私はまだお前に養ってもらうつもりは無い。そんな考えは捨てろ。ナイル。強くなる前に死ぬぞ」
「……はい。浅はかでした」
項垂れるナイルの様子に反省の色が見えると師匠はため息を吐き、私に向かい直した。
「アイと言ったか」
「はい」
「私はここの家主であり、こいつの師匠をやっているミール・ドーエンだ。先ほどは命の恩人だと知らず、刃を向けてしまい申し訳ない」
「いえ。こんな森の中に知らない人が居れば警戒するのは当たり前ですから」
「時にアイ……顔を見せてはくれないのか?」
「え?」
ミールは何を言っているのかと思ったが、窓に写った自分の姿を見て理解した。私はローブに付いたフードを深く被っていたのだ。
普通ならば気が付くが、何故私が気が付かなかったのかというと、フードを被っていても視界良好だからだ。フードを被っていても視界が遮られない様にという神様の配慮だろう。私はフードをそっと外した。
「ほう……声と体格からある程度は予想していたが……」
私の顔を見た二人の反応がいまいち分からない。ナイルに関しては口が開いたままだ。
「この辺の出身では無さそうだな」
「そうなんですか? 記憶が無いので分からないんです」
「記憶が無いのか?」
「気が付いたらあの森に居ました」
「そうか……」
ミールは黙り込むと眉を寄せ何やら深刻な顔をしている。
「……アイ。酷な事を言うがあくまで可能性の話だ。それを踏まえて聞いて欲しい。私の経験上、森に一人で居る者は親に捨てられたか、事件事故に巻き込まれたケースが多い。アイは記憶が無い様だが、もしかすると記憶を消さなければならない事が起き、そしてアイはここへ放り投げられた。……多分、親に捨てられたんだろう」
「捨てられた……」
可能性の話しとは言っているが、親に捨てられたという部分だけは事実だ。だからなのか、見当違いな考えを言われても自然な態度で居られる。
「アイはこれからどうするんだ?」
黙り込む私に気を遣ったのか、ミールが声のトーンを上げて言った。
「どうしましょう……何もわからないので、大きな街にでも行こうとは思っていますけど」
「そうだな。記憶が消されたのは魔法でなのか、あるいはショックで一時的に消えているのかを専門家に見てもらわなければならない。道がわからないのであれば私が街まで送ろう」
「ありがとうございます」
ミールが街まで送ってくれるという事で話がまとまった時、それまで黙っていたナイルが口を開いた。
「師匠。俺、助けてもらったお礼がしたいんですけど、アイには泊まって行って貰ったらどうですかね?」
「え、そこまでして頂くのは悪いですよ……」
「アイは少なくとも俺よりは強いと思う。でも、何もわからない事程怖い物は無い。こんな状態で街に一人で居たら、身の危険を感じる事も難しいかもしれない。だから師匠、お願いします!!」
頭を下げるナイルの隣で、私は何も言えず黙って居た。暫らくしてミールが口を開いた。
「良いじゃないか、私は構わないよ」
「でも……どこの誰かも分からない私を泊めるなんて、危険だと思わないんですか?」
「ん? アイは自分が危険人物だと言うのか?」
神様と同じ力を持っている私は、ある意味危険人物だと思う。
「なぁアイ泊まれよ! な? 金も持って無いんだろ?」
何故ナイルは私を泊めるのに必死なんだろう。何か裏があるのかなって変に勘繰ってしまそうだ。
「確かに無一文です。さっき倒したドラゴンしか持ってないですね」
「ふむ、ドラゴンか。何のドラゴンだ?」
何の、という事はドラゴンにも色んな種類があるのか。自分には分からないので、ナイルに任せる為視線を送る。
「あのーですね」
「早く言いな」
「……金ドラです」
気まずそうに言うナイルに対し、ミールは動きが止まってしまった。
「もう一度聞く。何の、ドラゴンだ?」
ナイルが教える事を渋るので、自分で言おう。
「金ドラと言いましたが……金ドラって凄いんですか?」
「……ああ、様々な種類のドラゴンの中でも強い部類に入るが……本当に金ドラか?」
「あ、出しますか?」
「頼む」
「分かりました」
家から出て広場に向けて手を前に突き出し、先程の片付けたドラゴンを思い浮かべ魔力を込めていく。すると光の粒子が手から放出され、ドラゴンが一体形成された。
「……何だこれは」
ミールが驚いているがドラゴンに驚いているのか、私が使った魔法に驚いているのかは判断出来ない。そんなに光の粒子は珍しいのだろうか。
まだ魔法は神様の物しか見た事が無い為、一般的な魔法も見てみないといけない。この光の粒子は魔力そのものだ。魔力が凝縮された小さな塊だから目に見えるのだと思う。
「このドラゴンは金ドラですか?」
「ああ、間違いなく金ドラだが……」
初めての魔物が金ドラゴンだなんて、運が良いのか悪いのか解らない。これも神様に報告しよう。……見ているから言わなくても良いのだろうか? でもとりあえず後で連絡しよう。
「なぁアイ、一つ提案があるのだが」
「何ですか?」
「……明日、ギルドに行ってみないか?」
「ギルド?」
「まじで!? やった!!」
ギルドが何か分からないが、ナイルが喜ぶという事は楽しい所なのかな。
「ナイル、何を喜んでいる。反省はしていないのか?」
「え……やっぱり、俺はダメですか……」
「まぁ、お前ももう16になる。ギルドに登録してたくさんの経験積みなさい」
「師匠……!!」
目を輝かせるナイルを微笑ましそうに眺めるミール。感動の場面の様だが、あえて私は空気を読まずに間に入る。
「ギルドって何ですか?」
「あ……そうか、記憶を失っているんだったな。ギルドというのはまぁ、様々な依頼や人が集まる場所だ。依頼を受け達成し、報酬を得て生活をする者が殆どだ。もしかしたらアイの情報もあるかもしれんしな」
「アイの記憶も戻る手立てが見付かるかも」
「ん……成程……」
嘘も方便とは良く言うが、嘘を吐く事は辛い。
「さあ、夕飯の支度をしよう。ナイル。お前は薪を割りなさい」
「はい……」
夕飯抜きと言われたからかナイルの元気が一気になくなった。その様子にミールは溜息を吐いた。
「今回だけは見逃してやろう」
「師匠!!」
「二度と無茶な考えも行動も起こすなよ」
「はい! 薪を割ってきます!」
夕飯が食べられると知ったナイルは、意気揚々と薪を割に外へと出て行った。
「本当に分かったのか不安だがな……。さて。アイにも色々手伝って貰おうか。命の恩人でも働かざる者食うべからずだからな」
「はい。じゃあまず何をしましょうか」
「そうだな……近くに川があるから、そこの野菜を洗って来てくれるか?」
腕を組み何を作ろうか悩んだミールは、籠に入った少し泥が付いた野菜を指差した。
「わかりました」
野菜の入った籠を抱え川へ向かう。背中に突き刺さるミールの視線が少し痛い。確かに命の恩人と言われたら歓迎するしか無いが、こんな山中にぽっと現れた記憶の無い人間は怪しまれて当然だ。
私の家族が命の恩人と言って連れて来た人が、たとえ記憶喪失だとか言われても泊めたりはしない。怪し過ぎるから。
多分ミールはいつでも私を殺せる用意が出来てるんだろう。変な行動をしない様に自然にと心掛けつつ、頼まれ事を済ませ、それからミールと夕飯の支度を進めた。
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