疑念
元々一つでしたが読みやすさの為二話に分けました!
疑念の目を剥ける少年に何と返せば理解してくれるのか考えていると、彼は言葉を続けて言った。
「ドラゴンを消し去ったのか?」
「えっと、収納部屋……収納空間? っていうのに送っただけです」
「空間……ボックスか? それにしたってあんなやり方は初めて見た。……ドラゴンをどうやって殺した?」
「剣で切っただけです」
どうやって殺したのかを考えると頭に次々と詳しい情報が湧いて来る。正確には魔力の根源を断ち切ったらしい。それに加えて物理的にも首を斬ってしまった。
自分が持っているヒーローの剣を見せると、少年は不思議そうに見ていた。もしかしてこの世界にはこんなに派手な武器は無いのかもしれない。少年は私から距離を置き離れた。
「あんた名は?」
「名前……ああ!!」
喉に小骨が引っかかっている感じがあったのだが、何か忘れていると思えば自分の名前だった。この地域の名前は日本風だろうか。だがしかし目の前の少年の見た目からすると海外の様な気がする。先に少年の名前を聞いてから答えよう。
「魔力も尽き、ドラゴンに殺されるのも時間の問題だった貴方は、仮にも命の恩人である私にお礼の一言も言わず、更には自分は名乗らずに私に名を名乗れと言った」
「な、何だよ……」
「それって人としてどうかと思うんですけど」
図星をつかれた少年は何も言い返して来ない。そして少し間を置いて少年が口を開いた。
「そうだな……混乱していたとはいえ、助けてくれた人に対して失礼な態度だった。すまん」
そう言って頭を下げる少年。根はしっかりとした人なのかもしれない。
「俺はナイル・ドーエンだ。ナイルと呼んでくれ」
金髪の少年、ナイルの名前を聞き日本の名前の言い方では更に怪しまれる可能性が浮上した。特に苗字は珍しがられそうだ。取り敢えず下の名前だけ答える事にしよう。
「私はアイです」
「アイか、家名は? あー……いや、まぁ良いや。さっきは助けてくれてありがとう。アイが居なかったら俺は死んでた」
「何で一人でドラゴンを倒そうとしてたんですか? 失礼ですけど、一人で倒せる相手じゃなかったですよね」
「本当に失礼だな……俺は今修行中なんだ。師匠を認めさせるには、ドラゴンを一人で倒せる程の力が無いとダメで……」
「だから一人で?」
ナイルは罰が悪そうに頷いた。
「そんな無謀な事をしていたら、その師匠に認められる前に死ぬと思う。毎日欠かさずこつこつと経験と努力を重ねれば、必ず力は身に付く。だから一気に力を求めても無駄だと思います」
私の場合は論外だが。ただ、まだ魔法の使い方や戦闘面での立ち回り方も色々と解らない事だらけな為、ゼロからのスタートだと考えなければいけない。
「……俺は焦っていたのかもしれないな。あーあ、また師匠に怒られる」
ナイルは叱られる様子を思い浮かべたのか、しゃがみ項垂れた。
「そのお師匠さんは怖い人なんですか?」
「すんげぇ怖いよ。笑顔なんて滅多に見ないや。……ところでさ。アイはこんな場所で何やってたんだ?」
「あー……」
まさか転生して来たなんて口が裂けても言えない。というか言ったところで信じてくれるはずが無い。逆に頭の心配をされる可能性が高い。
「散歩かな?」
「……ドラゴンが居る様な森でか?」
ナイルは再び疑いの目を向け始めた。ここで更に嘘を吐いたとしても疑いは晴れないだろうし、ある程度は話さなければならない。だが、ほとんど話せない内容ばかりだった。
「……何故ここに居るのか私にも分からない。自分の名前と、一人の人物しか覚えて無い」
「それって……記憶喪失か?」
「……かもしれない」
「そうか……大変だったな」
どうやら信じてくれた様だ。少し……というかかなり心が痛むが仕方無い。やはりこの少年、ナイルは良い人なのだろう。
「アイはこれからどうするんだ?」
「特に決めてないですね」
「だったら師匠に会わないか? 助けてくれた礼がしたい」
「……本当はお師匠さんに怒られるのが怖いんでしょ?」
「なっ……違う!」
顔を真っ赤にして慌てている様子を見ると、図星だった様だ。私としては右も左も分からない為とにかく情報が欲しい。ここはナイルの言葉に甘えておこう。
「お師匠さんに会ってみたいし道も分からないのでお願いします」
「……付いて来い」
ナイルは顔を逸らす様に直ぐ前を向き歩き出した。師匠に怒られる事が怖いのではと指摘された事を恥じているだけでは無く、こんな所に一人突然現れた私を怪しんでいるから、師匠に引き合わせる事で危険を回避しようとしているのだと思う。
お互い特に口を開く事無く、暫く歩いていると一軒のログハウスが見えた。ナイルが駆け出しドアを開けようとした瞬間、いきなりドアが開きナイルが飛ばされ地面を転がった。私は驚きその場から動けず、中から出て来た人を見詰めた。
出て来た女性はオレンジ色の髪を後ろで結い、ショートパンツにTシャツというラフな出で立ちで体が引き締まっている。俗に言うボンッキュッボンだ。
(私もあんな風になりたいなぁ……)
「ナイル!! お前薪割りサボってどこほっつき歩いてたんだ!!」
「いってぇ……師匠、俺」
「言い訳はいらん! 罰として今日の飯は抜きだ!!」
「そんなぁ……」
言われた事を放ってドラゴンと闘ってたのか。それならご飯抜きにされても文句は言えない。というかご飯抜きで許されるなら優しいのでは。
哀れむ目でナイルを見てると、私の首にナイフが突き付けられた。一瞬の事で全く何も反応は出来なかった。
師匠と呼ばれる彼女は私を無闇に殺しはしないだろう。だから抵抗はしない。というか怖くて動けないだけだが。
「誰だ」
師匠から発せられた言葉と同時に空気が震える感覚があり、そして寒気が襲ってきた。今までに感じた事が無い感覚だ。師匠が何か魔法を使ったのかもしれない。凹んでいたナイルは慌てて師匠へと駆け寄った。
「師匠待って下さい! その人は俺の命の恩人なんです!」
「……恩人だと?どういう事だ」
「それは……」
ナイルはどのみち怒られるのだからと諦め、全てを師匠に話した。ナイルが要約した話を終えた所で首からナイフが離れ、そして寒気の様な体が強張る感覚が消えた。
「とりあえず一旦中へ入ろう。全てそれからだ」
明らかにお怒りの師匠と、彼女の仕草一つ一つに怯えながら付いて行くナイルの後に次いでログハウスへ入った。
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