火を吐く恐竜
ぼやけた視界が晴れて行き辺りを見回した。ここは神様が見せてくれたあの森の中だ。ジオラマで見ていたよりも木がかなり密集している。その中の広場に送ってくれるとは、なんと優しい神様なんだろうか。
深緑色のローブを身にまとっては居るが中は制服のままな為、取り敢えず動きやすく目立ちにくい迷彩服を着用する事にした。初めての魔法を失敗しない様に、頭の中で迷彩服を着た自分を強く想像する。
「できる……私は出来る……迷彩服になれ!」
徐々に体が光り始めてから大声で叫んだ。するとより一層強く光を放ちそ、れが収まると制服が迷彩服へと変化していた。どうやら成功したらしい。この気持ちを早速神様へ送ろうとした瞬間、耳をつんざく様な何かの雄叫びがあがった。
「何これ……もしかしてドラゴンの鳴き声……?」
先程見掛けた人は大丈夫だろうか。まだ生きてると良いのだが……。急いで雄叫びがあがった方に向かって走り出した。何をどうしたら良いのかとか分からないが、行って見ない事にはどうしようも出来ない。
「あ、魔法を使えば良いんじゃん!」
ふと神様の言葉を思い出し、折角だからと魔法を使う事にした。自分の走っているスピードからするに、身体能力はある程度上がっているはずだ。普通ならば息切れを起しても可笑しくは無い距離を走っているにも拘らず、一切息切れを起していない。これよりも移動速度を上げるにはどうしたら良いのか。
「音速と光速なら、光速の方が速いんだっけ……?」
テレビでやっていたCGでの再現映像しか観ていないため、若干不安だが、やってみない事には始まらない。
「光そ……」
言い掛けた所である疑問が浮かんだ。光速だとしたら仮にドラゴンの所へ行けたとしても、通り過ぎてしまう危険があるのでは?
「それは困ったなぁ」
何か打開策は無いかと走りながら考え、神様が言っていた私は何でも出来るという事を思い出した。何でも出来るなら、魔力を探知する事ぐらい容易いはず。
探知した魔力に向かって光速を使って行けば通り過ぎる事は無いだろう。
まず魔力が何か分からないが、私にだって魔力が備わって居るのだから何とかなる。風を使って遠くまで飛ばすイメージを頭に浮かべて、後はそれを発動させるきっかけの言葉を言えば今度もきっと成功する。
「風で探知」
自分の居る場所から北東に、大小の玉の様な物が二つある。表現がし難いが幽霊屋敷にある様な霊魂の様な物が近い。感覚的にこれが魔力なのだと思う。大きい方がドラゴンだと仮定して、人に向かって行くよりドラゴンに向かって行く方が手間が省ける為、そこへ向けて光速を使う。
「光そ……」
また途中で遮ったが、私は今丸腰だ。何か武器を持った方が良いに決まってる。
(何を持っていけば良いのかな……)
こういう時の王道の武器は何だろうか。イメージでは長い剣だが、こんなに木が生い茂って居る中では逆に不利になるのでは? 武器と言われてもピンと来る物なんて無い。思い出すのは子供達が好きだったヒーローの剣位だ。
時間も無いので右手にヒーローの剣を握るイメージをする。光の粒子が手に集まり、ヒーローの剣を形成していった。しっかりと重さも感じるがそこまで重い物では無い。実物を見た事が無いので本物かどうかは分からないが、武器が無いよりは安心だろう。
「神様……魔法って凄いね」
武器を手にした私は、三度目の正直でドラゴンに向かって光速を使った。風を切る様な音がしたと思った次の瞬間、目の前に見た事が無い大きな図体の生き物が居た。
「……ドラゴン、でしょうか」
「ちょっとあんた何やってんだ!」
背後から緊迫した声が聞こえた。振り向くとボロボロの姿になった金髪の少年が、驚いた顔で私を見ていた。
「こんにちは」
「あ、こんにちは……じゃなくて! 早く逃げろよ! 死ぬぞ!」
「死ぬかぁ……」
ドラゴンは架空の生物だと思っていたけど、目の前にしても思った程怖くはない。大きな図体には圧倒されるが。まだ現実だと理解しきっていないせいなのかもしれない。それに私が今まで経験してきた事に比べれば、恐ろしく辛い物も無いだろう。
「うん。何とか行けそうな気がする」
「はあ!? ドラゴンだぞ! 一人で勝てるわけ無いだろ!!」
自分の事を棚に上げて、この人は何を言っているのだろうか。ドラゴンは急に現れた私に標的を変えたらしく、口を大きく開いた。何やら口から煙が出始めている。
「やばい! 逃げろ!!」
「え?」
「早く!!」
「ええ!?」
少年の言葉の意味が解らず困惑しながらもドラゴンとの距離を置く。ドラゴンの口は赤くなり始め、離れて居ながらも熱が伝わって来ている。
(まさか、口から火が出て来るなんて……まさかね)
身体から血の気が引いていくのが分かった。このままでは自分だけでは無く、この少年も丸焼きにされてしまう。私の選択肢は、火から逃げるか火を迎え撃つか。でも何をどうすれば良いのか……。折角ヒーローの剣を出したのだから、これで何か出来ないだろうか。
火には水……そういえば水を扱うヒーローが持って居た剣は、それを振ると刀身から水が勢い良く出ていたはずだ。それならどうにかこの状況を打破出来るかもしれない。
(水が出て消火……水が出て消火……)
剣を強く握り瞼を閉じると頭の中で想像する。魔法は何とか使えてるのだから、これも成功して助かると自分に言い聞かせた時、少年の叫ぶ声を合図に目を見開き、剣を大きく振るった。
ドラゴンの口から放たれた火の塊は、辺りを焼き焦がしながら迫り来ている。ヒーローの剣から想像した通りの水で出来たビームの様な物が放出され、火の塊と衝突すると爆発が起きた。同時に起きた爆風により私は飛ばされそうになるもどうにか持ち堪え、ドラゴンへと再び剣を構えた。
「やったか!?」
背後から少年の声が聞こえた。彼も無事だった様だ。辺りの砂埃が収まると、自分が放った火が当たったにも関わらず、私が平然と立っている事が不思議でならない様子のドラゴンが立って居た。
「くっそ! 俺にも魔力が残ってたら……!」
「大丈夫!」
諦め掛けている少年へ言い放つ。私はこんなに所で死ぬ訳にはいかない。足を踏み出すと同時にドラゴンも私に向かって猛進して来た。
正直恐怖が無い訳では無い。ただ、今までの辛い経験から精神的に強くなっているらしく、怯える程の恐怖では無いだけだ。
子供達と遊んだチャンバラごっこを思い浮かべて、私もドラゴンに向かって走り出した。
「正気か!! 止めろ!!」
「何でも切れる!!」
すれ違い様に剣を振るった。私は勢い余って転んでしまったが痛みなど忘れ慌ててドラゴンへの様子を伺った。どうやら止まる事が出来ずに岩へ衝突してしまったらしい。
余り手応えを感じなかったが、刃には青色の液体と葉っぱが付着していた。この液体は多分ドラゴンの血だろう。再び視線を戻し仕留める事が出来たのか確認をする。ドラゴンは首が大きく裂け、とても生きている様には見えなかった。
「あ……ああ……」
一部始終を見ていた少年は放心状態だった。そんなに凄い事をしてしまったのかと首を傾げながら、少年に呼び掛ける。
「大丈夫ですか?」
「……」
口を開けたまま少年は動かない。暫く正気に戻らなそうなので、少年を残してドラゴンの元に足を進めた。体の半分が衝突した時に砕けた岩に埋もれ、首が裂けたドラゴンは完全に息絶えていた。
あんなに強く感じた魔力も今は無い。やはり魔力が無くなるという事も、命に影響が及ぶらしい。私はドラゴンの額に手を添えた。
「ごめんね」
自分が助かる為とはいえ、一つの命を奪った事には変わりない。このまま置き去りにせず、せめて何かに使ってあげたい。持ち帰る事にした私は入れ物へと片付ける想像をした。すると掌から光の粒子が放出し、それがドラゴンを覆って行った。光はドラゴンを包み込んだまま縮まり、そしてドラゴン諸共消えた。
(多分これで送れたはず……出せるか不安だけど)
「今の何だよ……」
振り返ると正気に戻った少年が立っていた。私に疑念の目を向けて。
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