連帯責任
光帝の部屋へ転移すると、仮面を外してお茶を淹れるミールの姿があった
「お疲れ、今茶を淹れるからな」
「お疲れ様です。私、忘れ物をしたのでもう一度行って来ますね」
「そうか、ならば私も行こう」
「いえ、大丈夫です。行って来ます。転移」
プラーレルの入口近くに転移した私は姿が見えなくなる魔法を使った。あの犠牲になったギルド員の為にも、この村が起こした事実を皇帝達に知らせなければならない。1人になった所であれば彼らは私を狙うだろう。そこをどうにか動画で記録したいのだが、どうするべきか。色々思考を巡らせながら、辺りを見渡せる物陰へと身を潜めた。動画を撮るにはカメラが必要になる。中の構造は分からないが、動画を撮れる物を想像すれば作り出せるだろうか。
(やってみるしかないか……)
掌に魔力を集めつつ動画の撮れるカメラを想像する。そして魔法を発動させると音も無くカメラが出来あがった。録画の開始ボタンに停止ボタン、再生ボタンなど、私でも取り扱える簡易的なカメラだ。後はその状況をどう作り出すかだ。勿論私自身が囮になる事が手っ取り早いが、殺されてしまっては意味が無い。それならば、自分そっくりの人形を作り遠い所で操作をすれば、動画も撮れなおかつ自分は安全だ。深呼吸をし自分の帝になった姿を思い出す。そして等身大の人形を作り出すイメージをしながら、レッドドラゴンに群がる村民達の後ろへと魔法を放った。光が集結し、私がそこに出現した。
「……プラーレルの皆さん」
私が口を開くと人形の私から声が発せられた。どうやら成功した様だ。私は物陰から彼等の行動が全て入る様にカメラを向ける。私の声に反応した村民の中の数人が私に注目した。
「貴方達はプラーレルにやって来たギルド員を、殺しましたよね」
私の言葉で、一瞬にしてこの場の空気がピンと張り詰めるのが分かった。静寂に包まれた中、言葉を続ける。
「ギルドに正確な情報を載せず、その依頼を受けてやって来た人の金品や服を奪い、挙句の果てには命まで奪う。人のやる事だとは思えない」
「……それは、何かの勘違いでは?」
口元は笑って居るものの眼光が鋭い村長。明らかに殺意が私に向けられている。村長だけではない。この場に居る村民全員が殺意を露にした。現に、私の背後から斧を振り上げた男も居る。
「死ね!!」
勢い良く振り下ろされた斧は私の後頭部に直撃し、鈍い音を響かせそのままめり込んだ。そして、私はその場に倒れた。自分が殺される姿はかなり精神的に辛い。
「余計な事を言わなければ死なずに済んだものを……。まぁ、秘密を知った者は1人たりとも逃がさんがな」
「村長、最初から殺るつもりだったじゃないですか」
「あはは! そうだったな! まぁ1人逃がしてしまったが、こいつのローブは今まで以上に高く売れるだろうから問題は無い。それにしても変わった面をしているなぁ」
「そうですね……凄く綺麗です」
「身ぐるみを剥がした後はいつもの様に燃やして川へ棄てるぞ」
カメラを向けていた手を降ろし撮影を止めた。これ以上見聞きしていると、頭がおかしくなりそうだった。いつもの様にという言葉からするに、犠牲者は1人だけでは無いらしい。
(許せない……)
村長が仮面に手を掛けた瞬間、私は自分の人形へ落雷を落とした。閃光と共に辺りに爆音が響き渡る。周りに集まっていた村民にも舞い上がった砂煙が襲い掛かった。慌てふためく様を遠くから見詰める。頃合いを見てあの場に行こう。その前に誰も逃がさない様に、結界の様な物で村を覆う。絶対に誰も逃さない。
「な、何だ!? 何が起こったんだ!?」
「晴れているのに何で雷なんか……」
「村長!! ご無事ですか!?」
「お、俺の腕が……あ、ああ……あああああああ!!!!」
1番私の人形に近かった村長の被害が酷く、右腕は吹き飛び左腕は黒く焼け焦げて居た。
「くそ!! 何なんだ!!」
「何なんだって、落雷ですけど」
「落雷は分かっている!」
村長に近寄って居た男が声を荒らげると同時に顔を上げた。するとみるみる内に顔に恐怖が表れ、怯えながら村長の背後を指した。
「う、そだ……なんで……」
痛みに耐えながらも村長は振り返った。
「悪魔……」
「え?」
透明化を解除し村長の後ろに移転したのだが、何故か悪魔と言われ何事かと思い何気無しに顔を触ると、仮面が般若の面へと変化していた。意図していた事では無く、どうやら自分の感情によって変化してしまった様だ。
「それにしても酷いですね。私の頭にこんなにめり込んでる。これ、苦しまずに死ねたんですかね……」
人形の後頭部に刺さったままの斧を引き抜いた。それを見た村民が叫びながら逃げて行く。逃げてもこの村から出る事は不可能だが。
「この事はアラドナル帝国の皇帝陛下に伝えます」
「皇帝陛下だと……!? 貴様何者なんだ!!」
村長は私と徐々に距離を取る。皇帝陛下と出た瞬間、村民にも動揺が表れた。
「見て分かりません? 帝ですよ。真の帝」
「帝!? で、でも真の帝なんて聞いたことが無いぞ!!」
「今日正式に真の帝になりましたから、知らなくて当然です」
帝の証であるカードを村長の目の前に出現させると、村長は力無くへたり込んだ。
「貴方達にどんな刑罰が与えられるかは私には分かりませんが、覚悟をしておいて下さい」
自分の足元に転移用の魔法円を展開させる。
「あ、忘れる所だった」
レッドドラゴンに向けて指を鳴らすと、音も無く空間へ転送された。
「貴方達に救いは無い、絶対に」
自らの行いで絶望の淵に立ったプラーレルの村民に、追い討ちを掛ける様に殺気を放ちミールの部屋へ転移した。
「ふう……疲れた」
「……真帝か?」
「やだなぁ、光帝さん。冗談は止めて下さいよ……ってどうしたんですか?」
「いや、何でも……無くは無い。何をしてたんだ。面もだが、斧に付いているのは……血液、か? 何故直ぐに戻らなかった」
「ああ、斧持って来ちゃった。ごめんなさい。理由は話しますが、急いでいるので一緒に来て下さい」
「どういう事だ」
困惑するミールの手を握り、皇帝のファウラの魔力を頼りに転移する。到着した先は玉座のある広間だった。突然表れた光帝と般若の面姿に斧を持った私に近衛兵が慌て出し、スライダーが物凄い形相で近付いて来る。
「無礼者!!」
「色々ごめんなさい!! でもお口チャック!!」
今はスライダーの説教を聞いている暇は無いので黙って貰いたい。口を開け様と無駄な足掻きをするスライダーを尻目に、ファウラの前まで進む。
「光帝と……真帝、なのか? お前ら下がれ」
ファウラの一言で近衛兵は元の場所へ戻って行った。
「何用だ。この場に直接転移する事は出来ないはずだが。それに……その血塗れの斧は何だ。説明しろ」
「陛下に見て頂きたい物がございます」
「ほう。見せてみよ」
「光帝もご一緒にお願いします」
無言のまま頷いたミールに自分も小さく頷くと、玉座の前に大きなスクリーンを創造した。液晶の画面はこの世界に有るのだろうか。
「な……な……なんじゃこりゃああああ!!!!!」
皇帝としての態度を忘れ、ファウラは立ち上がり驚愕していた。ファウラだけでは無く、ミールや近衛兵までも言葉を無くしている。
「んーんー!! んんんん!?」
何を言っているのか分からないが、スライダーも驚いている様だ。
「うん、そんな反応すると思ってました。ですが一旦画面の事は置いといて、今から映像が流れますのでそれをまずは観て下さい」
カメラに魔力を流して電源を入れ映像を流すと、ファウラだけでは無く近衛兵、そしてスライダーまで騒ぎ出した。
「おおー!! 何これすげー!!」
「これは……プラーレル、か」
ミールも最初は驚いていたが、映像を観た瞬間から違う意味で驚いていた。映像は私が村民に声を掛けた所から始まった。
「殺した……?」
ギルド員を殺したと指摘した時、口を封じて居た筈のスライダーが言葉を漏らした。映像は続き、私の背後から頭に斧が振り下ろされ倒れた場面、その後の村長と村民の会話までしっかりと見て貰った。雷を落とした部分は、色々と説明も大変なので観せ無かった。しんと静まり返る広間。ファウラは眉間にしわを寄せ何か考え事をしている様だった。
「……真帝。あんな致命的な怪我を負って良く無事だったな」
「斧が刺さった私は人形なんです。もし村長らの行いを知らなかったら、私は今、この場にいませんね」
口を閉ざしたままのミールに目を向けると、怒りを抑えるかの様に拳に力を入れていた。
「いつからだ。いつから分かっていたんだ」
「えっと……村民を見て怪しいなって思ってました。村は廃れてるのに皆着飾ってて。あと言動ですかね。私達が建物から出る時に何か裏があると確信しました」
「そうか……」
「怒って、ますか?」
恐る恐る聞くと、ミールが私の頬を平手打ちした。叩かれても般若の面は外れる事は無く装着されたままだった。それでも叩かれた左頬が熱を帯びて痛む。それを見たファウラが溜まらず口を挟んだ。
「光帝! 殴る事はないだろう!」
「うるさい! 黙ってろ!」
「……はい」
皇帝陛下のファウラが光帝のミールに一喝されて黙る様子を見ても、迫力に圧倒されてかスライダーはなにも言わない。
「何故教えなかった」
「確信したと言っても、どうなるか分からなかったので言いませんでした。人殺しを平気でする様な人達だから……貴女には怪我を、して欲しくなかったから」
「良いか、私はお前に守られる程ひ弱では無い」
ミールの言葉が、私の胸に突き刺さった。この世界で最強だからだとか、知らず知らずのうちに周りを下に見てしまって居たのだと気付かされた。
「それにだ。私は保護者も同然、家族なんだ。私に守らせてくれよ……。凄く、凄く心配したんだからな!」
ミールが私をきつく抱き締めた。
「ごめんなさい」
「今度一人で何かやろうとしたら平手打ちだけじゃ済まさないからな」
「え……はい。あの、む、胸が、顔に……苦しいです」
「あ、すまない」
ミールは私から離れると、静まり帰って居る面々へと目を向けた。
「何をしている。早急に対処するべきだろう」
ファウラがミールの気迫に押されつつも頷いた。
「スライダー。手の空いている隊と帝をプラーレルへ向かわせろ。今すぐにだ。一人残さず引っ捕らえろ」
「はっ!」
スライダーは慌てて広間から出て行った。
「帝からは私が」
「光帝は留守番な」
「何故だ!」
「今の光帝だと殺しかねないからなぁ。奴らを生け捕りにして話を聞かなければならん。今は我慢しろ……分かったな?」
反応せずに背を向けるミールに、ファウラは苦笑した。
「陛下、プラーレルの人達はどうなるんですか?」
「尋問をした後に全て没収、命を奪った者は斬首刑だ」
「そう、ですか……じゃあ女性や子供は?」
「尋問をした後に盗品を没収、その後労働。子供もまたしかり。連帯責任だ」
村全体で追い剥ぎと殺しを公認していたのだから、連帯責任は免れない。
「すぐにどうこうって訳ではないが、プラーレルの者達がやって来た事は許せない。刑罰は斬首だけでは無いが、人にやって来た事はいつか自分に帰って来る。……残念だ。村が一つ潰れた。まぁ廃村にするには勿体無いから、何かしらには使うがな」
「……あ、言うの忘れてたんですけど、村の人達が逃げない様に結界みたいな物を張ってるんですよね。入る分には問題無いんですけど」
「結界をねぇ……」
「多分入ったら出られなくなるので、外に出る時は結界に魔力を流して指をこうパチンっと鳴らせば解除出来ます」
「分かった、伝えておく」
スクリーンを片付けるとファウラが名残惜しそうにしていたので、今度似たような物を差し上げると言うと歓喜していた。この世界にスクリーンやカメラが無いのであれば、この世界に沿った形に変えなければ行けない。
「失礼いたします」
程なくしてスライダーが戻って来た。一斉に視線が向けられ不思議そうにしている。
「……私の顔に何か付いておりますか?」
「いや、何でもない。帝は?」
「手の空いていた地帝を行かせました」
「そうか。例の部屋の準備は出来たのか?」
「はい」
例の部屋というのは何だろうか。気になるが、下手に口を挟むとスライダーが怒りそうなので言葉を飲み込んだ。
「真帝の部屋を用意したから好きに使うと良い」
ファウラが私に笑顔を向ける。例の部屋というのは私の部屋の事だった様だ。
「ありがとうございます」
「部屋の場所はユーラが案内する」
扉の方を見るといつの間にかのユーラが立っていた。
「二人とも疲れただろう。部屋に戻り身体を休めなさい」
「はい、失礼します」
無言のまま部屋を出て行くミールを追う様に私も部屋を出た。先に行ってしまったかと思って居たミールは、壁に寄り掛かり待って居た。
「……まだ、怒ってますか?」
「当たり前だ」
「ごめんなさい……」
「……受けた依頼のコーリンは私がやっておく」
「え? でも」
「真帝は休め。絶対に、勝手な行動はするな。良いな」
そう言ってミールは立ち去った。
「真帝様。余り気を落とさないで下さい。光帝様はとても家族や仲間に対して大きな愛の有る優しいお方なのです」
「分かってます。全部、私が調子に乗ったせいだから。……ユーラさんが部屋まで案内してくれるんですよね? 遠いですか?」
「いえ、それほど遠くはありませんが、帝様専用のお部屋は別館ですので少々歩きますね。ではご案内致します、こちらです」
歩みを進めるユーラの後を付いて行く。
「ユーラさん、光帝さんは何で転移しなかったんですか?」
「転移出来ない様に結界が張ってあるんですよ。不審者が侵入出来ない様に、また、万が一侵入しても転移で逃げられない様に。特定の場所では転移出来るのですが……まぁ真帝様には無縁ですね」
「あはは」
知らなかったとはいえ、笑い事では無い。これからは誰も見ていない所で転移しよう。
「そう言えばカノン様は?」
「今はご友人と魔法の練習をなさっています」
ユーラは何故か不満そうな表情を浮かべた。
「気に入らない事でもあるみたいだね」
「ええ……あっいえ何も!」
自分が仕えている方の友人の悪口は言ってはいけないとブレーキが掛かったのか、ユーラは慌てて否定した。
「私も学園に通うんだし、何か思う事があるなら教えてくれた方がカノン様の護衛もしやすいです」
「……そうですね。実は、カノンお嬢様のご友人で気になる方が居まして。常にカノンお嬢様のお側にいらっしゃる方なのですが、カノンお嬢様を見る目がイヤらしいんです。私の気のせいかもしれませんが」
「その人の名前は?」
「ペリー・ハントと言うのですが……」
ハント……まさかプレス・ハントの関係者か。こんな所にまでハント家が関わって来るのは気味が悪い。
「やっぱり気のせいですかね……」
「気のせいとも言い切れないと思う」
「それは、何故ですか?」
「実は、私もハント家と色々あって、ね。あまり他の人に聞かれたくない話もあるし、光帝と交えて話した方が良いだろうから、部屋に着いてから話します」
「承知致しました」
それから暫く歩いて王城と別館を繋ぐ渡り廊下まで辿り着いた。
「迷子になりそう」
「ふふ、慣れですよ」
渡り廊下の中間にパズルの様な模様の壁があり、その真ん中にドロップ型の宝石が埋め込まれている。
「陛下から頂いたネックレスはお持ちですか?」
「ええ。あ、あれをこの宝石にかざせば通れる仕組み?」
「そういう事です」
ネックレスを首から外しドロップ型の宝石へかざす。すると壁に埋め込まれた宝石が光った。そこからパズルの溝を辿る様に光が走り壁が消えて行った。そして、私達が通り過ぎると再び壁が出来上がった。
「こちらには限られた者しか入れません。転移はここでなら自由に出来ますので」
「結界は張ってないっていう事?」
「王城程の高度な結界は張っていません。まぁ帝様がいる建物に好き好んで侵入する人は居ませんしね」
「確かに」
不要になった仮面は外し渡り廊下を突き当たりまで進み、角を曲がって更に100メートル程進んだ所でユーラが足を止めた。
「こちらが真帝様のお部屋です。鍵が掛かっていますので、開くまで魔力を流して下さい。次から真帝様がドアノブに手を掛けるだけで開く様になります」
言われた通りにドアノブを握って魔力を流すと一瞬で鍵が開いた。魔力を流すのは部屋の持ち主だと記憶させる意味があるのだろう。
「お邪魔します」
自分の部屋になるのだが、初めて入るので少し緊張する。部屋の中はミールの部屋と変わり無くとても広く豪華だ。
「うん。じゃあ光帝さんの部屋に行きましょうか」
「もう良いのですか?」
「やる事も無いし、広い部屋に一人っていうのに慣れて無いんです」
「そうですか……では光帝様の元へ参りますか」
部屋から出ると、鍵が自動で掛かった。オートロックらしい。私の部屋の隣がミールの部屋だったのですぐに着いた。
「光帝様、失礼致します」
ノックをしてから扉を開けるとミールが机に向かっていた。仮面は外している。
「休めと言っただろう。何をしに来た」
「光帝様、そんなに怒らなくても良いのでは?」
「……ふん」
「光帝様は頑固者過ぎますよ。お気持ちはお察し致しますが、冷静になって下さい」
「私は至って冷静だが」
「ほら、真帝様もこの通り反省して……泣いてらっしゃるじゃないですか!!」
ミールが怒る理由も理解しているのだが、自分が悪い事をしたというつもりは一切無い。その葛藤で涙が溢れ出していた。驚いたミールは立ち上がり私の元へと駆け寄る。優しく抱き締めると背中をゆっくりと撫でた。
「す、すまない! 泣かせるつもりは、その、無かったんだ。ただ、な? アイには無理をして欲しく無くてだな……」
「解ってます。解ってるんですけど、私だってそれなりの覚悟でやったんですもん。生半可な気持ちでなんてやって無いもん」
「そ、そうだよな、私もそれは理解してるさ。アイの思いは理解したから、泣くな。な?」
「ごめんなさい……怖かったぁ」
やって居る時は平気だったが、今になって恐怖が襲って来た。暫くミールに抱き着き落ち着いた頃そっと離れた。
「大丈夫か? これに懲りてもう無理をするんじゃないぞ」
「はい……。ユーラさん、ごめんなさい。凄くお待たせしてしまいました」
「いえ、お気になさらず。お茶を入れましたので良かったらどうぞ」
私が泣いている間、ユーラはソファーへと腰を下ろし帰らずに待って居てくれた。ソファーへ座りカップを手に取り口を付けると、ミールが思い出した様に問い掛けた。
「そう言えば2人はどうして此処に来たんだ?」
「実はプレス・ハントの事についてなんです」
プレス・ハントと聞いたミールは眉にシワを寄せ険しい表情を作った。
「それは、真帝の事も含めてユーラに話して欲しいという事か?」
「はい。カノン様に関係してくるかもしれないので」
「カノンに? まぁ真帝が良いと言うなら話そう」
「お願いします」
「だが、カノンに関係してくるという説明はして貰うぞ?」
「それについては私からお話をさせて頂きますので」
そう言ってユーラはミールに頭を下げた。ミールは私とユーラに向かい合う様に腰を下ろし、プレス・ハントについて私の事を混ぜてユーラに話した。ユーラは私が怪我をした事に驚き、何故か私を人質にした男、グランにも反応していた。もしかしたら何か知ってるのかもしれない。
「ハント家の当主が真帝様を……」
「ギルドに情報収集の依頼まで出していた。だから、真帝じゃなくアイ・ドーエンとして居る時はなるべく一緒に居てやって欲しい。あともう一人ナイルという私の弟子が居るんだが、あいつだけでは頼りない」
「ナイルだって頼りになりますよ?」
フォローを入れるがミールはまるで聞いていない。
「私で良ければ出来る限りの事はさせて頂きますので」
「ああ、頼むよ。やはりユーラは頼りになるな。ナイルにユーラの爪の垢を煎じて飲ませたい位だ。……で? ハント家がカノンに関係してくるというのはどういう事なんだ?」
「実はカノンお嬢様のご友人にハント家のご子息様が居まして……その方のカノンお嬢様を見る目がイヤらしいのです。私の思い違いであれば良いのですが、カノンお嬢様を狙っている輩が居るという情報があった以上、疑わずにはいられません」
「プレス・ハントの息子か。なるほどな。息子も合わせて調べるよ」
「宜しくお願い致します」
「ん。……ところで」
ミールが突然私に視線を向けた。
「何ですか?」
「いつまでその、悪魔の様な面を着けているんだ? 若干、怖いのだが」
「……あっ」
着け心地が変わらない為、般若の面を着けている事自体忘れていた。今更だが般若の面を外す。
「これ、般若の面と言うんです。凄い形相をしているのは、嫉妬や恨みの篭る女性の顔を表現しているかららしいですよ」
「嫉妬や恨み……しかも女性とは……」
「本当は儀式の時はこれにしようと思ってたんですけどね。流石に失礼かなって。でも格好良いので気に入ってるんです」
般若の面を優しく撫でる。前の世界でもこの面を着けて立ち向かえて居たら、何か変わって居たのかもしれない。
「……お前は誰かを」
「恨んでいるのか、ですか? それは秘密です。例え皇帝陛下に聞かれても絶対に教えません」
「……すまなかった」
「いえ」
気まずい空気が流れる。こういう時は気を利かせて話し出してくれるユーラの出番だと思うのだが。
「あの」
ユーラが口を開いた瞬間、扉が勢い良く開け放たれた。そこには知らない顔の男が立っていた。左頬に傷痕が斜めに入っており、体格もかなりがっしりしている。
「……何方でしょう?」
「彼は地帝だ」
「土属性の帝様です」
土属性と聞き、想像通りだと言いたくなるのは何故だろう。そもそも帝は他人の部屋へ入る時ノックはしないのだろうか? ノックも無しに入って来た地帝だが、そのおかげで沈黙は打破された。
「ノックも無しに何用だ地帝」
「……すまんすまん! 自分の部屋と間違えた! あっはっは!」
地帝は自分の部屋だと思い開けた為ノックをしなかったのか。だから開けた本人も私達が居る事に驚いてた様だ。
「お、そうだ、プラーレルに行って来たぞ!」
ミールがプラーレルに反応し身体をびくつかせた。
「一人残さず拘束してきたが、皆怯えててな。悪魔だとか鬼だとか……片腕が丸焦げの奴も居たし、何があったんだ?」
「ほう……そうか」
私の仕業だと分かったミールは視線を向けて来た。堪らず私は視線を反らす。やり返した場面は見せなかった為、更に怒られてしまうかもしれない。
「そこに居るのは真帝だよな? 初めましてだなー! 俺はガーバンだ! 宜しく!」
ガーバンは右手を差し出しながら私に近付いて来た。図体が大きいので威圧感が半端無くある。
「アイ・ドーエンです……」
「ほう! ドーエンという事はミールの子か!」
握手したままガーバンが手を大きく振るが、腕がもげてしまいそうな勢いだ。
「ガーバン。勘違いしていそうだから念の為に言うが、私が産んだ訳では無いからな?」
「む? 違うのか?」
「当たり前だ!」
「あっはっは! そうかそうか!」
ミールと会話しながらも私の手を握ったまま離さず、徐々に力が強くなって来ている。無意識なのか、わざと力を入れて居るのか分からないが、そろそろ腕が限界だ。
「地帝様! 真帝様の腕が取れてしまいます!」
「ん? ああ、すまんすまん! あっはっは!」
ユーラがガーバンを止めてくれたおかげで私は漸く解放されたのだが、腕は痺れてしまっていた。
「すまんすまん! あっはっは!」
豪快という一言でまとめて良いのだろうか。ガーバンは笑っては居るが、私を見る目は品定めをする様に鋭かった。
「……よし! 俺は部屋に戻って寝る! じゃあな! あっはっは!」
満足したのか豪快に笑いながらガーバンは部屋から出て行った。
「はぁ……アイも家に戻って休むと良い。ナイルも心配しているからな」
「そうですね……それじゃあ先に戻らせて貰います」
「明日は学園長に会いに行くから、そのつもりでな」
「はい。ユーラさん、今日は有難う御座いました。また明日。ではお先に失礼します」
頭上に飾りだけの魔法円を展開し、ナイルが待つ家へと転移した。




