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転生した事を後悔する世界  作者: 寒月 シバレ
第二章『新たな人生』
21/32

城内で迷子

 帝就任の儀式も無事には終わらなかったがどうにか終了し、ミール、キリア、ノキアの四人で談笑していると、受付のシオが部屋へ入って来た。


「お疲れ様です!」

「こんにちは、シオさん。どうしたんですか?」

「今スライダー様からアイさん宛にご連絡がありまして、怪我が治り次第顔を出すようにとの事です」


 スライダーからの早速のお呼び出しが掛かった。


「分かりました」

「それでは。……あ、アイさん。帝就任、おめでとうございます!」


 笑顔で祝福の言葉を言うシオに笑顔で応える。


「ありがとうございます」


 他の三人に会釈をして、シオは持ち場へと戻って行った。受付に居るときのテンションでは無かったが、やはりシオの笑顔は癒される。


「顔を出せってどこに行けば良いんですかね? お城?」

「城で良いはず。一緒に行こうか?」


 キリアが気を遣ってくれたが、私は首を横に振った。


「今度は刺されないと思うので、私一人で大丈夫です」


 帝の姿を想像し魔力を流す。周りには光に見える魔力の結晶が私を包み込み、それが納まると帝の格好をしていた。髪色も帝仕様で、仮面も装着している。


「じゃ、早速行って来ますね。転移」

「待っ」


 キリアの手が触れる前にお城へ転移した。王城前に転移した……はずだった私は今、困った状況になっていた。


「明らかに城内だよね……」


 どうやら間違えて王城前では無く、中に転移してしまったらしい。そして歩き回って数分。完全なる迷子になっていた。方向音痴とかでは無く、ただ城内が広く迷路の様になっているのだ。魔力を流しスライダーを探したい所だが、それによって騒ぎが起きてしまう可能性がある為断念した。


「中庭かな? でも庭にしては何も無いなぁ」


 辺りを見回しながら花壇に囲まれた場所に有るベンチへ腰を下ろした。こんな事になるのならキリアの申し出を素直に受ければ良かった。


「はぁ……」


 どうしたら良いのか解らず、頭を抱えて途方に暮れた。


「危ない!!」

「え?」


 顔を上げると目の前に大きな水の球が迫っていた。城内だから安全だと油断していたが、どこだろうと油断大敵。身体強化はしているが避けるには間に合わない。


「次から次へとなんなの!!」


 頭を下げ強く抱えた。そして大きな衝撃音と共に、弾けた大量の水が豪雨の様に辺りに降り注いだ。


「……びしょ濡れだし」


 泣きっ面に蜂。そのことわざが頭を過った。転生してからも悪い事が続いてる気がする。イレギュラーな存在だから、世界と私で化学反応的な事が起きてるのだろうか。そうだとしたら仕方無いが、拒絶されて居る様で少し凹む。


「大丈夫ですかー!?」


 大きな水の球の魔法を放ったであろう人物が、こちらに向かって走ってくる。その人物と距離があり、この中庭が思っていたより広い事が分かった。近付いて来た女の子は目の前に来るなり頭を下げた。


「本当にごめんなさい! あの、お怪我はありませんか!?」

「怪我は無いです」


 びしょ濡れですがと笑って言うと、女の子は更に深々と頭を下げた。怪我はしていない為大丈夫だからと頭を上げさせると、女の子は私の仮面を見詰めた。


「あれ? もしかして貴女様は」

「カノン様ー!」


 女の子を追ってもう一人黒いスーツを着た男が近付いて来る。そしてカノンと呼ばれた女の子の前に立ち、私に剣を向けた。


「ここで何をしているのですか? 立ち入り禁止のはずですが」


 男は微笑んで居るが目が笑って居らず、変な真似をすれば直ぐに斬り捨てられるだろう。


「私は」

「あ!!」


 何かを見付けたカノンが私の言葉を遮り男の前に出た。


「カノン様いけません!」


 静止する男の言葉を無視し、カノンは私が首から下げているネックレスに顔を近付けた。


(近い……でも良い香りがする……)


「このエンブレムは帝の証……。もしや貴女様は新しく帝になられた方では?」

「この者が帝……」


 信じられないとでも言いた気な男に内心腹立たしさを感じながら立ち上がる。


「お初にお目にかかります。真の帝です」

「貴女様が真の帝様なのですね! お兄様からお話を聞いてとても会いたかったんです!」

「そ、そうですか」


 嬉しそうに満面の笑みを浮かべるカノン。お兄様というのは誰の事なのだろう。様を付けて呼ばれて居るという事は皇帝陛下の様な気がする。


「貴女が噂の真帝様でしたか。知らなかったとはいえご無礼をお許し下さい」


 剣を鞘に収めた男は深々と頭を下げた。


「私の方こそすみません。立ち入り禁止だとは知らずに入ってしまいました」


 入ったというか、迷い込んだと言った方が正しいかもしれないが。


「そうでしたか。ところで真帝様は何の用事でお越しになられたのですか?」


 男の言葉で自分の目的と迷子になった事を思い出した。城内に転移した事を抜いて事情を話すと、カノンがスライダーの所まで案内すると申し出た。


「カノン様。本日の特訓が残っております。ですから……」

「少し位良いではありませんか! 真帝様がお困りなんですよ!?」

「そうですが、カノン様にはカノン様のご予定が……」

「あら、ユーラは目の前で困っている人を見過ごせと言うのですか?」

「いえ、その様な事は」

「だったら良いでは有りませんか!」

「しかしですね……」


 二人のやり取りを見つつ、ずぶ濡れのままではスライダーに怒鳴られそうな為乾かす魔法を使う事にした。優しい風を全身に受けると、ずぶ濡れだった髪や服が全て乾いていた。改めて魔法は便利な物だと思う。いつまでもここで過ごす訳にはいかない。場所だけ聞いて一人で行こう。


「あの」

「真帝様は黙ってて下さい!」

「……はい」


 話掛けるとカノンに怒られてしまった。それから約5分程が経ち、ユーラが折れる事で話し合いが終了した。


「ご案内します! 真帝様!」

「宜しく、お願いします……」

「この私、カノンにお任せ下さい!」


 目を輝かせまるで大輪の花が咲いた様な笑顔を向けるカノン。こんなにも喜んでくれるのは凄く嬉しい。嬉しいのだが、前を歩くユーラの事を考えると素直に喜べない。


「ユーラさんでしたっけ、何かすみません……」

「いえ、お気になさらずに」


 そう言ってユーラは笑った。今度は目が笑って居た。しかし、5分前に比べやつれた様な気もする。私の手を引いて歩くカノンを見ていると、妹や弟達の事を思い出す。


(元気にしてるかな……)


「ねぇ真帝様。質問があるのですが」


 カノンが見上げて言った。


「なんでしょうか」

「真帝様は何故、帝になったのですか?」

「何で? それは必要に迫られてです」

「そうなのですか……。真帝様は女性、ですよね?」

「はい」

「女性で帝になるなんて凄いです! 光帝様も女性なんですけど、強くたくましく気高い姿が素敵で私の憧れなんです。そうしたら女性の帝が誕生したとお聞きしてもう嬉しくて嬉しくて! 私の憧れる方がまた増えました!」


 帝は首輪の様な物で監視をする目的でもあるのに、何故そんな物に憧れるのか。そういう部分を知らないからなのだろうか。


「カノン様。女性だから弱い、男性だから強い。そんな偏見があっても仕方のない事です。でもこの世界には魔法がある。例え魔力が少なくても、個々の威力が小さくても、それをどう使うかによって強さは変わる。……それに、強さは力だけでは無い」

「どういう事ですか?」

「心の強さです。貴女が憧れる光帝は力だけでなく心も強い」

「では、真帝様もお強いです」

「私は……弱い人間です」


 心が強ければ、自殺はしていないのだから。


「ですから貴女は私に憧れたりしないで下さい。それに」


 カノンの目を見詰める。


「貴女の方が、絶対に強いですよ」

「こちらです」


 ユーラが大きな扉をノックすると、中からスライダーの声が聞こえた。


「真帝様をお連れいたしました」

「真帝!? 入れ」


 ユーラがどうぞと言ったので中へ入ろうとすると、カノンが先に中へ入った。私も追う様に中へ入る。たくさんの書物が並ぶ書斎らしい部屋に、スライダーと書斎机で筆を持つ皇帝が居た。


「お兄様!」

「ん? カノンか。特訓の時間ではなかったのか?」

「真帝様がお困りでしたので、ここまでお連れしたんです」

「そうか……」


 皇帝は私に視線を向けたのだが、口元が笑っている。どうやら迷子になった事がバレたらしい。迷子になったのはだだっ広いこの城が悪い。


「ありがとうカノン。大事な話があるから、カノンは戻って特訓を続けなさい」

「私は真帝様ともっとお話がしたいです!」

「大事な話があると言っただろう?」

「カノン様、戻りましょう」


 ユーラがカノンを連れて部屋を出ようとしたが、それを皇帝が制止した。


「ユーラ、君にも話がある。カノンはスライダーに任せて残りなさい」

「私に話しですか? 承知いたしました」

「そういう事だから、スライダー頼んだぞ」


 遠まわしに部屋から出て行けと言われたスライダーは驚いていた。


「陛下、私もここに」

「スライダー?」

「……承知致しました」


 スライダーは諦めて、カノンに向き直した。


「カノン様参りましょう」

「分かりました。……真帝様。何があったのかは分かりませんが、きっと貴女はお強い人だと思います。これでも私、人を見る目はあるんですよ?」


 笑顔を作ったカノンはスライダーと共に部屋から出て行った。


「行ったか。二人とも、すぐ終わるから椅子に掛けて待っててくれ……あーまじでめんどくせぇな」


 二人を見送った皇帝は溜め息を吐き、小さく「めんどくせぇ」と聞こえた気がするが、気がするだけなので気にしない事にする。言われた通りに椅子に座ると、予想以上にふかふかで驚いた。


「……終わったー。待たせて悪いね」

「いえ!」


 ユーラが立ち上がって皇帝を迎える。私も立ち上がるべきなのだろうか。


「俺らしか居ないんだから畏まる必要は無いよ」


 皇帝が椅子に腰を下ろしてからユーラも座った。


「いやぁ、ここの所仕事が多くてさ。皇帝とかってただ椅子に座っていれば良いだけかと思ってたのに、蓋を開けたら事務的な仕事ばかりなのな。ほんっと面倒くさい。俺の分身が作れる魔法とかあれば良いのになー」


 椅子の背にもたれて愚痴をこぼす皇帝。今のが本来の姿だろうか。というか私はどう反応したら良いのか分からない。


「陛下。真帝様が戸惑っておられます」

「え?」


 首だけを動かす皇帝。ユーラが私の心情を察してくれたが、普段は接しやすい人なのだろうか。


「悪い悪い。スライダーとか居ると威厳がどうのこうのって怒られるんだよ。だからこういう話し方の時は皇帝扱いしなくて良い。俺の事はファウラって呼んでくれ」

「はあ……」

「で、アイとユーラに」

「ちょっと待って!!」

「何だ?」

「いや……さらっと私の名前言いましたよね?」

「……あ」


 少し間を置いて皇帝、ファウラは笑った。


「私は素性を隠したくてこの格好をしているんです。なのに……」


 隣に居るユーラをちらりと見ると、さほど気にして居る様子は無かった。


「まぁまぁ。ユーラなら大丈夫だ。こう見えて口はかなり固いから」

「陛下? こう見えてとはどういう事でしょうか」

「気にするな。でだ、一応俺皇帝だからさぁ、情報網はそれなりにあるわけよ」


 そう言ってファウラは私を見つめる。ある程度の事は把握しているという事だろうか。


「で……どこから知っているんですか」

「水晶を割った辺りだな」

「水晶を割った!?」


 涼しい顔をしていたユーラが、目を見開いて驚いている。


「……で、ファウラさんのご用は何なんですか?」

「そうそう、これ」


 ファウラが一枚の紙をテーブルに置いた。手に取ると見た事も無い文字だが、読む事は可能だ。


「……入学の案内?」

「アイを学園に通わせる事にしたから」

「分かりま……え? 私が? 何で」

「実はカノン……さっきの妹なんだけど、狙われてるみたいなんだよ」

「狙われてる!? カノン様が!? どういう事ですか!!」


 突然ユーラ立ち上がりテーブルを叩いた。


「ユーラ落ち着け」


 ファウラ曰く、今の所カノンの命が狙われている訳では無いらしい。ただ誰が何の目的で狙っているか分からないから、私に護衛を兼ねて学園に通わせたいとの事だった。


「でしたら私がカノン様の護衛を」

「馬鹿。俺が何の為にユーラを学園へ通わせてると思ってんだよ」

「それは、カノン様の護衛の為です」

「やっぱり真に受けてんのか。それは建前だ。本音は普通の16歳の少年、ユーラ・シュワルトとして生活して欲しいからだ」

「ファウラ様……」

「まぁ、カノンに変な虫が寄り付かない様に監視させる為でもあるんだけどな」


 監視が一番の目的な気がするが、あんなに可愛い妹なら心配するのも頷ける。


「ユーラに任せっきりだと学園生活を謳歌出来ないだろ?」

「つまり。同じ年齢の私がタイミング良く帝になったので、これ幸いと学園に通わせて護衛させようと」


 だとしたら儀式がすぐに行われたのも納得が行く。


「そういう事。聞いた話によるとアイは記憶が無いそうじゃないか。それなら尚更学園に通った方がアイの為になるだろう」

「んー……」

「あ、拒否権は無いから」


 学校に通う事に抵抗がある私はどうしようかと悩んで居たが、ファウラの一言で決定してしまった。今一番必要な物は知識であるのは間違いない。拒否権も無い為引き受けるしか無かった。


「あの、一つお願いがあるんですけど」

「何だ?」

「ナイルの事はご存知ですよね? 彼も一緒に学園へ入学させて欲しいんです」

「ああ勿論だ。彼の分の手続きも済ませてあるよ」

「ほんとですか! ありがとうございます!」

「それとこの事はもうミールに知らせてあるからな」


 まさかまた学校に通う事になるとは思わなかった。魔法の授業もあるんだろうか。そう考えると少し楽しみになって来た。この世界にあの女は居ない。だからきっと大丈夫だ。


「あ」

「どうした?」

「学園に通うなら属性とか調べられますよね?」

「そうだな。あと魔力量も……そうか、その問題があったか」


 ファウラと私が頭を抱えていると、空気化していたユーラが口を開いた。


「何か問題があるんですか?」

「まぁ……な」


 ファウラが話しても良いかと目を向けたので黙って頷いた。


「アイは属性が不明なんだよ」

「え? いやそんなまさか」

「不明っていうか全部っていうか……な?」

「はい」

「だから調べられたりするとなるとヤバいなと。……ああ! 俺が一言学園長に言えば済むじゃん! これで問題解決したな!」


 手を叩きあたかも名案を思い付いた様にしているが、学園長がそれだけで納得するのだろうか。


「ええっとじゃあ調べられる方は何とかなるとして、生徒に属性を聞かれた場合はどうしましょう」

「さすがに生徒までに口出しするのは良くないしなぁ。アイが魔法使う時に出る特徴って何かあるか?」


 私が魔法を使う時に出る特徴。


「見た感じが光ってますね。こうキラキラと」

「んじゃあ光属性とかで良いんじゃね?」


 いきなり軽くなったファウラだが、きっと面倒くさくなったのだろう。


「そうですね、光属性って答える事にします」


 ミールも光の帝なので、今度魔法を教えて貰おう。見た目光属性で中身が水属性だとか、色々変更する事は私なら出来そうだ。


「よし! そっちも解決だな……ん? ユーラどうしたんだよ」


 空気になっていたユーラに顔を向けると、何故か沈んでいた。


「真帝様は水晶を割る程の魔力量で、属性が不明で、その上私と同い年。……私、自信が無くなりました」

「ユーラさん。自分で言うのも悲しいですが、私はかなり異質ですから比べるのは無意味だと思います。それに戦闘の経験も知識もありません。だからユーラさんと戦っても確実に勝てません」

「そもそもユーラはユーラ、アイはアイなんだから比べる必要は無いだろ」

「……そうですね……私は私ですよね」

「そうだ。ただアイが神に近いだけだから気にすんな」

「神……確かにお話を聞く限り、真帝様は神に近い力の持ち主ですね」


 二人は私に顔を向ける。


「アイの場合は女神だな」

「女神様ですね」

「何か、恥ずかしいので見ないで下さい」


 二人から顔を隠す様に手で顔を覆う。神様とは切っても切れない関係なのだから、神と言われても仕方の無い事だ。それに褒め言葉で言われて居るのだから喜ぶべきでもある。余り否定的になると神様に失礼だ。


「って事で一応俺からの話は終了。日取りは多分学園長から言われると思う。カノンの事で面倒掛けてすまないが、ユーラも頼むな」

「承知致しました」

「ああそうだ。アイの事については他言無用だから。相手がカノンであってもな。ユーラに限ってあり得ないだろうが、話した場合は……分かるよな?」


 笑顔で言うファウラに対し、ユーラは背筋を真っ直ぐにして返事をした。


「ユーラさん。これから宜しくお願いしますね」

「こちらこそ、宜しくお願い致します」


 話が一段落した所でドアがノックされた。リラックスしていたファウラは慌てて気合いを入れる。


「入りなさい」


 一呼吸置いてドアが開くと、スライダーが姿を現した。


「スライダーか。丁度話も終わった所だ」

「そうでしたか」

「二人とももう良い。下がりなさい」

「はい。それでは失礼致します」


 ユーラと共にスライダーから逃げる様に部屋を後にした。広く長い廊下を並んで歩く。廊下の幅が、前の世界での自分の部屋と同じ幅で悲しくなった。


「ユーラさん、ファウラさん……陛下っていつもあんな感じなの?」

「そうですね。ですが、心を許した相手にしか見せません」

「へぇ。でも会ったばかりの私に良いんですかね?」

「あの方は初めてあった時の印象で、相手がどういう人なのかを見抜く力があるんです」

「見抜く力?」

「不確かなものですが今のところはずれはありません……ですがもう少し警戒心というものをお持ちになられた方が良いと私は思います。周りにいる私共の気持ちになって頂きたいものです」


 昔からあの方は……と不満を漏らすユーラだが、その顔は懐かしむ様に微笑んでいる。


「失礼ですが、真帝様は記憶が無いと……」

「ええ。この世界の歴史も地理も何も分かりません。だから学園に通い出して授業に付いて行けるか不安です」

「真帝様、私で良ければいつでもお力になります。まぁ私の出来る範囲でですが」

「ありがとうございます。ユーラさんが居てくれるなら心強いです」


 書斎から100メートル程進んだ所で歩みを止めると、ユーラは不思議そうにこちらを見た。


「それじゃあ私はここで」

「え? ここってまだ廊下ですよ?」

「大丈夫です。それではまた」


 転移用の魔法円を展開する。


「あっ、転移魔法は特定の」

「転移」


 ユーラの言葉を遮り転移してしまったが、何を言おうとして居たのか気になる。今度会った時に聞こう。


「へっくしゅ」

「うわ!!」


 ギルドの地下部屋に戻るなりくしゃみが出た。ずっと鼻がムズムズしていて、王城でくしゃみをするのは何と無く嫌で我慢していたのだが、いよいよ我慢が出来なくなり慌てて移転した。別にくしゃみ位しても大丈夫なんだろうけど。そしていきなり現れくしゃみをした事により、ソファーでくつろぐキリアが酷く驚いている。


「あ、すみません」

「なんだアイか……びびったー。で? スライダーの呼び出しは何だったんだ?」

「スライダーさんじゃなく、ファウラさんからの呼び出しでした」

「ファウラって事はもう素出したのか。驚いたろ? アイツの変わりよう」

「ええ」


 帝の姿から普段着に戻る魔法を指を鳴らし発動させた。普段着に戻った私は、キリアの隣へ腰を下ろした。


「皇帝の時はこうビシッと決まってたんですけど、スライダーさんが居なくなると良い意味で崩れますね」

「あいつが皇帝じゃなく、ファウラになった時は出来るだけ皇帝として接しないでやって欲しい。息抜きする暇もあまり無いからさ」

「分かりました。ところで……ミールさんとノキアさんは?」

「ミールはナイルに用事が出来たとかで一旦家に戻ってる。ノキアは知らん。仕事に戻ったんじゃないか?」


 ナイルに用事……そういえばファウラがミールには伝えたと言っていた。だから用事というのは学園の事についてだろう。


「私、学園に通う事になりました。いつからかはまだ分からないんですけど」

「急だな……ファウラが言ったのか?」

「はい」

「ふぅん、そっか。どうせカノンちゃん関連だろうな。……ま、帝になったって言ってもアイもまだ若いし良いんじゃないか? それにアイについての情報が有るかもしれないしな。学費とかは皇帝陛下が出すんだから、どんな理由で入学するにしても楽しめば良いさ」

「楽しむ……」


 学校には良い思い出が無い。どう楽しむのかも私には分からない。そしてファウラに聞くタイミングが無かったお金の事だが、入学金や授業料は皇帝であるファウラが出してくれるらしい。


「掛かる費用については、自分で稼いでお返しするつもりです」

「腐るほど金あるんだから気にしなくて良いんだぞ?」

「分かってるんですけど、やっぱ私の気が済まないんで」


 キリアは感心した様に頷いて腕を組んだ。


「アイは良く出来た子だな」


 良く出来た子では無い。ただ、後々金銭トラブルを回避したいだけだ。


「ん……ミールさんが来ますね」

「ミール?」


 僅かにミールの魔力を感じてから程なくしてドアが開きミールが姿を現した。


「ほんとだ」

「私がどうかしたか?」


 入った瞬間にキリアと私に見られたミールは、何故自分に目が向けられているのかと不思議そうにしていた。


「何でも無いです。それよりファウラさんから学園の事聞いたんですよね?」

「ああ。今ナイルにも知らせて来た。行きたくないと駄々を捏ねるから、破門するぞと言ったら素直に応じたよ」


(それって脅しでは……)


「脅したのか」

「キリア、何か言ったか?」

「何でもありません」


 ミールに睨まれ黙るキリア。自分も口に出さなくて良かったと心から思う。


「明日、私とナイルそしてアイで学園長に会いに行く」

「あ……明日、ですか?」

「ああ。今からでも良いがどうする?」

「え、いや、明日でお願いします。明日っていうのも急でアレ何ですけど今日よりは明日の方がまだ良いです。いやでもやっぱりもっと先に」

「では明日にしよう。そう言えばキリア。シオがギルドマスターが仕事してくれないと嘆いていたが、ここで何をしている?」


 先延ばしにして貰おうとしたが、学園長に会う日が明日に決まってしまった。腕を組み真顔のミールに問われたキリアは素早く立ち上がった。


「さてと。仕事に戻りますかね。……ボックス」


 手を前に突き出し、空間に出来た歪みに手を入れる。そして、赤い布を取り出すと歪みは消えた。その赤い布…もとい、ローブをキリアは羽織った。


「じゃあアイまたな」


 軽く手を上げたキリアは面倒臭そうに部屋から出て行った。


「あの、ボックスって何の魔法ですか?」

「専用の魔法円を書いた場所と繋げて、物の出し入れが出来る魔法だ。アイも使っているだろう?」

「あ、あああれですね。ボックス。使ってますボックス」


 私の場合は異空間に繋げている為、使っていると言われてもピンと来なかった。異空間だから収容量は多分無限にあるはずだ。


「この後どうする? 私は特に用事は無いのだが」

「そうですねぇ……じゃあギルドでクエストを受けたいです。どんな魔物がいるのか、どんな街があるのかを知りたいので」


 クエストを受けていけば、魔物や地理を知ることが出来るし報酬も貰える。まさに一石二鳥……いや、三鳥だ。


「そうだな。せっかく帝になったのだから、帝クラスのギルクエを受けようか」

「はい!」


 地下部屋を出た私達は、受け付けのシオの元へ向かった。


「あ! ミールさんとアイさん!」

「アイ」


 普通のギルドカードでは無い、帝カードを周りに見えない様にシオへ見せた。するとシオは白い紙に魔力を流していき、徐々に紙に文字が浮かび上がった。帝クラスの依頼は受け付けに直接言わなければならないというのは、こういう理由だからだったのか。文字が浮かび上がった紙をカウンターに出したシオは、いつもより僅かに声のトーンを落とした。


「現在はこちらの3つです」

「んー、どれにする?」

「全部で」

「じゃあ全……本気か?」


 ミールとシオは面を食らった顔をした。


「お金も稼ぎたいので……あ、何か問題があるなら一つでも良いんですけど」

「いや、何も無いんだが……じゃあ3つとも頼む」

「は、はい!」


 カードを預け様とするとミールが止めた。


「では行ってくる」

「あれ? あ、行ってきます」

「はい! 行ってらっしゃい!」


 シオの癒される笑顔に見送られながらギルドから出た。


「カードって出さなくても良かったんですか?」

「依頼を受ける時にカードが必要なのは、他のギルド員と区別する為だ」


 大勢居るギルド員だと区別しないと誰が何をしたか判らない。それに比べて帝は、それぞれの属性に一人だから間違える事は無い。だから帝カードは出さなくても良いのだとミールは教えてくれた。どの属性にも属さない私なら尚更の事だ。隣を歩くミールが突然私の手を引っ張り急ぎ足になった。


「どうしたんですか?」


 ミールは何も答えず、十字路を右に曲がり直ぐに私を追いやる様にして物陰に隠れた。


「ミールさん?」

「しっ」


 何が起こったのか分からないが、静かにするようにとミールが口に手を当てたのでとりあえず黙る。すると複数の足音が身を潜めた場所の近くで止まった。


「くそ、見失ったか……」

「まだそう遠くまで行っていないと思われますが、どうしますか?」


 もしかして私達を追って来たのだろうか。何の為に何が目的でどちらを追って居るのか、皆目見当も付かない


「プレス様からは深追いは無用だと言われている。戻ろう」


 プレスという人物の命令で私達の後を追って居るらしいが、私にはその名前に聞き覚えは無い。


「分かりました。しかし何故あの女子を探して居られるのでしょうか」

「そりゃあお前楽しむ為だろう」

「ああ……お零れにあやかりたいですね」

「全くだ。その為にも……次は捕らえよう。行くぞ」

「はい」


 暫く辺りを見回しやがて足音は遠くへと消えて行った。


「……行ったようだな」

「今の人達は私達を追って来たんですかね?」

「どうやらギルドを出た辺りから、後をつけられていたらしい」

「……次は捕まっちゃうみたいですね」

「あの野郎共……」

「プレス様と言ってましたけど、誰でしょう?」

「……一旦、安全な場所へ行こう。転移するぞ」


 険しい表情のミールは力強く私を抱き寄せ魔法円を展開し、安全な場所というどこかへと転移した。

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