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転生した事を後悔する世界  作者: 寒月 シバレ
第一章『終わりが救いに変わる時』
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幸せな世界

 木枯らしが吹き荒れる中、全身ずぶ濡れで横たわって居た。水で濡れた体に秋風が吹き付け、私の体温と意識を奪って行く。


(今日出された宿題、帰ってからやる気力残ってるかな……)


 死に直面している状況にも関わらず、明日の事を考えている程に冷静ではある。この状況に慣れてしまったのか、自分の状況を冷静に理解した上で他の事を考える余裕があった。余裕というよりは、ただ現実逃避をして居るだけかもしれないが。


「ほらほら、何くたばってんだよ! 起きろよカス!!」


 飛び掛けた意識を戻す様に、目の前に居る女が私の髪を鷲掴みにして無理矢理起き上がらせた。髪の毛が千切れる音が聞こえる。でもその感覚さえわからない程、衰弱してしまっているらしい。


「留理子様! そんな汚い物を掴んでは留理子様の手に雑菌が付いてしまいます!」


「あら、そういえばそうね。汚物になぜ私が触らなければならないのかしら」


 留理子様と呼ばれた女は山下(ヤマシタ) 留理子(ルリコ)、私の同級生だ。お嬢様故に、我が儘言い放題でもそれを咎める人は居ない。その為周りには金魚の糞の子分が4・5人常におり、留理子の機嫌を伺いながら従っている。


 留理子は気に入らない人がいると必ず潰しに掛かった。だから留理子に逆らう人などほぼ居ない。……ここに居る私を除いて。だからこそ、こうして目を付けられ酷い仕打ちを受けている。


「手が汚れてしまったわ。拭いて頂戴」


「はい! 只今!」


 留理子は私の髪の毛を掴んだまま思い切り突き飛ばし、無言で手を差し出して子分にハンカチで拭かせた。


「あーあ。何かもう飽きちゃったわ。続きは明日にしましょう、笹川(ササガワ) (アイ)


 留理子達は唾を吐き捨てると、蔑む目で見下し去って行った。


「卒業するまでの我慢……」


 声に出して言うものの、卒業するまで毎日この仕打ちを受けるなんて、私に耐えられるのだろうか。


 皆に愛される様にと施設の園長が名付けてくれた、愛という名前が大嫌いだった。園長は大切に育ててくれた。私も、園長を本当の父の様に慕っていた。


 そんなある日、施設のある土地を買収するという話が出た。父は抵抗してどうにか回避しようとしたが、もう少しの所で突然この世を去った。そして土地は買収され、施設は閉鎖された。


 私が学校から帰宅した時に、父は車庫の中で首を吊っていた。状況などから自殺とされたが、自殺にはどうしても思えなかった。父は自分達を置いて勝手に死ぬような人では無いと信じているから。こんな無責任な事をする人が、児童養護施設を作る訳が無い。


 施設で暮らす子供達の中に怪しい男を見た子も居た。警察は圧力を掛けられたのか、子供の話は一切聞いてはくれなかった。皆の父は、自殺に見せ掛けて殺された。山下グループに。


 施設が閉鎖された後、兄妹は皆バラバラになってしまった。


「ああ、何でこうなっちゃったんだろう」


 大の字になって空を見上げた。


「ねぇ神様。私は貴方の存在なんて信じてない。こんな状況で信じられる方がおかしい。……でももし居るとしたら、私は貴方を憎む。妹や弟達、そして園長……父を失った。私はどうなっても構わなかった。なのに父は殺された。別に神様が直接手を下したとは思ってないの。やったのは山下グループだから。でも今の私に山下グループを潰せる力は無い」


 目の前に神が居る様な気がしていた。死が近いからだろうと不思議には思って居ない。知らず知らず心では神に救いを求めているのかもしれない。


「もし神様がいるのなら、私に山下グループを潰せる様な強い力を下さい」


 今にも消えそうな声で言うと、無力な自分が惨めで情け無く思えて泣けて来る。最後の最後は神頼み……今の私には神頼みをするしか方法は無い。


(あの世で神様に会う事があったら、一発ぶん殴ってやろう)


 空をぼうっと見上げて居たが、体温がかなり奪われた為に体の震えが止まらない。早く帰らなければと痛む体を無理矢理起こし立ち上がろうとした時、足音が複数此方へと向かって来た。急いで立ち上がったものの、まともに歩ける状態では無い。


「あ、いたいた!」


「おお……水も滴る良い女ってか。エロくね?」


「テンション上がるわー」


 知らない男が三人、いやらしい笑みを浮かべて私に近付いて来る。


(……おかしい)


 この辺りは人は近寄ら無いのに、いくらなんでもタイミングが良過ぎる。留理子達が立ち去ってからすぐに男達がたまたま通り掛かるなんて事はあり得ない。


(ああ……そうか。これも、留理子が仕向けたんだ)


 現状で把握している事を整理しまとめると自ずと答えが出てくる。全てを悟り薄い溜息を一つ吐いた。そして警戒しながら男達と距離を取る。


「……誰ですか?」


「誰でも良いじゃん。それにしても君可愛いね。いつもこんな事してんの?」


「……こんな事?」


「男誘ってヤりまくってんでしょ? まだ若いのに……いや、若いから性欲を持て余してんのか」


 男達はニヤニヤと笑みを浮かべ私の体を品定めしている。根も葉も無いデタラメを吹き込んだのだろう。ここに行けば若い女が一人居て、男が来るのを待っていると。


 ここから逃げる事が出来そうにない。逃げ切れる体力も残ってい無い。自分の身にこれから起こる事を、安易に想像できる。


(人違いですって言っても信じないだろうし……どうしよう)


 この状況を打開する方法を考える為に黙り込んだ時、男達は逃げられない様に私を取り囲んだ。


「やっぱり図星?」


「人、違いです」


 何食わぬ顔で帰ろうと試みるが、背後に居た男に羽交い締めにされてしまった。それを振りほどく力は残っていない。抵抗しては居るが、女の力では男には到底敵わなかった。


「そんなに抵抗しなくても良いじゃん。あ、もしかして無理矢理されたい系?」


「や、止めて下さい! 人違いです!」


「まぁ別に俺らは人違いだろうが関係無いんだよねぇ。ヤれるなら誰でも良いし。それにさぁ、こんな人気の無い所にずぶ濡れの女子高生が居たら……誰だってヤる気になるでしょ」


「俺らもうヤル気満々だからさ、君も変に抵抗しないで一緒に気持ち良くなろうよ」


「いや……!!」


 男が私の制服のボタンを一個ずつ外して行く。ゆっくりとその動作さえ味わう様に。助けを求めようと声を上げるが口を押さえられ、叫ぶ事すら出来ない絶望的な状況だ。


 制服を脱がしきった後シャツのボタンも外していくが、面倒臭くなったのか力任せにそれを引き裂いた。ボタンが弾け飛び、素肌が露出した。


(助けて……お父さん……)


 覚悟を決める間も無く男達は私の体に群がり、代わる代わる陵辱し続けた。残り少ない力を振り絞り大声で叫ぼうとすると、口に私自身の下着を詰められ声を出しても辺りに木霊する事は無かった。


 そして男達は行為の最中に首を絞めて来た。殺意からの行動では無く、その方が締まって気持ちが良いのだと何度も繰り返している。息をする事が出来なく顔をしかめ苦しんで居るのにも関わらず、男達は嬉しそうに私を見ていた。


 それからどれだけの時間が経ったのか。


「あースッキリした」


「やっとかよ。お前どんだけ性欲強いんだ。猿か」


「あはは、猿とか」


「うるせぇな。今日の為に我慢して来たんだ。お前らだって良いだけヤっただろうが」


「はいはい。ってか早く服着ろよ。もう行くぞ」


 薄れ行く意識の中、男達の会話を聞きようやく地獄が終わったのだと安堵した。


「そうだな、腹減ったし。おい……って反応する気力もねぇか。一応言っておくけど、今日の事は誰にも言うなよ? 言ったらどうなるか解るよな」


「こんだけヤられりゃあ誰にも言えねぇだろ」


「まぁ言える訳が無いか。んじゃ、行こうぜ」


「楽しかったよ、愛ちゃん。また遊ぼうね」


 男達は笑い声を上げながらこの後何を食べようかと談笑し、何事も無かった様に立ち去った。自分の名前を知って居るという事は、留理子が情報を流したと断定出来る。


「許さない……絶対に……いつか必ず……」


 声にならない声で呟き、そして意識を手放した――。


(何だろう……眩しい……)


 眩い強い光に照らされ意識が戻って来た。ゆっくりと瞼を開ける。ぼやけた視界がはっきりしてくると、寝ている子猫の姿が目に入った。それは寝室の天井に貼っていた私のお気に入りのポスターだった。


(ここは……皆で過ごした私達の家……? 私は男に犯されていたはず……)


 先程まで自分の身に起きていた事が頭に浮かび、体が小刻みに震え出した。自分の体を抱き締めて沈め様とするが、一向に治まらず、呼吸も早くなって来ている。


「……ああ、あれは夢だったんだ。全て悪い夢。……そうだ、きっと悪い夢を見ていたんだ。夢で良かったぁ。今までで一番最悪な夢だった」


 思い出しただけで吐き気が込み上げて来るが、なんとか顔をしかめながらも堪える。ベッドから降りて辺りを見回すが、子供達の姿が無い。声も聞こえない為不思議に思うが、どこかで昼寝をしているのかもしれないと半ば強引に自分を納得させた。


 時間を確認しようと目を向けるが、時計には何故か針が付いていなかった。


「何で無いんだろ……。まぁ、こんな事をするのは子供達しか居ないんだよね。またお父さんに叱って貰おう。……でもお父さんは優しくてあまり利き目がないからなぁ」


 父は笑って叱る為、子供達も笑顔で反省のはの字も無い。だから代わりに私が叱る事になるのだが、叱ってる最中に父が私を宥めて来る。だから何故か毎回私が悪い様になってなってしまう。


「私があの子達のお母さんにならなきゃだし、仕方ないか」


 微笑みを浮かべながらも溜息を軽く吐き、子供達と父を探そうと寝室を出た。廊下に出てもやっぱり声は聞こえて来ない。何故なのか、やけに静かだ。いつもは何かしらの音が聞こえるはずなのに時計の針の音すらも聞こえない。


「皆どこに居るんだろう……」


 皆と良く一緒に走り回った庭、皆と一緒に入ったお風呂、そして皆で一緒に寝ていた寝室に行き探し周った。しかしどこにも子供達が無い。父の姿も見当たらなかった。その時に嫌な胸騒ぎがしていたが、あえて気が付かなか無い振りをして自分を騙していた。


 もしかしたら、皆でどこかに出掛けたのかもしれない。自分が寝ていたから起こさなかったのだと強く思い込む。ふと目に入った壁に飾っている家族写真を手に取り眺めた。


「懐かしいなぁ……懐かしい?」


 自分が口にした事場の意味に理解が出来ず、首を傾げた。


「これってつい最近撮った写真じゃなかったっけ……あれ? 今日って何日だったっけ? 今何時? あ……そういえば、どこの部屋も時計に針が無くて時間が分からないんだっけ。子供達がいたずらしたんだと思ったけど……」


 次々と疑惑が溢れて来てしまう。写真を持つ手が小刻みに震える。いつの間にか目に溜まっていた涙が、写真の上に溢れ落ちた。そして、すっと頭の中に光景が浮かび上がった。


「ああ……思い出した。あれが夢なんじゃなくて、これが夢なんだ。もう子供達はここに居ないし、そもそもこの家も壊されてるじゃん」


 写真の中で無邪気な笑顔をしている子供達を優しく撫でる。


「ごめんね……ずっと一緒に居るって約束したのに、お姉ちゃん約束守れなくて……ごめん」


 写真を元に戻し、父がいつもいる部屋へ足を進めた。今はもう会えない父を、夢の中だとしても少しでも良いから感じたかった。扉を開けると、お気に入りの椅子に腰を掛けた父が、気持ち良さそうに眠っていた。


「お父さん……。ここを守ってあげられなくてごめんなさい。皆を守ってあげられなくて、ごめんなさい。お父さんを、死なせてしまって……ごめんなさい……。ごめんね、お父さん」


 堪えきれなかった涙が溢れ出した。溜まっていた膿を絞り出す様に、誰にも言えなかった事を吐き出す。


「私さ、お父さんを殺した山下グループの娘に虐められてるんだ。それで、男の人に襲われたの……」


 自分に起こった事なのに、何故か他人事のように思える。妙に冷静で居られるのは、全てを受け入れたからなのだろうか。


「でも、やっと楽になれる。この夢から覚めなければ、これからお父さんとずっと一緒に居られる。他の子達には悪いけど、私だってもっとお父さんに甘えたい」


 父に触れようと手を伸ばした時、自分の体に異変がある事に気が付いた。


「手が……」


 自分の全身を確認する様に見ると、どんどん色が無くなり消えていた。慌てて父に手を伸ばすがすり抜けてしまった。


「だめ……嫌だ! お父さん! お父さん!」


 触れたくても全てがすり抜けてしまい、いくら呼んでも父は起きない。もう何をしても無駄だと諦め、自分が消えてしまうまで父の寝顔を見詰める事にした。確かに父は一度寝たらなかなか起きない人だった。


「お父さん、ありがとう。……また、ね」


 体も透けてしまった私は最後まで父を見詰めながら消えた――。

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