始まりの章7 ルミウス死す。
近づくヘェル。その手には巨大な鎌"ヘェルサイズ"がある。奴も『武装解放』したのだ。
『殺してやるっ! 殺してやるっ! 憎きお前を僕が切り刻んでやるっ! 僕を見捨てたお前は僕には勝てないっ!』
飛びながらハデスに近づくヘェルはハデスに対してそう断言した。ハデスが自分には勝てないのだと......。その後、ヘェルの鎌はより一層、邪気を強める。ハデスに対するヘェルの怒りが"ヘェルサイズ"を強くする。
当然、その圧倒的な邪気を放つヘェルの鎌にハデスも対抗する。
「武装解放っ!」
ハデスは両手を体の横に広げながら唱えた。そして、両手の中に『闇』が現れる。そして、その『闇』はルミウスと同様に武器へと形を変えていく。
右手には"ハーデスランス"と左手には"ハーデスシールド"である。ハデスの戦闘モードだ。
そして、ハデスが武装解放し終わった瞬間、ヘェルからの殺意溢れる一撃がハデスに向けられる。その早く凄まじい一撃を見切り、ハデスは、とっさに回避し、後退する。その奴の本気の殺意を前にハデスは、
「本当は儂はお前と戦いたくないんじゃよ」
そう、小さな声で呟いた。もちろん、ヘェルにも誰にもその嘆きは聞こえない。
ハデスの中にある"愛情"がヘェルとの戦いを邪魔する。ハデスVSヘェルは、完全に実力ではハデスの方が上なのだが、ヘェルの優勢であった。ハデスは守ることしか出来ず、槍も防御へとなっていた。ハデスは攻撃をすることが出来ないでいたのだ。
『ハデスッ! もっとだっ! もっともっともっと僕を楽しませてくれよっ! ハハハッ! ハデス死ねっ!』
ヘェルの卑劣な攻撃は続く。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
一方、その頃、ルミウスと巨人は、
『バシンッ! ドカーンッ! ブボーンッ!』
巨人の振り下ろす棍棒の音が鳴り響いていた。巨人は死霊とはいえ、かなりの強者だ。もちろん、ルミウスもかなりの強者だ。しかし、ルミウスでもその巨人の攻撃を回避したり、受け流すことで精一杯だ。奴には隙がない。その巨人の棍棒から繰り出される多彩で予測不可能な攻撃の数々、そして、何より一つ一つがとても重い攻撃にルミウスは反撃できないでいた。一つでも直撃すれば、ルミウスであっても一撃で虫の息になるくらいなのだから......。
『ブォブォブォーーーーッッッ!!』
巨人の雄叫びがルミウスの耳の中に響く。その低く大きな雄叫びにルミウスは後退する。
「な、何か作戦が必要だ! 奴の弱点、やはりあれしかないっ! うおぉーーーーーーーっ!!」
そう、決心した次の瞬間、ルミウスは魔力を溜める。当然、破壊しか脳のない死霊はルミウスに対して、次々に棍棒で攻撃してくる。魔力を溜めながら、その攻撃を回避しながら、奴との距離をとるルミウス。そして、ルミウスの魔力は溜まった。次の瞬間、大量の『光』がルミウスから溢れる。
「シャイニング・ロードッ!」
ルミウスから溢れ出た『光』はルミウスを包み込む。光剣もその『光』と同化する。そして、ルミウスは全身を『光』に覆われた。次の瞬間、ルミウスの体をした『光』。すなわち、ルミウスは『光』になった。体はルミウスのまま、だが、全身の肌、顔など全てが『光』になった。"光人間"とでもいうべきか。
ーー奴の弱点は"スピード、"打撃"だ。巨人族"スピード"ならばそれは避けられないっ! そして、奴は魔法を使えないっ! ならばっ! "シャイニング・ロードは無敵なはずっ!"ーー
そう、ルミウスの"シャイニング・ロード"は自身を『光』にすることで、自身のスピードを"光速"にすることができる。そして、何より体全体が『光』となるので"打撃攻撃の無効化"にも繋がる。ルミウスは、巨人との戦いにおいて完全に有利になったのだ。
だが、"シャイニング・ロード"には欠点もある。それは、魔法の影響は受けやすいこと。制限時間付きであることだ。魔法の影響を受けやすいことは今は関係ないとしても、制限時間がある。ルミウスの場合、せいぜい三分だろう。でも、それ程までに体力を消耗する『光魔法』なのだ。そして、原則一日一回までといったところだろう。それ以上使用すると本人の死に関わってくる。まあ、一応、喋ることが出来ないのも欠点の一つなのだが......。
ーー時間も限られているっ! 早く巨人を倒さなければっ!ーー
そして、次の瞬間、光ルミウスは消えた。巨人への攻撃を開始したのだ。とても常人には見ることの出来ない攻撃が繰り出される。たちまち、巨人はなす術なくやられていく。巨人の体のあちこちからは血が吹き出し、地面に大量の血が零れていく。光ルミウスは、巨人の下部から徐々に上部へと光剣で斬りこんでいく。そして、一分も経たないうちに巨人の膝は地面についた。もちろん、巨人は死霊である。痛みは感じない。しかし、光ルミウスの人間離れした攻撃の数々に体がもたない。
ーーとどめだっ!ーー
ルミウスは巨人の顔の前まで辿り着く。光剣を両手で持ち、ルミウスは大きく剣を振りかぶる。
ーー私の最大の一撃で仕留めてやるーー
ルミウスの光剣が今までにないくらい光り出す。魔力が剣に集中する。
そして、振り下ろそうと巨人の顔のもっと前に近づいた瞬間、
ーー若僧は、僕の巨人を倒せないよーー
ルミウスの脳内に"声"が入り込んできた。
ヘェルの声だ。あの憎きヘェルの声だった。そして、嫌な予感が的中した。その声が脳内に響き終わった瞬間、ルミウスに異変が起こった。
ルミウスの"シャイニング・ロード"の効果が切れたのだ。
「ーーッ! 魔法無効化だと!?」
驚くルミウス。ヘェルはその巨人の顔の目の前に"魔法無効化の魔法"を仕掛けていたのだ。奴は、ルミウスがこうなる事を予測していたのだった。当然、ルミウスは焦る。巨人の目の前、しかも、"シャイニング・ロード"は切れている。いや、魔法が使えないのだ。この場にいてはヤバイと感じたルミウスはとっさに後退しようとする。
しかし、
「う、動けないっ!? 体が動かないッ!!!」
ルミウスの体は動かない。いや、動けないのだ。こんな魔法は見たことがある。いや、先程見たのだ。フィアが動けなくなったのと同じ現象だった。
そう、ヘェルは"魔法無効化の魔法"と一緒に『空間停滞の魔法』も同時に仕掛けていたのだった。ヘェルはこのことを予測していたかのように......。そして、今、ルミウスはこの場、巨人の目の前から動けないのだ。
フィアは遠くからその様子を見ていて、ルミウスの様子に気づく。自分もその状況にあったからか、気づいてしまった。ルミウスが巨人の目の前で動けないでいることを......。
空中で停滞するルミウスを巨人は不思議そうに見ていた。だが、考えるだけ無駄だと思ったのか、巨大な棍棒を振りかぶる。そして、棍棒に魔力が溜まっていく。なんと、巨人は"魔法"を使えたのだ。巨人の膨大な魔力が棍棒に溜まっていく。
『ル、ルミウス、ルミウス逃げてよ、いや、人が死んじゃうっ! ルミウスが、死んじゃう、そ、んな......ルミウス逃げてぇーーーーッ!』
フィアはその様子を見て、絶叫する。ハデスは、ヘェルとの戦いで逃れられない。なので、助けることは不可能。しかも、今のルミウスは魔法のシールドも光剣もなく、丸腰だ。あのままでは、間違いなく死んでしまうのだ。
ついに、巨人の魔力は溜まる。ルミウスは体中の力を振り絞って首を顔をフィアの方に向ける。もう逃げることは出来ないのだ。ルミウスは最期にフィアを見つめた。
その顔からは涙が零れ落ちながらも笑顔で、
『すみません、フィア様、負けてしまいました』
声は聞こえなかったが、そう、フィアには伝わった。
そして、
『バーーーーーンッ!』
強い衝撃と共にルミウスは棍棒によって地面に叩き潰された。赤く染まる棍棒。そして、赤く染まる地面。
「ーーーーーーーーッ!」
それと同時に少女の悲鳴が地下に響き渡った。
巨人死霊によって......。そして、ヘェルによって......。
ルミウスは死んだのだった。




