第1章7 揺れ動く裏
「第6幹部様ぁ〜〜! 至急お伝えしたいことがっ!」
暗く静かで冷たい部屋の中。一人の男が急いで走って部屋に入ってきた。「はぁはぁ」と息切れも激しい。額には汗を浮かべ、両手も膝につけている。その男の前には一人の女が椅子に座って本を読んでいる。かなりのスタイルと美貌、そして、胸だ。でかい。でかすぎる。それはそれだが、その堂々としている態度と物凄いオーラが肌を伝わってくる。
そして、その女は静かに溜息をつき、本を閉じて視線を本から男に向ける。そして、その女は立ち上がり男に向かって、
『このお姉さんに伝えるくらいの大事な事なんだよね〜〜! お姉さんの読書の時間を奪う事がどれだけのことなのか知っているのか〜な〜? チッ! この格下がっ!』
「だ、第6幹部様......その点に関しては申し訳ございません」
男は地面にひれ伏し、額を冷たい床に付け土下座しながら謝る。
しかし、「ドシッ!」と鈍い音が部屋に響く。その男の頭はその女に踏まれて地面に押し付けられたのだ。そして、
『じゃあ、言ってよ〜〜! で〜も〜どうでもよかったらお前殺すからね!』
「第6幹部様......どうか命だけはぁ」
『言いたいことはその命乞いなの〜か〜な? なら、殺しちゃうよ〜』
その女はそう言って手刀をしようとする。その手からは『闇』の力が溢れ出ている。並の人間では一瞬で首なんかは真っ二つだろう。
『ぢがいまず! ぢがいまず!』
男は床でジタバタと暴れながら、その事を否定しようと必死だ。「あぁあん?」と女は男を見つめる。無様な姿で男はもがいている。その様子に女は男の頭を押し付けていた足をどける。その瞬間、男は何故なのかと疑問に思い上を見上げようとする。しかし、次の瞬間、男は壁へと蹴り飛ばされた。女の蹴りが男の顔面に入ったのだ。
そして、男が飛ばされた所へとゆっくり歩きながら喋り出した。
『あのね〜! お姉さんは一分一秒も無駄にしたくないし、読書の時間はね〜、知識を蓄えるためには大事な大事〜な時間なの、貴方みたいな格下のクズに邪魔できるものではないのよ、言いなさい! そのお姉さんに、そう第6幹部であるお姉さんに伝えなきゃいけないことをっ! それが貴方の最後の言葉になるかもね、フフフッ♥』
その女の不気味な笑いが終わったとき、女はもう男の目の前だ。男は血だらけでもうボロボロだ。そして、もう虫の息だ。その様子にその女は怒りながら男の胸を掴む。今にも殺しそうだ。その事を察したのか、男は死力を振り絞った。そして、弱々しい声で、
「よ、予言がぁたった」
『ーーーーーーーーッ!!』
その瞬間、その女の様子が急変する。胸を掴まれていた男は投げ捨てられる。それは強く床に叩きつけられ、ボールのように転がっていく。そして、ピクリとも動かなくなった。
その女は驚きと不安と楽しみと喜びと怒りを抱きながら急いで部屋を出た。
そして、部屋の外にいた者たちに向かって、
『全員っ! お姉さんの後に続きなさいっ!』
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その頃、ルイたちのいる王の間では、皆が皆ざわついていた。あの性別と名前が判明してから、ほんの少しの時が経った頃だ。
「どういうことだ......」
一人の騎士がその共有されているルイの能力画面を見ながらつぶやいた。当然、その気持ちは彼だけが抱くものではない。フレア王女だってセミミウスだってレイテーゼだって同じことだ。でも、本当は本人が一番驚いているのだろうが。
そして、
『何で俺の能力は全部が"はてな"なんだよーーーーーーーーーっ!!!』
ルイの大きなこの叫びが皆の耳に届く。その瞬間、皆がルイの方向へと視線を向ける。静まり返る王の間。そして、今、全員の視線はルイにあるのだ。
その時、
『はぁーーーーっ!! 死ね! ツルギ・ルイっ!』
壇上のさらに上の壇上にいた鎧を身にまとう女の子が剣を抜き、ルイに向かって飛びかかってくる。物凄い速さだ。一瞬で目の前まで来ている。そして、振り上げた剣は空気を斬りながらルイに向かって振り下ろされていく。
その時、
「カキーーーーーーーン!」
鋭い金属音が鳴り響く。鎧の女の剣はルイに当たる直前に騎士団長であるバロンに止められたのだ。
「姫っ! お止めください! まだその判断は早いかと!」
バロン団長は剣を受け止めながら必死に訴える。そして、鎧の女は力を抜き、その場に降りる。そして、ルイを睨みながら、
『私はこの男が敵だと思います! 先程から嫌なオーラを感じるのです! 私はこの男が嫌いです!』
そう言いながら、まだルイを睨みつけている。その女の様子にルイは、
「あのな! 俺は怪しいものじゃない! この世界を救うためにやってきたヒーローだ! お前が誰かは知らんが何も俺のことをお前は知らないだろっ!」
ルイは少し怒りを胸にその女に向かって怒鳴りつけた。それもそのはず、ガチでこの女はルイを殺しにかかろうとしていたのだから。だが、女も負けていない。
『なんだって? このどアホがッ! しかも能力が全て"はてな"ってふざけてんの? 今までにこんな事はなかった! ならなんで起こる? 決まってるわっ! こんな事が出来るなんて強すぎるか弱すぎるかのどっちかに決まってるでしょうがっ! だから、この私が今すぐ貴方を斬る! この私がっ! 』
そう言って女はまた剣を構える。ルイの前には依然としてバロンがいる。バロンも剣を構えている。だが、ルイもバロンもそんなことは望んでいない。
「姫っ! 考えをお改めください! この者が敵と決まった訳ではありませぬ!」
バロンはその女を"姫"と呼びながら止める。しかし、その女の意見は変わらない。剣を構えたまま、いつ襲いかかってきてもおかしくはない。
しかし、まず、ルイにとっては第一に戦うこと自体が無意味だ。だって、ルイは高校生でありながら小学生の悪ガキと喧嘩をしてボコボコにされる程のカスなのだから。あんな一瞬で目の前に来ることの出来る奴なんかと戦いたくない。一撃で首が胴体から離れるのは目に見えている。
だからこそ、
『俺はお前と戦いたくない、俺は味方だ! 魔王をこの手で倒したい! この気持ちは嘘じゃない! 本物だっ! だから、俺はお前と戦う理由がない、俺は君を殴れない! 俺は君の仲間なんだから!』
ルイは女に向かってそう言い放った。嘘はついていない。決して敵でもない。どちらかと言えば当選、味方なのだ。だから、戦いたくない。しかし、その言葉はその女には通じない。
『私は人を信じない! もう二度と過ちを犯さないためにッ!! ここで貴方を斬る!』
そして、女がルイを狙って動き出そうとした瞬間、
『そこまでにしろっ! 見苦しいぞっ! セレナッ!!!』
フレア王女の声が女を止めた。その言葉に、
『お姉ちゃん! 止めないでっ! コレは私が斬る! お姉ちゃんだって感じているんでしょ? 奴のオーラを! あの不思議で今までに感じたことのないオーラをっ! あんなのは人間じゃないわっ!』
その女は振り返ってフレア王女を見ながらそう言った。フレア王女は思わず黙り込む。そして、その言葉はルイの心に突き刺さる。
だって、
ーーあいつは間違ったことを言ってないんだから、でも、まさかーー
ルイは心の中で静かに呟き、息を呑む。今まで、そして、少しアイツを恨みながら、
『あいつ強すぎんだろッ!』
ルイのその様子に女はまた剣を構えてその意味不明なルイの一言を無視して睨みつける。その目には迷いはない。あいつはマジでルイを殺そうとしている目をしている。
そして、
『私はレベル10のこの国の誇り高き第二王女であり、"戦姫"の名を持つ者! "セレナ・アレクサンダー"!!! 死ねっ! ツルギ・ルイッッ!!』
セレナはルイを殺しにかかった......。




