第1章3 最後の転生者
「お、おいっ、今、ゼ、ゼウスの野郎がどうしたって!?」
「転生者様、口が悪いですよ」
ルイは聞き捨てならない単語を聞き、フレア王女に問いかける。口が悪いのも仕方ないと言えばそうだ。ルイは感情を抑えきれないタイプの人間なのであるから。そのルイのゼウスと王女に対する態度に後ろに控えていたセミミウスが注意する。
『ふふふ、そうか、やはり言う通りなのだな、これは面白い面白いっ!』
そのルイの様子を見て、フレア王女は笑っている。その予想外の王女の様子にルイとセミミウスは目を丸くしている。老人でさえ、あの反応は予測していなかったようだ。
「姉様、その辺にしておいて話を続けましょう」
笑っている王女、その王女の笑いを止めたのはその壇上の下の壇上にいたルイよりも若く、中学生くらいの女の子だ。赤い髪の毛でショートヘアーだ。そして、とてもフレアといい勝負の美貌の持ち主だ。姉妹なのだろう。
その女の子に止められ、フレア王女は、
『すまんかったな、ふむ、やはり君はゼウスと知り合いみたいだな』
"ゼウス"。それはルイにとっては忘れることの出来ない人物の一人である。それはフィアも同じだ。簡単に言うならば、ルイとフィアをこの"ラストワールド"に送り込んだのがゼウスである。そして、フィアとの関係も深い人物である。神たちが住んでいる神域という場所がある。そこの五本の指に入る程の実力者でかなり権力のある神だ。そして、冥界での戦いにて終止符を打ったのも彼だ。
そんなゼウスは、世界には干渉することが出来ない。いや、禁じられているらしい。ペナルティがあるとも言っていた。だから、彼は世界を救うため、間接的に干渉して、沢山の人たちを転生させた。その数は百万人程。この世界にはよりすぐりの戦士たちが送り込まれたのだ。
そんなゼウスをフレア王女は知っていた。しかし、ルイは何故フレア王女がゼウスを知っているのか不思議だった。それをルイは聞こうとしようとした直前、
「フレア様っ!」
その言葉にルイは振り返る。そこには騎士の一人が手を上げていた。そして、その騎士はフレア王女に向かって問いかけた。
「何故にゼウス様という方をお知りで? 私共、騎士団の皆は知りませぬ」
「それは我ら神官の皆も同じこと、フレア様っ! それを我らもお聞きしたいっ」
その騎士の後に神官たちの中の一人も続いてフレア王女に問いかける。後ろの者たちもフレア王女の言うことは分からなかったのだ。その質問にフレア王女は玉座に持たれかかり答える。
『バロン団長、レルテーゼ神官長、メールが私の元へ届いたのだよ』
その二人の男は騎士団長と神官長という立場の者だった。そのことに多少の驚きを心の内に思いながら、フレア王女の発言に耳を傾けていた。そして、フレア王女は笑顔で、
『ほらこれを見てくれ』
そう言ってフレア王女は手を前に出しスライドした。
「えっ」
ルイの口からは驚きの声が漏れる。そこからはまるでゲームのように画面が出てきたのだ。いや、ゲームそのものだ。その技術は想像を超えている。ルイが住んでいた世界よりも科学は発展しているのだ。
「驚くことでもありませんよ、この世界ではこれは普通でございます、そこにはメールはもちろん出したい時に道具を出したり、自分自身の能力を確認できたり出来るのです」
セミミウスはそう言って説明した。
『そういう事だ、君は分かったかい?』
「あぁ」
小さく頷き、ルイはフレア王女を見た。そして、フレア王女は画面を大きくして自分の後ろに出した。
フレア王女へ
私の名は『ゼウス』と言う。神だ。これから私は最後の転生者をそちらに送る。君たちの力になってくれるだろう。だが、この転生者は少しばかり他の者たちとは違ってね。まあ、そちらで確かめるが良い。
そのゼウスからのメールは本当に届いていた。ルイはそのメールを見て、
「本当なんだな」
『そう、私は嘘はつかないよ、君には少しばかり興味があってね、こうしてゼウス様からのメールは初めてなのだよ、一度会ったことがあるだけでね』
「だから、こんなに俺は豪華にお出迎えされてるって訳かっ」
「口がよろしくありませぬぞ」
『よいぞ、セミミウスっ! この者はこれでよい、そして、この出迎えはそういう事だ』
フレア王女はルイを真っ直ぐ見つめながらそう言った。その言葉にルイは下を向く。そして、考えた。
ーー俺はかなりの実力を持っている訳でもない、はっきり言うとカスの中のカスだろう、そして、ゼウスはこの世界に強者たちを送り込んだと言っていた、魔王を倒すために、そんな魔王というただでさえ強そうな敵に立ち向かえる程の者たちを送り込んだのに、俺は全くのどこにでもいる男子高校生だ、今だって、制服にスクールバッグを背負っている、本当にただの通学途中の男子高校生ーー
「なら、フィアなのか」
そうルイは聞こえない程度に呟いた。
ーーそう俺には何の能力もないはずだ、どこにでもいる普通の高校生が実はめちゃくちゃ強い力を秘めてました〜〜、なんて事はないだろう、ならば、あの冥界を無意識に半壊させる程の実力を持つフィアがゼウスにとっては特別なのだっ! 重要人物なのだっ!ーー
その答えに行き着き、ルイは自分の価値のなさに失望した。でも、そんな事はどうでもいいとルイは自分に言い聞かせ、フレア王女の方へと再び見上げた。
『ふむ、考え終わったようだな』
「あぁ、俺がどんな人物なのか分かったよ」
ルイは頷きながら、そう言った。
『ふむ、なら良いっ! レイテーゼ神官長っ、あれは持ってきたか?』
「もちろんでございますっ!」
レイテーゼはそう言い放って、手で自分の前をスライドした。こうして、ルイはまたそのゲームじみた操作を見た。でも、案外、二回目だと驚きはないものだ。
そして、画面のあるボタンを押した瞬間、レイテーゼの手元には一つの無色の結晶が現れた。そして、それを片手にレイテーゼは歩き出した。もちろんと言ってもいいが、その先にはルイがいる。レイテーゼ神官長はルイの元へと歩き出したのだ。
そして、レイテーゼはルイの元へと辿り着いた。レイテーゼはルイよりかは一段と背が高い。そして、ルイの中では同じ神官であるルミウスが脳裏に蘇った。ルミウスは神官でありながら、かなりの実力者だった。ならば、その神官の中の頂点に立つ男、レイテーゼの圧倒感は凄かった。
そして、ルイの目の前に来たレイテーゼはルイに向かって言う。
「これは、"能力結晶"と言うものだ」
そうレイテーゼは言ったのだった。ルイはそのレイテーゼの言葉にその手の無色の結晶に目を向けた。それはとても美しく輝いていた。