始まりの章13 壊れていく世界
フィアの目に映っていた『光』が消える。
『んんっ!』
そして、フィアは天界に戻ってきていた。あの時と同じ場所だ。あのルミウスと会った所だ。とっさにフィアは周りを見回す。誰もいない。誰も声をかけてくれない。何の音も聞こえない。フィアは歩き出す。神殿の中へと。足取りは重たく、そして、目には涙......。
『わたしはどうしたらいいの』
泣きながら、フィアは自分の部屋へと真っ直ぐ向かっていった。神の仕事をせず、ただ、ひたすらに現実から目を逸らしたくて。そして、フィアは引きこもった。
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それから、数ヶ月。フィアはずっと引きこもって生活していた。何を考え、何を思い、何もすることなく、フィアはただ、今を生きている自分を恨む。憎む。悔やむ。悲しむ。苦しむ。生きる価値を見失った彼女は、もはや、生きることを諦めていた。フィアには生きる理由もないのだ。
そして、4月3日。フィアはその部屋の扉を久しぶりに開ける。何故かは分からない。だが、フィアは扉を開けて外の世界へ出ようとする。差し込んでくる太陽の光。風。そして、邪気がフィアに伝わる。
『えっ』
弱々しい声が漏れる。天界にもついに影響が現れ始めたのだった。神殿はフィアの部屋を残し、半壊状態。ひびの入る天界の地面。そして、今までは白く綺麗だった雲は黒雲へと。雷を放ち、荒れ狂う雲たち。空の太陽は少し黒がかっている。
『何が起こったの、どうして、世界が、私の世界が、壊れていくのっ!!!』
無力な少女はその破壊に気付くのが遅れた。本当は彼女が天界に戻って来た時にはもう破壊は中期と言ったところだった。天界には影響はなかったが、人間界では異変は現れていたのだった。そして、フィアが気付いた時、破壊は末期。もう天界にまで破壊は侵攻し、崩れ落ちていく。フィアは知らなかった。そんなこと、知らなかった。目の前にはまたしても信じられない光景。フィアはとっさに走りだす。神殿の半分近くはもう灰となって消えている。でも、フィアは一部の希望を胸に走る。先程まで考えていた事を忘れ。
そして、辿り着く。そこは奇跡的に無傷だった。フィアは神殿の中など大して歩いたことはない。ルミウスと少し歩いただけだ。しかし、ここには来た。ここはどういうものか知っている。そう、フィアの目の前には『転移の間』があった。そこは、前に冥界へと転移をしたところだ。そこに今、再びフィアはやって来た。そして、
『私は死んでもいいっ! でも、他の、この世界の人たちを死なせてはいけないっ! みんなは私がフィアが助けるのっ!』
フィアはそう言って 扉に手を掛ける。深呼吸をし、その重たい扉を開く。目の前には『光』。そして、フィアを『光』が包んでいく。
『人間界へッ!!!』
そして、フィアの全身を『光』が包み込み、フィアの目の前が『光』で埋め尽くされた。
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フィアを覆っていた『光』が消えるとそこはとある都市だった。たくさんのビルや店屋、会社が立ち並んでいる。当然、フィアはそんなのは知らない。そして、ここにはたくさんの人々。フィアはその初めて見るTー38世界を見て、科学に発展したその世界を見て目を見開く。しかし、
ーーみんな、暗いな、悲しそうーー
フィアにはそう感じた。その笑っている人もいなく、ただ下を向きながら歩く人々。フィアの胸は苦しくなる。検討はフィアでもついていた。あのヘェルのせいだ。ヘェルは冥界を去る際にフィアの世界に向かって『闇』を放った。破壊だと。フィアにはまだそれが何なのかは分からない。しかし、奴はこの世界を破壊しようとしている。依然として、空一面はは黒雲が覆い、風も生暖かい。気持ち悪いくらいだ。そして、フィアはある会話を耳にしてしまう。
「おい、知ってるか? 最近流行り始めている病っ! 何も治療方法はなく、人々は苦しみながら、死に絶えていくみたいだぜ、名前は確か、"不治の病"だったかな、もうこの世はどうなってるんだよっ!」
「本当だよなっ! そんなのにはなりたくねぇーーな、でも、噂によるともう世界人口の三分の一近くはこの一年で亡くなっているらしい、政府は隠蔽しているみたいだがな、マジでどうしちゃったんだろうなっ! 神様いるなら助けてくれよっ!」
その言葉にフィアは驚きを隠せない。もう人口の三分の一は苦しみながら、死に絶えていたのだ。フィアは神だ。この世界の中枢に繋がっている。調べてみる。すると、もう沢山の動植物は絶滅し、人類種も三分の一程、ここ一年で死んでいる。死因はその"不治の病"。彼らが言っていたことは嘘でも何でもない。事実だ。そして、フィアはその男の人たちを追いかける。そして、
『私は神様よっ! あなた達を助けるっ! ここにいても死ぬだけよっ! 早く安全なところへ』
フィアは大きな声でその二人に言いかける。その声は周りにも聞こえ、多くの人がフィアの方を見る。大人の人からすると、フィアは十二歳くらいの少女。その子供の言葉に二人は、
「お前が神な訳ねぇーーだろっ! 冗談でも笑えねぇっ! 神がいるってんなら、俺らはもう神に見捨てられたんだよっ!」
「そうだっ! 神なんていたら、全員でボコボコにしてやるっ! お嬢ちゃんが俺らを笑わせようとしてくれるのは嬉しいけど、まず、安全な所なんてこの世界のどこにもない、あるなら、いきたいくらいだよっ!」
二人の男性はフィアに向かってそう言う。しかし、フィアは本当に神様である。だから、
『わ、私は本当に神様なのっ! 安全な所はあるわっ! 私に、私にみんなついてきてっ!』
フィアは一生懸命に周りにいる人々にそう呼びかけ、その二人の男性を引っ張って連れてこうとする。しかし、
「おいっ! お前やめろよっ! お前、大丈夫か? 病院でも行ってこいっ!」
そう言ってフィアは軽々と突き飛ばされる。
『ーーーーーッ!』
フィアの足からは擦り傷で血が出る。そして、立ち上がったフィアは周りを見回す。その気が違っている人を見るかのように人々は冷たい視線を少女に送る。当然だ。都市の真ん中で神と叫ぶ少女だ。フィアはその人々の様子にもうそれ以上のことは話さなかった。そして、突き飛ばした男性は、
「くっ! ちょっとやり過ぎた。すまなかったな、だけど、お前はおかしいっ! あそこに大きな病院がある、精神科でも言ってみるといい、多分、君も"不治の病"にでもかかってしまったんだろう、残念だがな」
そう言って、男性たちはフィアの前から立ち去った。フィアはその男性の指差した方向を見る。そして、
『病院っ』
そう言って、その建物に向かって歩き出した。
そして、フィアは"病院"の中へと足を踏み入れた。
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そこはとても静かで嫌な空気が漂っている場所だった。人々は皆、暗い顔をしている。先程の人々と比べるとその差は天と地だ。そして、その"病院"というものの様子にフィアは、一人の座っている女性に聞いた。
『ちょっと君、ここは何なの? 何でこんなにみんなは暗いの?』
しかし、フィアの問いは予想外に返される。
「うるさいっ!! あなた何なのっ! 私は今、もう死ぬって申告させたばかりなのっ! "不治の病"に、あの病気にかかってしまったのっ! 話しかけないでッ! 一人にしてっ! あなたにこの気持ちが分かるのっ? 明日、生きてるか分からないのよっ! 私は私は死なないといけないのっ! そんな人たちが集まる病院にあなたみたいな健康な人が来ないでっ! 目障りよっ! 私の前から消えてっ!」
そう言って、女性は下を向き、泣き出した。フィアは言い返せない。ここは、病気などを治す治療の部屋なのだ。神域にもあったのでフィアでも分かった。しかし、ここはもう死ぬ人が集まって押し込まれ、監禁される。言わば、最悪の建物だとフィアは感じた。泣いている女性。フィアは、
ーー何かこの人を助けないとっ! また、声をかけて、でも、私には救えない、でもでもーー
そして、フィアは再び声をかけようと口を開く。しかし、
「目障りだって言ってるでしょっ!!」
フィアはまたしても拒否られる。そして、フィアはその開けた口を閉じ、そのまま奥へと歩き出した。フィアの足取りは重く、この建物の中の人々の視線が痛い。健康的なフィアに人々は恨んでいるのだ。フィアにもそれは伝わる。悔しかった。やはり、フィアは誰も救えない。誰一人として救えない。やはりフィアは、
『私は、やっぱり無力だ』
下を向き、フィアは小さな声で呟く。依然としてフィアはまだ歩き続けている。
次の瞬間、歩いているフィアにある部屋が目に入る。もうここで行き止まりだ。その一番奥にあった部屋。フィアはその部屋に何かを感じた。そう、何かを。そして、扉に手を掛ける。
【鶴木源一郎】
そう書かれた個室にフィアは入り込む。
何か運命を感じるように......。
そこには一人の老人が横たわっていた。




