始まりの章11 逃げるが勝ち
ゼウスとヘェルの戦いが始まった。
『ーーーーーーーッ!!!』
ゼウスに向かって攻撃を仕掛けていく死霊。しかし、何百体もの死霊はゼウスの前では数も無意味だ。向かってくる死霊たちをゼウスは物凄いスピードで斬り刻んでいく。そして、死霊は次々に消滅していく。いくら、死霊とはいえ、二回目の死はヘェルでも蘇らすことが出来ない。大量の死霊たちが消滅していくのを見てヘェルは、
「な、何故だっ! 何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だっ! 何故だーーーーーーッ!」
ヘェルは頭を抱えながら目の前の光景に叫ぶ。戦況はヘェルの圧倒的な不利なのだから。
そして、ゼウスは斬るのを止め、地面を蹴る。飛んだゼウスに飛べない死霊たちは魔法で対抗する。ゼウスに飛んでくる魔法の数々。ゼウスはそれをことごとく回避し、ヘェルに近づく。
「来るなっ! 来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るなーーーーーーッ!」
ヘェルの叫びは虚しくゼウスはどんどん近づいてくる。そしてゼウスの剣が六色に光り出す。
次の瞬間、空中でゼウスは剣を振り上げる。そして、勢いよく振り下ろした瞬間、六色に輝く斬撃がヘェルに向かって放たれた。物凄いスピードで近づく斬撃。ヘェルはそれを見て、手を前に出し、
「け、結界っ!!!!!!!!」
守りの態勢に入る。その瞬間、ヘェルの周りに結界が現れる。
そして、次の瞬間、
『ーーーーーーッ!』
二つが衝突する。冥界中に物凄い衝撃が走る。斬撃は結界に食いこんでいく。結界をもってしてもゼウスの斬撃の勢いは止まらない。そして、
『君は私には勝てないよ、ヘェル』
そのゼウスの言葉と共に結界が斬撃によって破壊される。
だが、ヘェルは当たる寸前、下を向きながら小さく笑った。
「フッ!」
次の瞬間、ヘェルは姿が消える。斬撃はヘェルには当たらず、地面に衝突する。
「なっ! いなくなったじゃと?!」
ハデスがその光景に目を疑う。だが、ハデスは依然としてまだ何倍にも膨らんだ重力の影響を受け続けている。そして、フィアはというと、戦いなど耳にも目にも入ってこない。地面に膝をつき、自分のせいで強くなってしまったヘェル。そして、死んだルミウス。その事をフィアは悔やみ、悲しみ、自分を憎み恨み、泣いていた。フィアの精神状態は最悪だ。
しかし、ゼウスは違う。何故なのか、分かっていた。
『転移魔法か』
静かにそう呟いた。そして、ゼウスは目をつぶる。耳の中には何の音も入ってこない。ゼウスは全神経を集中させる。この静かな冥界の中にいるヘェルを探して。
『転移魔法』は全属性が使える高位魔法の一つである。ある一定の範囲の空間の転移が可能となるのだ。それをゼウスはその空間の微妙なズレを探す。そう、転移地点を。そして、
『ーーーーーーッ!』
ゼウスはヘェルの居場所が分かったか、いきなり目を開け、ハデス付近へと猛スピードで向かう。
そして、ヘェルはそこに現れた。ハデスの目の前に。ハデスに向かって笑うヘェル。だが、次の瞬間、ヘェルはゼウスによって殴り飛ばされる。なんとゼウスはヘェルの転移地点を予測したのである。ヘェルは勢いよく地面を転がっていく。そして、次の瞬間、ハデスを叩きつけていた"重力魔法"が解除される。
「ぅぅ!うっ! はぁはぁはぁ、儂も戦うんじゃ」
その何倍もの力に増幅した重力から解放されたハデスはそうゼウスに言う。しかし、そのボロボロになったハデスを見てゼウスは、
『お前は、早くフィアと一緒に冥界を離れろ、ここは私が食い止めるっ! 神域に行け、そこならば安全だ、ヘェルがいる限り、この冥界は安全ではないっ!"ゴッドゲート"を使えっ! 奴は私が倒すっ!』
そう言ってゼウスは殴り飛ばされたヘェルの方向へと走り出す。そのゼウスの言葉にハデスは反論することも出来ない。何故なら、ハデスはもう戦える程の魔力はもう体の中に残っていないのだ。それは、ハデス自身が一番分かっている。でも、
「わ、儂の思いっ! 託したぞ、ゼウス」
そう言い残しハデスはゼウスと反対方向へと、フィアのいる方向へと急いで走り出した。ハデスは自分でヘェルとの決着をつけたかったんだ。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「くっ! 何故だ何故なんだーーッ!!くそっ! ゼウスゥーーーーーーッ!!!」
ヘェルは自分の転移地点をゼウスに予測されたことに怒りを隠せない。地面を殴り、その手からは血が出てくる。だが、それもつかの間。ゼウスはヘェルに向かって走ってくる。手には"ゼウス・エクスカリバー"。そして、凄まじい『神のオーラ』が出ている。ヘェルは、狂い出す。そして、地面に両手をつき、叫んだ。
「死霊門ッ!!!!!!!」
その瞬間、ヘェルの前に大量の巨人死霊が現れる。その中にはルミウスを殺した巨人もいる。ヘェルはその大量の巨人死霊に走ってくるゼウスを指差し、
「殺れぇーーーーーーーーーッ!!!」
声を大にして叫んだ。その叫びに巨人たちは反応する。一斉にゼウスに向かって走り出す巨人たち。ゼウスを囲むように巨人たちはゼウスに向かってくる。その巨人たちの様子にゼウスはその場に止まる。
『くっ! 無駄な時間稼ぎをっ!』
そう言って、ゼウスと巨人たちの戦いが始まる。ゼウスは巨人たちの拳や蹴り、棍棒を回避して斬っていく。だが、物凄い量の攻撃が飛んでいく。地面は凹み抉れ、大量の砂ぼこりがその戦いを包み込む。ゼウスはその視界の悪い中での巨人たちの量の多さと連携力。そして、ダメージを感じない巨人死霊たちに手こずる。回避しても回避してもそこには巨人。当然、巨人たちの強さも段違いだ。ゼウスは巨人たちとの戦いに足止めさせられていた。
「転移魔法」
ヘェルはそのゼウスの様子を見て小さな声で転移する。口元がにやけるヘェル。ゼウスがそのヘェルの行動に気付くことが出来なかった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁはぁはぁッ!ゴッドゲートッ!!!」
ハデスは息を荒くし、右手を前に出し、そう叫んだ。フィアの元へと走るハデスは、神のみぞ使える"ゴッドゲート"を使う。次の瞬間、フィアの後ろには門が現れる。"ゴッドゲート"だ。しかし、依然としてフィアは地面に膝をつき、自分を追い詰めている。ハデスはそのフィアへと急ぐ。
しかし、瞬きをした瞬間、フィアの前にあいつがいた。いるはずのない奴が。
「なっ! どうしてじゃっ! ヘェルッ!!!
」
ヘェルは転移地点をフィアの目の前に設定していたのだ。ハデスはヘェルが転移した事など知らない。そして、ハデスはまさかと思い、後ろを振り返る。当然、ゼウスは物凄い数の巨人と戦っている。少し安心するが、状況は変わらない。
そして、ハデスは再び前を見る。ヘェルは笑いながら右手をハデスに向ける。そして、次の瞬間、ハデスに向かって『闇』の魔法弾が放たれる。ボロボロのハデスには避けるような力も守る力もない。そして、
『ドーーーーーーーンッ!!!』
その音と共にハデスは吹き飛ばされる。そして、意識を失った。もう虫の息だ。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、ヘェルは、しゃがみこむ。そして、フィアの頬を前と同じように掴み、フィアを立たせる。フィアの前にはヘェル。フィアは、その目の中に映るヘェルに怒りが込み上げてくる。しかし、
『邪魔だっ!』
次の瞬間、フィアはヘェルによって気絶したハデスがいる方向へと投げられる。そして、フィアは転がり倒れ込むハデスに衝突する。ボロボロのハデスを、見てフィアはハデスの体を左右に揺らしながら荒い声で呼びかける。
「ハ、ハデスぅ、ハデスっ! しっかりしてハデスッ! い、いやっ、し、死なないでっ! ぅぅ! くっ! ヘェルッ!!!」
そう言って、フィアは立ち上がる。そして、フィアはヘェルに向かって走り出す。しかし、
「ぅぅ! うっ! 何なのっ! これはっ!」
ヘェルはフィアに向かって手を前に出しているだけ。だが、フィアは地面に叩きつけられる。フィアにはこれが何なのか分からない。しかし、これは間違いなく"重力魔法"である。その凄まじい重力にフィアは地面から起き上がることが出来ない。そして、ヘェルは笑いながら、
『君、醜いね』
そう言って、後ろにある"ゴッドゲート"を見つめる。そして、ヘェルは何か思いついたのか、フィアの方へまた振り返る。
『君が支配する世界はTー38世界だっけ? フフフッ! ハハハハハハハハハハッ! いいよっ! いいだろうっ! 破壊ッ! 破壊ッ! 破壊ッ! 破壊ッ! 破壊してやるっ! じっくりと時間をかけて苦しませてやるっ! フィア、君は弱かった、何も救えないっ! 無力の前に死ねぇ!』
そうフィアに向かって言った。次の瞬間、ヘェルの手が"ゴッドゲート"に向けられる。そして、その手からは『闇』が出てくる。そして、
『Tー38世界へっ!』
そうヘェルが言い、ヘェルの腐った手のひらから『闇』が解き放たれる。そして、その『闇』は吸い込まれるように"ゴッドゲート"に入り込んでいく。ヘェルはその光景に笑いながら。
『闇』が入り込み終わるとヘェルは手を下げ、ゼウスの方を見る。彼はまだ巨人たちと戦っているのだろう。大量の砂ぼこりがあがっている。その様子にヘェルはニヤけ、"ゴッドゲート"を見る。そして、"ゴッドゲート"に向かって歩き出した。地面に叩きつけられているフィアはただそれを見つめることしか出来ない。
ーーこのままだと、逃げられるっ! でも、動けない、起き上がれない、声が出ない、止められないっ! でも、でも、でも、でもッ! ーー
フィアは、叩きつけられながら、自分の力を振り絞って叫んだ。
『いつかっ! 必ず倒してやるーーッ!』
その声は冥界中に響き渡る。その声にゼウスは飛び上がり、砂ぼこりの乱戦の中から抜け出す。そして、
「ーーーーーーッ!」
ゼウスは気付くのが遅かった。
ハデスもそのフィアの声で意識が戻る。目の前で叩きつけられながら、叫ぶフィア。そして、自分が開いた"ゴッドゲート"の前にいるヘェル。でも、ハデスも、もう遅かった。
ヘェルはそのフィアの声に足を止め、振り返る。もう"ゴッドゲート"の目の前だ。ヘェルはフィアを見つめ、満面の笑みを浮かべる。
『でも、弱い君は何も救えない』
そうヘェルはフィアに呟いた。満面の笑みだった。
そして、ヘェルは"ゴッドゲート"の中に入っていく。ヘェルは"ゴッドゲート"によって転移した。そして、巨人死霊たちは消える。フィアを叩きつけていた重力魔法も解除される。
冥界での戦いはここに幕を閉じた。いや、逃げられた上に負けたのだったーー。
冥界での戦いは終了ですっ! この後もお楽しみ下さいっ♪




